ーピュリファイアーsideー
『なぁにやってんのあの子達?』
ピュリファイアーはアズールレーン艦船<KAN-SEN>達の動きを訝しそうに眺めていた。
ロボット怪獣キングジョーがグワンッ、グワンッ、と駆動音なのか叫び声なのか分からない音を響かせながらアズールレーン母港に向かっているが、ベルファストにエディンバラにシェフィールドと言った艦船<KAN-SEN>達が 金色の光を纏うと、残像が残る程の高速移動でキングジョーの足や腕や胴体やらを闇雲に攻撃しているようである。
あの光を纏った艦船<KAN-SEN>は凄まじい戦闘力を見せると聞いていたのに、少々拍子抜けである、
『ヤケクソになっちゃったのかしらぁ?・・・・あれぇ?』
ピュリファイアーは、ベルファスト達から少し離れた位置にいるジャベリン達に目を向けると、ソコにいた1人の艦船<KAN-SEN>を見つけた。
『へぇ~!』
ピュリファイアーはその艦船<KAN-SEN>ーーーー綾波の眼前に現れた。
「っ!」
「「綾波(ちゃん)!」」
近くにいたジャベリンとラフィーが綾波の元に向かおうとしたその時、二人の近くに量産型セイレーンの艦載機が機銃を放ち、行く手を遮った。
ー綾波sideー
「ジャベリン! ラフィー!」
『こっち見ないと、ダ~メだよっ!!』
「くっ・・・・!」
ピュリファイアーはシュモクザメのような艤装の口から、レーザーキャノンを放ち、綾波がギリギリで回避する。
『あなただよねぇ? 『テスター』が一目置いている重桜の艦船<KAN-SEN>って?』
「っ、『テスター』・・・・?」
『あれぇ? 知らないの? あなたがぶった切った子だよぉ?』
「・・・・あの時の!」
言われて、綾波も思い出した。トモユキ指揮官の指揮の元、初めて交戦した『セイレーンの上位個体』の名だ。
後からトモユキ指揮官や赤城から聞いたが、自分がその上位個体を撃退したと言われたが、綾波はその時の記憶が無かったのだ。
『『テスター』みたいに、私とも遊ぼうよ!!』
ピュリファイアーは艤装から次々とレーザーを放ち、綾波は何とか回避していた。
「くっ!」
『アッハハハハハハハハハ!!』
「綾波ちゃん!」
「綾波・・・・!」
ジャベリンとラフィーの前に、量産型が立ち塞がるがーーーー。
「邪魔、しないで!」
「どいて・・・・!」
「「〈ノブレス・ドライブ〉!」」
二人の身体が金色に輝くと、ジャベリンは槍の矛先から光線を放ち、ラフィーは魚雷を放つと次々と撃破し、ピュリファイアーのレーザーが迫る綾波の前にジャベリンが立ち、槍を高速回転させてレーザーを防いだ。
『うわぉっ!』
「うぅぅぅぅ! ラフィーちゃん!」
「攻撃開始」
『ハハッ!』
ジャベリンが防ぐ横から、ラフィーが出て来て、砲台から光線を放ち、ピュリファイアーを攻撃するが、回避される。
『それじゃあ、まだまだだよ!』
空にいた量産型の艦載機が機銃を放ちながら綾波達に迫ってきた。
「「「っ!!」」」
回避しようと動こうとする三人だがーーーー。
ーーーーバババババババババ!
ーーーードォォォォォォンン!
