妖精郷に響け――リプレイ   作:イーストプリースト

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第9話

 あれから数日後、巨大な要塞が高所から落ちた影響は決して小さくはなく、特異災害課を含めいくつかの国の機関が捜査を行い、現場も後方も混乱していた。

 そのせいか、古是(こぜ)をはじめとした面々まで処理が間に合わないらしく、緊急性の高いアヴァロンだけ回収し、他の面々はその場で待機することなる。

 しばらくの間、空白の期間ができた件の面々は今、慰労もかねて、海の見える海岸で焼き肉に興じていた。

「さぁ、ここは私が手料理の腕を……!」

「やめてー!」

「やめろ、ティターニアの手料理は死人が出る!」

 ティターニアが料理をしようとしたところで、奏者の少女とクロムが慌てて止める。

「まーまー、ここは私に任せてお姉さんは休んでて」

 そして、ティターニアの代わりに肉や野菜をクシに通し焼いているのは、黒江(くろえ)であった。

 意外にも黒江(くろえ)の趣味は料理であり、手慣れた様子でクシをかえしていた。

「モルドレッドの処理が終わった後、我々は罪を償わなければならない。

だが、その前にこれでいいのかね?」

「どうも各国が水面下で鞘当てをしているようなのでね。捜索隊が動くためにも、現場に近い方がいいのが一つ。

 もう一つは、これが終れば長いお勤めがあるんだ。打ち上げをするならいまのうちだろう」

「……本音は後者だろう、それは」

 古是(こぜ)が声なく笑い、肩をすくめた。

「まぁ、ドクターは気負いすぎだから少しぐらい肩の力を抜いたらいいさ」

「そうか。…………そうか」

 ドクターが何かをかみしめるように沈黙した。

「とりあえず、アヴァロンの捕縛に協力したから、そこらへんで司法取引しようぜー」

「アタシも協力したことにしたい!」

「おう、お前も協力したことにすればいいさ」

 奏者の少女がクロムに便乗した。

「やった! ……アタシはゲットした権利の範囲で好きにさせてもらうけど、モルドレッドはどうするの?」

「……んー、オレか?」

 抜け殻のようになったモルドレッドがもそもそと肉を食べている。

 肩の荷が下りたのか、島から出た後はずっとこのような感じだ。

「どうしたものかなぁ」

「……まぁ、すぐに結論が出ないなら考えたらいいさ」

「そーするかー」

 のびた猫みたいだ、とクロムは思った。

「しかし、古是(こぜ)さん。やっぱり他の皆は見つかってないのかい?」

「ああ、マスターアヴァロンは喋らないし、捜索隊のほうも芳しくないようだ」

「そっかー……」

「まず移動法が魔法陣間での瞬間移動だからね」

「私も目隠しして移動させられてたけど、あれ瞬間移動だったんだ」

「そうそう」

 黒江(くろえ)が当時のことを思い出して、感心した声を出した。

 奏者の少女がうなずいて、

「だから、気長に探すしかないと思うよ」

「そっかー」

 クロムが、はむっと肉をほおばった。

「あ、そうだ、古是さん。司法取引の条件を増やしたいんだけど」

「ん? できることによるね」

「まぁ、そっちにも利益があると思うよ」

「とりあえず聞いてみようか」

「うん」

 クロムはにへら、と笑って。

「ちょっとオレ、四人ほど子供がいるんだけどさ。

 三人ほどは里親に出して場所がわかるんだけど、一人は持ってかれたまま行方不明なんだ。だから、保護を頼むぜ」

 古是(こぜ)を含めた数人が食べ物を吐き出した横で、奏者の少女は「そういうことあるよねー」と頷いていた。

 

 そして日がたち、それぞれは――

 

 

□アフター:case1:古是(こぜ) 晴斗(はると)

 

「本当に協力していただけるとは思えなかった」

 二課の奥に位置する古是(こぜ)の実験室。

 普段の古是(こぜ)の印象とは似つかわしくな数式や教本に囲まれた部屋に彼らはいた。

 片方は古是(こぜ)、もう片方は半身だけで両目のない男――マスターアヴァロンだ。

「野望をあきらめる気はないが、それよりも前にアレの足を引っ張らないと国が亡びるからね。私は私の国をあきらめる気はないが、その前に滅びてしまったら元も子もない」

「ありがたい」

 そこで古是(こぜ)は二課の許可を取り、アヴァロンから錬金術の教授を受けていた。

 そのかわりにアヴァロンに対してある程度の便宜をはかる契約である。

「私は日本に関して恩も義理もある。だが、君たちの組織にはそこまでの隔意はないからね。僕はこれ以上、子供たちを戦場に送りたくはない。それを成すためには、君に協力してでも知識と力を得させてもらおう」

