それでは、早速プロローグを始めていきます。
プロローグ
『スクールアイドルフェスティバル』が無事に大成功を収めたあの日から数日が経ったある日の事、書類を捲るペラッペラという音とペンで書類に文字を書き込むカリカリという音が響く生徒会室で、私は目の前の仕事に集中して取り組んでいた。
よし……この仕事も終わり。次はこの仕事を──。
そう思いながら次の仕事に手をつけようとしたその時、「栞子さん」と声を掛けられ、私は小さく溜息をついてからそれに返事をした。
「……なんでしょうか、中川生徒会長」
「あ、いえ……栞子さん、だいぶ集中して仕事をやっていらしたので、そろそろ休憩を挟んではどうかと思いまして」
「休憩……もう、そんなにやっていましたか?」
「はい。かれこれ2時間は集中してやっていましたよ」
「……そうですか。それなら、そろそろ休憩でもしましょうか」
「はい」
私の言葉に菜々さんがニコリと笑いながら頷いていたその時、「それじゃあ早速休憩を始めちゃおうか」と高咲侑さんがバッグから少し大きめの水筒とカラフルな紙コップを取り出すのと同時に、「早くしないと栞子ちゃんが休憩を止めちゃうかもしれないからね」と言いながら
「舞さん、その紙袋の中身はお手製のスイーツですか?」
「うん。今日はμ'sのことりちゃんから教わったマカロンだよ。同好会のみんなの分は朝の内に歩夢ちゃんに渡してあるから、これはここにいる全員で食べる分」
「ふふ、いつもありがとうございます。舞さんが作って下さるお菓子はどれも美味しいのでいつも楽しみにしているんです」
「それは良かった。それじゃあ早速休憩にしようか」
その言葉に中川生徒会長と侑さんが頷き、休憩の準備を始める中、私はそんな幼馴染み達の連携の良さに小さく溜息をつきながらもその光景に少しだけ心地良さを感じていた。
……こんな考え方は菜々さんみたいかもしれませんが、この人達や歩夢さん達と幼馴染みじゃない上、敵対している世界があったとしても、いつかは今の私みたいに同好会の皆さんと一緒に笑い合えるような生活を送ってほしいですね。それくらい、今の私の生活は満ち足りた物だと言えますから。
そんな事を考えながらクスリと笑っていた時、「あ、そういえば……」と侑さんは水筒の中の紅茶を注ぎながら 何かを思い出したように声を上げると、その声にキョトンとしている菜々さんに声を掛けた。
「菜々ちゃん、さっき理事長から呼び出されていたけど、一体何だったの?」
「……気になりますか? 気になりますよね!」
「う、うん……気になるけど……」
「はあ……中川生徒会長──いや、菜々さん。興奮のあまり、『中川菜々』から『優木せつ菜』になっていますよ」
「……失礼。それで、理事長の用事なのですが……」
すると、菜々さんは少し迷った様子を見せ、それに対して侑さん達が何かを言おうとしたその時、「……まあ、良いですよね」と言ってから菜々さんは静かに話を始めた。
「これはまだ同好会の皆さんには内緒にしておいてほしいんですが、今度全スクールアイドルを対象にしたラブライブとTCGのひとつである『カードファイト!! ヴァンガード』がコラボをしたイベントが開催されるんです」
「『カードファイト!! ヴァンガード』……って、たしか今もテレビでアニメをやってるカードゲームだったよね?」
「その通りです。小さい頃はアニメなどを禁止されていた私ですが、小学生の頃の侑さん達の説得や私自身が両親に自分の思いを伝えた事でどうにかそういった物に触れても良いという事になったのは本当に嬉しかったです」
「そして、その時の事を思い出して作ったのが、『MELODY』だったね」
「ふふ、そうですね。そして、そんな私がカードを買ってプレイし始める程、ハマっていたのが『カードファイト!! ヴァンガード』なのですが、スクールアイドル活動の開始と共に一時的に
「でも、情報は逐一集めていたし、アニメも観続けていたよね?」
「もちろんです。私にとって『カードファイト!! ヴァンガード』はとても大好きな物ですから。さて……話に戻りますが、そのコラボイベントというのがスクールアイドル限定の『カードファイト!! ヴァンガード』による大会──名前は『ヴァンガライブ』というらしいんですが──で、優勝出来たらその名前が大々的に公表される他、アニメの声優の特別枠やイベントのゲストとしての出演なども約束されており、スクールアイドルとしては自分達のグループや学校の名前を広めるのに絶好のチャンスと言えるんです」
「なるほど。それで、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会にも参加をしてみないかという話が来たわけですね」
「そういう事です。因みに、参加するというならカードは理事長がどうにかして下さるそうですよ」
「理事長が?」
「はい。理事長としてもこの虹ヶ咲学園の名前を広めるチャンスを逃したくみたいでした」
「……そうでしょうね。それで……訊くまでもありませんが、菜々さんはやる気なんですよね?」
「あ……えーと、それなんですが……」
「ん?」
「もしかして、あまり乗り気じゃない……とか?」
その舞さんの問い掛けに菜々さんは小さく頷いた。
「はい……『スクールアイドルフェスティバル』は無事に大成功を収めたので、それについての心配は無いのですが、やはりスクールアイドルとしての活動の他にこの生徒会役員としての役割がある上、更に『ヴァンガライブ』もとなると、全ての両立が出来ずに皆さんにまたご心配をおかけするのではないかと思って……」
