アズールレーンT   作:BREAKERZ

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【会合】旗艦との会議

ーカインsideー

 

カインは赤城と加賀に連れられて、母港で最も高い丘の上に、一際大きい御神木の桜が咲き乱れる場所。

湖の中央に建てられた神社の小さな社に到着すると、そこに二人の黒髪に獣耳の少女と二人を護衛するように一人の銀髪に獣耳の少女がいた。

『重桜所属 戦艦 長門』。

『重桜所属 戦艦 陸奥』。

『重桜所属 駆逐艦 江風』。

ロイヤルの旗艦がQ<クイーン>・エリザベスならば、重桜の旗艦はこの『長門』である。

 

「・・・・指揮官・・・・!」

 

カインの顔を見た瞬間、長門の瞳が潤う。

 

「指揮官!」

 

すると今度は、長門の少女の妹である陸奥がカインに抱きついた。

 

「ぁ・・・・」

 

「はぁ~、やっぱり指揮官だ・・・・!」

 

「こ、これ! 陸奥! 指揮官は今記憶を失っておるのだ! そのような事をしてはならぬ!」

 

カインの胸元に顔を埋める陸奥を、長門が離れるように声を発し、江風が優しく陸奥をカインから引き剥がし、定位置に座らせた。

 

「すまぬ、指揮官。妹も指揮官が行方知れずとなって悲しんでいたからの」

 

「いえ、お気になさらず。ですが、今僕は『海守トモユキ』ではなく、アズールレーン指揮官である『カイン・オーシャン』です。今回は、重桜にもう一度、アズールレーンに戻ってもらいたくここに来ました」

 

他人行儀なカインの態度と言葉に、その場にいた一同は一瞬悲しそうな顔となるが、すぐに顔を引き締め、姿勢を正す。

それからカインは現在、自分達の星で起こっている脅威について話した。

この星から生まれたり、異星からやって来る『異常進化生命体・怪獣』。

遥か彼方の星からやって来てこの星に潜伏している『異星人』。

さらに、おそらく『セイレーン』以上の危険性を秘めた巨人、『ウルトラマントレギア』。

さらに、怪獣や異星人やトレギアと敵対関係にあり、アズールレーンの艦船<KAN-SEN>達を守ってくれた『ウルトラマンタイガ』と『ウルトラマンタイタス』の事も説明した。

 

「フム・・・・『セイレーン』だけでなくそのような者達が我らの星にいるとはな」

 

「この重桜母港には、指揮官がいないようですが、トモユキ指揮官が行方不明となってから半年以上、誰も来なかったのですか?」

 

「ウム・・・・。重桜上層部は指揮官がいなくなった事を良いことに、アズールレーン脱退を強行させたのだが、いざ自分達がトモユキ指揮官の代わりにこの母港の、つまりレッドアクシズの代表をやらなければならないと言われ、上層部は母港の運営と鉄血との連合も、全て我ら重桜母港の艦船<KAN-SEN>に任せたのだ。“現場の判断はお前たち艦船<KAN-SEN>で上手くやれ”、と言ってな」

 

長門を渋面を作りながら説明し、陸奥も江風も渋面になっていた。それを見て、カインは察したように頷く。

 

「・・・・なるほどな」

 

≪どういう事だ?≫

 

「(つまり、アズールレーンを脱退した重桜と鉄血の同盟、レッドアクシズの指揮官だなんて、言い方を変えれば『人類への裏切り者』だ。そんな後ろ指さされる上に、もしもレッドアクシズがアズールレーンに敗北すれば、その責任の全てを押し付けられる立場だなんて、誰もなりたくなかった。だからもしそんな事態になっても、長門たち重桜艦船<KAN-SEN>達が勝手にやった事で、重桜上層部は関知していないって言い分けを立たせるって訳だ)」

 

≪へぇ~・・・・≫

 

≪何処の星、何処の世界も、軍の上層部と言うのは、安全な場所で自らの保身と利権しか考えてなく。現場の状況は現場の人間に押し付ける世渡りだけが上手いと言う事か・・・・≫

 

カインの説明に、タイガは良く分かっていないような声を漏らし、タイタスは上層部に対して呆れたようなため息を吐いた。

 

「長門様、そろそろ話を進ませて貰っても?」

 

「おお、すまないな。して、どうであった?」

 

「ではまずは・・・・こちらを」

 

話を中断させた赤城は、懐から『黒い四角の立方体』を取り出した。

それを見てカインは目を鋭くする。

 

