妖精郷に響け――リプレイ   作:イーストプリースト

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第6話

 薄暗い通路を走っていく。

 等間隔に照明はついているのだが、明度が足りていない。

「戦力の逐次投入……時間稼ぎかな」

「どういうこと、クロム?」

「いや、囲んでしまえばさっさと終わらせられるのに、モーさんの尊厳破壊したり、行く先々で戦力を小出しにしてるから、たぶん、時間を稼ぐのが目的じゃないかなーって」

「ありえるな。この戦艦が万全に機能するための時間を稼いでいるのだろう」

「つまり、俺たちを舐めてるってことか」

「まぁ……その通りだな」

「上等ぉ! さっきの屈辱も込みでのしを付けて返してやるよ……ッ!!」

 モルドレッドが凶相を浮かべて宣言する。

「まぁ、それはさておき。仮に時間稼ぎとするなら、次は黒江(くろえ)か島の面々あたりかな」

「……あまり言いたくはないが、島の面々はワイバーンの材料になってる可能性も高い」

「まぁ、弾が多いならそうするよなー」

「ここからさきは一本道で、次の部屋を超えたら頂上だから強い人を配置してるんじゃないかな」

「となると、黒江(くろえ)の可能性が高そうだな」

「……黒江(くろえ)君か」

 古是(ふるぜ)が苦虫を潰したかのように顔をしかめる。

 

「彼女とはあまり戦いたくないのだが」

「どっちにしろ洗脳されてるなら、まず殴り倒してからになるから戦うのはオレ達になるぜー」

「…………」

「まぁ、いたたまれないのはわかるけど、必要な手順だから気にするなよ。

 それよりも、だ」

 クロムが、言葉を切る。

「さっきのモルドレッドみたいに言葉による揺さぶりは有効そうだから、知ってることがあるなら教えてくれないか?」

「そうだな……」

 古是(こぜ)が押し黙る。しばし、沈黙が続いた。

 快活なこの男には珍しく、何を話していいのか迷っているようだった。

 今も口数は少ないが、黒江(くろえ)が二課に来た時は、本当に誰とも口をきかずに沈んだ表情で、気をつけていないと、いつの間にか消えて、隠れてしまっている子であった。

 そのうえ、隠れて物陰で泣いてることも多く、悪夢でうなされ、悲鳴を上げて起きることも珍しくない。

 古是(こぜ)も医者として彼女のカウンセリングに何度も駆り出されたものである。

「……彼女は元はフェアリーテイルに属している奏者だったけど、特異災害対策機動部二課(うち)と交戦して捕縛してから二課へと転属したのさ」

「おお、どういう風の吹き回しだ?」

「元々、孤児だったそうだけど、フェアリーテイルに拾われて、DFS(ダイレクトフィールドバックシステム)の実験体として運用されたてたようだよ」

 古是(こぜ)が爪が食い込まんばかりに手を握る。

黒江(くろえ)君は村正を使おうとすると、ちょっとした異常が発生してね。普段は使いたがらないんだ」

 『村正』を使おうとすると、高揚感と嗜好の変更……すなわち、人を殺すことに異常なまでの快感を覚え、戦闘能力も大きく向上する。

 黒江(くろえ)自身は、その状態で幾人もの人を斬り、それで笑っていた自分自身のことをひどく怖れている。

 それこそが自分の本性なのではないか、そして、その刃が仲間に向うのではないか、という点を怖れているのである。

 ドクター・オーヴェロン戦の時にギリギリまで『村正』を使おうとしなかったのはそれが理由であった。

 二課に入ってから適合した『天之麻迦古弓』を普段から使っているのは上記の理由に加え、適合率は『村正』より下がる代わりに精神的にも適合率も安定するという理由もある。

「捕縛後にそれがわかったんだ。

 だから、僕が手術して緩和することは出来たんだけど……完全に取り除くことは出来なかった。技術不足を痛感するよ」

「錬金関連の情報は少ないからしょうがないさ」

「それでも、ね。いまでも彼女が頭痛で苦しむのは僕の技術不足だからなんとかしてやりたいものだよ。まぁ……」

 古是(こぜ)が笑う。

DFS(ダイレクトフィールドバックシステム)を応用して、僕の動きをコピーさせたときはしこたま蹴られたけどね」

「なにしてんだ、お前」

 モルドレッドがあきれたように目を細める。

「いや、あのシステムは動きを解析することで、即座にその動きを模倣することができるんだけど、僕が猿真似をして、それを真似させたら本気で怒ってね。しばらく口をきいてくれなかったよ」

