ー高雄sideー
瑞鶴を追った高雄は、重桜母港が一望できる高台に着くと、膝を抱えて蹲る瑞鶴を見つけた。
「瑞鶴殿」
「ここってさ、指揮官が好きな場所だったんだよね・・・・」
「・・・・そうだな」
高台の上から眺めるのは、美しく咲き乱れる桜に包まれた重桜母港。トモユキ指揮官が一番好きな場所だった。
「高雄さん、私ね、指揮官が戻ってきてくれれば、何かおかしくなって行ってる重桜が、元に戻ってくれるって、思っていたんだ」
「・・・・拙者もそう思う」
「でも、指揮官は記憶を失ってて、私達の事、まるで他人のような態度でいて・・・・」
「ああ、堪えたな・・・・」
「なのに、私に前に言ってくれた事を、私には仲間がいるって、教えてくれた事を言って、なんで・・・・なんで、忘れちゃったんだよ、って、頭の中、ゴチャゴチャになっちゃって・・・・!!」
再び涙が溢れてくる瑞鶴の隣に腰掛けた高雄が、慰めるように瑞鶴の背中を優しくポンポンと叩く。
「瑞鶴殿、今この場に指揮官殿がいる。例え記憶を失っていても、指揮官殿は指揮官殿だと言う事が分かったのだ。きっと拙者達の事を思い出してくれる。信じようではないか・・・・」
「・・・・そう、だね」
涙で目を赤く腫らした瑞鶴は、高雄の言葉に頷いた。
ーカインsideー
執務室に向かう途中、思わぬ艦船と出くわした。
「あら愛宕、ソコにいるのが噂の指揮官かしら?」
「っ! 『プリンツ・オイゲン』・・・・!」
鉄血の艦船であるプリンツ・オイゲンだ。
「(この人が、ベルが強敵と言っていた艦船か・・・・)」
「なんの用かしら? ここは指揮官の執務室なんだけど?」
≪愛宕さんが警戒しているのか? 同じレッドアクシズなのに?≫
≪加賀殿達も、カイン指揮官をあまり鉄血の艦船達と会わせようとしなかったが、どうやら関係はあまりよくないようだな≫
「そんなつれないこと言わないでよ。それで貴方が、アズールレーンの指揮官で、『海原の軍者』と呼ばれた海守トモユキ指揮官ね、ふぅん、結構整った顔をしているのね・・・・」
オイゲンがカインの頬を撫でるように手を滑らせるが、カインは蠱惑的な手つきと扇情的な雰囲気に鼻の下を伸ばさず、ジッとオイゲンの瞳を見据え。
「随分とフランクに接するんだね?」
「レッドアクシズの指揮官になるなら、私達鉄血の指揮官にもなるかも知れないのだから、興味があるのよ」
「そうか。・・・・“作り笑顔を浮かべて心を閉ざしている君がかい”?」
「っ!」
カインの言った言葉に、オイゲンは僅かに目を見開き手を引っ込める。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
両者の間に奇妙な沈黙が起こるが、オイゲンはコホンっと咳払いをして口を開く。
「まぁいいわ、赤城が全然見せてくれなかったから見に来ただけだからもう行くわ。・・・・また会いましょう指揮官」
不敵な笑みを浮かべるオイゲンだが、その目にはカインを品定めするような視線を送り、そのまま去っていた。
≪あのプリンツ・オイゲンって、心を閉ざしているのか?≫
「(あの人の瞳の奥には、なにか心に、一人ぼっちでいる、そうーーーー孤独感のようなものがあったんだ)」
≪そんな事が分かるのか?≫
「(まぁ、僕自身も記憶が無くて、ロイヤルの所属だけど、どこか自分は違うって思う時があるからね)」
≪ふむ。しかしどうやら、レッドアクシズは一枚岩では無いと言う事が分かったな≫
「(ああ)」
「指揮官。そろそろ行きましょう」
愛宕はカインの手を握って、執務室へと向かった。
「指揮官。ここが指揮官の執務室よ」
愛宕に連れられて入った部屋には、畳の上に置かれた執務机と大きめの座椅子。その両隣には壁に固定された大きめの本棚が置かれていた。
「ここが、海守トモユキの執務室か・・・・?」