「「菜々ちゃん……」」
菜々さんの言葉を聞いて、侑さんと舞さんが暗い顔をし始める中、私は小さく溜息をついてから菜々さんに話し掛けた。
「菜々さん」
「はい。なんですか、栞子さん」
「あなたらしくもないですよ、そんな事を言うなんて。あなたはいつものように自分の大好きに向かってひたすら走っていてくれれば良いんです。そのために私や侑さん達がいるんですから」
「栞子さん……」
「……この前、私から仕掛けた生徒会長の座を巡る選挙で敗北した際、私は実感したんです。あなたは幾つもの物事を抱えていても決してそのどれも疎かにせず、全てに全力になれる人なんだと。たとえ、侑さん達に支えられていたとしても……」
「…………」
「だから、あなたは遠慮無く支えられながら自分の大好きに向かってひたすら走っていてください。そうやって輝いているあなたが私は好きなんですから」
「栞子さん……はい、ありがとうございます。私、もう迷いません。絶対にスクールアイドルとしての活動や生徒会としての役割を疎かにせず、『ヴァンガライブ』でも優勝してみせます」
「その意気です。でも、まずは……同好会の皆さんがやりたいと言うかですけどね」
「あはは、そうだね。でも、みんながやりたいと言うなら、部長としてそれは全力で応援するよ」
「もちろん、マネージャーである私も全力で応援するよ」
「侑さん、舞さん、ありがとうございます」
「「どういたしまして」」
満面の笑みを浮かべながら言う菜々さんのお礼に対して侑さん達が答えていた時、「ん、そういえば……」と舞さんが何かを思い出した様子で菜々さんに話し掛けた。
「ねえ、菜々ちゃん。さっき、この事を言うのを迷っていたのってどうして?」
「ああ、それはですね。どうやら、この事がラブライブのホームページで告知されるのが来週らしくて、しっかりと告知されるまではイベントの事を内緒にしてほしいと言われていたみたいなんです。まあ、私は生徒会長ですし、同好会のメンバーですから事前に報されましたけどね」
「なるほど。それで、一回は迷ったけど、生徒会役員の上に部長である私と同じく生徒会役員の上に同好会のマネージャーである舞ちゃん、そして生徒会役員であり同好会のスクールアイドルである栞子ちゃんなら話しても問題ないと思って話してくれたわけだね」
「そういう事です。という事で、この件についてはまだ他の皆さんには内密にお願いしますね」
「うん、わかった」
「私も了解」
「わかりました」
「ありがとうございます。さて……それではそろそろ舞さんお手製のマカロンと侑さんが持ってきて下さった紅茶を頂きながら休憩にしましょうか」
「……今のもれっきとした休憩だったと思いますが……まあ、今回は良いとしましょうか」
「ふふ、ありがとうございます。それでは……」
『いただきます』
声を揃えてそう言った後、私達はマカロンと紅茶を頂きながら休憩を始めた。
……ふう、これで同好会の皆さんのところへ行くのがもう少しだけ遅れてしまいますね。でもまあ……こんなのもたまには悪くないかもしれませんけど。
そんな事を思いながらマカロンを口に運ぼうとしたその時、私はある疑問を抱いた。
それにしても……『カードファイト!! ヴァンガード』を開発した企業はどうしてラブライブとのコラボレーション企画を決めたのでしょうか? 『スクールアイドルフェスティバル』の成功によってスクールアイドルへの注目は高まっていますから、そのスクールアイドルに大会に出てもらう事で、『カードファイト!! ヴァンガード』への関心を高め、スクールアイドルのファンを自分達側に取り込めるという点においてコラボレーションをする利点はあります。そしてそれは、ファンを取り込めるという点においてはラブライブ側も同じなので、コラボレーションをする事に違和感はありません。ですが……そもそもTCGは、本当に勝つためにはかなりのお金が必要となる物。つまり、グループによっては強力なデッキを構成するためのカードを十分に集められずにそれが理由で敗退する可能性はあります。まあ、菜々さんに勧められて私も一時期『カードファイト!! ヴァンガード』に触れ、このTCGで勝つには個々のカードの力だけではなく、必要なタイミングで必要なカードやトリガーユニットを引けるだけの運が大切なのはわかっていますが……。
「……まさか、大会の運営委員会には他に目的でも……?」
『ヴァンガライブ』の事を考えながらそう独り言ちたけれど、私はすぐにその考えを頭の片隅に追いやった。
……いえ、流石に考えすぎですね。このような形にしたのは、大会側としても環境に立つカード以外でも勝てる事を私達スクールアイドルが証明する事で現役のファイターの皆さんに新たな可能性を見つけて欲しいだけでしょうから。けれど、もしも大切な仲間であり幼馴染みであるスクールアイドル同好会の皆さんに何か起きそうな時は……。
「どのような手段を使ってでも皆さんの事を守らなければ……それが自分の考えや思いを優先して菜々さんを生徒会長の座から追い落とそうとしたり、『スクールアイドルフェスティバル』の準備期間の時に皆さんのサポートをしてこなかった私の贖罪でもありますから」
楽しそうに話をする菜々さん達を見ながら、私は心の中で強くそう誓った。
プロローグ、いかがでしたでしょうか。楽しんで読んで頂けたならとても嬉しいです。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。