ーエンタープライズsideー
「・・・・・・・・ごちそうさま」
「どういったご心境の変化でしょう?」
食堂で朝食を食べ終えたエンタープライズに、ベルファストが訝しそうに問う。他の艦船<KAN-SEN>達は遠巻きで見ていた。
「・・・・・・・・私は、逃げていたのだ」
「・・・・・・・・」
目を伏せて、弱い気持ちを吐き出すように口を開くエンタープライズ。ベルファストは、先ほどまでの冷たい視線を少し和らげて、その言葉に耳を傾ける。
「ヨークタウン姉さんが動けなくなってから・・・・私の心に、ポッカリと『穴』が空いてしまった。大切な人を失った海が怖くなり、戦いが続いていき、いつか私も、その海のソコに沈んでしまうのではないかと言う恐怖と絶望感が、私の心を縛っていった。私は、それを埋めようと、その恐怖から逃げようと、戦いに没頭するようになった」
「あのご自身を顧みない戦いも、その『穴』を埋める為の、恐怖から逃げる為の物、だったのですね?」
「ああ。戦いはあまり好きではないのに、その戦いで『穴』を埋めようとした。恐怖から逃げようとした。そしていつしか私はーーーー何の為に今まで戦ってきたのか分からなくなっていき、艦船<KAN-SEN>だから戦う。戦う事が私の存在意義だ。私がここにいる理由だと。そう、安易な考え方を言い訳にして、逃げていた・・・・」
遠くを見るような目で天井を見上げるエンタープライズ。冷たい雰囲気を無くし、ベルファストは何も言わず、彼女の言葉を全て聞こうとした。
「そして見せられたのは、〈ノブレス・ドライブ〉と言う輝き」
「〈ノブレス・ドライブ〉が?」
「アレを見た時私は、【あの力さえあれば、この心の恐怖を克服できると、『穴』が埋まる】そんな気がした。だが、私には発現できないと言われ、どうすれば良いのか分からなくなった。・・・・そんな時、あのリングを貰ったのだ」
「『怪獣リング』を・・・・。一体、誰から貰ったのですか?」
「白と黒のスーツを着た、怪しい雰囲気の男だった。最初は私も怪しいと思ったが、いざリングを使った時、凄まじい力の奔流が身体を流れ、恐怖すると同時、いや、恐怖する以上に、【この力なら、〈ノブレス・ドライブ〉を使えなくても、私は戦える・・・・!】などと、高揚感を感じてしまった」
「それで、あのような行動に?」
「自分でも、愚かだったと今なら分かる。だが、私には、あのリングしか頼る物が無かった。戦場しか、私のすがる物が無かった。だから私は・・・・!」
「・・・・・・・・」
拳を握り、段々絞り出すように言葉を紡ぐエンタープライズに、ベルファストは黙ったまま、その握った拳にソッと手を乗せ、エンタープライズの帽子を被せ、目元を隠してあげると、エンタープライズの頬に一筋の雫が流れた。
「・・・・すまない」
「何に対してですか?」
「今まであなたも、指揮官も、私がどうして〈ノブレス・ドライブ〉を発現できないのか、どうすればできるのか、その『答え』をずっと教えてくれていたのに、手を差しのべていてくれたのに、私はそれを『答え』と認めようとしないで、意固地になって、ずっと逃げていた。ーーーーすまない」
それを聞いて、ベルファストの口元に漸く、小さくだが笑みを浮かべた。
「・・・・私にだけ言っても、意味はありません。ご主人様にも、直接に言って下さい」
「しかし、気を失う前に、少しだけ指揮官を見た。指揮官はーーーー」
「ご主人様は、きっと目を覚まします。その為にも、“彼女”のお力が必要なのです」
「“彼女”・・・・?」
「参りましょう。その方と共に、ご主人様の元へーーーー」
席を立ったベルファストが、手を差しのべてると、エンタープライズは、コクンと頷き、その手を掴んで立ち上がった。
ー綾波sideー
「綾波! 指揮官の所に来て欲しいにゃっ!」
