それは、まだタイガが『M78星雲 光の国』にいた頃、父である『ウルトラ兄弟No.6 ウルトラマンタロウ』から、タイガスパークを与えられた。
『かつて、“友”と一緒に作った仲間との絆を深める物だ。私も人間と絆を深め、巨大な悪と戦った』
『人間と? そんな絆なんて俺には必要ありません』
『ーーーータイガ。広い宇宙をその目で見てこい。『強さ』とは何か? 『仲間』とは何か? そして、お前自身が『真の絆』を見つけた時、大いなる力を引き出す事ができるだろう』
人間を、仲間を軽んじる息子に、父が言った言葉であった。
* * *
『あ・・・・あぁ・・・・』
『しぶといねぇ・・・・闇は気持ち良いだろう?』
深海の奥、抗うようにもがくタイガに、トレギアは囁き続ける。
『ト、トレ、ギア・・・・』
『あぁ~ぁ、これだから温室育ちは脆いねぇ。まぁ良いさ。もう少し待てば、新しいタイガが誕生する。ハハハハハ・・・・!』
深海の闇の中で、トレギアの笑い声が響いた。
ーカインsideー
「はっ!・・・・っ!?・・・・ここは?」
暗黒の空間の中で目を覚ましたカイン指揮官。腰にウルトラキーホルダーが無くなっていた。
「ない・・・・?」
『ーーーー!!』
「なっ!」
唸り声のようなのが聞こえ、ソコに目を向けると、闇に包まれるタイガがいた。
『ここは最高だ! 力が身体中にみなぎってくる!』
「タイガ? ここにいたらダメだ! 一緒に帰ろう!!」
『・・・・ウルセエ人間! お前は誰だ? 俺の中から出ていけぇぇぇぇぇぇっ!!!』
タイガが叫ぶと、闇が溢れ、カイン指揮官を取り込もうとする。
「あぁあっ・・・・!!」
* * *
「やめろーーーーっっ!!!」
「指揮官!」
タイガの変貌が起こったその日の夜。アズールレーン母港の指揮官の寝室。何人かの艦船<KAN-SEN>達が見舞いに来ており、ベッドに横たわらせた指揮官が突然飛び起き暴れだした。
「指揮官! 落ち着いてくれ!」
「うあっ! あぁああああああああっ!!」
「落ち着いて指揮官! 指揮官ってばっ!!」
「うぉおおあああああああああああああああっ!!!」
ウェールズとクリーブランドが押さえ込むが、カイン指揮官は暴れ続ける。
「・・・・ウォースパイト」
「・・・・はっ!」
カチャリ・・・・ガンっ!
「がっは!?」
Q・エリザベスがウォースパイトに命じると、ウォースパイトは剣の腹でカイン指揮官を殴り、カイン指揮官は再び眠った。
「ご主人様・・・・!」
ベルファストは、悲痛な顔でカイン指揮官を抱き抱えて、ベッドに戻した。
* * *
「どうしたんだよ?・・・・僕だカインだっ! トモユキだっ!」
『・・・・・・・・トモ、ユキ?』
トモユキの名前に反応するタイガ。
しかし、それを遮るように、トレギアがタイガの背後に現れた。
『いや~。絆って美しくて儚い物だ・・・・反吐が出る!』
「トレギア・・・・!! タイガをどうするつもりだっ!?」
カイン指揮官の問いに答えず、トレギアは舐めるような声色でタイガに声を発する。
『おや? 絆とか大層な事を言っておきながら、他の仲間は何処かなぁ~?』
『・・・・!』
『見捨てられちゃったのかなぁ~?』
『・・・・俺は、見捨てられた・・・・?』
「違う! タイタスもフーマも! 君を見捨てるなんて、そんな事ないっ!!」
『ハハハハハ! 安っぽい仲間ごっこは終わりにしよう。父親を越える力を手に入れたんだ。私と一緒に『光の国』に戻ろう。そしてーーーー父親にその力を見せつけてやれ!』
「ソイツの言葉に耳を傾けるなっ!!」
