ーウェールズsideー
赤城の空間から脱出したアズールレーン艦隊の艦船<KAN-SEN>達は、すっかり日が登り、変貌した光景に愕然となった。
シンシンと降る雪、海には氷山が浮かび、まるで北方連合の領地のような海となっており、空には、虚空に大きな亀裂が幾つも生まれ、その亀裂の中には夜空のような空間が広がっていた。
何人かの艦船<KAN-SEN>達は突然の気温の変化と戦いの疲労で座り込んでいるが、メイド隊などが温かい飲み物や毛布を配っていた。
そんな中、Q・エリザベスを中心に、ロイヤル艦船<KAN-SEN>の重役が会議をしていた。
「はい。赤城が展開した特殊空間の崩壊により、この辺りの空間は不安定になっているようです」
「これも全てセイレーンの仕業かしら?」
「『オロチ計画』と『エンタープライズの起こした謎の現象』。無関係とは思えません」
「セイレーンの企みを挫く為にも、重桜を見逃す事はできないわね。・・・・それで、カイン指揮官<下僕>の所在は?」
「・・・・ベルファストが捜索に出ていますが、まだ発見には」
ウォースパイトの報告に、Q・エリザベスは渋面を作る。
「そうーーーー全く、こんな時だから必要だって言うのに・・・・」
「・・・・・・・・(指揮官、どうか無事で)」
ロイヤル艦船<KAN-SEN>達は全員がカインは無事なのかと不安そうな顔をする。
ウルトラマンタイガに変身し、赤城の空間に現れた異形の怪獣と戦闘に入ったカインの無事を、ウェールズとイラストリアスが祈っていた。
ーホーネットsideー
空母の上から氷山を見ているクリーブランドの姉妹も、この状況に戸惑っていた。
「姉貴、何が起こっているのかな?」
「そんな事、私にも分からないよ・・・・」
その後ろで、ホーネットは姉の異変に誰よりも戸惑っていた。
「・・・・何やったんだよ・・・・姉ちゃん」
ーベルファストsideー
そしてその頃、カインとエンタープライズを捜索していたベルファストは、空の空間から落下してくるセイレーンの艦を見ると、小さく呟いた。
「・・・・エンタープライズ様。・・・・ご主人様・・・・!」
異変が起こったエンタープライズと、行方不明となってしまった最愛の主を探しに戻った。
ージャベリンsideー
ジャベリンはラフィーと共に、仲間達と合流しようと、吹雪となった氷山の海を渡っていた。あまりの寒さと風力で、髪の毛がカチコチに固まっていた。
「ヘクチッ・・・・寒い」
「皆とはぐれちゃったね! 早く艦隊と合流しないと・・・・っ!」
唯でさえ薄着の二人にはこの寒さは堪える。
と、そこで吹雪が一瞬強まり、目の前の霧が風で吹き抜け、そこから現れたのはーーーー。
「っ!」
「綾波ちゃん・・・・!」
綾波だったーーーー。
「・・・・・・・・」
綾波は対艦刀をと艤装を構える。
「ヘックチッ・・・・!」
「あっ・・・・」
ラフィーが身を震わせながらくしゃみをすると、綾波は苛立ったように声を発する。
「また、そうやって・・・・! どうして戦わないのです!? どういうつもりなんですかっ!? あなた達!?」
そんな綾波に、ラフィーはいつも通りの態度で話しかける。
「・・・・前にも言った。綾波と友達になりたい」
「そうだよ! 私達、綾波ちゃんも友達にーーーー」
「敵同士で! 何を言ってるんですかっ!」
ジャベリンの言葉を遮るように叫ぶ綾波だが、ラフィーは構わず続ける。
「関係ない」
「関係あるです! 綾波達は艦だから! 敵と戦うのは当たり前なんです!」
「違うよ・・・・!」
綾波と言葉を、今度はジャベリンが声を上げて否定した。
「私達、そんな単純じゃない!!」
「指揮官も、ラフィー達が戦うの、絶対嫌がると思う」
「っ! 指揮、官・・・・」
カインの、トモユキ指揮官の事をラフィーが言った瞬間、綾波の脳裏にーーーー初めて重桜母港にトモユキ指揮官と二人で向かっている途中、トモユキ指揮官が言った言葉が蘇った。
【綾波】
【はいです】
【お前は、この水平線をどう思っている?】
【???】
トモユキ指揮官がそう言うと、綾波はキョトンっと、首を傾げた。
【どう見るってどういう意味なのです?】
【あぁだから、潮風の感触とか、空や海の色とか、そういうの感じてどう思う?】
【・・・・綾波は“兵器”なのです。そんなものに感傷を持ったりしないのです】
綾波は一瞬逡巡するように顔を俯かせるが、直ぐに顔を上げて、トモユキ指揮官に向かってそう言うと、それを聞いて少し肩を落とす。
【つまんない生き方だな・・・・】
【つまんない、ですか・・・・?】
