河童が実力至上主義の学校で色々やらかす話 作:河童はきゅうり好き
川城ことねが5月1日に起こしたあの事件以来、教師たちはとても忙しかった。
「どういうことですか!? 吹奏楽部で川城ことねの発明品が見つかった? それで……どんな発明なんですか? ……*1楽譜さえ入れれば何でも完璧に演奏してくれる楽器……? ふざけないでください! 廃棄ですよ廃棄! あなたたちは自分たちの力で一生懸命に練習していたじゃない! あの時のあなたたちはどこに行ったのよ」
生徒たちは歯切れが悪そうにこう言った。
「だって……あんな完璧な演奏聞いたら……私たちが練習する意味なんてないんじゃないか……ってそう思えてくるんです。だって……楽譜を入れるだけで私たちなんかよりもうまい演奏が流れてくるんですよ……。私たちがいる意味なんてないじゃないですか。部員ももう殆ど来なくなりましたし、来てももうその機械を垂れ流すだけで、私たち演奏すらしていませんし……」
「えーい! 川城ことね──!」
ある吹奏楽部の顧問は声を荒げる。
また、別の場所では……
「何ですか! このロボットは!」
「えー? 先生知らないんですか? 先輩が河城にとりって人に頼んで作ってもらったっていうロボットですよ」
「また川城ことねか……」
「先生、何か言いましたか?」
「いえ、あなたには関係のないことです。それで、あの機械は何なのか説明してくれませんか?」
「えっと、通称*2剣豪っていうらしいですよ。剣道で敵なしになった先輩が新たな対戦相手が欲しいということで開発してもらったらしくて、随分と高性能ですよ。ただ、厄介な点が1つ」
「何だね? その厄介な点というのは……」
「いえ、離れていれば問題ないんですが……先輩があの機械に設定されている強さレベルを最大レベルにしたせいで対戦相手を突き飛ばすようになっちゃったみたいで……先輩とその他数名が今怪我で寝込んでます」
「……なら、止めてしまえばいいじゃないですか。リモコンとかそういうのはないんですか?」
「いえ、そこは先輩が拘ったらしく、あのロボット相手に点数を取らない限り止まらないように設定したらしくて……しかも、試合場に入った瞬間襲って来るので先輩以外はそれが原因で不意をつかれて重傷です。結果としてあそこの試合場には誰も近づかないし、使える試合場も1つ減って練習の効率が悪くなっているんですよ。何とかなりませんか?」
「……電池切れとかそういうのは無いのかね?」
「えっと……あの機械は内部で蒸気を使った発電をしているらしくて……しかも、ずっとバッテリーに貯め続けるらしいので、一回停止してやらないとオーバーヒートで火事になりかねませんし……どうにかしたいんですけど……圧倒的強さ過ぎて剣道部誰一人勝てないんですよ……先輩ですら勝敗は一瞬で決まりましたし……」
「……どうすればいいんだ!? こんなポンコツマシン。おい、その河城にとりを呼んで来い! 責任もって解体させる!」
「それが……彼女には既に頼んだんですよ。ですが、彼女から『私は責任を負わない』と言われて門前払いでして……」
「そんなの関係ないだろう! もういい、私が直接かける!」
剣道部の顧問はその生徒に連絡先を教えてもらいかけてみる。数回かけたがかからず、5回目の挑戦でついに電話がかかった。
『はーい、お値段以上にとりです。今回はどのようなご用件でしょうか?』
「おい、君。私は剣道部の顧問だ。あのポンコツロボットを今すぐ解体しに来たまえ!」
『ハァ……お客さん。またそのクレームですか? 教師だろうがなんだろうが、あの先輩はあの契約でご購入なさったんですから、私が責任を取ることはありませんよ。自分たちで必要ないなら何とか処理してください。というか、その件に関して言えば、お客様の方にも問題があるかと。私は最初から最大レベルはやめた方が良いと忠告していたにも関わらず、CPUのレベルを最大にしたのはお客様では? 責任の擦り付けはやめてくれませんか』
「何だその態度は! 私は教師だぞ。君のせいで一体何人の罪のない生徒が被害に遭っていると思うのかね? 開発責任者として今すぐ処分しに来なさい!」