『せっかく手に入れた力を手放すか? 後はお前次第だ。『タロウの息子』よーーーーいや、ウルトラマンタイガ。ハハハハハ・・・・』
そう言って、トレギアは闇の中に消えた。
「・・・・(ドクンッ!) ぐぁっ! タイガ、僕の・・・・“俺”の声を、聞いてくれ・・・・!」
すると、突然カイン指揮官の頭に痛みが走り、“俺”と言った。
だがーーーー。
『ーーーー俺はタイガ・・・・。父親を、タロウを越える力ッッ!!!!』
「「うわぁあああああああああああ!!!」」
タイガが手を伸ばすと、暗黒のエネルギーが手の形となり、カイン指揮官を襲う。その時、カイン指揮官の声が“二人”となったように重なった。
* * *
「やめろ・・・・! 絶対に、助けて・・・・!」
「・・・・・・・・」
「ーーーーっ! 下僕! いい加減に起きなさいよ! 何やってるのよっ!? 私の声が聞こえないのっ!?」
「陛下! 落ち着いてください!」
ベッドに横になり、うなされ、汗を流しているカイン指揮官を、ベルファストは不安な顔でタオルで拭うと、エリザベスが胸ぐらを掴んで叫ぶ。ウォースパイトが押さえようとするが、エリザベスは止まらなかった。
「下僕! 私の声を聞きなさい! 下僕っ!!」
「・・・・明石。何か方法は無いのか?」
苦しんでいるカイン指揮官を見て、歯痒さを感じるウェールズが、指揮官のバイタルチェックをする明石に問う。
「にゃ~。言葉を頭の中に伝えるかにゃ・・・・。う~ん。もしかしたら、“あの子”の声なら、届くかも知らないにゃ」
「あの子?」
明石の呟いた言葉に、ウェールズ達は首を傾げた。
ー重桜sideー
カイン指揮官が苦しんでいる頃、夜の重桜母港では、伊勢と日向。蒼龍と飛龍。翔鶴と愛宕が食事を取っていた。
すでに『オロチ計画』の中止は通達された。伊勢と日向は酒を飲む。
「何ともまぁ、面倒な事になってきたなぁ」
「『オロチ計画』は休止。量産型セイレーンは結局動かないまま。八方塞がりだ」
「・・・・ふぅ、指揮官もだけど、綾波ちゃんと明石ちゃんが心配ねぇ」
「指揮官ならば、手荒い事はしないと思いますが、二人が心細い思いをしていないといいのですが」
愛宕が酒を一杯飲んでそう言うと、蒼龍が同意するように言った。そこで翔鶴が口を開く。
「そもそも『オロチ計画』は指揮官も懐疑的でしたし、あんな得体の知れない物に、重桜の未来を託す訳には行きません」
「そう簡単な話ではないわ」
「レッドアクシズはけして一枚岩ではない。あまり鉄血に弱味を見せたくない」
蒼龍と飛龍の言葉に、伊勢と日向が口を出す。
「アズールレーンはしっかり団結しているっぽかったな」
「本当の敵は『セイレーン』なのになぁ内輪で腹の探り合いばかりだ」
「指揮官がいれば、私達重桜もアズールレーンを脱退しなくて済んだのかもね」
愛宕の言葉に、その場にいる全員が黙った。可能性の話なのは重々分かっている。だが、トモユキ指揮官がいてくれれば、と考えてしまう。
「(指揮官・・・・アンタがいないと、重桜はダメになっちまうよ)」
伊勢は舞い散る夜桜を見て、そう思った。
◇
そして、重桜母港を歩く瑞鶴と高雄。
「瑞鶴。身体の具合は?」
「うん。もう平気! いつでも戦える!」
「そうか。それは何より。しかし、状況は芳しくない。重桜だけではない。まるで全てが、善くない方向に進んでいっている。そんな気がしてならないな・・・・」
「(・・・・指揮官だったら、こんな時どうするかな)」
瑞鶴が、そう考えると、意を決したように言う。
「・・・・だったら、私達の手で何とかしないとね!」
「っ!」
