ノイズを模倣した兵器より救出されたのはクロム=クルワッハであった。
彼女はまぶたを閉じてすやすやと安らかな寝息を立てている。
「クロム……クロム、起きて!」
「ん……?」
シルフィが揺さぶると、クロムは薄く目を開き、大きく伸びをした。
眠そうに目をこすっている。
「シルフィか、おはよう」
「おはようじゃないよ!?」
クロムはシルフィの姿を認めると、笑顔で挨拶をした。
人造ノイズが咆哮をあげ、三人へと襲い掛かる。
「ふむ」
と、クロムがつぶやき、全身をバネのようにして跳ねた。
そのまま向かってくる人造ノイズへと跳躍すると、蹴りを一発。
轟音が一つ。
人造ノイズの巨体が宙へ浮かんだ。
そこへクロムがもう一撃、蹴りを見舞い、デジタルな断面をさらしながら、宙へ溶けるようにして人造ノイズは消えていった。
「これでよしっ」
それを見ていた少女はぱちくり、とまばたきして、
「……っははは。ははははは」
「なにがおかしい」
「おかしいんじゃない、面白いのさ。君みたいな人間もいるんだね! いいじゃないか! 強い人は大好きだ」
痛々しく腕の皮がめくれあがった
先ほどの人造ノイズからクロムを助ける時の傷である。完全に炭化し、腕を失った可能性を考えれば、皮膚一枚で済んだのはむしろ幸運だったといえる。
「ああうん。ここは通してあげよう。君のことは僕が食うから……一番上で待ってるね!」
「
「
謎の少女が去って行く。それを見届けた
†
「さーて、と、ちょっと話し合いと行こうか」
クロムが
彼女の胸には未だぽっかりと穴が開いており、傷口には魔法陣が描かれたシールが付着している。
「……クロム。その傷は大丈夫なの?」
「ああ、ちょっと心臓が盗まれただけだ。もう一つ、心臓はあるから大丈夫さ」
「……そういう問題ではないとおもうのだが」
「まぁ、オレの心臓はさっきの女がもってるようだからな取り返すさ」
クロムが肉食獣のように笑う。
「……やはり錬金術の世界は興味深いな」
医学的に見て心臓という器官はこのようにたやすく摘出したりできる器官ではない。また、心臓が二つあるといっても、一つ潰れたり、とられたりすればその心臓から送られるはずだった血があふれ出るはずである。
しかし、魔法陣のせいだろうか、クロムは特に支障がるようには見えなかった。
「モーさんが連れていかれて、六時間以内にマスターを止めないといけないかぁー」
ふーむ、とクロムが考え込んでいる。
「他のやつらはまだ見てないんだろう、シルフィ」
「島の仲間は見かけてないね」
「そっかー。
「それは願ってもないことだが……」
あっさりとしたクロムの言葉に、釈然としない
「単純にオレ一人の手で余ると思っただけだぞ。それに島の皆も助けたいしな」
「いいだろう、ようやくちゃんとした協力体制が結べるな」
「うんうん」
クロムがうなずく。
「
「ほう。一応、フェアリーテイルの構成員として何人かいるとは聞いているが」
「ああ、それとは別なんだよ。
シルフィとかモーさんがそうなんだけど、基本的に孤児を拾い上げてシンフォギア奏者に仕立て上げるように訓練してるのがこの島なんだよ。
いま、行方不明になってるのはそっちだな」
「……なるほど」
「ほっとくと資源に使われそうだからなぁ……」
「……さっきの動力源って」
「そういうことだな」
顔を青くしたシルフィを見つつ、クロムが、立ち上がる。
フェアリーテイルとして前線に立っていたものとしての経験から思考を働かせる。
「ちょっと移動しながら話そうか」
「……別にいいが、どこへ?」
「まずはモルドレッドの救出からかな。時間がないから、歩きながら話そう」
「走りながらじゃなくていいの?」
「走りながらだと話せん」
「あー、なるほど」
クロムが先頭に立ち、モルドレッドがさらわれた方へと歩き始める。
「まぁ、大雑把に言うと、最終的な目標はマスターの討伐だが、『さらわれた島の仲間』『
こくこくとシルフィが頷いた。
「だいたいこういうのは難易度が低い方から解決していくもんで、足取りがわかってるモルドレッドを優先、次に
「それはありがたいが、島の仲間達はいいのかね?」
「ぶっちゃけ、どこにいるかわからんから探しようがない。まだ、確実にここにいて合流すれば戦力になる
