妖精郷に響け――リプレイ   作:イーストプリースト

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第3話

 

 古是(こぜ)が機材の影から周囲をうかがっていた。

 いまや地下の工房はノイズがうようよと蠢き、その中を数人の女性がそれぞれの聖遺物を駆って戦いを繰り広げていた。

 古是(こぜ)は超常的な力を持っていない。聖遺物は所持しておらず、男性であるためシンフォギアを纏うことはできない。

 そのため、いま蠢いているノイズに友好的な手段は持ち合わせていない。

 ノイズ――認定特異災害。『異相障壁』という複数の世界にまたがる性質を持ち、物理法則による干渉を操作する能力を持つ。

 そのため、通常の兵器では有効な打撃を与えられず、人間が触れれば炭化して死に至る、という極めて厄介な性質を持っていた。

 であるゆえに、古是(こぜ)は隠れて周囲をうかがっていた。

 何もできない自身がみつかれば黒江(くろえ)やモルドレッドの足を引っ張ってしまうからだ。しかし、だからといってそれだけで終わるつもりはなかった。

 自身にしかできないことがあるかもしれない。だからこそ、危険をおかして隠れつつもこの場に留まり、機を逃さぬようにうかがっていた。

 

 

 クロム=クルワッハは邪竜である。

 テロ組織『フェアリーテイル』に所属する邪竜であった。

 四肢と両親を吹き飛ばされ、ドクターオーヴェロンに拾われ、『フェアリーテイル』に所属することとなった。おおよそ五歳の時の話である。

 リハビリを経て、六歳のころから現在まで戦い続けている戦士であった。

 彼女は今、自らの心臓が狙われているため、ドクターやティターニアと敵対していた。

 ノイズが繰り出した拳を額で受け、そのまま、ひるまずに突撃。さらに踏み込み、拳を繰り出し、数体をまとめて壁にたたきつけて破壊する。横から飛んできた触腕による攻撃を避けて両手でつかんだかと思うと、そのまま引き裂いた。

 彼女の戦闘は原始的だ。型もなにもなく、ただ繰り出せそうなところで殴り、蹴り、引き裂き、噛みついて殺害していく。滅茶苦茶な喧嘩殺法に近い。

 しかし、それが不思議と噛み合っているのはその経験によるものだろう。幼い頃より紛争地帯に放り込まれ、シンフォギアを纏って戦い続けた戦闘経験。

 それにより当たっても問題ない攻撃と対処しないといけない攻撃を見事に見分けつつ、研ぎ澄まされた当て勘による一撃により、ノイズを的確に破壊していった。

 彼女は現在、ノイズの数を減らしつつ、機をうかがっていた。戦場に訪れる一種の流れ、それが傾くその時を。いままでの経験から必ず訪れる、その時を待って、ただ機をうかがっていた。

 

 

 黒江(くろえ) 幽紀(ゆうき)とドクター・オーヴェロンが対峙している。

 周囲のノイズはドクターの指揮に従っていた。

 黒いマントが揺れ、黒江(くろえ)が伏せた。地面から現れた鎖がノイズをしばりつけ、動きの止まったそれを大鎌が切り裂いた。

「なるほど……攪乱に徹したまへよ」

 ドクターがノイズに指令を下す。ノイズの動きが変わる。

 当たっても当たらなくてもいいから手数を中心とした動きへと。

「……鬱陶しい」

 鞭状に変化させた攻撃を避けつつ、手鎌を投擲する黒江(くろえ)