≪ああ。懐かしいぜ!≫
≪うむ。埃一つ落ちていないな≫
カインは自分の机を指先で擦ると、確かに埃一つ付いていなかった。
「よく掃除をしているみたいだね」
執務室の扉に鍵を掛けた愛宕に、カインが話しかけた。
「ウフフ。皆、指揮官が帰ってくることを信じて、掃除を欠かさなかったのよ」
「そう、か・・・・」
カインは本棚にある本の並び方に、既視感を感じて本を一冊取り出すと、その本には『アルバム』と記されていた。
「アルバムか」
カインがアルバムを捲ると、ソコには髪の毛と肌の色以外は自分と瓜二つの人物ーーーー海守トモユキの姿があった。
春。綾波や他の皆と花見で宴会をして、酔ったような二人の艦船(タイガの説明で『伊勢』と『日向』)に絡まれている光景。トモユキ指揮官がカラオケで歌を歌い、大盛り上がりになっている光景。
夏。トモユキ指揮官は水着姿でビーチウェアに横たわり、同じく水着姿の高雄と愛宕に左右から抱きつかれて感無量と涙を流している光景。スイカ割りをしている最中に砂場に足を取られ、水着姿の赤城と加賀を巻き込んで倒れた光景。綾波にサーフィンを教えている光景。
秋。皆で紅葉を眺め、落ち葉で焼き芋を焼いて食べている光景。綾波に時雨達、翔鶴や瑞鶴と共に露天風呂に入っている光景。読書の秋や食欲の秋、芸術の秋やスポーツの秋を楽しんでいる光景。
冬。雪が積もり、皆で雪像作りをし、雪合戦で綾波が投げた雪玉に当てられた光景。コタツに入ってまったりしている光景。お正月で皆で餅つきや凧上げ等で遊んでいる光景。赤城と翔鶴が百人一首で勝負し、弾き飛ばされて手裏剣のように飛んでくる札から必死に逃げる光景。
勿論、それだけでは無かった。任務で艦船<KAN-SEN>達に指揮をしている凛々しい姿。
赤城や愛宕、イラストリアス以上に胸の大きな艦船や紫の髪に鬼の角ような物を付けた艦船に迫られて、冷や汗を流している姿。
綾波や時雨達と仲良く団子を頬張っている姿。
幼い艦船達と戯れている姿。
ネコミミが生えた小柄な艦船に追い回されている姿。
蒼龍と飛龍に監視されながら書類仕事に追われている姿。
眠っている長門に陸奥に膝枕をしてやっている姿。
これが、『海原の軍者』と謳われた海守トモユキ指揮官なのだ。
「・・・・・・・・」
「どう指揮官? 何か記憶が呼び起こされた?」
「・・・・・・・・」
≪トモユキ?≫
≪どうなのだ?≫
「・・・・何か、既視感を感じる。ピンッと来ないけど、こう・・・・何て言うか、胸の奥が、ホワホワと温かくなって、奇妙な既視感を感じるんだ」
カインは座椅子に座りながら、他のアルバムや日誌等を読み漁っていった。
◇
そろそろ日が傾き始めようとした時間帯、カインは気分転換の為に窓を開け、身体を伸ばしながら窓から見える風景に目を走らせる。
「ん~!! 随分時間が経ったな・・・・!」
「それで指揮官、何か思い出せた?」
愛宕に話しかけられ、カインは愛宕に身体を向け、窓際に寄りかかり、両手を後ろに隠して口を開く。
「まぁ、何て言うか、他人の思い出話を見聞きしている気分なんだけど、妙な懐かしさを感じるんだよ」
「まだ記憶が戻るには時間が掛かりそうね」
「所で愛宕」
「なにかしら?」
「少し、一人にして欲しいんだけど」
「それは駄ぁ~目。指揮官は今はアズールレーンの指揮官だから、自由行動を許すわけにはいかないの。・・・・それに、邪魔者抜きで指揮官をお姉さんのものにできるチャンスだしね」
なにやら後半から不穏な声が聞こえたが、カインは気にしないようにし、肩をすくめる。
「仕方ない、か。・・・・愛宕」
「なに?」
「・・・・“ゴメンね”」
カインが謝意を述べると、窓際からすぐに横に移動し、愛宕がハッとなってカインを捕らえようとすると、なんと窓から、巫女服の少女が現れて愛宕に向けて小さな玉を投げつけた。
パァンッ!