「お願い綾波ちゃん!」
「綾波ちゃん・・・・!」
「綾波・・・・」
エンタープライズを見送った後、寮に突然明石がやって来て、カイン指揮官の状態を話すと、綾波に来て欲しいと懇願した。そしてジャベリンとユニコーンとラフィーも、綾波に頼み込んだ。
「・・・・・・・・」
しかし綾波は、今の指揮官と向き合う決意が固まらず、顔を俯かせて、黙ってしまっていた。
「皆様」
「あっ、ベルファストさん! エンタープライズさん!」
ベルファストとエンタープライズが一同に近づくと、綾波に話しかける。
「綾波様。ご主人様は今、とても危うい状態にあります。どうか、ご主人様を助けてください」
「あ・・・・ぁ・・・・」
ベルファストが綾波に頭を下げる。綾波は戸惑うが、やはり覚悟か決まらない。
「綾波・・・・」
「エンタープライズ、さん・・・・」
「私もこれから、指揮官に会いに行く」
「・・・・・・・・」
「正直に言って恐い。指揮官が危険な状態にしたのは私のせいだ。責められるかも知れない。貶されるのかも知れない。だが、それでも・・・・指揮官に会わなければならない気がする。そうしなければ、私は、前に進めない気がするんだ」
「・・・・・・・・」
エンタープライズの顔を見て、綾波は一度目を閉じると、スッと目を開け、立ち上がる。
◇
カイン指揮官の寝室では、Q・エリザベスやウォースパイト、ウェールズにイラストリアスにクリーブランド。そしてホーネットとヴェスタルにハムマンが来ていた。
「ぐぅっ・・・・あぁ・・・・っ!!」
綾波達がカイン指揮官の寝室に到着するとソコにはーーーーベッドに横になりながら、苦しそうにうなされているカイン指揮官だった。
「指揮官!」
「お兄ちゃん・・・・!」
「指揮官・・・・」
ジャベリンとユニコーンとラフィーがカイン指揮官に駆け寄る。カイン指揮官の寝汗を拭いているシェフィールドも、いつもの無表情なのだが、心なしか不安そうな顔をしているようだった。
「・・・・姉ちゃん」
「ホーネット・・・・」
エンタープライズに目を向け、ホーネットが姉に近づくと・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
バキッ!!
『っ!!』
何と、ホーネットがエンタープライズの頬を殴った。
「ホ、ホーネット・・・・!」
「ビンタじゃなくて、パンチなの?」
「・・・・良いんだ二人共」
ハムマンとヴェスタルも、ホーネットの行動に弱冠驚いた。が、殴られた頬をさすりながら、エンタープライズは当然の事だと言わんばかりに言う。
「これでチャラだよ。二度とあんな真似しないで。・・・・少しは、妹や周りに頼りなよ」
「ああ。すまない」
そう言って、フッと笑みを浮かべる姉妹。
「男前ね、エンタープライズもホーネットも」
ウォースパイトが二人を見てそう言うと、ベルファストが綾波をカイン指揮官の近くに連れていく。
「綾波様・・・・お願いします」
「・・・・・・・・」
綾波は、カイン指揮官の左手、うっすらと紋章がある左手を握った。
「ジャベリン。ラフィー。ユニコーン。皆さんも、指揮官を呼んで欲しいのです」
「うん・・・・!」
「(コクン!)」
「了解」
ジャベリンとユニコーンとラフィーが、綾波と一緒にカイン指揮官の手を握る。エンタープライズとベルファストもカイン指揮官に目を向ける。
それから、綾波は苦しんでいるカイン指揮官に語りかける。
ーカインsideー
そしてカイン指揮官は、夢の中でタイガと対話していた。
『ははっ! 力こそ全てだ! 弱い者など必要ない!』
「ダメだ・・・・一人じゃ・・・・僕じゃ・・・・俺じゃ、タイガを救えないのか・・・・」
心折れそうなカイン指揮官のすぐ近くにーーーー光が漏れた。