 ノイズのうち一体につきささったソレは柄の部分から鎖が出てきたと思うと、周囲のノイズを縛り上げる。そこを横薙の大鎌が一閃。ノイズを殲滅する。

 消えゆくノイズの向こうから、一際大型のノイズが突進してきた。

 大鎌を起点に小さく跳躍、それを蹴り上げて――

「ハッ!!」

 ドクターの短い呼気が聞こえた。ノイズの背後からドクターの発した衝撃波がノイズを伝わり、黒江(くろえ)を襲う。

「――ッ!?」

 ノイズ越しに殴られ、吹き飛ぶ黒江(くろえ)。それを追うように鎖が宙を走る。

 天井にたたきつけられた黒江(くろえ)は器用にも、天井を転がるようにして体勢を立て直し、足から生えた鎌を天井に突き刺し、そのまま天井を走る。

「ほう、器用だね」

「うるさい」

 ノイズの攻撃を伸ばした鎌で迎撃しつつドクターとノイズの間に降ち、大鎌を地面に突き刺し――、黒江(くろえ)を中心に、周辺に無数の鎌の刃が生えて周囲を攻撃した。

「刺殺【針地獄】」

 串刺しになっていくノイズたち。

 ドクターは足を軽く上げて。

 轟音ひとつ。震脚。

 その動作で、床を踏み、ひっくり返すと、“針地獄”に対しての壁として使用した。

 壁がくだける。しかし、すでにドクターはそこにはいなかった。

 石片が散らばる。すでにドクターは前進している。

 針地獄の攻撃を両手で捌きながら肉薄した。

 呼気を一つ。

 黒江(くろえ)は腹部をなにものかに貫通された衝撃を受けた。

 さらにドクターが追撃する。その時、扉をしばっていた鎖がドクターの死角からドクターに絡みつき、縛り付けた。

「なっ……!!」

「これで………ぐっ」

 ドクターをしばった鎖から無数の針が出現し、そのまま絞め殺そうとする――絞殺弍『茨鎖』。

 しかし、次の瞬間、黒江(くろえ)が顔をしかめ、苦悶の声をあげる。

 鼻から血が垂れた。

 DFS(ダイレクトフィードバックシステム)の反動だ。

 一瞬、動きが止まったときに、黒江(くろえ)は背後から急襲したノイズに攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 ドクターの鎖が緩んだ。瞬間、ドクターが鎖をひっぱり黒江(くろえ)を引き寄せると――震脚をひとつ。

 掌底が黒江(くろえ)の腹部に突き刺さった。

 黒江(くろえ)が、くたり、とその場に倒れた。

「やれやれ……危ないところだったかな」

 ドクターが呟き、そして、――血を吐いた。

 咳込み、唇についた血を拭い、

「……試作品である反動か」

 自らに施した術式の反動に顔をしかめるのだった。

 

 

 金属音。モルドレッドの纏った鎧がティターニアの攻撃で砕けた。

 先ほどから剣戟がついている。台風の如きティターニアの猛攻をモルドレッドが持ち前の勇敢さと身を顧みない踏み込みで拮抗させていた。

 モルドレッドが剣を振るうたびに、紫電が周囲にはしり、機材を破壊していく。

「なぁ、師匠。……師匠は何で、俺を鍛えたんだ?」

「理由……理由ね」

「分かってたろ、俺が今日のために力をつけてんの」

「決まってるじゃない。家族には強くなってほしかったから、よ」

「――家族、ね。それでも俺が外に出るのは止めるんだな」

 モルドレッドは苦笑した。

「ドクターの指示だもの、しょうがないわ」

「……分かったよ。俺はアンタをぶっ倒して行くよ」

「そう、それじゃ……モルドレッド」

 ティターニアが微笑んだ。

「ここを出ていくというのなら、これを超えてごらんなさい」

 虚空より十五本の剣が現れる。

 速度と斬れ味に特化した重さがほとんどない細剣である。

 薄く鋭い……、その代わりに強度というものがなかった。

 元々ティターニアは速度に特化した奏者である。通常の剣戟であっても、一息に数打を用意に繰り出してくる。それが、羽毛の如き剣を持ったらどうなるか。

 モルドレッドが息を呑む。

 それは刃の檻のようであった。

 モルドレッドの堅牢な鎧の上から切り裂き、生身にまで届かせる。彼女が直感で咄嗟に引かなければ戦闘不能になっていただろう。

 その反動で剣が砕けるが、ティターニアは気にせず新しい剣を引き抜く。

 その動きに合わせて逆の剣が、その軌跡をたどるように続く。モルドレッドが避けると、残った腕を翻して追撃を加える。

「うおおおおおっ!!?」

 踊るようなステップ、間断なく続く剣戟、反撃どころか一瞬でも気を抜けば、そのまま粉みじんに切り刻まれるだろう。

 それはまさに剣舞であった。

 瞬時に四撃、モルドレッドの剣に攻撃が入り、一瞬縫い留められる。

 足を狙った一撃を、モルドレッドは足を上げて避けきる。

 その隙を狙って、顔に向って細剣を蹴り上げられる。

 回避――成功。しかし、のけぞってしまった。

 意図的につくらされた隙、呼吸をする間すらなく懐に入られた。

 モルドレッドが口を開く――歌を歌おうとする。

 シンフォギアの力の源は精神力、自信である。その心の力を歌に乗せて発することこそが、シンフォギアの本質。

 歌唱により増幅したエネルギーを一気に放出して放つ奥秘――絶唱。

 それを用いようとして、

「かはっ!?」

 ティターニアに与えられた損傷の蓄積に耐えられずに不発となった。

 連撃が入り、すれ違うようにティターニアがモルドレッドから離れる。

「……やるわね」

 それでもモルドレッドが倒れなかったのは、その執念により剣を掲げたことにより損傷を抑えることができたからだろう。

「――クソッタレめ」

 肩で息をするモルドレッド。その隙をティターニアは看破し、踏み込み――――、

 