「残当だよ……」

 シルフィがため息を一つ。

 古是(こぜ)は場の空気が和らいだことに安堵した。

「まぁ、それでも明るくなってくれてうれしいよ。

 誰とも話さない上に、無茶する子だったからね」

「私はあんまり面識がないんだけど、そんなに無茶する子だったの……?」

「そこのモルドレッド君のような突撃に近いかな。あの時までは無謀ともいえる突撃を繰り返していたよ」

「あの時? 何か事故でもあったのか?」

「……黒江(くろえ)君が突撃した時に不意打ちをうけてしまってね、それをカバーする際に他の奏者が重症を負ってしまったのさ。

 幸い、その戦い自体は問題なく終わったんだけど、それからが大変だったよ。

 黒江(くろえ)君はつっききりで心配してるし、他の子たちもその話題に触れずらそうだったし……」

「まぁ、いたたまれないわな

……あー、でもなるほど」

 クロムがわかったようにうなずく。

「アイツ、基本的に強がりなのな。本音を言い出せずに虚勢を張るタイプか」

「……本人の前で言わないでくれよ?」

「あっはっはっ、さーてね」

「それで、どうなったんだよ、それ」

「ああ。話としては目覚めた奏者と黒江(くろえ)君が和解して終わりさ。

それ以来かな、徐々に皆と交流するようになって今に至るってわけさ」

「なーんだ……あいつもちゃんと友人いるんじゃん」

 モルドレッドがどこか安堵したように言う。

「ははは、いまでは皆と打ち解けてるさ。

君も二課(うち)に来てみるかい? すぐに仲良くなれると思うよ」

「ン……考えておく」

 モルドレッドが目をそらして、頷いた。

「そろそろ扉が見えて来たよー」

「おう、じゃあ、油断せずに行くぞ。

入る手順は前に決めた通りだ」

 とクロムが先行するため、速度をあげた。

 

 

 目を覚ました黒江(くろえ)は眩しい光に顔をしかめた。

 起き上がろうとして腕を引っ張られ、再びベッドに戻される。

 見ると手術台らしき上に、患者用の拘束具で手足を固定されている。

 唐突な状況に混乱しつつ、記憶をたどる黒江(くろえ)

 村正を纏って交戦したが力及ばず倒れ、戦闘が終わった後にフェアリーテイルのボスがやってきてさらわれたのだ。

「畜生……っ」

 最悪な無様を晒したことを思い出し、頭をかかえたくなるが手足が拘束されており、できない。そのせいでむかつき度合いが一つあがった。

「いやあ、クロエ・イートン・ボガール」

 マスターアヴァロンが、背後に例の少女を連れて現れる。

 足音は3つ。

 少女は興味がなさそうで、ふわぁぁ、とあくびをしていた。

「てめぇ!」

 黒江(くろえ)が目尻をつりあげ、アヴァロンを睨む。

「ふざけるな!私にまた何をしやがった!」

 声を張り上げる黒江(くろえ)

 この男は自分にDFS(ダイレクトフィールドバックシステム)を埋め込み、組織の尖兵として多数の命を奪わせた男なのだ。

 警戒しないはずがなかった。拘束を解こうと必死にもがくが、がちゃがちゃと耳障りな音が響くだけであった。

「いや? まだ何もしてないさ」

「嘘をつくなっ……」

「本当だよ。

ただ、そうだね……君にはもう一度フェアリーテイルに入ってもらうことにした」

「ふざけるな……っ、また、私に人を殺させるつもりか」

 脳裏に浮かぶは数多の肉片。転がる四肢。

 黒江(くろえ)に怯え、悲鳴を上げて逃げる兵士の背中を斬りつける自分の姿。

 そして、それをみて笑っている自分……。

 黒江(くろえ)の息が怒りのあまり荒くなる。

「そうだよ。……あー、ふむ」

 その言葉に拘束具が食い込むのもいとわず暴れる黒江(くろえ)