「なっ!・・・・あぁ・・・・!」
玉は愛宕に豊満な胸に当たり破裂すると、中から煙が巻き上がり、煙を吸った愛宕は強烈な睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまった。
「ふう。ナイスタイミングだよ。“シェフィールド”。“エディンバラ”」
窓からヒラリと出てきた巫女服の小柄な少女と、続いて這い上がってきた長髪の巫女服の少女は、顔に着けていた仮面を取るとその素顔を露にした。
亜麻色の髪をアップさせ右目を前髪で隠している小柄でクールな雰囲気の艦船・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 シェフィールド』。
白銀の髪を後ろに伸ばし長髪の中に三つ編みをし、眼鏡を着用したドジっ子な雰囲気の艦船・『ロイヤル所属 軽巡洋艦 エディンバラ』。
「まったく。重桜の母港にやって来るだなんて、こちらの段取りとかも少しは考えて欲しいですね、害ーーーーご主人様」
「シェフィさん、今『害虫』って呼ぼうとしなかった?」
「いえ、そのような事はありません害虫」
「今はっきり害虫って言ったよ・・・・」
≪相変わらずヒデぇな、シェフィールドって≫
≪仮にも上官に対しての物言いなのか?≫
「(まぁそう言うなよ、シェフィなりの愛情表現だと思おう・・・・)」
ロイヤルメイドのシェフィールド。主に掃除担当の艦船であり、2丁拳銃を操り、ロイヤルメイドの中でも戦闘タイプの強者である。が、その小柄で涼やかな容姿に反してかなりの毒舌家で、よくカインがその被害にあい、さらに仕事をほっぽって出ていくとその2丁拳銃の餌食となっていた。
「エディンバラも、よく来てくれたね」
「と、当然ですよ指揮官! 私も優秀なロイヤルメイひでぶっ!」
ふんぞり返って言おうとしたら足を滑らせて、ステーン、と盛大にひっくり返ったのは、ロイヤルメイドのメイド長である“ベルファストの姉であるエディンバラ”。
≪このお嬢さんが、“あのベルファスト嬢の姉上なのか”・・・・?≫
≪あぁ。俺も初めて見た時、逆なんじゃねぇのって思った程だぜ≫
タイガとタイタスは美貌、容姿、プロポーション、能力、戦闘力、どれをとっても優秀なベルファストの姉が目の前のエディンバラとはとても思えなかった。
エディンバラ自身も、そつなくこなす完璧メイド長である妹にコンプレックスを抱いているが、紅茶を淹れる事にはベルファストも一目置いている。
「エディンバラ。遊んでいる場合ではないでしょう?」
「あ、遊んでいるつもりはないですよぉ。うぅ、指揮官、やっぱり私に潜入任務なんて無理なんですよぉ!」
「まあそう言わないでくれよエディンバラ。何事も経験って言うからさ」
実を言うと、現在アズールレーン母港に来ているロイヤルメイドは。
メイド長のベルファスト。
シェフィールド。
エディンバラ。
そして、エディンバラ並のドジっ子メイドでサボりがちな性格の『ロイヤル所属 重巡洋艦 サフォーク』であり、消去法でエディンバラが選ばれたのは伏せておいた。
穏やかに眠る愛宕を抱き上げて、壁に寄りかからせたカインが2人に口を開く。
「さて、それなりに情報は集められたかい?」
「はい。現在、この重桜母港に来ている鉄血の艦船は、プリンツ・オイゲンに他数名と、少数の艦船が来ているようです」
「あの人か・・・・。しかし、仮にも同盟を組んでいると言うのに、『鉄血の旗艦』が来ていないのは、どうにも引っ掛かるな」
「プリンツ・オイゲンは鉄血の実質No.2ですからねぇ。この重桜も旗艦は長門って艦船ですけど、実際の指揮は赤城って艦船が執っているようですよぉ」
「それと、物資の流れから察するに、何やら“大掛かりな物を建造しているようです”。ですが、それがどこで行われているのかが・・・・」
「そうか。よし、取り敢えずここを抜けよう」
「「はい」」
シェフィールドは懐から外套を取り出すと、カインに渡し、カインは軍帽を脱ぐと外套を羽織って、シェフィールドとエディンバラと共に窓から脱出した。
ー???sideー
カインがシェフィールド達と合流したその頃、重桜にある工房にてーーーー。
「にゃにゃにゃ・・・・」
「ふむ・・・・」
足元にも届きそうな緑色の長髪の先を三つ編みにし、ネコミミが生え、金色の瞳と何を考えてるのかわからない猫っぽい表情をし、完全に身の丈に合ってない非常に大きな上着一枚を羽織り、ダボダボな袖で隠れている手からは大量の工具が出ている小柄な少女・『重桜所属 工作艦 明石』。
光がない赤目に黒髪ロングオカッパでシェフィールドと同じように目隠れで揺らめくような焔が描かれた黒い和服を左前(和服において『死人前』・『死人合わせ』と称される、縁起が悪い着用)にしたハリボテのようなウサ耳をし、人魂みたい物が浮遊し、まるで幽霊のような雰囲気をした小柄な少女・『重桜所属 駆逐艦 不知火』。