 

 ――――歌が聞こえた。

 

 

 

 シンフォギアの力の源は精神力、自信である。聖遺物の欠片を核に装着車の戦意を共振・共鳴して旋律を発生させ、それに合わせた歌いながら戦うのがシンフォギアの機能である。

 その歌唱により増幅したエネルギーを、奏者の負荷を顧みずに増幅し、限界以上に引き出し一気に放出するのがシンフォギアの奥の手である、絶唱である。

 クロム=クルワッハの歌が響いた。

 それは略奪の歌であった。

 財貨を愛し、欲する歌であった。

 歌唱により引き出したエネルギーを纏い、機動力に変える――突撃絶唱。

 それが、戦場を撫でた。

 ノイズを薙ぎ払い、ティターニアを轢き、ドクターへと肉薄する。

 何もないときであったなら対処できたかもしれない。

 しかし、ティターニアはモルドレッドへと攻撃を仕掛けており、ドクターは黒江(くろえ)を倒した直後である。

 虎視眈々と狙っていた隙を見逃さず、クロムが見事に食いついた形となった。

「さぁ、ドクター。次はオレと奪い合おうぜ?」

 クロムの口元から血が流れる。絶唱は限界以上の能力を引き出す代わりにバックファイアと呼ばれる反動を伴うのである。

「オレの心臓はここだぜ?」

 とんとん、と自らの心臓を叩いた。

「まったく、君はよくわからないね……」

「あっはっはっ、よく言われるよ。それより一つ聞きたいんだけど、ドクターの価値ってなにだい?」

「価値……価値か!」

 轢かれて吹き飛ばされたドクターが立ち上がる。立ち上がろうとしたところで容赦なくクロムが蹴りをいれた。

「私は【マスター】のために創られたホムンクルス。故に、それを果たす、それ以外の情も欲も捨てている……!!」

「嘘だ!!」

 戦いの場においてよく通る声が聞こえた――古是だ。

「貴方は、……貴方は子供たちを愛していたはずだ!!」

「違う。すべては錬金術の……一につながるソレの産物にすぎない」

「愛していないなら別の道など模索したりはしない!!」

「愛、……愛か……。そんなもの、その子供たちに血を浴びせ、贄にしている自分たちが語れる事ではない」

「だが、いまからでもできことがあるはずだ……っ」

「いまさら遅い! 犠牲になったもののためにも引けるものか!」

「……っ」

 古是(こぜ)がほぞを噛む。

「あっはっはっ、ドクター、オレは肯定するぞ!!」

 クロムが笑う。

「オレはドクターたちにあえてよかった!! 今までの人生に感謝する!!

 だから、さぁ、奪い合おう!!」

「……手元に置いたときから思ってたけど、不思議な子だね」

 ドクターが構える。

 クロムが突進した。

 

 

「へへーん、ティターニア。いままでの食べ物のうらみだ!!」

 と、言うだけ言ってクロムは去っていった。

「……まったく、あの子は。あと、私のご飯は不味くありません!!」

 ぎりぎりで防御は間に合ったものの威力を殺しきれずにティターニアは吹き飛ばされる。剣も全て砕かれてしまった。

 それでも膝をつくわけにはいかない。まだ、モルドレッドは倒れていなかった。

 ひびの入った鎧で、自らを奮い立たせてティターニアが立ち上がる。

「……どうしてだよ。そんなに価値のあるものなのか、計画ってのは」

「……価値はあるわ。けど、それ以上にね」

 ティターニアが剣を掲げた。

「愛する子供たちに血を浴びさせてる時点で引き返せないの。だから、絶対にこの計画を成功させるわ」

「――気に入らねぇ」

 紫電が走る。

「気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ!!!