【ああつまんない生き方だよ。聞いたけど、お前ら艦船<KAN-SEN>って、昔の大戦で活躍した艦船を元に、『メンタルキューブ』から生まれたんだよな?】
【はい・・・・】
【せっかく人間の身体を手にしたんだからさ。人間の身体を楽しめば良いんだよ】
【楽しむ、ですか?】
【そう。綾波はご飯を食べて美味しいと思ったか?】
【・・・・はいです】
トモユキ指揮官の質問に、綾波は少し考えると、肯定するように首肯した。
【綺麗な風景を見たとき、綺麗だと思ったか?」
【・・・・はいです】
【おもいっきり身体を動かして、疲れたって思ったか?】
【・・・・はいです】
それから指揮官が色々と“ヒトの身体”を得てからの綾波の経験を聞くと、綾波は小さく首肯していた。すると、指揮官はそれを見て小さく口角を上げた。
【それで良い。旨い飯を食って美味しいって感じるのも、身体を動かして疲れたと感じるのも、綺麗な風景を見て綺麗と感じるのも、生きている人間だからこそ感じる感覚なんだよ】
【・・・・綾波は戦うための存在なのです】
【では、お前は何のために戦う? 誰のために戦うんだ?】
【・・・・綾波は・・・・綾波は兵器なのです。そんな考え持たないのです】
【頭の固いヤツだな。ま、今はそれでいいさ】
トモユキ指揮官は、綾波の頭にポンッと手を置いて優しくクリーム色の髪を撫でる。
【指揮官・・・・?】
【今はまだ分からなくても良いさ。これから学んで行け。お前たち艦船<KAN-SEN>の“可能性”や、内に秘めた“気高さ”をな】
【可能性に、気高さ、ですか?】
【ああ】
それからトモユキ指揮官と重桜母港で過ごしてきた日々は、綾波にとって、どんな宝石や夜空の星よりも燦然と輝くかけがえのない思い出だった。
「・・・・・・・・・・・・」
「綾波ちゃん・・・・」
「綾波・・・・」
綾波は対艦刀と武装を持っていた手から、力が抜けて、顔を俯かせた。
そして、その瞳からポタポタと、涙が零れ落ちたーーーー。
「・・・・えして、です・・・・」
「え?」
「指揮官を、返して・・・・欲しい、です・・・・!」
綾波は、泣きそうな声で、懇願するように言ってきた。
「綾波ちゃん・・・・」
「っ、あぶない!」
ジャベリンが綾波に近づこうとするが、ラフィーが押し出すと、ジャベリンの近くを砲弾が通りすぎ、海面に着弾した。
「ガルル! 綾波をいじめんなぁ!!」
「指揮官を返せなのだぁっ!!」
「っ!」
夕立と時雨と雪風が駆けつけた。
「待って! 私達戦う気は!」
「その手には乗らないのだぁ!」
「なにボサッとしてるの! さっさと逃げるわよ!」
ジャベリンの言葉を、雪風が遮り、時雨が綾波の手を取ってこの場を去った。
「あははは! 勝負は預けておくのだ!」
「次会ったら負けないぜ!」
「待って! あぅ!」
「ジャベリン!」
追おうとするジャベリンだが、夕立と雪風が退散しながら放つ砲撃に煽られ、倒れそうになるが、間一髪で誰かに抱き止められた。
「大丈夫ですか?」
「ベルファストさん・・・・」
ベルファストだった。
「行きましょう。ここは危険です」
「・・・・・・・・・・・・ぁっ」
ジャベリンは綾波が去っていった方に目を向けると、視界の端の近くに浮いていた、小さな氷山の上に倒れている、黒い軍服を見つけた。
「・・・・指揮官?」
「っ! ご主人様!」
「指揮官・・・・」
ベルファストとラフィーも、ジャベリンの目線に視線を向けると、身体も軍服もボロボロになったーーーーカイン・オーシャン指揮官が、気を失って倒れていた。
ーエンタープライズsideー
ーーーーかつて世界は、単純だった・・・・。
私達は『戦う為の存在』で、敵は『外からの侵略者』。そして、人類は追い詰められていた。
世界は過酷だったが、戦いに迷いは無かった。
『戦う事』と、『守る事』、その2つは矛盾無く、等しいモノだったーーーー。
けれど・・・・私達を取り巻く世界は、何時からこんなに複雑になってしまったのだろう・・・・。
共通の敵を前に、何故か私達は互いに銃を突き付け合ってーーーー。
エンタープライズは真っ暗闇の世界をさ迷っていると、一本の大きな桜の木が、暗闇の世界でその姿を視認できるように、奇妙な光を放っていた。
「(私は、何故ーーーー)」
エンタープライズは桜を見上げながら、自問を繰り返していた。そんな自分の耳に、幼い女の子達の笑い声が聞こえた。
『『クスクスクスクスクスクス・・・・』』
ソコに目を向けると、狐面を着けた黒髪の女の子と銀髪の女の子の二人が、手を取り合って笑いながらをあげていた。
エンタープライズがその女の子達に近づくが、二人は消えてしまった。
そして、ため息を混じらせた声が響いてきた。