 この拘束具さえなければ、間髪入れずに殴りかかっていただろう。それほど腸が煮えくり返っていた。

防衛機能(ワイバーン)にするつもりだったけど、その手もありか」

「ふざけるな! 頭を弄ってDFS(あんなもの)をいれた上に、『村正』を持たせて頭を弄ったくせに!!」

「ああ、それには気づいていたのか。

 いや、適合率の上昇と動きの効率化を行ったのだよ。

 感謝してほしいものだね、戦場で体が動かないものの末路は悲惨だよ?」

「殺人鬼にされてよろこぶやつがいるとおもうか!!」

「――ん、ああ。それに関しては私は何も弄ってないよ」

「え」

「いや、そんなことをする利益はないからね。

 もし、人を殺して笑っていたのなら、それが君の本性だよ」

「違う、そんなことはない! 私は頭を弄られて、村正の影響であんなことになっただけだ!!」

「いいや、違わないね。君が人を殺して楽しんでいたのは君の本性だよ」

「嘘つきのお前の言う事なんて信じるものか!」

「じゃあ、試してみようか」

「え」

 ぽん、と呆気なく『村正』の欠片が黒江(くろえ)に渡された。

 同時に拘束が解かれる。

 あまりに簡単に返されるので、一瞬、呆けてしまった。

 マスター・アヴァロンの意図が読めずに黒江(くろえ)は目の前の少年が不気味に思える。

「クロエ・イートン・ガボール。

 君が殺人嗜好の持ち主ではないというのなら、『村正』を纏ってみればいい」

「私の名前は『黒江(くろえ) 幽紀(ゆうき)』だ!」

「おや、両親から与えられた名前を使わないのかい? 

 両親が草葉の陰で泣いているよ?」

「誰のせいだと……っ」

 激昂しそうになった精神を黒江(くろえ)は強引に落ちつかせる。

 いまは重要なのはそこではない。

「お前、何を考えている……!

『村正』を私に返してどうするつもりだ」

「意図としては二つ」

 マスターアヴァロンがすっと指を二本かかげ、Vの字を作る。

「まずは、今の君がどこまで『村正』を扱えるのか、『DFS(ダイレクトフィールドバックシステム)』の調子はどうなのか見ておきたい、のがひとつ」

 アヴァロンが指を一つおろす。

「もう一つは、君の状態を見ておきたくてね。

ああ、そうそう修正もひとつあるんだよ」

 アヴァロンがもう一つの指をおろして、手を背後へ戻した。

「君に施したのは君の潜在意識を引き出すものだ。

 だから、君に殺人嗜好が発現しているのなら、君自身にそういう素質があっただけだよ」

「――――!!!」

 黒江(くろえ)が息をのんだ。

「嘘だ!!」

「いいや、本当だよ。

 そもそもそんな嗜好を与えたら制御しづらいじゃないか。

 君が人殺しを楽しんでいたなら、君自身がそういうやつだったってことさ」

「でたらめを言うな……!」

「どっちでもいいさ。―――で、どうするんだい?」

 黒江(くろえ)が手の中にある『村正』の欠片を見つめる。

 もしアヴァロンが言っていることが本当なら自分の本性こそは……と、思うと鳥肌が立った。

 あのようなおぞましいものが自分の中に眠っているとおもうだけで、肌を引っかき、書き出したくなる衝動にかられる。

 怖い。

 『村正』に導かれるように人を斬りそうで怖い。

 それを笑っている自分が怖い。

 しかし、だからと言って、その恐怖に屈してしまっては二課に帰ることはできない。

 おぞましい自分なれど、その自分を受けいれ、居場所となってくれたものたちがいるのだ。

 彼らと再び会うために、黒江(くろえ)は『村正』を握りしめた。

【――血を捧げよう、村正に】

 シンフォギアを纏った黒江(くろえ)が選んだのは速攻であった。

 一歩で黒江(くろえ)が直進する。

 同時に地面から鎖が伸び、コアを拘束する。

「おお!?」

 驚いたように目を見開くコア。

 しかし、黒江(くろえ)はそれに付き合わずに、大鎌を振り上げ――、

 マスターアヴァロンが指を鳴らした。

 その音を聞いた途端、黒江(くろえ)は弾かれたように動きを止め、鎌を落とした。

(――……えっ?)