家族面しやがって! 愛とかどうとかきにしてるくせに!!」

 モルドレッドが走る。

「結局、俺の味方になってくれねぇ父親面のドクターも! 全部受け入れてゲラゲラ笑うクソ野郎も!! 結局、俺を歳まで見守って母親面のアンタも!!!」

 紫電の放出に火傷を負う。口元から血が流れる。

「俺はここが嫌いだ。わずかでも愛を感じるのに! 最後まで愛を俺にくれねぇここは嫌いだ!!」

 怒りにより限界を超えた出力を引き出し、その反動がモルドレッドを襲う。

 しかし、その苦痛を背負い、削れた寿命をさらに削り、モルドレッドはさらに力を絞り出す。

「……だから、叛逆してやる! 偽物だろうと、母上と父上がくれた名前の通り! 叛逆の騎士(モルドレッド)の名のとおり、アンタらの子供として叛逆してやる!!!

「……そうね、それじゃあ」

 ティターニアも同じく駆け出した。

 双剣を掲げる。立ちはだかるように。

「最後まで貫き通しなさい!!」

 モルドレッドが地面と水平にクレラントを構える。

「――あんたを超えて、ここから出ていくよ」

 クレラントが紫電を纏った。

 ティターニアの繰り出す剣戟をかいくぐり踏み込み、

「麗しき母上に捧ぐ、―――叛逆の一撃ぃぃぃぃっっ!!!」

 迸る紫電の一閃。

「―――ッ」

 ティターニアのシンフォギアが砕け、変身がとけた。

 過剰出力のためにモルドレッドは膝をつきかけたが、クレラントを杖がわりになんとか立ち続けた。

 立派な姿を見せるように、立ち続けた。

「………どうだよ? あんたの飯を食って、あんたに育てられた俺は」

「―――ほんっと」

 ティターニアが微笑み、

「強い子に……なって……」

 崩れ落ちた。

 

 