『はぁ・・・・あの子達はまた思い詰めているのね。いつも二人一緒なのに、泣く時は一人ぼっちで・・・・。不器用なのです、二人共。貴女と一緒です』
一人の女性がいた。赤城と加賀と同じく、狐の耳と九尾をつけた茶色の長髪をし、重桜の着物をキッチリと着こんだ20代中盤くらいの女性が、男性を膝枕で眠らせながら、片手で男性の頭を撫で、もう片方の手で番傘を広げていた。
「・・・・指揮官?」
その女性の膝枕で眠っているのはーーーー“カイン・オーシャン指揮官のようだった”。
ようだったっと言うのは、その男性の顔は指揮官なのだが、髪の色は茶髪ではなく黒髪で、肌の色も色黒ではなく白い肌である上に、ロイヤルの黒い軍服ではなく、重桜の白い軍服であった。
『先ほど少しだけ目が覚めたのですけど、“何かに阻まれて”、また眠ってしまいましたわ・・・・』
「・・・・そこに眠っているのは、指揮官、なのか?」
『貴女の知る指揮官様とは、少しだけ違いますけどね・・・・』
「なに?」
『目の前で友達を殺された哀しみ。殺した相手への怒り。終わらない戦いへと不安。艦船<KAN-SEN>を戦地に向かわせる辛さ。それらがこの御方を眠らせてしまいました・・・・』
「・・・・・・・・」
『ですが、この御方は弱くありません。・・・・そして、信じているのです』
「・・・・何をだ?」
『私達艦船<KAN-SEN>の誰しもが持っている、『可能性』と言う名の、内なる奇跡を・・・・』
「可能性と言う名の、内なる奇跡・・・・」
『そう。『心を得た者』となった私達が持つ無限の可能性。それを信じるからこそ、この御方は戦っているのです』
「信じて、いる・・・・?」
「繋がっているのです。あの子達も、私達は艦の記憶を宿している。時の彼方の遠い海。数多の想いを乗せて・・・・」
女性が桜を見せるように手を伸ばすと、エンタープライズも桜を見上げる。
「どうか忘れないで。貴女に宿る、人の願いを・・・・」
エンタープライズが再び目を向けると、女性と指揮官によく似た男性は、その姿を消しており、女の子が被っていた狐面が、ゆっくりと沈んでいった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
エンタープライズは光を失った瞳でそれを見て俯き、
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
そして、狐面を被った銀髪の女の子も、そんなエンタープライズを仮面越しに見据えていたーーーー。
ーカインsideー
「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」
気を失っているカインは、まるで深い海の底に沈んでいった。朦朧とする意識の中、カインは奇妙な感覚を感じた。
「(・・・・何だ・・・・海の音、海に生きる生命、そしてーーーー)」
『指揮官!』
『指揮官・・・・!』
『ご主人様!』
『お兄ちゃん!』
『下僕!』
『指揮官様!』
『『指揮官!!』』
艦船<KAN-SEN>達の声が、鮮明に聞こえた。
「(僕は・・・・そうだ、戻らなきゃ・・・・皆が・・・・)」
カインは海底に到達すると足をついて立った。水の中だと言うのに、まるで空気があるような感覚だった。
「(・・・・・・・・・・・・)」
カインの視線の先の海底から亀裂が走り、“金色に輝く光”が漏れ出していた。
「(あれは、一体・・・・うっ!?)」
亀裂から漏れ出る光が、一層強く光りだし、カインが目を瞑ったその瞬間ーーーー。
◇
「かっはぁ!!」
『指揮官!(ご主人様!/下僕!)』
目を開けたカインは、艦船<KAN-SEN>達に心配そうに見下ろされながら、Q・エリザベスの艦の上で横になり、大量の毛布で身体を包まれていた。
「こ、ここは・・・・?」
「陛下の艦の上です。ご主人様、何が起こったか、覚えておりますか?」
ベルファストの言葉に、カインは記憶を思い返す。
赤城と変貌したエンタープライズの戦い。
赤城がエンタープライズに撃破された事。
ナイトファングとの戦い。
決死の光線技の連続で、満身創痍となった事を。
「そうだ・・・・! エンタープライズが、赤城を・・・・!」
「エンタープライズ様が・・・・!」
驚く艦船<KAN-SEN>達に、カインは悲鳴をあげる身体に鞭打ちながら、上体を起こした。
「皆、エンタープライズの異変と、あの黒い怪獣もまた現れるかも知れない、警戒体制を、取るんだ・・・・!」
『了解!』
指揮官の指示に、アズールレーン艦船<KAN-SEN>達は迅速に行動を起こした。