重桜の誇る工作艦と商売人の駆逐艦が難しい顔を作っていた。
「どう思うにゃ不知火<ぬいぬい>?」
「このデータから分かるでしょ?」
「そうにゃけどにゃ・・・・」
原因はカイン・オーシャン指揮官だ。先ほど指紋や血液、毛髪等のデータを摂り、重桜指揮官・海守トモユキ指揮官のデータと照合してみた結果。
『照合率:95.86%』
と出た。これで間違いなくカイン・オーシャン指揮官は海守トモユキ指揮官なのは明白だった。がーーーー。
「カイン・オーシャン指揮官が明石達の指揮官なのは、ほぼ間違いないにゃ」
「ですね。しかし、指揮官の髪の毛と皮膚、詳しく解析してみると。これは余程の高熱で熱せられたゆえに変色してしまったとありますね」
二人が渋面を作っているのはこれだ。肌と髪の色が変色するほどの高熱をどうして浴びたのか、一体あの事件から指揮官に何が起こったのか、分からない事だらけだった。
ーーーープルルル・・・・。
「ん?」
「にゃ?」
う~ん、と唸っている二人に通信が入り、不知火が出て少し会話すると通信を切った。
「どうしたにゃぬいぬい?」
「もうすぐ新たな資材が到着するそうです。行きますよ」
「にゃ~。そんなの饅頭達にやらせれば良いのに、何で明石達がやらにゃいといけないのにゃ?」
「いいから行きますよおおうつけ」
「にゃっ!?」
不知火は明石の首根っこを掴んで港に向かった。
それから資材を搬入を行う不知火だったが、明石が逃げ出し、「あのおおうつけめ」とぼやいていた。
ーカインsideー
不知火が饅頭達に指示を飛ばしながら資材を搬入しているのを、外套に身を包んだカインとシェフィールドとエディンバラが物陰から見ていた。
「あれほどの資材、一体何に使うんだ?」
「・・・・ご主人様、あれを」
「ん?」
シェフィールドが指差した方を見ると、先ほど自分の身体を検査していたネコ耳の艦船、明石がオフニャ(指揮官を補佐する猫型ロボット)を持って、資材置き場の奥にある洞窟に入っていった。
「あれは・・・・」
≪明石だな。それにあそこは確か、閉鎖された洞窟のドックだけど・・・・≫
≪そんな場所に、一体なにをしているんだ?≫
三人(+二人)は明石の後を追った。
ー明石sideー
そして明石がこの洞窟にやって来たのはーーーー。
「ぬいぬいのヤツ、猫使いが荒いにゃ! やってられないにゃ!」
ただ単に資材搬入の仕事をサボる為だった。
ぶつくさ文句を言っている内に、洞窟の奥の開けた場所に出た。
「ん? ここ何処にゃ?」
適当に歩いていた明石は、地底洞窟のドックのような場所で、天井の岩場の僅かな隙間から溢れる光に照らされた洞窟に広がる海の輝きに目を奪われた。
「おお~・・・・!」
思わず手を弛めてしまい、オフニャを落としてしまう。オフニャはそのまま洞窟の出口に向かうが、明石は洞窟のドックの奥に向かった。
「迷子になってしまったにゃ・・・・ん?」
歩いている明石は、開けた場所に到着すると、ソコには巨大な艦が置いてあった。
「もしかして、『オロチ計画』の艦かにゃ? でもこれ、『セイレーン』にそっくりにゃ。こんな物を作って本当に大丈夫かにゃ? ん?」
艦の甲板を見下ろすと、ソコに赤城がいた。
「赤城? 何をしてるにゃ?」
甲板に立った赤城が『黒いメンタルキューブ』を取り出すと、メンタルキューブは激しい光をはなったーーーー。
「にゃにゃにゃにゃにゃっっ!!?」
光が収まると、メンタルキューブは甲板に溶け込むように入り、電子回路の基板のような模様が、艦全体に広がった。
「・・・・!」
『これほどのエネルギーが集まれば、『オロチ計画』発動は目の前よ』
「っ! あれは・・・・!」
明石は声がした方に目を向けると驚愕する。赤城の目の前の艦橋に現れた『存在』にだ。
『この調子なら・・・・そうね、あと一つと言った所かしら?』
この世の存在とはかけ離れた異彩を放つ風貌に、蛸のような触手をうねらせ、生気を感じさせない白髪と青白い肌の艦船のような女性。
ーーーー『セイレーン オブザーバー』だった。
ー霧崎sideー
「ふ~ん♪ ふふ~ん♪ ふん♪ ふ~ふふ~ん♪」
霧崎は“明石達”が入っていった洞窟の入り口に立っていると、鼻歌を歌いながら背を向けて、スキップしながら消えると、先ほどまで瑞鶴達がいた高台に現れ、夕暮れの海面に浮き出た重桜母港に近づく、『毒々しい緑色をした影』を捉えた。
「フフフフフフ♪」
霧崎はその影を見て、これから始まる喜劇を楽しみにしているような声で含み笑いを溢していた
次回、赤城と加賀を見て、カインは何を思う?