クロムが肩をすくめる。
「それにさっきのオレみたいに動力源になってるとするなら探すよりも上部にいくほうが合える可能性が高いしな」
「……それを聞いて落ち着いていられるほど人間はできてないけどね、僕は」
「あっはっはっ、それはそれでいいさ。まぁ、とりあえず解決できそうなところから解決していこうって話だ」
クロムが扉を蹴飛ばす。鉄製の分厚い扉が宙を舞い、鈍い音と共に転がっていく。
「というわけでどうだい
「ああ、今更、別の場所を調べる余裕もないしな」
「うむ、じゃあ、早足でいくぞ!」
常に義肢を装備しており戦力が落ちないクロムが先頭を取り、一行は進行を開始した。
†
茜がかかった空が暗くなってゆき、地平に見える夕日が徐々に沈んでいく。星のまたたきが少し見えるようになった浜辺でモルドレッドは友人と共に会話していた。
「モルドレッドはあの向こうにはなにがあると思います?」
「わかんねぇ」
「……まったく、もう。もっと考えてくださいよ」
友人である少女はぷくっと頬を膨らませて、拗ねたような声色を出す。
モルドレッドとしては『外』には興味がなく、ただ彼女と話してるこの時間が好きなだけなのだから、正直、外の話題を振られても困るのだった。
「っていってもなぁ……。あー」
さりとて、このまま投げっぱなしで、友人がすねるのも面倒である。本気で拗ねさせると数日、口をきいてくれない事もあるのだ。
「そうだな、アレは金平糖みたいで美味しそうだなーとは思うが」
「お砂糖でできた星ですか? それはそれで浪漫がありますが、食べきれなさそうですね」
モルドレッドは特に考えなく空に浮かぶ星を指差し、答えた。
一度に全部食べる気かよ、とモルドレッドが言うと、少女はおかしそうに笑った。
「にしても、毎度毎度、飽きないなぁ。そんなに外がみたいのか?」
「はい。だって」
と、眼鏡をあげて、
「外には素敵なものがいっぱいありそうじゃないですか。この島は好きですけど、それでも外にいってなにがあるか、私は確かめてみたいのです」
「ふーん、まぁ、その時はオレも一緒について行ってやるよ」
「ああ、それはいいですね」
と、少女は言い、
「あなたとなら何倍も楽しそうですから」
「……こいつー」
モルドレッドは気恥ずかしそうに目をそらし、少女の髪をくしゃくしゃと撫でるのだった。
懐かしい、とモルドレッドは思った。
かつて友人である少女とかわした一幕。何よりも好きだった穏やかな時間。
外の話をするのが好きだった彼女。
Linkerを使用してもシンフォギアを纏えない
あのふわふわとした金髪を撫でるのが何よりも好きだった。
そこまで思い出したところで、モルドレッドの意識が覚醒し出す。
浮遊感、どこかで浮いてるような感覚。
起きたモルドレッドが目にしたのは見慣れた培養層に浮かぶ自らの姿。
頭を振って、ぼやけた頭を覚まして、自らの状態を思い出す。
ティターニアやアヴァロンと決着をつけ、現れた黒幕であるマスターアヴァロンの本拠地に乗り込んだ彼女は罠にかかり、一行から離されてしまい、そこで意識が途切れてしまった。
そして、気がついたらこの培養層に浮かんでいたのである。
ぷかぷかと、浮いている培養層の中から周囲を確認するモルドレッド。
そこへ一人の少年が近づいて来た、マスターアヴァロンである。
アヴァロンはタブレットのようなものを操作し、
「あぁ、もう起きたのかモルドレッド」
「お優しく俺を調整してくれてる……ってわけでもねェか、アヴァロン」
「半分正解かな。そもそも君は今の自分の状況を理解しているのか?」
「薬漬けで血をゲーゲー吐いてクレラントをぶん回せるぐらいはな」
「その通り。君の身体はここで飼われていていなくては長くは持たないぐらいぼろぼろだよ」
「知ってるよそれくらい」
「いいや、君は本当のことを知らないよ」
「なら、もったいぶらずに言えよ。俺は頭が悪いんだ」
「いいだろう」
淡々とマスターオヴェロンが口を開く。
「お前は私が作ったホンムクルスもどきだ。人間ですらないのだから調整がなければ生きてはいけんよ」
「……母さんのクローンとは思ってはいたが、人間じゃねーのか、俺は」