「聖遺物」

 アヴァロンが手を差し出すと、黒江(くろえ)は自らシンフォギアを解除し、アヴァロンへと『村正』を手渡す。

 思考がついていけない。身体が自分の言うことを聞いてくれない。

(なに……? 何が起こっているの!?)

「まあ、まずは横になりたまえよ」

 戸惑う黒江(くろえ)をよそに、彼女の身体は自分で手術台の上に横たわると、自分で自分の拘束具をつけはじめる。

「うんうん、いい子だ。じゃあ、始めようか」

 マスターアヴァロンが器具を取りに棚へと歩いてゆく。

 手術台に横たわった黒江(くろえ)は何が起こったかわからず、ただ、身体の自由がきかない事だけがわかった。

「いや……っ」

 アヴァロンが手術器具をとってきて、並べ始める。

(トウカ! 古是(こぜ)! モルドレッド! 誰か助けて……っ!)

 身体の自由が利かない恐怖の中、黒江(くろえ)はただ震えるしかできず、

「いやぁああああああああああああああ!」

 その悲鳴は誰にも届かず、ただ部屋の中にむなしく響き、消えていった。

 

 

 次の階へとたどり着く、クロムがハンドサインを出し、モルドレッドと共に中へと足を踏み入れた。

 シルフィは古是(こぜ)の護衛をしつつ、彼らは部屋の外で待機している。

 部屋の真ん中では幽鬼のように黒江(くろえ)が立っていた。

「……あなた達が父上の言ってた敵ね」

 黒江(くろえ)が聖詠を紡ぎ、変身する。

 ぴちゃり、と足を踏み出す。

 彼女の視線には足元は血に濡れており、人の部品がそこら辺に転がっている。

 新たにやって来た二人はなにか人の形をとっている黒い影のように見えた。

「――――」

「――――」

 ぎりっ、と黒江(くろえ)が歯をかみしめた。

 彼女がちらり、と後ろをうかがう。

 そこには無数の部品の欠けた人間が黒江(くろえ)へと手を伸ばして這いずってくる。

「……ッ」

 はやく、敵を倒して父上に調整してもらわなければならない。

 そうしないと、あれらに追いつかれてしまう。

 焦燥感にかられた黒江(くろえ)は大鎌をかかげると、弾けるようにかけだした。

 

 

 大鎌が振るわれる。

「……モルドレッドと同じ状態のようだな」

 その黒江(くろえ)の斬撃を受け止めながら、クロム。

「オレもあんなのだったのか……」

 その横でモルドレッドが顔をひきつらせて、なにか精神的な損傷を受けていたようだった。

「さて、殴り倒せば元に戻るとは思うが……」

「なにか懸念があるのか、屑野郎」

「いや、モーさんの時より時間があったから施術が複雑かもしれんな、と」

「……可能性はあるな」

 モルドレッドは施術が雑であったため、精神的な揺さぶりで元に戻ったが、黒江(くろえ)はモルドレッドより施術を行うのに時間があった。

 ならば、モルドレッドの時よりも

 

「恐らくだが、『村正』との同調がより深まっている」

 モルドレッドとクロムが話し合っていると、部屋の奥から古是(こぜ)の声が加わった。

 古是(こぜ)にはいまの黒江(くろえ)の状態に見覚えがあった。

 二課に初めて黒江(くろえ)がやってきたときの様子とそっくりであった。

DFS(ダイレクトフィールドバックシステム)を逆利用して、かつての黒江(くろえ)君を再現してるのだと思われる!

 その起点は『村正』との同調のはずだ。だから、変身を解除すれば洗脳も自然ととけるはずだ」

「おう、じゃあ、どうすればいいんだ?」

「僕に策がある! 君たちは動きを止めてくれ!