「え・・・・? あっ! エンタープライズさん! ホーネットさん!」
「クリーブランド達も・・・・」
エンタープライズとホーネット、クリーブランド姉妹の海上騎士団<ソロモンネイビーキャリバーズ>が加勢に来てくれた。
「ホーネット! 行くぞ!」
「あいよ姉ちゃん!」
二人が艦載機を飛ばし、ピュリファイアーを攻撃する。
『あははははははははは!! エンタープライズっ!!』
「セイレーンっ!!!」
ピュリファイアーが艤装のレーザーを放ち、エンタープライズもアーチェリーから矢を放った。
「姉ちゃん!」
「っ!」
エンタープライズはピュリファイアーのレーザーを回避したが、ピュリファイアーもエンタープライズの攻撃を回避する。
『っと! きゃははははははははは!! やるやるぅ!』
さらに量産型を出現させるピュリファイアー。
《綾波》
「っ、了解です」
カイン指揮官がたった一言、綾波の名前を呼ぶと、綾波はピュリファイアーへと向かう。
「綾波ちゃん!」
「綾波・・・・」
《エンタープライズ。ホーネット。ジャベリン。ラフィーは綾波の援護を頼む。クリーブランド達はベル達の援護に向かってくれ》
「指揮官?」
《大丈夫だ、見せてやろう。『重桜の鬼神』と言われたーーーー綾波の本気をね!》
ー明石sideー
「大丈夫だ、見せてやろう。『重桜の鬼神』と言われたーーーー綾波の本気をね!」
カイン指揮官と共に、母港でカイン指揮官のすぐ隣で、通信機の準備をしていた明石は、カイン指揮官に視線を向けると、口元を長袖で隠しながら笑みを浮かべる。
「にゃふふふふふ。ここからが『海原の軍者』と謡われた指揮官と、その懐刀である『鬼神・綾波』の本領発揮にゃ!」
ー綾波sideー
綾波の心は、自分でも驚くほどに冷静だった。
目の前にはセイレーンの上位個体。量産型セイレーン艦隊。それらに駆逐艦の自分が挑むなど自殺行為だと思われるだろう。自分もそう思う。
しかしーーーー。
《綾波!(前方上から敵機!)》
「っ」
指揮官に呼ばれた瞬間、綾波は艤装の砲台を上に向けて放つと、自分に向かっていたセイレーン艦載機を撃破。
指揮官が自分の名を呼ぶ。その瞬間、まるでその一言で指揮官の意図が分かるような不思議な感覚。久しぶりの感覚だ。この連携によって、トモユキ指揮官と綾波は重桜にて幾つもの戦場を切り抜けてきたのだ。
《綾波!(危ない、回避だ!)》
「っ!」
指揮官の声で感慨から頭を瞬時に切り換えると、次に右に回避する。自分のいた場所にレーザーが通りすぎた。
『あっれぇ? 良く回避したわねぇ!?』
ピュリファイアーが次々と時間差でレーザーを放った。
「・・・・・・・・」
《綾波!(落ち着いて避けろ。君なら大丈夫だ!)》
「っ!」
が、カイン指揮官が名を呼ぶと、綾波はその攻撃が何処に着弾するのか分かっているかのように回避しながら、ピュリファイアーに全速力で近づきーーーー。
《綾波!(ソコだ!)》
『わぉ!?』
「はぁあっ!!」
対艦刀でピュリファイアーを斬りつける。
しかし、ギリギリの所で回避されるが、シュモクザメの艤装の一つを切り裂き、さらに艤装の魚雷を撃ちだし、もう一つのシュモクザメの艤装を破壊した。
『へぇー! 凄いじゃんあなた!』
「・・・・・・・・」
ピュリファイアーが賛辞の言葉をかけるが、綾波はそれに応えず、対艦刀を構え直す。
心に恐怖が無い訳ではない。だがーーーー。
《まだ行けるかい? 綾波》
「問題無しです! どんとこいです!」
指揮官が側にいる。それだけで、勇気が湧いてくる。何でもできる。そんな思いが溢れてきているのだ。
ーエンタープライズsideー
「す、凄い・・・・!」