「ティターニアをベースに使ってはいるが、製法や技術的な部分では人間とは違うね。そもそも、前提が間違えてる」
「前提?」
唐突な言葉にモルドレッドが首をひねる。
「そもそも、お前は失敗作などではない」
「…………は?」
モルドレッドが呆けたような声を出した。
「それ以上、ふざけるなよ。打ち殺したくなる」
「まぁ、聞きたまえよ」
モルドレッドの言葉を気にせず、マスターアヴァロンは淡々と言葉を紡いでいく。
「昔の話だ。ある国で聖遺物を後天的に埋め込んだ『母体』を使い、先天的に聖遺物を保有する『子』を作ろうとした計画があった……ことごとく失敗したがね」
「俺以上の馬鹿だな」
「まったくだ、尊ぶべき特別な存在を使い潰す、唾棄すべき計画だよ。
だが、私はその『成功例』の情報の情報を掴んだ」
「成功例?」
「奇跡の産物さ。残念ながら再現性はない。だが、完全ではないにしても生まれながらに聖遺物に選ばれた個体を知ることができたのは
マスターアヴァロンが笑う。
「私はね、モルドレッド。最初から聖遺物を保有した生命体を作ろうとしたのだよ。選ばれし存在をこの星に普及させたかった……」
「それがあの人食い女か?」
「いいや違う。それが君だ、モルドレッド」
「……なに、言ってんだよ、お前」
「簡単なことだ。お前は今、円卓の欠片を使っているだろうが、適合率が低いのも当然だ、なにせ本来の聖遺物ではないからね」
「……」
「君に埋め込まれた宝剣クレラント、それが君本来の力……のはずだった。
しかし、ドクターがその才能を崩したのだよ」
モルドレッドがなにか言おうとして口をぱくぱくと開く、が、考えがまとまらずに言葉でない。
「ありえざるものをあたえ、君の中のクレラントを君に溶かしてしまった。それがなければ、落ちこぼれ扱いされることもなかったし、君の友も死ぬことはなかっただろう」
マスターアヴァロンが頭を下げる。
「フェアリーテイルの総帥として謝罪しよう。部下の不始末のね」
「……だまれ」
モルドレッドの本能が警鐘を告げる。
「いいや、必要な謝罪さ。これからの話をスムーズにするためのね」
「黙れよ……黙れって言ってるだろうが!!!
そんなの俺に関係ないだろうが」
「いいや、関係あるさ。君は外を見たいんだろ?」
マスターアヴァロンがタブレットを操作する。
巨大なモニターが天井から降りてきて、モルドレッドの前にかかげられた。
「これが君が見ようとしている外の風景だ」
うつされたのは荒廃した『外部』の光景であった。
彼女の語った『森』は枯れ木の集まりとなり、
彼女が夢見た『街』は見るも無残な廃虚であり、
彼女に語った『星空』は灰色の雲に覆われてみることはできない。
「……ぅぁ、嘘だ」
モルドレッドにとってはそれが本当に外かどうか判断することはできない。
「本当さ。外は腐りきっているんだ。だから、僕はこの計画に着手したのさ」
なぜなら、外界から隔離された『アヴァロン島』で生まれ育った彼女にはこの島以外に比較するものがないからだ。
これが
廃虚の街に転がる死体、それの一つとモルドレッドは目があったような気がする。
「……ぅゎ……」
「可哀そうに真実を知ろうとおもわなければ、そこまで衝撃を受けはしなかっただろうに」
「……やめろ」
「これが外さ。多くの人間がより少数の人間を食い物にしている、争いに満ちる世界。誰もが自分より弱いものを食い物にしてせせら笑っているんだ」
「―――やめろよ」
モルドレッドが力なく培養層を叩く。
「選ばれしものの多くが有象無象に食いつぶされる現状、これこそが君の望んだ世界だ」
その言葉に、モルドレッドが拳で培養層を殴打した。
「信じるもんか!」
「信じなくても別に構わないよ。だが、君をこうしたのは
「お前なんか親じゃない!!」
「いいや、生まれの親は私だよ」
「俺は、確かめるんだ! この眼で!! 自分自身の眼で確かめるまで、信じるもんか!!!」
培養層への殴打が激しくなる。八つ当たりのように。
子供がが当たり散らすように、激しく殴る。
培養用にヒビが入る。
「っ!」
そして、培養層が砕け散った。
ガラスで幾分か斬りながら培養層からモルドレッドが崩れ落ちた。
パニックのあまり、そこから地を這って距離を取ろうとする。