そうすれば僕が解除して見せる」

 古是(こぜ)が懐に入っているAnti Linkerを見た。

 オーヴェロンからもらったそれが役に立つ時が来たようだ。

 シルフィと目をあわせると、彼女が頷く。

 古是(こぜ)黒江(くろえ)を救うために立ち上がった。

 

 

後退してはいけない、捕まってしまう。

 黒江(くろえ)は歯噛みしながら、踏み込んだ。

 背後からは声が聞こえる。

『なぜ?』『どうしておまえだけが』『腕を返して』『俺には家族がいたんだ』、と体が欠損した人間たちが黒江(くろえ)の背後からじわりじわりと近づいてくる。

 大鎌を地面にたたきつけ、無数の鎌と鎖で目前の影を牽制する。

 新たに表れた人影は何か言っているようだが、何を言っているのかわからない。

 殺したくない。殺せば、私を責め立てる人達が増えてしまう、と黒江(くろえ)は思った。

 しかし、彼らを倒さなければ、父上は調整してくれない。

「……ごめんなさい!」

 唇を引き結ぶと、黒江(くろえ)は大きく踏み込み、鎌を振り上げる。

 謎の影は大振りとなったその一撃を、身を伏せて前進し、カウンター気味に黒江(くろえ)を殴り返す。

 衝撃。

 その一撃を受けて、よろめいた黒江(くろえ)にもう一つの影が低く言ところから黒い剣を振り上げ。

 金属音。ぎりぎりで防御が間に合った。

 が、黒い影の膂力に吹き飛ばされ、黒江(くろえ)は背後に吹き飛ばされてしまった。

「きゃ……っ」

 回転して床を転がる黒江(くろえ)。立ち上がろうとする黒江(くろえ)を誰かがつかむ。

 それは腕であった。体が斬り飛ばされた腕。

 黒江(くろえ)の足をがっしりと掴んだ。

「ひっ」

 次々の黒江(くろえ)の身体に死人が群がっていく。

 『かえしてくれ』『なんでいきてるの』『お前も来い』……彼らは口々に黒江(くろえ)を罵りながら、血の海に引きずりこもうとする。

「やだ……やだやだやだ、誰か、助けて……っ!」

 黒江(くろえ)の上に黒い影がのしかかる。

 彼らは黒江(くろえ)をしっかりと固定し、逃げられないようにした。

「……あっ」

 これは罰だ。いままで人を殺してきた罰に違いない。

 自分は無数の人を殺したのだから、罰を受けなければならない。

「……ごめんなさい」

 そして、黒江(くろえ)の目前で黒い棒が振り上げられ―――。

 彼女の視界が晴れた。

「え?」

「大丈夫かね、黒江(くろえ)君?」

 心配そうに古是(こぜ)黒江(くろえ)を見つめていた。

 彼の手にはアンプルとAnti Linkerが握られていた。

「君は『村正』とDFS(ダイレクトフィールドバックシステム)を逆利用されて、一種の幻覚状態にいたようだ。それをAnti Linkerで解除したんだよ。

 少し怪我をしているかもしれないから見せてくれ」

「う、うん」

「おや、……いつもと違って、素直だね。どうかしたのかね?」

「……うっせえ」

 黒江(くろえ)古是(こぜ)を蹴り上げる。

「あっはっは、その元気さこそが黒江(くろえ)君だよ」

 快活に古是(こぜ)が笑う。

 彼は簡単な触診を手早くこなしていく。

「うん、問題はなさそうだね」

「……あの変態、恥ずかしい台詞をいわせたやがって」

「はっはっはっ、可愛らしかったよ。二課の皆で鑑賞会をしないとな」

 顔を赤くした黒江(くろえ)に再び古是(こぜ)が蹴り上げられた。

「おーい、終わったなら、少し止むぞー」

 クロムが二人を呼ぶ。

 その隣ではシルフィが座っており、少し話されたところで、モルドレッドが変身を解除し、肩で息をしていた。

「ふむ、次の階は最上階だそうだ。ここで休んで言回復していった方がいいだろうね」

「そう。……ねぇ、古是(こぜ)

「なにかね?」

「……なんでもない」

 古是(こぜ)が去って行く。

 その背中についていきながら、黒江(くろえ)はうつむき、小さく「ありがとう」とつぶやくのだった。

 

 

 モルドレッドの近くに腰を下ろし、落ち着いた黒江(くろえ)は決まずそうに目をそらし、古是(こぜ)に質問した。

「ねぇ、古是(こぜ)