エンタープライズが思わず呟く。〈ノブレス・ドライブ〉を発動させている訳でも無いのに、綾波は『セイレーンの上位個体』とマトモに戦っている。まるで隙のない完璧とも言える戦い。それにホーネットやジャベリンとラフィーも面食らった。
《にゃはははははは。皆驚いたかにゃ?》
「明石ちゃん?」
通信機に上機嫌の明石からの連絡が入る。
《指揮官と綾波の信頼度は重桜でも群を抜いていたにゃ。指揮官は綾波を信頼し、綾波も指揮官を信頼しているにゃ。だから僅かな声掛けだけで綾波は指揮官の意図を即座に理解し、まるで指揮官が綾波のすぐ近くで絶妙なタイミングで指示を出しているように見えるのにゃ。まさに完璧な連携なのにゃ!》
通信機越しでも、明石がドヤ顔を浮かべているのが分かる声だったが、それも納得できる。綾波は後ろを気にする必要ないように動き、時々鮮やかともいえる回避と攻撃。コレは指揮官の指示だけで成り立たない。
まさにーーーートモユキ<カイン>指揮官と綾波。強い絆で結ばれた二人だからこそできる事だ。
「〈ノブレス・ドライブ〉ができなくても、セイレーンの上位個体と渡り合っている・・・・」
「綾波ちゃんスゴい!」
《感心してないで、皆も綾波の合流してくれ》
「指揮官」
《ベル達の方も、そろそろ終わりだ》
ー綾波sideー
綾波の近くに、エンタープライズ達が合流すると、ピュリファイアーはさらに笑みを浮かべた。
『あははははははは! スゴいねぇ! で・もぉ! こっちには怪獣がいるんだよ! おいでキングジョー!!』
ピュリファイアーがキングジョーを呼ぶが、キングジョーはその場から動かず、グワン、グワンと、駆動音のような鳴き声を上げるだけだった。
『あれぇ?』
「気づいていなくて良かったです。綾波の目的は、あなたを倒す事では無いです」
『え~?』
『・・・・?』
ピュリファイアーだけでなく、エンタープライズ達も首を傾げると、綾波は言葉を続ける。
「綾波の役目は、あなたをこの場に釘付けにし、キングジョーの異変に気付かれないようにしていたのです。あなたが綾波やエンタープライズさんに気を取られている間に、ベルファストさん達が、キングジョーの動きを封じ込めていたです!」
一同がキングジョーを見ると、足や腕の関節部分から火花が激しく飛び散り、さらに頭部と胴体の間や腹や腰の間からも火花が散り、キングジョーはまるで壊れたブリキ人形のようにその場から動けなくなっていた。
『あれぇ? どうしちゃったのぉ?』
ピュリファイアーが首を傾げると、ベルファスト達が、艤装を展開させたQ・エリザベスとウォースパイト、フッドにウェールズ、イラストリアスとユニコーンと合流した。
《綾波。セイレーンに伝えてくれ》
「(コクン)ーーーーロボット怪獣は確かに装甲が厚いです。でも、動く為の関節部分の装甲は薄くできているです。さらに合体機構があるので、合体の接合部分も他の装甲よりは薄いです。ベルファストさん達はソコを重点的に攻撃していたのです。例え綾波達艦船<KAN-SEN>の攻撃がキングジョーにそれほどのダメージを与える事ができなくても、小さなダメージを積み重ねれば、怪獣を倒す事ができるです!」
綾波は、カイン指揮官が通信機越しから話した言葉を、そのままピュリファイアーに伝えたその瞬間ーーーー。
『『共鳴<レゾナンス>』!!』
ベルファスト達の声が重り、『光の艦隊』が出現し、ソコから光の光線が幾つも発射され、キングジョーの手足の関節部分、合体接合部分を貫いていった。
グワン・・・・! グワン・・・・! グワン・・・・! グワン・・・・!
キングジョーの手足が破壊され、身体のアチコチから小さな爆発が連鎖的に起き、上から崩れるように崩壊し、そしてーーーー。
ドゴォオオオオオオオオオオオオンン!!