「そのほうがこちらも助かるよ」

「なんなら歩き回れるだけの義体を用意してもいい。……その点では互いに共謀しあえるってわけだ」

「そういうことだ。といっても課題はあるぞ」

 と、アヴァロンが義手で、ドンと広大な本を持ってくる。

 机の上に置かれた広辞苑サイズの本。

「……これは?」

「錬金術の初期の知識だ。知っての通り、錬金術は構造をばらして把握して組み立てる技術だ。そのため教本だね。

 まぁ、500ページ以上あるが、とりあえず一か月で全部暗記しようか」

「一か月で……?」

「錬金術の基礎を学ぶだけでは足りないさ。シンフォギア・システムのブラックボックスの解明や錬金術の応用などを学び、その先に進まなければ『奴』に抗うことはできない。

 そのためには時間が足りなさすぎるからね。

 だから、頑張って覚えたまへよ」

「…………、よ、よーし、がんばるぞー!」

 古是(こぜ) 晴斗(はると)

 彼は二課において異端の人間である。誰よりも国を想うが、それ以上に人を想う。

 その結果、敵対相手とも手を組んだり、異端技術を積極的な転用などの不利益を甘んじるようにうごいた結果、窓際に追いやられた。

 優秀故に、放逐されなかったが不遇な状況であった彼は新たな師匠(とも)を得た。

 古是(こぜ)が希望の光になるか、災厄になるかはまだだれにもわからない。

 

 

□アフター:case2:黒江(くろえ) 幽紀(ゆうき)

 

 黒江(くろえ)が二課のデスクに顔を出す。

 先の事件より長らく続いた休暇や調整が終わり、久しぶりに顔を出した形だ。

 彼女が席につくと、隣の席でエージェント・相沢が聞きなれない音楽を聴いていた。

「ん? 何聞いてんの?」

「……そうかクロちゃんは知らないのか。俺はあのあとからノー休暇だったから知ってるけど」

「なに? もったいぶらずに教えてよ」

「しょうがないなぁ・・・・・・二課に新入りが来たろ?」

「その二人、【ツヴァイナイト】って名前のアイドルとして押し出しててさ……、それのCDだよ

 いやぁ、スポンサー特権っていいね。休みはないけど」

「それ、職権乱用じゃねーか、どーでもいいけど。

あ、でも【ツヴァイナイト】って最近きてるアイドルなんだっけ?

 ここの新入りだったんだ」

「まあ、場別事変関係者つーのもあるが……そろそろこっち戻ってくる予定だしサインでも貰ってきたらどうだ?」

「えーめんどい」

「いいからいけって、こっちいてもすることねえだろ。

 この大量のバベル関係の資料とフェアリーテイル案件の仕上げをしてくれるなら別だが」

「うっわ……、じゃ、行ってくるわ。

 トウカもいなし、私が先輩として頑張らないとな」

「そーしとけっつの。

 その方が気楽だろ、面倒くせぇのは大人にまかせときゃいい」

「ありがと」

 相沢かCDを受け取り、黒江(くろえ)は席を立った。

 彼女がとぼとぼと歩いていると、見覚えのある人影が見えた。

 銀髪の利発そうな女性と小柄な少女。

「まったく葉月ったら台本にないことしないでよね」

「お? おお!?」

「……どうしたの、葉月?」

 銀髪の方は(たちばな) 咲夜(さくや)

 小柄な方は内川(うちかわ) 葉月(はつき)

 いずれも二課の奏者であり、先ほど話題に上がった【ツヴァイウィング】の二人であった。

 そのうち、葉月(はつき)のほうが顔を輝かせて、黒江(くろえ)へと駆け寄る。

「え、ちょ、なに?」

 いきなりの対応に引き気味となる黒江(くろえ)

「あー、どうも……ちょっと待って! 今、思い出す!」

 近寄って来て、この発言である。

 黒江(くろえ)の片眉が吊り上がる。

 少女は少し考え、

黒江(くろえ) 幽紀(ゆうき)