「前に、私が無茶した時に指揮官に言われたんだ。【一人でやろうとしないで、仲間を頼れ。『艦隊』って言うのは、チームなんだ。『仲間』と力を合わせれば、どんなに辛い戦場でも、きっと乗り越えられる】って。善くない方向に向かっているなら、皆で善い方に直していこう!」
「・・・・うん」
瑞鶴の言葉に頷く高雄。瑞鶴の脳裏には、綾波を助けようとして、金色に輝いたジャベリンとラフィーの姿が過った。
「あの子達だって頑張っているんだ! 私達も変わらなきゃ!」
瑞鶴は決意を新たにした。
ー加賀sideー
加賀は一人、酒を飲んでいた。
「・・・・・・・・・・・・」
が、その瞳は酷く虚ろであり、赤城に貰った髪飾りを握っていた。
トモユキ指揮官が綾波と共にこの母港に来る前、天城は上層部の杜撰な指揮によって、自分達の前から消えてしまった。それから士官学校を卒業して間もない18歳のトモユキ指揮官の元、重桜母港は建て直され、赤城も天城を失った悲しみを、トモユキ指揮官への恋慕で上書きされた。加賀もまた、少しずつトモユキ指揮官に引かれていき、重桜は順風満帆になろうとしていた。
しかしーーーートモユキ指揮官が行方不明となってから、重桜はおかしくなっていった。
赤城は指揮官を失った絶望と天城を失った悲しみが重なり、赤城がどんどんおかしくなっていった。そんな赤城に救い手を伸ばしたのは、あろうことかセイレーンだった。
『オブザーバー』が『オロチ計画』を教え、その計画が成功すれば、天城が戻ってくる。その悪魔のような言葉に赤城は乗ってしまった。加賀はトモユキ指揮官に【赤城を支えてくれ】と託された言葉を胸に、赤城を支えようとした。
そして、アズールレーンにトモユキ指揮官がいる事が分かった時、赤城が久しぶりに心から笑みを浮かべた。トモユキ指揮官が戻れば、赤城も『オロチ計画』を止めるのではないかとすら思った。
しかし、結果は指揮官に否定され、敵対する事になった。
自分は赤城を支える事も、指揮官を取り戻す事もできない。
ーーーー自分は、“天城の代用品”にすらなれない。
「・・・・・・・・指揮官、何故いないんだ?・・・・何故いてくれないんだ?・・・・私に、教えてくれ・・・・。どうすれば良いんだ、指揮官・・・・」
その虚ろな瞳から涙が流れた。
ーエンタープライズsideー
うなされ、廊下をさ迷うエンタープライズの目の前に、『セイレーン』のようになった、『もう一人の自分』が立っていた。
「お前は何なんだっ!?」
『冒険心を胸に大海原へと乗り出した人類は、やがて海の覇権を競い相争うようになった』
そう言った瞬間、廊下の床に火が走る。
「っ!!?」
『海の歴史は戦いの歴史だ。『闘争』ーーーーそれこそが人が求めたもの』
そう言うと、ニンマリと歪んだ笑みを浮かべる。
『これが人の求める『ロマン』!!』
「何を馬鹿げたことを! っ!?」
否定しようとするエンタープライズの目の前に、桜の葉が舞う。そして、『もう一人のエンタープライズ』は、天城へと姿を変えていた。
いや、それは天城の姿をした『何か』であると、直感した。
「お前はーーーー違うな・・・・」
『・・・・・・・・』
“天城”は可愛く首を傾げるが、エンタープライズは続ける。
「その姿も、さっきの姿も、仮初めの物。・・・・お前の正体はもっとおぞましいものだ!」
すると、“天城”が口を開く。
『いいえ本物よ。私は人の思いを映し出す『鏡』なのだから』
“天城”の瞳が妖しく光ると、エンタープライズは目眩が起こった。
「何を・・・・?!」
エンタープライズの視界が霞み、“天城”は姿を消した。