「(あれは、『メンタルキューブ』か?)」

 

≪それっぽいけどさ、俺の知っている『メンタルキューブ』は、薄い蒼い色をしていたぜ?≫

 

≪あれが『メンタルキューブ』。艦船<KAN-SEN>の少女達を生み出す未知のテクノロジーか≫

 

カインとタイガとタイタスも、赤城の取り出した『黒いメンタルキューブ』を訝しそうに睨んだ。

 

「ふむ、この『黒匣』が『セイレーン』を従えるのか?」

 

長門の言葉でカインは察した。この『黒いメンタルキューブ』のような『黒匣』が、重桜が『セイレーン』の艦隊を操る為のキーアイテムだと。

しかし、どうやって赤城達がこんなものを手に入れたのか、それが分からなかった。

 

「はい、ですがそれはあくまで“副産物”に過ぎません。この『黒箱』もまた『メンタルキューブ』。いわば、私たち艦隊<KAN-SEN>を生み出す素材その物なのです」

 

「『オロチ計画』・・・・」

 

「(『オロチ計画』・・・・?)」

 

「はい、私たち重桜の希望ですわ」

 

「だがそのために、我らから仕掛ける事になろうとは・・・・」

 

≪『オロチ計画』って、まさかあの・・・・≫

 

≪タイガ、何か知っているのか?≫

 

≪俺も詳しくは良く分からないけど、確か、“赤城さんと加賀さんの姉である『天城』って人を含んだ8人の艦船<KAN-SEN>を誕生させる計画”・・・・だったけ?≫

 

「(それが『重桜の希望』となる計画、か・・・・)赤城、聞いておきたいんだが?」

 

「何なりと、指揮官様」

 

「何故同じ艦船<KAN-SEN>達で、人類を二分するような戦いを起こす? 確か海守トモユキ指揮官は、『重桜のアズールレーン脱退に反対派筆頭』だったと聞いたが、何故それに反した?」

 

「避けられない事だったのです指揮官様」

 

「『セイレーン』との大戦は、これまで幾度となく繰り広げられてきた。今の人類は辛うじて生き延びてるに過ぎない」

 

「怪獣、異星人、ウルトラマントレギア、このような脅威が蔓延る中、アズールレーンのやり方では間に合わないのです。全ては重桜の明日のために・・・・」

 

赤城と加賀が宥めるようにカインを説得する。

 

「それに、指揮官様はもう私達の敵ではなく、私達の重桜の・・・・“このレッドアクシズの指揮官になっていただきます”」

 

「(ピクッ)・・・・なに?」

 

赤城の言った言葉に、カインが片眉を動かす。

 

「だってそうでしょう? 元々指揮官様は重桜の者、なれば元の鞘に収まるだけでございます」

 

「・・・・まだ僕自身、自分が『海守トモユキ』なのかと確証が持てない。先ほど『不知火』が身体検査と称して、僕の網膜、指紋、声紋、毛髪、皮膚、血液、果ては唾液まで採取したのは、僕が『海守トモユキ』本人なのか照合する為でしょうが、生憎とまだ自分自身で確証を得ていない。それに、アズールレーンには、半年前に僕を保護し、指揮官として迎え入れてくれたロイヤルの皆への恩義があるし、重桜のやり方にも、納得しないし、できない!」

 

その時、カインの目には、『強い意志』があった。それを見た瞬間、長門達は確信した。

目の前にいるのは、『海原の軍者 海守トモユキ』だと。

長門が一同を代表して口を開く。

 

「わかった。指揮官がそこまで言うのであれば、この重桜にある『トモユキ指揮官の執務室』に行くと良い」

 

「『執務室』?」

 

「ウム。ソコならば、指揮官の記憶の手がかりが見つかるかも知れん。だが、記憶が無い以上、こちらも『案内役』を置かせて貰うが、宜しいか?」

 

「(『案内役』じゃなくて、『監視役』だろう)・・・・構いませんよ」

 

「では今手が空いている艦船<KAN-SEN>を、ん?」

 

長門の手元に空中ディスプレイが表示されると、そこに一人の艦船<KAN-SEN>が現れた。

 

「丁度良い時に来たな『愛宕』」

 

「『愛宕』?」

 

「あ、『愛宕』・・・・!」

 

重桜艦船<KAN-SEN>の一人である事を察したカインだが、後方にいる赤城から、何やら苦虫を噛んだような声が聞こえた。

愛宕からの通信を終えた長門が、カインに向き直る。

 