マスターアヴァロンが指を鳴らす。同時に、モルドレッドが力を失い、崩れ伏した。
「がっ!?」
「こらこら悪い子め」
「お前の、子供なんか、じゃねぇ!」
「いいや、私の子だよ。私の肉体データも使ってるからね」
マスターにしななだれるようにくずれたモルドレッドを抱えるアヴァロン。
「さて、モルドレッド。本当に外がみたいかい?」
「……確かめたいんだよ。あいつが、見たいって言ってた外を……」
「そうか、なら……」
流麗な線を描くモルドレッドの腹部にマスターが指を這わせたかと思うと、その白い肌の上に魔法陣のようなものが浮かびあがった。
同時に、モルドレッドは体内を焼かれるような感触と共に、えもしれない違和感に貫かれる。
「ぐっ……ガァァァッァ!?」
「お前には、私のために生きてもらおう。そのうえでなら外を見せてやる」
その魔法陣の中から『剣の柄』が現れた。
「誰が、お前のなんかのためなんかにぃ……!!」
「自由に出たところで、死ぬだけさ」
マスターが剣の柄をつかみ取り、じりじりと引き抜いていく。
モルドレッドの中に溶け込んでいる彼女本来の聖遺物である『クレラント』。
それをマスターが引き抜いているのだ。
「ぎぃっ!?」
嫌な予感が止まらない。モルドレッドは剣を抜かれまいと抵抗するが、じりじりとゆっくり刀身は姿をあらわしていく。
同時に、モルドレッドの鼓動が、熱気は加速していく。
「これが君の聖遺物『クレラント』だ。この力と共に新しい唄を授けよう」
自由の利かないはずの身体が勝手に動き、『クレラント』の柄をつかもうと腕が勝手に動き出す。
魔法陣の力だろうか、モルドレッドの思考が曖昧になり、書き換えられていく。
モルドレッドは熱で呼吸が浅くなる。
酷い風邪の時に熱で浮かされているような感覚、思考を紡ごうとしてもすぐに途切れてしまう。
なにか大事なものを忘れているような、いま、思い出せないと永遠に思い出すことができない。そんなひどく嫌な予感だけが鮮明だった。
「さぁ、モルドレッド。私は何だ?」
それはなんだったか。
モルドレッドは必死に頭を動かし、一つの答えを見つけた。
「―――お父さん」
その答えに、よしよし、とマスターアヴァロンがモルドレッドの頭を撫で、剣を握らせた。
「よく覚えていた。さぁ、モルドレッド。これからやってくる子供たちを止めるんだ」
「わかってるよ、お父さん」
にこにこと幼げな笑顔で、マスターにすりつくモルドレッド。
『クレラント』の柄を握ったモルドレッドが、マスターの袖をひっぱり、
「……できたら約束を守ってね?」
「ああ、当然さ」
「ありがとう、お父さん!」
嬉しそうに答えるルドレッドを見て、マスターアヴァロンはうなずき、そして、足を進めていった。
†
クロム、シルフィ、
この中で現在、戦闘を行えるのは主にクロムだ。
シルフィも剣は出せるものLinkerがないため変身することはできない。
だからこそ、クロムが突撃し、シルフィは
突撃したクロムが安全を確認したらハンドサインを出し二人が突入し、それ以外は規定時間が立った場合、退避することになっている。『安全確認よし』と『その場から逃げろ』以外のハンドサインを決めていないのは、クロムが何らかの理由でハンドサインを出せなかった場合に、シルフィたちがスムーズに判断するためである。
部屋の中からはモルドレッドの鼻歌が聞こえる。奇妙な状況であるが、クロムのやることに変わりはない。
扉を蹴破り、身を低くしながら部屋に入ると、周囲を伺う。
中は割れた培養層のある研究室であり、机の上に
その中央でモルドレッドが椅子に座って、なにやら鼻歌を歌っている。
彼女を挟んで対岸に次の階へ続くとおもわれる扉が見える。
「おい、モーさん」
「なーに、クロム?」
普段のモルドレッドから予想もつかない険のとれたふわふわとした声であった。
砂糖菓子のように甘い声であった。
さすがのクロムも、頬がひきつった。
「モーさんはオレをそんな風に呼ばないぞ。だいたいクズ野郎だからな」
「そうなの?」
可愛らしく小首をかしげるモルドレッド。
似合う動作ではあるのだが、普段の彼女を知っているなら目を疑う光景であった。
「お前、本物のモーさんか?