『知りませんよ。文句なら機械を開発してくれと頼んだ先輩に言ってくれませんかね? 私は彼の要望に答えただけ。お値段以上にとりは改造、開発の場合、アフターサービスを行っておりません。3年間は保証とかそんなサービスはございません。私は皆さまのご要望にお応えしているだけだということをお忘れなく。サービスがない分購入前に注意点はお客様に説明しているのです。そして、そのタブーを破ったのはお客様。私としては責任を負うつもりは全くないということをこれで理解していただければなと思います。どんな道具も使い方次第……ですよ。お客様がどんな使い方をしたところで、それはお客様自身の責任。私の責任ではございませんので。勘違いなさらないように。では、これからもお値段以上にとりをよろしくお願いします。ご利用いただきありがとうございました』
「あ、おい君! 待ちたまえ!」
通話を切られた教師は激昂した。なんだあの生意気な小娘はと。あの小娘には矯正が必要だと思ったその教師はある強行手段に手を出すことになる。だが、それこそが間違いだった。ことねとにとりは怒ることは全くない。だが、ある一点において共通の地雷が存在する。
その教師はその地雷を踏んでしまうことになる。この教師はそれが原因で自分の人生が滅茶苦茶になるということをまだ知らない。
また、別のある場所……
「今年は全然賭けに来る奴がいないよな。毎年1年でも数人はギャンブルが出来るということに気付くんだがな……」
「それか案外リスクを怖がっているのかもな。ギャンブルってのは素人がやれば負けるという考えを持つ人間が多いかもしれないし。それに加えて1年のDクラスはクラスポイントゼロだってよ。笑える話ではあるが、一発逆転を狙って来る奴すらいないとなると俺たちからすれば残念だな。カモがいねぇ」
「おい、見てみろよ! これ! 俺たちの所に来ないのはこれが原因なんじゃないのか!?」
3人組のうち、ある一人が見せたのはインターネットの画面。そこには簡単にインターネットギャンブルというものが映っていた。当然これもにとりが作ったものである。
「うへぇ、すげえな。チェスに将棋にオセロ……ボードゲームばっかだが、勝敗によってポイントを賭けあう単純なつくりだが、革新的な賭け場じゃないか」
「やってみようぜ。賭け金は一回5万からか。意外と取られるもんだな。だが、それでこそギャンブルってもんだ。当然俺たちは普段からチェスをしているからチェスにするか」
「弱すぎるだろマジで! 俺もう50万稼いだぜ? いやぁ、楽勝楽勝!」
「これ作った奴もアホだよな。こんな雑魚の実力じゃポイントをタダで渡しているも同義だぜ。俺もすでに25万稼いだ」
「俺も25万だ。こんなアホみたいに稼げるなら別にクラス同士での抗争も頑張らなくてもよくね? このまま1年間ここから搾取し続けて2000万プライベートポイントでAクラスに行くのを目標にするのはどうだ?」
「おーいいなぁ、それ! よし、俺ら3人でAクラスに行ってやろうぜ!」
だが、彼らは上手く行き過ぎていたことに疑問を持つべきであった。3年Cクラス……彼らには希望がなかった。だが、目の前に希望があるのだ。誰でも手を伸ばしたくなるのは当然と言えるだろう。だが、それこそがことねの狙いなのだ。
にとりが作ったAIはアホなどではない。わざと彼らを勝たせていたにすぎないのだ。そもそも、にとりの作ったAIはチェスの駒の動かし方の全通り10の120乗通りどころか、囲碁の10の360乗の動かし方を再現することが出来るスーパーAIである。
それに加えて相手がのめり込むように最初はわざと勝たせているに過ぎない。彼らが10回ほど勝ち始めたころにそのAIは牙を剥き始める。その相手の実力を計り終えたAIは常に相手が勝てそうで勝てない状況をキープし、相手が焦りから凡ミスをしたところを的確についてとどめを刺す。そんなえげつないAIへと進化する。相手は勝てそうで勝てないという状況に苛立ちを感じながらもパチスロで喚いているギャンブル中毒者のように金を落としていく。
すでにこのAIの毒牙に掛けられたものは多く、学校全体の生徒のうち、5%がギャンブル中毒者になってしまい、ことねに金を落としている。すでにことねのプライベートポイントは機械の開発の件もあり、600万プライベートポイントを超えていた。
学校全体にことねとにとりの魔の手が行き渡っているのである。すでに学校はことねとにとりという2人の手によって波乱に満ちていたのだった。