「指揮官よ。『愛宕』がソナタの案内役を志願した。これから『愛宕』の案内に従ってくれ」

 

「分かりました」

 

「し、指揮官様! もうすぐ会議も終わります。私と加賀が案内をしますから、もう少し待っていてくださいませんか?」

 

妙に慌てたような赤城を、カインは訝しそうに見る。

 

≪どうしたのだ赤城殿は?≫

 

≪あぁ良く『愛宕さん』や『大鳳』や『準鷹』と、トモユキの事で揉めまくっていたからなぁ・・・・。そうだ! トモユキ、こう言えば良いぜ≫

 

「(ん?・・・・・・・・分かった) 悪いが赤城、僕も自分が海守トモユキである確証が早く欲しい。どうしてもっと言うならば、“案内役は綾波に頼もうかと思うが”?」

 

「あ、綾波・・・・!!」

 

綾波の名前が出た途端に、赤城は逡巡する様に呻くが、すぐに静かに深呼吸すると、

 

「わ、分かりましたわ。綾波に任せるくらいならば、まだ愛宕の方がマシですから・・・・!」

 

悔しそうに声を発する赤城に加賀と長門と江風は半眼となり、陸奥は良く分からないと言わんばかりに首を傾げた。

 

≪どういう事だタイガ?≫

 

≪実は綾波が一番トモユキとの付き合いが長い艦船<KAN-SEN>だからなぁ。もしその綾波と過ごしていてトモユキの記憶が戻りました! なんて事になったら、赤城さんとしては面白くないと思ってさ≫

 

「(ふぅ~ん・・・・)」

 

等と話している間に、社に一人の艦船<KAN-SEN>がやって来た。

柔和な笑みを浮かべ、白い軍服を着用し、腰には刀を所持しており、サラサラとした長い黒髪にピンと獣耳が立ち、白いリボンをつけている。

軍服の上からでも分かる程のベルファストと互角と言っても良いくらいのグラマラスな肢体と豊満なバスト。

露になっている魅力的な太ももにはガーターストッキングを履いており、全体的に包容力と妖艶さが見事に調和し、見るからに『色気の溢れる優しそうなお姉さん』と言っても良い美女だった。

 

≪『愛宕さん』だ≫

 

「(彼女が・・・・)」

 

「お久しぶりね、指揮官♥️」

 

柔和に微笑むその人物が、『重桜所属 重巡洋艦』だ。カインが立ち上がり、愛宕に挨拶した。

 

「えっと、案内役を頼みます。それでは長門殿、これにて失礼します」

 

「ウム。良い返事を期待しておるぞ」

 

カインが愛宕に連れられ社を離れる。その際、一瞬目が合った赤城と愛宕の間に、青い火花がバチバチッ、と弾けたように見えたのは、おそらくカインだけではないだろう。

 

 

 

 

 

 

社から離れ、長い階段を下っていくカインと愛宕。

少し歩いていくと、不意に愛宕がカインの腕に自分の腕を絡めた。

 

「あ、愛宕・・・・?」

 

「指揮官、お姉さん寂しがったわ。指揮官が突然居なくなって、どれだけ悲しい思いをしたか、指揮官に分かる?」

 

「いや、その、僕は・・・・」

 

「分かっているわ。指揮官は今、記憶が失っているって、だ・か・ら、これからお姉さんが側にいてあげるからね♪」

 

愛宕が離さないと言わんばかりにカインの腕をガッチリと絡ませ、その豊満なバストを当てる。

 

ーーーーボニュン♥️

 

「(うおっ!・・・・こ、この柔らかさと弾力! これはベルファストにも勝るとも劣らない!!)」

 

≪コラコラ・・・・≫

 

≪本当にスケベ心は無くしていないな・・・・≫

 

鼻の下が伸びそうになるカインに呆れるタイガとタイタスだった。

 

 

 

ー長門sideー

 

去っていったカインと愛宕の背中を恨みがましそうに睨んでいた赤城だが、加賀が何とか宥め、改めて長門への報告を続けた。

 

「・・・・指揮官様はああ言っておりますが、『セイレーン』だけでなく、『異星からの脅威』も迫っているこの状況をやはり『オロチ計画』を何としてもやり遂げなければ・・・・」

 

「しかし、あの指揮官が本当に我らの指揮官であり、彼がこの『計画』に反対すれば、おそらく多くの重桜艦船の皆が従うだろう」

 