「さぁ? ほんものだと思うよ」
「いやいやいやいや」
「えー、でも、お父さんがこっちの方が良いって」
軽く背後を確認すると、
こりゃ、混迷を極めるな、とクロムは内心でため息をついた。
「ちょっとお前の価値を言ってみ、お前の目的はなんだ?」
「お父さんにほめられたい! だって、約束を守ったらお外を見せてくれるっていうの!!」
だ、か、ら、とモルドレッドが抱えていたクレラントを掴み、クロムの足にへと叩きつけるが、クロムは片足をあげてあっさりとそれを避けた。
「おい、モーさんがおかしくなってるぞ!!」
「えええ!? って、クロム、斬られてる! 斬られてる!!」
「この程度をさばくのは問題ない」
先ほどから斬りつけてくるモルドレッドの攻撃を難なく避けるクロム。
「っ、……【最高の騎士よ、私に力を!】」
シルフィが自らの聖遺物『アロンダイト』を出現させ、構える。
「猫かね君は!?」
「ふぁー?」
モルドレッドが弓を加えたまま首をかしげる。
「よくわからないけど」
そのまま聖遺物を腰に回して、クレラントを掲げ、
「足とるね」
「させるか」
斬り上げられたクレラントを、クロムが踏みつけ打ち落とす。
互いに聖遺物、威力が相殺され、火花が散った。
「なんだねこれは!?」
「恐らく洗脳だな!」
「シルフィ、
「いや、いますぐに解けるようなものは持っていない」
「そっかー……」
「ねぇ、なんで邪魔するの? 行ってほしくないだけなのに、行かれたら困るの!!」
言葉遣いが完全に幼児退行しているソレである。
モルドレッドは困ったように頬を膨らました後、シンフォギアのペンダントを掲げ、
【――孤独に朽ち果てようと恐れない】
さらに、クレラントを構え、
【―――世界を切り開き進む】
途端、鎧が炎に包まれ、刃が禍々しく変形した。
ほとばしる力がモルドレッドをつつむ。
その圧にシルフィは『何、あれ……』と気圧され、一歩下がった。
「同時融合症例かもしれん……」
と
後ろの声を聞きながら、クロムは片目を閉じて、
「やれやれ、判断を誤ったな。早期に制圧するべきだった。
――【神聖、犯すべからず】」
呼応するようにシンフォギアを起動した。
純白の鎧をまとった瞬間、モルドレッドが肉薄する。
一息で距離を潰し、クレラントを切り上げた。
「やれやれ、濁った太刀だ……見ておれん」
それをクロムが義肢で受け止める。
シンフォギアの鎧をまとった聖遺物の義肢はモルドレッドの出力にも負けない強固さを持っている。
「とりあえず、シルフィ!
「ああ、すまないが隠れさせてもらう! だが、できる援護はさせてもらうぞ」
「それでいい。お前の戦場は前線に立つことじゃない、背後で支えることだ」
モルドレッドの速攻をさばきながらクロムは告げる。
カバーは任せて!とシルフィが叫ぶと、クロムは無言でうなずいた。
「うるさいなぁ」
モルドレッドが炎をまとった斬撃を繰り出す。
剣の平を叩いて迎撃するクロム。
「ぬるいぞ、欲が濁ってるからだ。貴様の欲望はそれではなかったであろう」
「うるさいなぁ、殺す殺さないなんてどうでもいいんだから、さっさと足を斬られなよ」
「足などとうの昔に吹き飛んだわ。意の足りん攻撃など軽いもんだ」
「はーやーく、やられてよ! お外見るのが後になっちゃうじゃない」
「強請るな勝ち取れ」
モルドレッドが繰り出す斬撃を十字に受け、そのまま下に抑え込むと、踏み出し、裏拳と前蹴りをモルドレッドに突き刺した。怯むモルドレッドに対して、もう一歩踏み出しながら跳躍し、さらに顎を蹴り飛ばす。
「見るにたえんな」
「何よ! 言うこと聞いてよ! みんなのことは好きだけど……クロム以外……お父さんのほうがもっと好きなんだからしょうがないじゃない」
「……怖い」
部屋の隅でシルフィが怯えている。
モルドレッドがクレラントを振るうたびに、部屋の備品が破壊され、断面が溶けた姿をさらしている。
「さっさと鎮圧したほうがよさそうだな」