 お話はトウカさんから聞いてます!」

 と黒江(くろえ)の手を握った。

「あー、納得」

「……いきなり突飛な動きをしないでよ」

 ため息交じりに(たちばな)が近づいてくる。

 そして、ぺこり、と黒江(くろえ)に一礼した。

「先輩ですから、今後、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします

聖遺物『アルテミスの弓』の適合者、(たちばな) 咲夜(さくや)です」

「……まぁ、一応名乗るけど黒江(くろえ) 幽紀(ゆうき)だよ。

聖遺物『天之麻迦古弓』の適合者ってことになってる」

「あ……め……の?」

「大変だろ、こいつの世話?」

 葉月(はつき)の様子を見て、目を細めて黒江(くろえ)

「ふふ、葉月(はつき)ですからね。慣れました。

 それにこれはこれでかわいいですよ?」

 (たちばな)が微笑む。

 その横で葉月(はつき)は勢いよく手を上げ、

「はい! 内川(うちかわ) 葉月(はつき)! 聖遺物『レーヴァテイン』の適合者です! 年齢は16歳で、彼氏がいない歴はそのまま年齢です!」

「いや、興味ねーし」

 どこか疲れたように黒江(くろえ)は肩を落とした。

「……あ、そうだ」

 と先ほど相沢(あいざわ)からもらったCDを取り出す。

「あ、私達のCD! 買ってくれたんですか!?」

「いや、さっき相沢(あいざわ)からサイン貰ってこいって渡された」

「お安い御用です!」

 葉月(はつき)がマジックペンを取り出し、サインをすると(たちばな)へと渡す。

「ほら!」

「ええ、黒江(くろえ)さんへ、でよろしいですか?」

「そこは任せる」

 彼女もCDに入っている表紙にサインを描いた。

「うん、サンキュ」

「これからもよろしくお願いします」

「ま、これから大変だけど、お互い頑張ろうな」

 といって、黒江(くろえ)は部屋を出た。

 背後を軽くみかえすと、なにやら(たちばな)葉月(はつき)がぴょんと抱き着いている姿が見える。

「……おあついこって」

 いろいろとあったがそれでも日々は続いていく。

 苦難苦境の連続で乗り越えていかなければいけないとはい、自分自身に一つの折り合いがつけられるのは良いことなのだろう。

 息を一つついて、黒江(くろえ)はジュースを一つ買うと、それをのみながら二課に向い歩んでいった。

 

 

□アフター:case3:モルドレッド

 