「指揮官様を説得します。かなり難航すると思いますが、必ず」

 

「・・・・・・・・分かった。指揮官の説得は任せる。下がって良いぞ」

 

長門は去っていく赤城と加賀の背中を見ながら呟く。

 

「戦いはいつの世も変わらぬ、と言う事か・・・・」

 

 

 

ー赤城sideー

 

「この期に及んでまだ迷うとは、長門には『覚悟』が足りん!」

 

階段を下りながら、赤城の前を歩く加賀は長門の態度に不満を漏らした。

 

「そんな事を言うものではないわよ。それもまた『深い愛』があっての事・・・・」

 

「ですが姉様!!・・・・っ」

 

諌める赤城に振り向くと、加賀は姉の様子に言葉を止める。

 

「指揮官様が戻ってきてくれて本当に良かった。だって、指揮官様がもしいなかったら、赤城の愛が世界を燃やして尚、燃え盛っていたのだから・・・・」

 

赤城は袖に入れておいた『黒匣』を取り出す。

 

「指揮官様も戻ってきた。後は、『あの人』も戻ってきてくれれば・・・・」

 

「・・・・姉様・・・・」

 

何処か歪になっていく姉を、加賀は静かに見つめる事しかできなかった。

 

 

 

ーニーミsideー

 

その頃ニーミは、重桜母港にある『和菓子屋』にて、桜と重桜の風光明媚な景色とヨウカンとお茶を堪能していた。

 

「あ~む「えぇええええええっ!!」んぐっ!?」

 

ヨウカンを頬張った瞬間、後ろで突然響いた声に噎せたニーミは、何とか飲み込んで、情緒を壊した相手を睨むと、綾波から話を聞いていた時雨達がいた。先ほどの大声は時雨だったようだ。

 

「エンタープライズって奴、あの加賀さんに勝ったの!? ヤバイわね・・・・」

 

「ふん! この雪風様の手に掛かれば、ユニオンもロイヤルも一網打尽なのだ!」

 

雪風が得意満面にふんぞり返る横で、団子を口一杯に頬張っていた夕立が喉に詰まらせ、時雨がお茶を、綾波が背中をさする。

 

「ぶはっ! 良いなぁ綾波は出撃できて! しかも怪獣とか、ウルトラマンってのとも会ったんだろ!? 夕立も早く戦いたいぜ!!」

 

「っ・・・・」

 

綾波は脳裏に、ジャベリンやラフィーの顔が頭に過った。

 

「・・・・戦いは好きじゃないです、ただ普通に戦ってただけ・・・・」

 

「・・・・普通って、あの『鬼神綾波』がなに言ってんのよこのこの!」

 

時雨が綾波の頬をプニプニし、夕立が綾波の頭に乗っかって角を触る。

 

「鬼だぁ~! 角角~! ハハハッ!」

 

「うぅ、これは綾波の耳です、角じゃないです・・・・」

 

「アンタも変わったわよね?」

 

「“変わった”? 綾波が、です?」

 

「変わったわよ。初めて会った時のアンタ、戦う事が自分の存在意義だ! って言わんばかりだったのに、いつの間にかそんな風に考えるようになったのね」

 

「・・・・・・・・それは、やはり指揮官が・・・・」

 

指揮官の名前が出た途端、それまで和気藹々だった空気が少し曇る。

 

「だ、大丈夫よ! 今『不知火』と『明石』が検査しているんだから! 指揮官がアタシ達の指揮官だって証明されるのは時間の問題よ!」

 

「おうよ! 匂いも手の感触も指揮官だったんだ! 絶対指揮官に決まってるぜ!」

 

「あっ、当たったのだ!」

 

「ぬぐ!」

 

などと会話している間に、雪風がアイスの当たり棒を当てた事に、時雨は悔しそうに吠えた。

 

「勝負よ雪風! 決着を着けてやる!!」

 

「お店では静かにしなさーーーーい!!」

 

『幸運艦』として日頃から勝負している時雨が勝負しようとするが、ニーミが声を張り上げて止めた。

 

「・・・・・・・・ふふ」

 

綾波はそんな光景を見て、ただ静かに微笑んだ。

 

 

 

ーカインsideー

 

愛宕に連れられたカインは、重桜宿舎に到着し、執務室に向かう途中で、瑞鶴とそしてもう一人の艦船<KAN-SEN>と出会った。

 

≪高雄さんだ・・・・≫

 