ーーーー指揮官
「ぁ・・・・」
カイン指揮官は、その光に手を伸ばすと。
「うわっ!」
ソコは、自分の執務室だった。
「あ・・・・! 綾波・・・・? 皆・・・・!」
起き上がったカイン指揮官の目の前に、光輝く幾つもの光の玉が浮いていた。
『指揮官。帰って来てです・・・・』
「だ、だが・・・・!」
執務室の扉に目を向けると、扉が開き掛け、闇が溢れ出す。
「あっ、来る・・・・!」
すると、光の玉から、エンタープライズ達の声が響く。
『大丈夫だ指揮官』
「エンタープライズ・・・・!」
『あなたは、絶対に負けない心を持っている』
『ご主人様。あなたは、どんな時でも、誰かの為に戦えるお方です』
『指揮官。もしも、一人じゃ駄目なら私達がいます!』
『お兄ちゃんは一人じゃないよ・・・・!』
『ラフィー達がいる』
「ベル・・・・ジャベリン・・・・ユニコーン・・・・ラフィー・・・・」
『うおぉおおおおお!』
『ぬぉおおおおおお!』
「はっ!」
カインが扉に目を向けると、黄色と青の光が集まり、タイタスとフーマになり、扉から溢れる闇を抑えていた。
「タイタス! フーマ!」
『やっと私達の声が届いたようだ!』
『随分と時間が掛かっちまったぜ!』
「二人共・・・・」
『カイン指揮官! あなたには私達もついている!』
『そう言う事だ。タイガを救うんだろう!』
「・・・・・・・・」
『指揮官』
「綾波」
『負けないでです、指揮官!』
『私達、待ってますから!』
『頑張ってお兄ちゃん!』
『指揮官・・・・!』
『ご主人様!』
『下僕!』
『『『『『『『指揮官(さま)!!』』』』』』』
『指揮官・・・・私達の指揮官は、あなた以外にいないんだ!』
「・・・・あぁ。皆、ありがとう」
カイン指揮官は立ち上がると、闇を抑えるタイタスとフーマに話しかける。
「タイタス。フーマ。抑えなくていい」
『指揮官!』
『そらどういう事だ?!』
「この闇は、僕が向き合わなければならないんだ。だから、任せてくれ」
『・・・・フーマ』
『わぁったよ! 任せたぜ、兄ちゃん!』
二人が闇を抑えているのをやめると、闇が溢れ、ソコから闇を纏ったーーーーカイン指揮官と同じ容姿をした人物がいた。
『っ! これは・・・・』
『どうなってんだ?』
戸惑うタイタスとフーマだが、カイン指揮官は二人の前に出る。
「ずっと、目を背けていた。でも、向き合わなければならないーーーー『海守トモユキ指揮官』」
「うぅっ! うぉああああああ!!」
苦しそうにうなり声をあげるこの人物こそ、カイン指揮官と前の人格、海守トモユキだったのだ。
「・・・・・・・・」
「うおおおおお!!」
カイン指揮官は、自分に迫るトモユキ指揮官を抱き止めた。
「うぅううううううう!!」
「すまない」
「っ!!」
カイン指揮官がトモユキ指揮官にそう呟くと、闇に包まれたトモユキ指揮官がピクッと反応する。
「君の身体を奪ってしまって、重桜と敵対する道を選んでしまって、僕の代わりにーーーー怪獣リングの闇を受け止めてくれていた。本当に、すまない・・・・」
「重、桜・・・・!」
『指揮官・・・・』
「あ、や・・・・なみ・・・・」
その時、綾波の声が響き、トモユキ指揮官の動きが止まると、カイン指揮官がその身体を離し、
「タイタス! フーマ! 君達の光を!」
『うむ!』
『おう!』
『『はぁあああああ!!』』
タイタスとフーマが、自分達の光をトモユキ指揮官に浴びせると、徐々に闇が消えていき、重桜軍服を着た肌色と髪の色以外はカイン指揮官と瓜二つの海守トモユキ指揮官が現れた。
「っ!・・・・お、俺は・・・・」
「トモユキ指揮官」
「ーーーー君が、もう一人の俺、カイン・オーシャン指揮官、だな?」
「はい。記憶があるんですか?」