剣を殴り飛ばし、入れ違いのようにストレートがモルドレッドへと突き刺さる。反撃しようとしたモルドレッドの足を払い、姿勢を崩させた。
そこへ返しの手首による殴打をモルドレッドの首に引っ掛け、押し倒す。
「っ」
無言でクロムがモルドレッドの顔を踏みつぶそうした。
ごろごろ転がりそれを避けるモルドレッド。炎を用いた瞬間的な放射で距離を取りながら、起き上がる。
「なによ! クロムなんかお金以外に興味がないくせに」
「おう、財貨が一番だぞ。欲を貫けずしてなにが邪竜か。
オレはオレの欲のまま生きるのみ。文句があるなら阻んで見せろよ」
「じゃあ、なんでこんなお金にならないことしてのよ」
「オレが好きなのは光り輝くものさ。だから、シルフィのいるこの島もオレの財貨だ。
そして、オレの財貨を奪ったヤツを殴りに行ってるだけさ」
「っ、この人でなし!」
ある意味で、島の住人すらも物扱いしているクロムの発言に、モルドレッドが怒りをあらわにする。
「おう、邪竜だからな」
クロム=クルワッハは邪竜である。
なぜなら財貨を、光り輝くものを好むからである。
であるから、財貨を生む原動力である欲望を肯定するのである。
だからこそ、いまの本来の欲望からねじ曲がっているモルドレッドが気に入らなかった。
「さて、何度も問おう。お前の欲望はなんだ、モルドレッド」
「お父さんに気に入られることだって言ってるでしょ! お父さんに奉仕して、お外を見に行くの!」
「外と父はどちらを優先したいんだ?」
「それはもちろん――あれ?」
モルドレッドがきょとんと眼を見開く。
「私、どうして外を見たいんだっけ? お父さんが見せてくれるっていうから……あれ?」
「……どういうことだ、
「恐らくは洗脳するための時間が短く乱暴だったから、精神の深いところまで届いていなかったのだろう。これならもしかすると、言葉で揺さぶれば正気に戻るかもしれないな」
「なるほど」
困惑するモルドレッドの頬にストレートを叩き込むクロム。
「目を覚ましたまえ、君の夢はなんだった! なぜ、その夢をおいかけた!!」
「うるさい!!」
モルドレッドが剣を振り回す。
中段への攻撃を掻い潜るように飛び跳ねて回避するクロム。返しの刃で下段に対して斬りつけるが、それも飛び跳ねて回避した。
モルドレッドが声を聞きたくないように頭を振る。
「私が引かれたのは君の誇り高き精神だ。友を思うその気持ちだっっ!!」
モルドレッドの説得は
鬱陶しそうにモルドレッドが瓦礫を蹴飛ばし、
「させないよ!」
シルフィがその攻撃を弾く。
「いつものモルドレッドだったらそんなこといわないよ! なにをされたのよモーさん!!」
「うるさい。うるさいうるさいうるさい!! なんでみんな私の邪魔をするの!?」
「まぁ、一度、眠ってから考えればいい」
サッカーボールキックがモルドレッドの腹部を捕らえる。
その蹴りを腕で受け止めるモルドレッド、威力に押され地面を滑るように下がるが、即座に切り返す。
「さて、もう一度問うぞ、お前の価値はなんだ? お前の夢はその程度だったのか?」
「うるさい」
「さえずることすらできなくなったか? くだらん」
「うるさいっ」
「ふん、なんだ、地が出てきてるぞ、モーちゃん」
「うるさいって言ってる」
「その程度か? ここで終わる程度の気持ちだったのかそれは」
「うるさぁぁぁぁぁいっ!!!」
モルドレッドの斬撃を上腕で受け止め、クロムのストレートはモルドレッドが手首をつかむことで止められた。
額を突き合わせて、動きが止まり、互いに拮抗状態となる。
双方ともに押し合っている状態となっているため、気を抜いて姿勢を崩したほうが押し切られてしまう状態。
クレラントが火を放射し、紫電をまき散らすが、それを真正面から竜の膂力と耐久力でクロムが耐えて抑えこむ。
――シンフォギアの戦闘に置いて重要なのは自信の深さである。
繰り返し言われてるようにクロム=クルワッハは邪竜である。そこに一片の揺らぎもない。だからこそ繰り出される自信は彼女に不動の耐久力を付与している。
では、モルドレッドはどうか?