愛宕と似た顔立ちで豊満なバストもグラマラスな肢体だが、妖艶な愛宕と異なり、凛とした印象が受け、愛宕と同じ白い軍服を着用し、愛宕がタイトスカートでこちらはプリーツスカート。

愛宕と同じ黒髪で、大きさの違うリボンで髪をポニーテールにしており、獣耳部分は垂れ耳で、両脚には黒タイツを履いている。

 

「指揮官殿・・・・!」

 

『重桜所属 重巡洋艦 高雄』であった。

 

「指揮官!」

 

「どうも、瑞鶴に、高雄で良いかな?」

 

他人行儀な物言いに、一瞬顔を曇らせた瑞鶴と高雄だが、すぐに気を取り直して頷いた。

それを確認すると、カインは瑞鶴の方を見据える。

 

「瑞鶴。君は、エンタープライズに勝ちたいのか?」

 

「っ!・・・・指揮官・・・・私、もっと強くなりたいんだ! 私が皆を護らないといけないから!」

 

瑞鶴は意を決して、発した言葉にある『決意』、その裏に隠された『気高さ』を感じる。

だが、それと同時に、焦りも感じた。

 

「グレイゴースト<エンタープライズ>は、不備の状態であそこまで戦っていた。もしも、万全の状態だったら負けていた、だから、もっと、もっと強くならないと・・・・!」

 

大方の原因、焦りからだろう。

タイガから聞いたが、瑞鶴は竹を割ったように分かりやすく、明朗快活な性格をしている事は知っているが、どうやら今はそれが悪い方向に向いている様である。

 

「・・・・・・・・」

 

「指揮官・・・・?」

 

カインは瑞鶴に近づくとーーーー。

 

ビシッ!!

 

「あいたっ!!」

 

なんと、瑞鶴のおデコに、デコピンをした。

 

「バ~カ、お前一人で背負い込んでいるじゃない」

 

「っ!」

 

「「っ!」」

 

カインが発した言葉に、瑞鶴だけだなく、高雄と愛宕もピクリ、と身体が動いた。

 

「良いか瑞鶴。一人で護れる数なんて、たかが知れている。どんなに手を伸ばしても、どんなに広げても、この手から零れる命がある。だから、いやだからこそ、『仲間』がいるんだ。一人じゃできない事も、仲間達と力を合わせればできる。仲間の存在が、自分の力になってくれる。お前一人で頑張るんじゃない。辛い時は、姉である翔鶴に頼って良い。仲間である高雄や愛宕や皆に頼っても良い。助けて欲しい時は、弱音を吐いて、手を伸ばして良い。少なくても、お前には、助けてって言えば、手を伸ばせば、その手を掴んでくれる『仲間』がいるって事を、忘れないでくれ」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

三人はカインを見つめる。すると、瑞鶴の瞳が潤み、頬に涙が零れた。

 

「・・・・のに・・・・!」

 

「ん、瑞鶴?」

 

「記憶が・・・・ない、のに・・・・!」

 

嗚咽を漏らしながら、瑞鶴の瞳からは止めどなく涙が流れた。

 

「記憶が、ないのに・・・・! なんで、なんでそんな事を、言うのよ・・・・!!」

 

瑞鶴はカインに背を向けて、涙が流しながら走り出していった。

 

「瑞鶴・・・・!」

 

「指揮官殿! 瑞鶴は拙者が!」

 

そう言って、瑞鶴を追う高雄の瞳にも、僅かに涙が零れていた。

 

「・・・・愛宕。僕は、何か変な事を言ったのか?」

 

「・・・・違うわ。“同じ事を言ったのよ”」

 

「“同じ事”?」

 

カインが振り向くと、愛宕も指で目元の涙を拭き取っていた。

 

「ええ。前にね、無茶をしてしまった瑞鶴ちゃんに、トモユキ指揮官が似た事を言ったの・・・・。『一人でやろうとしないで、仲間を頼れ。『艦隊』って言うのは、チームなんだ。『仲間』と力を合わせれば、どんなに辛い戦場でも、きっと乗り越えられる』ってね・・・・」

 

「そう、か・・・・」

 

≪(意図せず、記憶を失う前の自分の言葉が出たのか・・・・)≫

 

≪(“一人でやろうとしないで”、か・・・・。でも、俺は・・・・!)≫

 

タイタスはカインの様子を静かに見るが、タイガはカインの言葉に、何処か否定的な気持ちであった。




次回。カイン指揮官がトモユキ指揮官に触れる。

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