今宵は、誰が招かれるのか。
そして、招くのはダレなのか———
※基本的に短編なので、短い休憩時間や、寝る前のちょっとした時間に読んで頂ければ、嬉しいです。
というわけで、夏といえば怪談話。
Fateを舞台としたちょっぴり怖くて、不思議な物語を書いてみました。
ちなみにホラー小説とかやった事がないので、クオリティには少し自信がないです。
それと、物語を進める為に、都合の良い独自設定や解釈をしている場合があるので、ご注意ください。
「セイバー、風呂沸かしておいたから先に入っていいぞ」
夕食後にライダーと一緒に、時代劇というものをテレビで観ていると、シロウがそう言ってきた。
彼はいつも、自分は最後に他の皆を優先的に入るように促す。
そして何故か、大抵は私に最初に声を掛けるので、必然的に一番風呂を頂くことが多かった。
最初こそ遠慮してはいたものの、シロウが折れる事はなく、他の皆も特に一番への拘りは無いらしい。
むしろ私が遠慮している時間こそが勿体無いと、タイガに言われてしまった。
だから今では素直に従う事にした。
ちょうどテレビも区切りが良かったので、私は立ち上がり、自室として与えられた部屋に着替えを取りに行った。
今日は何だか、風が強い夜だ。
着替えを持って自室から風呂場へ向かう途中、サクラと出会した。
「あ、セイバーさん」
こんな所でどうしたのかと、訊ねる。
記憶違いでなければ、今日サクラは一度自分の屋敷に帰ると言っていたのだが……
「今日は、その……やっぱり泊まって行く事にしたんです。夜は暗いですし、風も強いので」
確かに風は強い日だが、彼女にはライダーというサーヴァントがいる。
ライダーに掛かれば、たとえ台風が近づいてきても、サクラを無事に屋敷まで送る事が出来るだろうに。
「そんな、ライダーにも悪いですし……それに、今日はちょっと、もう外に出たくないといいますか」
サクラの言い分はよく分かるようで、分からなかった。
しかしまぁ、年頃の少女ならそういう日もあるだろう。
私も生前は、雨が降ると行軍するのが億劫になり、城に引き篭もっていたいと思う事くらいあった。
勿論、思うだけで実際に引き篭もった事はないが。
「セイバーさんは……これからお風呂ですか?」
えぇ、またシロウに急かされてしまったので。
そう答えた。
「それじゃあごゆっくり、です———あ、セイバーさん。一つ良いですか?」
サクラが言い忘れたかのように、私にこう告げた。
「朝になるまで、窓は絶対に開けないでください」
サクラはそう言い残して、居間の方に去っていった。
確かに風が強いのだから、窓を開ける必要はないだろう。
そう納得して、風呂場への通路を歩き出した。
それにしても、風が強い。
風によって、窓のガラスがガタガタと音を立てる。
まるで誰かがガラスを叩いてるかのようだ。
———ふと、窓ガラス越しの風景が視界に入った。
既に見慣れた衛宮邸の庭だ。
しかし、妙な違和感を感じた。
見慣れた風景に、見慣れないモノがある気がした。
そう、庭の奥、塀の近くに、人影が———
「へーい! セイバーちゃん! これからお風呂タイム? たまにはお背中……お流ししましょうか……キラッ」
タイガが何処からともなくやって来た。
おかしい、彼女も今日泊まる予定ではなかった気がするのだが……
いや、タイガなら別に不思議ではないだろう。
気紛れをよくするからだ。
「あれあれ、どうしたのセイバーちゃん? 庭に何か居た?」
人影のようなものが見えた———
そう伝えようとしたが、やめた。
何故なら人影は、影も形も無かったからだ。
多分、気のせいだったのだろう。
仮に盗人の類なら、この屋敷の結界が反応する筈だ。
そうして私はタイガと別れ、風呂場へ再び向かった。
ビュー、ビュー、風は強くなっている。
入浴中もずっと、風が窓を叩いていた。
ビュー、ビュー、ガタガタ。
入浴後、火照った体が少しだけ冷えそうなくらい、肌寒い廊下を歩いていると、またもや窓越しに庭の景色が視界の片隅に。
風が強いというのに、空に浮かぶ雲は流される事はなく、月明かりを隠している。
塀の外側にある、外灯の光で僅かに照らされてはいるが、庭は真っ暗闇だった。
「……あれは?」
———ふと、庭に不自然な光景がある事に気が付いた。
それは、『少女』だった。
庭の中心に、幼い少女が泣いている仕草で、そこに立っていた。
結界も反応していないし、まさか盗人の類ではないだろう。
ならば迷子か?