 皆で行った打ち上げより日をあけ、モルドレッドは培養層の中で目が覚めた。

 ドクターの手によりモルドレッドは新しい体を得ていた。

 残りの寿命が少なかったモルドレッドの身体を調整するために与えられた簡易的な研究室。それがここであった。

 ここでモルドレッドの身体を調整し、そのあとオーヴェロンは正しく逮捕されるのである。

「聖遺物にも薬にも侵されていない体だ。いままでのような負荷はないかわりに身体能力も人間程度しかないが、本当によかったのかい?」

 培養層よりオーヴェロンがモルドレッドを持ち上げる。

「うん」

 モルドレッドが自分の身体をしかめるように手を握ったり開いたりし、用意されたタオルで体を拭いた後、服を着始める。

「本当はさ。死ぬ気はなかったけど、とにかく外を確かめてそこで終わりにするつもりだったんだ」

 オーヴェロンはモルドレッドの言うことに無言で耳をかたむけている。

「けどさ、なんか迷っちまったんだ。ドクターや師匠と一緒に出れるなんて想ってもみなくてよ」

 とモルドレッドが照れくさそうに笑い、視線をそらした。

「……ッ、フフ」

 オーヴェロンが肩を震わせて笑いだす。

「ハッハッハッハッハ! そうか、そうかぁ……」

 しきりに笑うと目尻をおさえ、

「なんだよ、ドクター。笑う事ねぇじゃねぇか」

「いやなに、君は強い子だよ……っと」

 オーヴェロンが背伸びして装置のレバーを押すと、なにがか培養層の中で形成していく。

「……モルドレッド、私はね、マスターに創られ、マスターの理想のために活動してきた。

 まぁ、結果的にマスターを裏切ってこうなっているわけだが」

「…………」

「……子供を鳥かごの中で育てたのはやはり失敗だと思っているよ。だから」

 培養層の中で形成されたのはモルドレッドにそっくりなホムンクルス。

「はっ? お、おれ!?」

「だから、モルドレッド。世界を学ぶと良い。こっちのことは気にしなくていい。

 君の代わりとなるダミーは今作ったからね」

「いや、でも……」

 モルドレッドが逡巡する。

 父も母も身動きができない状態で自分だけが自由になっていいのか、と。

「当然さ。子供はいつまでの親のそばにいるもんじゃない。

 世界を知って、聞いて、身て、その上で決めなさい。自分のやりたいことを」

「……あぁ」

 オーヴェロンが懐から何かを地面に置く。

「……使い切りであるが、空間転移のできるアイテムだ。

 これで外に出れる」

 モルドレッドの瞳に湿り気が帯びる。

「……また、会いに来てもいいよな?」

「……あぁ」

「いっぱい土産話つくってくる。写真もいっぱいとってくる」

「外で会ったらあの子にもよろしくね」

「ああ」

 モルドレッドの頬に涙が伝う。

「見てくるよ。つらいことも汚いことも。

 あのクソマスターが言ってる通りであっても。

 それに負けないくらい綺麗なもの、不思議なもの、想像もできないもの。

 いっぱい……めいいっぱい、見て来るよ!」

 オーヴェロンが微笑みを浮かべる。

「父さんにも、母さんにも、アイツにも、自慢できるもの見てくるから」

「……行ってらっしゃい、可愛い我が子よ」

「いってきます!」

 モルドレッドが転移装置を起動する。

 その姿が光に包まれ、姿が消える。

 そのあとの旅路は、きっと生易しいものではないだろう。

 だが、きっと、その先は――明るい。

 

 

□アフター:case4:クロム

 

 遠い異国の荒野。

 少女がひとり荒野を歩いていた。

 左右にそれぞれまとめた髪をなびかせ歩く姿はこの場には似つかわしくない。

 進むさきからは硝煙の匂いが漂ってくる。

「いやー、大変だね! とりあえず、10人ぐらいいるから頑張ってね!」

「まぁ、後片付けだしな」

 金髪の少女はクロム=クルワッハ。

 その隣に最終決戦の時にいた奏者の少女が虚空から現れる。

 彼女は自らのステルス能力を用いて隠れていたのである。

「私は正直、斥候向きで戦闘能力は皆無だから任せるね」

「ああ、一人でやる方が早い。

まぁ、フェアリーテイル所属の奏者たちはあまり長い間、変身を持続するのは苦手だからな。

 二時間も引き延ばせば、へばるだろう」

「さっすが! 特殊兵装持ちもいないし、大丈夫そうね。

 私はステルスしてポテチ片手に見物してるからよろしくー」

「それは構わんが……本当に大丈夫なんだろうな?」

「うん、それは信じていいよ。保護した妖精も、フェアリーテイルもちゃんと人として扱うよ」

 クロムがやっているのはフェアリーテイルの残党の掃討、あるいは消えたままの妖精たちを見つけ、保護であった。

 はじめは二課にでも放り込むつもりであったが、フェアリーテイルの面々は極刑もまぬがれないものもがいる、と説得され、奏者の少女がいう『安全な伝手』というのを信じることにしたのである。

 実際、この二人がさほど拘束されなかったのも、マスターアヴァロンを差し出すかわりの司法取引の結果であった。

「まぁ、同じフェアリーテイルだった縁で信じるけどさ」

「さすがクロム、話しがわかるね」

 奏者の少女はウインクを一つ。

 そして、彼女は自信の能力を用い、姿を消した。

 それと入れ替わるように現れるのはフェアリーテイルの奏者たち。

 彼らはシンフォギアを纏い、各々が武装し、クロムを囲む。

「よー。とりあえず言っておくが降伏しないか?

良い降伏先は用意してるからさ」

 一応、降伏勧告を言ってみるが、問答無用とばかりに彼らはクロムに向って襲い掛かる。

「そうなるよな―――【神聖、犯すべからず】」

 歌響き、クロムは白い装甲に包まれる。

「まぁ、お前らもいきなり母体組織がなくなって宙ぶらりで困ってるだろうし。

さっさと終わらせてやるよ」

 そして、クロムと奏者たちは激突した。

 

 先の戦いが終わり、クロムは世界を回り戦い続けていた。

 時おりやってくる奏者の少女よりLinkerを受け取り、いまだ活動を続けてるフェアリーテイルの面々を倒しては、少女へと渡す日々。

「……まぁ、それでもカタはつけにゃならんしな」

 倒した奏者たちを背に、岩に座って一息つくクロム。

 空を見ると、茜色の空に星が昇り始めていた。

 砂漠の鮮やかな夕日。

「みんなを助けてほしい、そうだろシルフィ?」

 胸に宿る聖遺物『アロンダイト』を軽く指で叩く。

 彼女が闘い続ける理由は友との約束を果たすためであった。

 クロム=クルワッハは邪竜である。

 友との約束を果たすためにここにいる。

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