 アヴァロンが言ってたんだけど、DFS(ダイレクトフィードバックシステム)って潜在能力を引き出してるだけって本当なの?」

「まぁ、間違いではないね。

 それは入力されたデータを最適化して、脳内で再現するシステムだから」

「そう、じゃあ、『村正』を使って人殺したくなるのも私の本性なのね……」

 黒江(くろえ)がうつむいた。拭えない罪を背負っている自覚はあったが、それでもどす黒い本性を自分が持っていることはショックであった。

「え、いや」

 古是(こぜ)は鳩が鉄砲を喰らったような顔をする。

「君の場合、『村正』を振るうために精神が最適化するように術式が組まれていてから、『村正』使用時の高揚はそれが原因だよ」

「…………」

 古是(こぜ)の言葉に、黒江(くろえ)が顔をあげた。

「……本当?」

「ああ、もちろんだ。もし、そのような危ないものが原因なら、解決できるように二課で訓練するか制限を課してるだろう」

「……………………」

 たっぷり10秒、黒江(くろえ)は固まり、

「くそがっっっ!!! あの変態ぃっ!! 絶対にとっちめてやる!!!」

 そして、叫んだ。

「まぁ、俺よりもマシだから気にするなよ」

 モルドレッドがめずらしく気まずそうに目をそらし、黒江(くろえ)の肩に手を置く。

 あれから黒江(くろえ)は荒れてていた。

 いま視線で人を殺せるなら殺してしまえるだろう。

「まぁまぁ、戻ったんだから、いまはそれを喜ぼうじゃないか」

 古是(こぜ)黒江(くろえ)とモルドレッドに応急処置を施していた。

 この先は最上階につながる場所らしく、恐らくはマスターアヴァロンが待ち構えているはずである。

 その前に、一通りの治療を施しておこうとしているのである。

 ちなみに、クロムとシルフィはほとんど無傷らしく、少し離れて何かを話している。

「……古是(こぜ)はいいの?」

 見ると古是(こぜ)にも多数の傷があった。

 クロムを助けた時におった腕の火傷や先ほどの黒江(くろえ)戦で追った切り傷などなど。細かな傷はいくつもあった。

「なに、君たちほど酷い傷ではない。帰ってしばらくすれば治るよ」

「…………、…………ありがとう」

 小さな声で、ぼそり、と黒江(くろえ)

「ん、なにか言ったかね、黒江(くろえ)くん?」

「なんでもねーよ」

「そうか。まぁ、お礼は大声で言ったほうがいいと思うよ」

「聞こえてるじゃねーか!!」

 恥ずかしさに頬を染めた黒江(くろえ)古是(こぜ)は蹴られるのだった。

「まぁ、みんなに土産話を持って帰ろう。こんなつまらんところで脱落することは許さんぞ」

「柄でもない事、言ってんじゃないよ」

「ふふっ、柄にもない……か。そうだ、そうだな」

 古是(こぜ)が笑い、黒江(くろえ)も笑った。

 

「……なにやってんだか」

 仲良く喧嘩している面々を見てクロムは目を細めた。

「クロムは混ざらないの?」

「オレはあんまり興味がないな。まぁ、助けてくれた恩ぐらいは返すが」

「ふーん」

「それよりシルフィはあっち行ってきたらどうだ?」

「いいよ、最後かもしれないからクロムと話してたいな」

「こいつー」

 つん、とシルフィの額を指でつつくクロム。

 シルフィもくすくすと笑う。

「それにしてもこんなことになるなんて思わなかったね」

「んー、オレは……まぁ、どうだかね」

「ちゃんと言ってよ」

「半々かなー」

「なにそれ?」

「さぁな」

「もう、そんなのだから嫌う子も出るんだよ。モーさんとか」

「嫌うなら嫌わせておけ、オレには関係ないさ」

「まったく……」

 脱力するように大きくシルフィは息を吐いた。

「よしっ、治ってきた」

「相変わらず治癒力が早いね」

「邪竜だからな」

「もう」 

 シルフィが笑い。

「君は昔から変わらないね。けど、約束忘れてないよね?」

「ああ、もちろんさ。……あんな怖い思いはもうごめんだ」

 と、二人は小指を掲げて見せた。

 

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