 ドクターの拳が放たれる。

 ホムンクルスとしての基礎学習で刷り込まれたのか、あるいは鍛錬の成果か、よどみなく洗練された動作で技を繰り出す。

 彼女の体術は洗練された技術の塊である。流派は不明だが、受けつあれた型を学び、いくども鍛錬し――あるいはその経験を入力され――無駄を省いたものであった。

 その一撃がクロムを捕らえる。

「ッッ」

「――――はっはっはっ」

 笑う。

 笑う。

 彼女の戦いかたは野生である。馬鹿笑いをしながらひたすら突進し、大ぶりな攻撃を繰り出す。

 自らは邪竜である。であるのならば、小細工は不要。ただひたすらに力を叩きつけるのみ。と、自らへの自信そのままに突撃して、おお振りの攻撃を繰り出していく。

「ッ」

 ドクターがしゃがむ。そのすぐ上をクロムの横薙ぎが通り過ぎた。

 しゃがむと同時に放たれた拳がクロムを捕らえる。

 そのまま一息に四連打。正中線を捕らえる。

 クロムの笑みが深まった。

「あっ―――」

 そのまま、上から両手を重ねての振り下ろしをドクターが腕を振り上げて受け止める。

 正拳突きがクロムの腹部に突き刺さる。しかし、完全な力が発揮しない。

 無謀ともいえる突進。しかし、その突進こそがドクターとクロムの距離を潰し、完全に威力が乗る前にドクターの拳を止め、時に跳ね返しさえしていた。

「っぶふ……――はっはっはっはっ!!!」

「ッッ」

 さらに踏み込もうとしたが体が動かない。上からの圧力、さきほど振り下ろした腕で力任せに下を抑えつけたのだ。

 潰されかけて咄嗟にもう一本の腕で交差するように圧力に対抗する。

 こうなると、ただの力比べだ。

「さぁ、ドクター……、力比べといこうか」

「ぐっ……ぬぬぬぬ!!」

 シンフォギアの力の源は精神力、自信である。

 クロム=クルワッハは邪竜である。これまでの人生で何一つ曇らない、その思いこそがクロムの力であった。

 何が起ころうとも変わらない自らに対する自信、揺るがない自己定義。それにより発せられる自信をシンフォギアは反映していた。

 すなわち怪力である。

 ドクターがじわじわと押しつぶされる。鈍い音を立て、ドクターの奥歯が割れた。力をこめるためにかみしめ過ぎたためだ。

「さぁ、オレの心臓がほしいんだろ。根性を見せてみろよ、ドクター!!」

「ク……ロム……ッ!!」

 ドクターが血を吐きながらシンフォギアの出力を上げる。

 限界以上の行使。試作品である自身の反動により加速的に体が壊れていく。

「負けられない……、負けたら、今まで、何のために……!!」

 息を吸い込む。指先で足をあげる。震脚。全身の力を振り絞り、クロムをはねあげた。

「犠牲にしてきたかわからない!」

 開いた隙間にドクターが距離を詰める。殴る余裕も距離もない。だから、肩による体当たりに近い攻撃。クロムが吹き飛ばされる。距離が空いた。

 これ以上の近接戦は不利とみたドクターが切り札を切った。

 黒い光がドクターの拳に集まる――Anti Linker。

 聖遺物に呼応し適合することで聖遺物の力を引き出すのが奏者の力である。その適合できる能力を適合係数というのだが、それを強制的に下げて、シンフォギアを解除させる物質である。

 それを拳にまとわせて直接打ち込む。それが対奏者への切り札であった。

 宙に浮いてるクロムには避ける術はない。クロムは変身が解けたあとも、継戦する覚悟を決めた。

 拳が放たれる。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 そこで、太い声が響いた。

 古是(こぜ)が瓦礫をもってその間に割り込んだ。

 瓦礫が砕け、古是(ふるぜ)がドクターに殴られ錐もみ条に吹き飛ばされていく。

 それをクロムが受け止め、着地した。

「サンキュ」

「どういたしまして。これぐらいお安いごようさ」

 古是(ふるぜ)が吐血した。

「……しかし、どうにか彼……彼女を説得できないものか」

 息絶えだえのドクターを見て古是(こぜ)

「もう無理さ。引きかえすには手を血に染めすぎている。

誰かが許しても自分自身が許せないだろうよ、ドクターは」

 だからまぁ、とクロム。

「全力で来い、すべて吐き出さないと止まらないだろう?」

「……本当に。本当に不思議な子だね。君は」

 ドクターが肩で笑った。

 そして、眼を見開く。ドクターをとりまくエネルギーが増幅されていく。

 限界以上の出力を引き出す能力――絶唱。

 ドクターの絶唱は奇しくも、クロムと同じエネルギーを機動力に変える突撃絶唱であった。

 黒いAnti Linkerをまとったドクターが戦場を撫でる。

 狂声が戦場に響く。

 同じ突撃絶唱の使い手の勘か、ぎりぎりでクロムは避ける。しかし、残りの古是(こぜ)や倒れた黒江(くろえ)は防ぐ手段はない。

 このままではクロム以外は全滅してしまうだろう。

 その時、

「母上だけなんて寂しいことはしねぇよ! 聞けよ、父上にも捧ぐ叛逆の歌を!!」

 ――――歌が響いた。

 荒々しいモルドレッドからは予想もできない澄んだ声が戦場全体に響き渡る。

 紡がれるは守る歌。苦難の友を救うための歌。彼女の絶唱は誰かを守るための歌であった。

「似合わねぇよな、これ……」

「いいや、似合ってるさ。どこまでも友のことを追い求める君らしい歌だ」

 古是(ふるぜ)が力強く肯定する。

 狂声を正面から打ち破られ、絶唱の反動で倒れるドクター。

「……いいや。よく……似合ってる……よ」

 その顔はどこか安らかだった。

「あっははは、惜しかったなドクター」

 クロムが笑っている。

「お、終わった……?」

 愛用の聖遺物『アロンダイト』をもってシルフィが戻ってきた。追ってきたノイズの掃討は終えたようだ。

「おう」

 クロムが笑いながら周囲を伺っている。

「とりあえず、周囲を警戒するぜシルフィ。こういうとき油断してるとなにかしっぺ返しを食らう。経験だがな」

「う、うん」

 クロムの言葉に周囲を警戒するシルフィ。

 古是(こぜ)がドクターへと近づいていく。

「まったく、子供というやつはいつのまにか成長してるものだな」

「ああ。その通りだ。だから彼らが進んでゆける未来を作らなければならない

……我々はアナタの力を欲している。協力していただけないだろうか」

「マスターの願いに反するというのに、なぜかその手を取りたいと思ってるよ」

 古是(こぜ)が差し出した手をドクターがとった。

 その瞬間、シルフィの悲鳴が響く。

 全員の視線がそちらに向く。その視線の先ではクロムの胸にぽっかりと穴が開き、彼女の心臓は抜き取られていた。

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