しかしこんな風が強く、天候が荒れている日にわざわざ出歩いたのか。
そして偶然にも衛宮邸の庭に迷い込んだ……?
—————
……いや、この際理由など後で良い。
涙を流し、悲しみに囚われている子を、こんな悪天候の中、外に放っておくのは騎士として見過ごせない。
急いで窓の鍵を開けようとしたその時だった———
開けるな
———私の中で、警告が鳴り響いた。
私の直感が、窓を開けるなと警告している。
朝になるまで、窓は絶対に開けないでください
同時に、サクラの言っていた言葉も鳴り響く。
何故、なぜ開けてはいけない?
少女を放っておけというのか。
開けるな
思考が加速していく中、反対に自身の体は固まっている。
窓の鍵に手をかけようとしている掌から、嫌な汗が滲み出す。
開けるな、開けろ、開けるな、開けろ、開けるな、開けるな、あけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるな
———ねぇ、おねぇちゃん。
い
れ
て
———少女が、俯いていた顔を、あげて、そういった。
その顔は、あぁ、そのかおは、しっている。
せんじょうで、そのかおを、なんども、なんども、めにした———
「セイバー」
———ふっと、その声で全てが現実に戻ったかのような感覚。
「こっちだ」
いつの間にかシロウがそこにいて、私の手を引く。
戸惑いながらも、私はシロウに先ほどのことを伝えようとした。
「セイバー、いいんだ。窓は開けなくて」
だが、少女がいた。
泣いている少女が。
「いいんだ、きっとそのうち自分で帰るから……うちに上げても、本当に帰る場所を奪っちゃうだけなんだ」
シロウ、あなたのいっている事がよくわかりません。
「分からなくてもいい。ただ、窓は開けなくていいんだ」
シロウはそう言って、自室へ私を招いてくれた。
それから、二人で談笑したり、カードゲームをしたりして、その日の夜を過ごした。
———ずっと、あの少女の事が頭から離れなかったが。
———そうして睡眠に入る頃には、風は既に収まっていた。
後に、シロウからこんな話を聞いた。
風の強い日だったらしくて、原因は分からないけど、兎に角火があっという間に燃え広がって、屋敷の住人は一人を除いて助からなかった。
助かったのは、その屋敷の主人のお子さんだけ。
まだ幼い少女だった。
少女が偶々外に居たのか、それとも誰かが少女だけでも逃がそうと外に脱出させたのかは分からないが、兎に角少女は燃えていく自分の家に、何度も『入れて』と叫びながら、中に入ろうとしていたらしい。
けど、駆けつけた周りの大人達が少女を引き留めたから、少女は軽い火傷だけで済んだ。
———その後間も無くして、独りになった少女は、家族の後を追うかのように自ら命を絶ったそうだ……
———その話を聞いて、私は頭を捻った。
あの夜見たあの少女が、いわゆる亡霊の類だったとしても、窓を開けてあげるべきだったのか。
少女は家族のもとへ、行きたかっただけじゃないのか。
しかし少女の家族は既に此処には居ないのではないか。
窓を開けて、真実を突き付けるか、いつまでも家族を求めようとして、いずれ諦めるのを待つか。
どちらが正しいのか、少女の為になるのか、私にはわからなかった———
初めてホラー系に挑戦しましたが、結構難しいですね。
続きを書くかはわかりませんが、次があれば徐々にクオリティを上げていきたいです……