「ああ。ずっと眠っていた。だが、うっすらとだが意識があり、夢の中で、夢を見ているような、奇妙な感覚だったよ」
「僕は、君の事を避けていた。もしあなたを受け入れれば、ロイヤルの皆の事と、お別れをしないと思ったから」
トモユキ指揮官の記憶が甦れば、自分が消える。カイン指揮官はそれを恐れ、今までトモユキ指揮官の事を思い出そうとしなかったのだ。
だが、トモユキ指揮官は小さく笑みを浮かべる。
「・・・・何で、お別れするなんて考えるんだ?」
「えっ?」
「君も俺だ。君の記憶は俺の記憶。そして俺の記憶は君の記憶だ。どちらかが消える必要なんてないんだ」
「じゃぁ、僕は・・・・」
「君は俺。俺は君」
「二人で一人、いや・・・・」
「ああ・・・・」
二人の指揮官は、タイタスとフーマを見る。
「「“五人で一人”。一心同体だ」」
『『ぁ・・・・うん!』』
そう言うと、タイタスとフーマは嬉しそうな声をあげると、力強く頷いた。
「行こう。もう一人を助ける為に、赤城と加賀を救う為にも・・・・!」
「ああ」
【トモユキ・・・・!!】
「「っ!」」
その時、二人の指揮官の頭に、苦しそうなタイガの声が聞こえた。これこそ、本当のタイガの声をだと察するとーーーー二人は一人になり、トモユキ指揮官の後ろに、いつの間にか現れていた、番傘を広げる艦船<KAN-SEN>に目を向けた。
「ありがとう。ずっと守ってくれていて。いつか会える事を信じているよ。その時は、是非夢ではなく、現実で膝枕をしてくれよーーーー『天城』」
『・・・・・・・・』
『天城』か笑みを浮かべて頷き、指揮官は光の玉に手を伸ばした。
伸ばしたその手にタイガスパークが現れ、さらに左手首に、『新たなブレスレット』が出現した。
* * *
「ぁ・・・・・・・・」
そして、目を覚ました指揮官の瞳に、伸ばした右手を握りしめる。綾波達の姿が映った。
「指揮官・・・・」
「・・・・久しぶり、綾波」
「っ・・・・!」
指揮官の言葉に、綾波は涙を流す。
「指揮官、記憶が・・・・」
「どうやら、長く寝ていたようだ」
「・・・・それじゃ、カイン指揮官は」
記憶を取り戻せば、カイン指揮官が消える。それを悟り、不安そうな顔になるジャベリン達。
「大丈夫だ。カイン指揮官もここにいる。トモユキ<俺>と、カイン<僕>は、一つになったんだ」
『!!』
二人の指揮官が共にいる事に、艦船<KAN-SEN>達は笑嬉しそうな顔になる。だが、ただ一人、エンタープライズが顔を俯かせて、指揮官に向けて口を開く。
「指揮官・・・・」
「エンタープライズ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
エンタープライズは無言になり、指揮官は言葉を待ち、ベルファスト達は見守る。
「・・・・申し訳、ありません」
「無事でよかったよ。エンタープライズ。少しは、『答え』を受け入れてくれるか?」
「~~! はい・・・・!」
笑みを浮かべる指揮官に、エンタープライズを涙を堪えるようにそう言った。
そして指揮官は、左手に巻かれたブレスレットに目を向けると、その場にいる艦船<KAN-SEN>全員に目を向け、毅然とした口調で声を発する。
「皆、ウルトラマンタイガを助ける。そして、重桜を救うぞ!」
『っ! 了解!!』
指揮官の言葉に、艦船<KAN-SEN>達は敬礼で答えた。
「うん・・・・っっ!!」
指揮官が窓の外に目を鋭くして睨み、艦船<KAN-SEN>達も目を向けるとソコにはーーーー『セイレーン』が宙を飛んでいた。
『ウフフフフフ・・・・!』
『セイレーン』の上位個体、『ピュリファイアー』は、ニンマリと笑みを浮かべると、艤装から艦載機らしき戦闘機を発進させたーーーー。
次回、復活した『海原の軍者』と、本領を発揮する『重桜の鬼神』。