『我は『オロチ』・・・・人々の思いより生まれたーーーー“怪物”だ』
「待てっ! あっ・・・・」
そしてその場に、エンタープライズは倒れる。
『エンタープライズ・・・・』
「あっ・・・・」
が、倒れたエンタープライズの耳に、声が聞こえた。
声がした方に目を向けると、霞んでいた視界が少しずつ晴れていき、廊下を這いながら、自分に近づく人物がいた。それはーーーー。
「し、指揮官・・・・!」
そう。カイン指揮官が、床を這いながら、エンタープライズに向かって来ていたのだ。
『エンタープライズ・・・・! エンタープライズ・・・・!』
「指揮官・・・・! 指揮官・・・・!」
エンタープライズも、身体を必死に這わせながらカイン指揮官の元に行き、カイン指揮官がその手を伸ばした。
『エンタープライズ・・・・! 僕の、手を・・・・!』
「指揮官・・・・!」
エンタープライズも手を伸ばし、二人の指先が、触れようとしたその瞬間、
『っ! うわああああああああああ!!』
カイン指揮官のいた床が、突然、闇の渦のようになり、カイン指揮官が呑み込まれようとしていた。
「指揮官っっっ!!!!!」
エンタープライズが手を伸ばし、二人の指先が僅かに触れたが、カイン指揮官は渦に完全に呑まれ、エンタープライズの悲痛な叫びが炎に包まれる廊下に響いた。
* * *
「指揮官っっっ!!!!!」
タイガの変貌から翌日の朝。母港の自室で、エンタープライズは漸く目が覚め、ガバッと起き上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・こ、ここは・・・・っ!」
そして、何が起こったのか、徐々に記憶が甦ってきた。
怪獣リングの力を全て使い、その力で暴走してしまい、ウルトラマンタイガを攻撃してしまった事。
カイン指揮官が、自分を救ってくれた事。
トレギアと呼ばれる敵に、カイン指揮官がやられてしまった事。
「あ、あぁ・・・・! わ、私はーーーー」
「漸くお目覚めですか」
自分は何て事をしてしまったんだと、絶望するエンタープライズだが、不意に聞こえた声にビクッと、肩を揺らして目を向けると、ベルファストが部屋の扉を開けて立っていた。
いつもの優雅な雰囲気と穏やかな口調だが、その目も声もーーーー何処か冷たく感じた。
「っ・・・・・・・・」
その目や声に耐えられず、エンタープライズは目を反らすしか無かった。
「・・・・・・・・」
ベルファストはそんなエンタープライズの様子を、さらに冷めた目で見ると、ため息混じりに口を開く。
「・・・・朝食の準備ができておりますが。また、いらないですか?」
「・・・・いや、いただく」
「・・・・そうですか。では、ついてきてください」
そう会話をして、エンタープライズはベルファストに連れられるように通路を歩いて行く。
すれ違う艦船<KAN-SEN>達が自分に向ける視線は、心配。戸惑い。警戒。畏れ。そしてーーーー僅かな失望があった。
『ユニオンの英雄』と呼ばれたエンタープライズが、あんな暴走行為をしたのだ。こんな視線に晒されるのは当然だとも思っている。
「エンタープライズさん・・・・」
「ふぁあ、おはよう、寝坊した・・・・」
エントランスでエンタープライズを見かけ、心配そうに見るジャベリンと綾波とユニコーン。ラフィーは今起きてきたのか、呑気に欠伸をしてジャベリン達に近づいた。
ー???sideー
「ふぁあ」
そしてここにも、呑気に欠伸をしながら、アズールレーン母港に近づく、『セイレーン』がいた。
次回、カイン指揮官は闇を抜けだせられるのかっ!?