火柱を上げて爆散していった。
『へぇ~! スゴいねぇ! じゃぁ、今日はここまでだね』
ピュリファイアーがそう言うと、自分の頭上に魔法陣が展開させ、量産型も、魔法陣の中に入っていき、姿を消していく。
『また、近い内に会おうねアズールレーン。ウルトラマンタイガはこちらの手の内にいる』
「っ! ウルトラマンタイガが!?」
『そっちの指揮官に伝えておきなよ。助けたかったら、来るんだね。戦場へ・・・・』
そう言って、『黒いメンタルキューブ』を掌で弄びながら、ピュリファイアーは戦場から姿を消した。
「・・・・どうやら、事態は急を擁するようだな」
《ああ。その通りだ》
エンタープライズの言葉を肯定するように、カイン指揮官の声が通信機越しに耳に響いた。
「ご主人様・・・・」
《皆、母港に戻ってくれ。『黒いメンタルキューブ』がセイレーン側に戻ったと言う事は、いよいよ『オロチ計画』が最終段階に入ったという事だ。整備と補給を済ませたら、全体ブリーフィングを行う》
「下僕。策はあるの?」
Q・エリザベスが問うと、カイン指揮官は少し黙ると、意を決したように声を発する。
《・・・・・・・・もはや事態は、ロイヤルやユニオンで対処できるレベルではない。加賀に不信感を抱いている重桜の艦船<KAN-SEN>達に連絡を入れて、協力を要請する!》
ーカインsideー
エンタープライズ達との通信を終えたカイン指揮官は、重桜への通信の準備し終えた明石に声をかける。
「明石。準備は?」
「バッチリにゃ! 周波数を翔鶴の通信機に合わせて・・・・良し。これで万端にゃ」
「うん」
カイン指揮官はヘッドセットを付けると、マイクに声を発する。
「翔鶴? 聞こえるか? 翔鶴!」
《(ザザッ)ーーーーきかん・・・・? まさか、指揮官なのっ!?》
「ああ。俺だ翔か《ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!》 っっっ!!?? な、なんだぁっ!?」
突然通信機越しから聞こえた轟音に、カイン指揮官は表情を歪めて、ヘッドセットを外した。
「何が起こった翔鶴!?」
《か、加賀先輩!!》
ヘッドセットのマイクに大声を発すると、今度は瑞鶴の声が響いた。
「っ!? まさか、もう加賀が動いたのか・・・・!」
ーオイゲンsideー
少し時間は遡り、アズールレーンがピュリファイアーとキングジョーと交戦している間、重桜母港の『オロチ』を隠している洞窟ドッグではーーーー。
「悪いわね重桜。『オロチ』の秘密、暴かせてもらうわ。・・・・ん?」
遂に『オロチ』を見つけたオイゲンが下を見ると、加賀が後ろを見せて立ち尽くしていた。
「加賀・・・・?」
オイゲンが呟くと同時に、振り返った加賀のその瞳にはーーーー感情がなくなったかのように無機質となっていた。
「・・・・姉様、今参ります」
加賀がそう言って、霧崎<謎の男>から受け取った、“頭に大きな角を付けた赤い怪獣の指輪”を、『オロチ』の甲板に落とすと、指輪は海面に一滴の水を落としたかのように溶け込んだ。
その時ーーーー『オロチ』が突如真っ赤に光りながら起動し、動き出した。
その動きで洞窟ドッグ全体が揺れ始める。
「っ! ちょっと・・・・!」
ドッグだけでなく、ドッグの海も荒れ始め、オイゲンが脱出する。
ー重桜sideー
洞窟の揺れはドッグだけに留まらず、重桜全体を揺らしていた。
丁度、トモユキ指揮官からの通信を受けた翔鶴、近くにいた瑞鶴に蒼龍に飛龍が驚き、母港を歩いていた艦船<KAN-SEN>達も戸惑い、遅くまで飲んでいて寝ていた伊勢や日向も、酔いが完全に醒めて飛び起きた程だ。
そしてーーーー。
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!
『ヒギャァァァァァァァァァ!!』
重桜母港の一部を破壊し現れたのは、毒々しい赤の色をした背中に翼のような形状の巨大な突起物と、腹部には六つの目玉のような模様か器官のようなものがあり、人間の金切り声のような不気味な咆哮を上げるーーーー鋼鉄の怪物が現れた。
「何だ・・・・あれは!?」
「まさかあれが・・・・『オロチ』?」
「っ! か、加賀先輩!!」
他の艦船<KAN-SEN>達のように、高雄と愛宕が『鋼鉄の怪物』の異様さに圧倒されている中、瑞鶴は怪物の頭の上に立つ加賀を見て、名を叫ぶが、加賀は見向きもしないで、歩き出す怪物と共に、重桜を去ったーーーー。
ー霧崎sideー
『あれが、あなたのプレゼント? トレギア?』
重桜母港から離れた海域にいるオブザーバーがトレギアに話しかけると、トレギアは笑いを含んだ声をあげる。
『フッフフフフフフ。そうさ。かつて、『星を食い尽くすという伝説を持つ魔王獣』、『大魔王獣 マガオロチ』の力を得た新たなオロチ! 『大魔機獣 メガオロチ』さっ!!』
鋼の身体を得た姿に、トレギアは両手を広げて、その誕生を祝した。
ー『大魔機獣 メガオロチ』ー
『大魔王獣 マガオロチ』をロボット怪獣にした怪獣。本物のマガオロチと遜色ない力を秘めている。