現在の彼女の内心は千々に乱れていた。
父に好かれたい、外を見たい、なぜ見たかったのか、お父さんが言ったから、違う、大事な誰かを忘れている、それはなんだ? お父さんを信じればいいんだ。
まるで別人の思考が混ざり合ったようにとりとめのない思考が浮かんでは消えてゆき、自分でも制御できない。
「ぁぁぁぁ!!?」
モルドレッドの紫電と炎の出力が上がる。まるで癇癪を起した子供のように。
がむしゃらに力を振り絞った一撃は、白煙を上げて、クロムの義肢を焼くがクロムは意に介さない。元々義肢であり、これまでの人生で何度も破壊された経験のあるクロムにとって義肢が破壊されることは恐怖になりえない。
ほとばしる力が室内を暴れまわり、シルフィが
それでも、クロムはただ足に力を入れて、じりじりと押していく。
「なんで? なんで、負けてくれないの!!」
「何かを手に入れたければ……奪い取るんだ!!」
膂力でモルドレッドを押し返そうとする。そこに対して、噴射の出力をさらにあげ――
「―――ギ」
鎧の奥から炎が吹き上がる。
「
自分自身の炎で焼かれるモルドレッド。
それはもしかすると、心の奥底に残ったモルドレッドの意識だったかもしれない。
あえて自らをつつむかのように蠢く炎がモルドレッドを焼き払う。
「ギぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??」
力が弱まったモルドレッドをそのまま押し切り、壁にたたきつけるクロム。
「さぁ、お前の夢を語ってみろ!!」
「――うるさい……うるせぇ!!」
クロムの頬に炎を纏った拳が突き刺さった。
きりもみ条に吹き飛ぶクロム。
床を二度、バウンドし、その勢いを殺して、立ち上がる。
唇の端から流れていた血をぺろりと舐めた。
「どーしたー、泣き言はもういいのかー?」
「黙れ!!」
モルドレッドが駆けだす。
踏み込みのタイミングで炎を噴射し、加速した切り込み。
それに対してクロムもまた突進して、距離を潰し、威力を減らした。
「外で泣いてるだけだと食われるだけぞ、モーさん」
「黙れよ!! このクズ野郎!!!」
互いに激突する。
剣と拳がぶつかり、火花が飛び散る。
紫電がそれて
「お前のそういうところが嫌いなんだよ!?」
「あっはっはっ、オレは好きだぞ。
それで、お前の夢はここで父親に溺れてることか?」
「んなわけあるか!! 全部ぶっ潰して、外を確かめに行くに決まってんだろうが!!」
「おう! その調子だ!」
「それはそれとして、死ねやぁぁぁ!!!!」
モルドレッドが太刀を寝かせ、切っ先を背後に向けた脇構えをとる。
炎を噴射し、地を割らんとばかりに強く踏み込む。
紫電を纏い、一閃。
それがクロムを捕らえ、クロムは壁の叩きつけられ、大きな陥没を作った。
「ふぅ……」
満足したようにモルドレッドが息を漏らす。
「……戻ったのかね?」
「だ、大丈夫、クロム!?」
「おう、平気、平気。オレは頑丈だからな」
よっと、軽い調子でめり込んだ壁から戻ってくるクロム。
やっぱりこいつむかつく、とモルドレッドは思った。
「いやー、まったくドラゴンステーキになっちゃうところだったぜ」
「チッ……」
「やりすぎだよ、モルドレッド」
シルフィがいかめしい顔でモルドレッドを睨む。
「あー……はいはい、オレが悪かったよ」
「はい、は一回!」
「そういうところだぞ、優等生」
「……ところで、その黒江君のシンフォギアを返してもらえないかね?」
モルドレッドが腰に引っ提げていたシンフォギアを
しょうがぇなぁ、とモルドレッドが手を伸ばしかけたところで、ふと、止まる。
そのあと、部屋を見回し、水を発見すると、そこで洗い、ついていた唾液を洗い流して、拭いた後、
「よし、そろそろ進もうか!」
クロムが立ち上がり宣言する。
「この扉の奥の上り階段は一直線だね。まっすぐ行けば外に出れるよ」
「おう、じゃあ、行くぞー!」
次の階へ進む扉をクロムが蹴破り、一行は進みだした。