もしシルビアさんがノンケだったらスパダリレベルカンストしてた   作:D.フラン

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Flow 2

「あの…よかったんですか」

 

「拘束を解いたことか?かまわんだろう。

逃げる素振りを見せたらその瞬間に斬るまでだ」

 

そうじゃなくて。いやそれもあるけれど。

グレイグさまのテントに連れて来られ、数十時間ぶりに身体的な意味での自由はまずは得られた。

…精神的にはちっともだけれども、この際贅沢は言えない。

 

「でもあんな強引な態度取っちゃって。ホメロスさま怒っちゃうんじゃ…」

 

「ならばあちらの方が良かったか?

言っておくが、あいつは相当に性格が悪いぞ。

俺も何度煮え湯を飲まされたか…こんなの、仕返しにも入らん」

 

少しの間を開けて、テーブルにつくことを勧められる。

言われたままにすると、タイミングを見計らったように兵士が二人分のお茶を持ってきてくれた。

毒はないですよねと聞くと、バカを言うなと返ってきた。

 

「それに…」

 

お茶は意外とおいしかった。

しかしグレイグさまはわずかに気まずそうにしていた。

 

「あの件を思うと、どうしても見捨てられなかったのだ。どうしてもな…」

 

「グレイグさま…」

 

決してロマンチックな雰囲気ではない。

ただ、グレイグさまは同じ秘密を持った私を見捨てられなかったのだ。

 

「ラグレイ…今は兵士長でしたっけ。お元気でおいでですか」

 

「ああ。あれからすっかり真面目になり、王に従順になった。

随分と信頼も厚くなっていて、それでな」

 

ラグレイ兵士長。

グレイグさまの直属の部下であるこの人は優秀な人物であるらしいのだが、何が災いしたのか謀反を起こすという噂が立った。

王はそれを阻止するため、ある時爆弾岩の群れへの特攻命令を下した。

それをたまたま雇われた私をはじめとする傭兵たちの目覚ましい活躍により生還させたのだった。

…と表向きはなっているが、実は立場上表立って動けなかったグレイグさまが、こっそり参戦していたというのが事の顛末である。

私はわけのわからぬままに、けれども死にたくない一心でひたすら彼の戦闘のサポートをしたのだった。

とにかくそういうこともあり、グレイグさまは助けてくれたのだろう。

多分、ホメロスさまとは違い本当に、多少の情でも湧いて。

 

「…私はこれからどうなりますか」

 

グレイグさまはそれを聞くと、すっと無表情になる。重く実に機械的に、答えは得られた。

 

「ホメロスからすでに聞いているだろう。このまま、デルカダールに戻り投獄だ。

それこそ死ぬまで。…本来ならな」

 

本来、とオウム返しする。緊張からか、唇も喉も奇妙に乾いている。

お茶で湿らす。保湿として満足な効果を得られるはずもないけれど。

 

「…不幸中の幸いか、お前にはデルカダールの傭兵としての実績がある。悪魔の子の討伐を手伝え。

奴の首を以って王に処遇を考え直していただく他ない…と俺は思っている」

 

「そんな…」

 

声が震えた。内心はどうあれ、ホメロス様と言っていることは基本的には同じだ。

…いや、ホメロスさまはまだ良い。私に対して悪意で戦いを押しつけたのだから。

グレイグさまにはそんな情緒は多分ない。

淡白な善意しかそこに存在し得なかったのは、明らかで。

絶望しかける私に、グレイグさまは淡々と追い打ちをかける。

 

「どうして、と思っているのかも知れんが。エルザ、あまり勘違いするなよ。

ホメロスは性格は悪いが間違ったことはしていない。

最近人が変わったようにすら感じられるが、それでも奴は奴なりにデルカダールを想っているのだ。

お前に対する処遇はあれでも甘いくらいだ。…当然今の俺にそれを批判する資格はないがな」

 

結局この人もホメロスさまと同じだった。

というのが結論づけとして正しいのだろう。息苦しさは、あの方の尋問を受けている時のの比ではなかった。

拘束はもはやないので、逃げ出そうと思ったらそうできたかも知れないのに、ついた椅子から降りることさえままならない。

諦観に支配されたからだ。

静かにうつむいたままでいる私を見たグレイグさまはもはや捕虜は逃げないと判断したのか、一度黙って席を外す。

あ、これもしかして逃げるチャンス?と思う間もなくすぐに帰ってきたが。

 

「…受け取れ」

 

「これは…」

 

「お前の剣はもはやどこにあるかわからん。だから代わりに軍の物を使え。これで悪魔の子と戦うのだ」

 

テーブルの上に置かれたそれは、どう見ても私が使っていたものより上等な剣だった。

さすが世界一の軍事国家。一般兵にもこんなものを持たせていたのかと場違いに値踏みしてしまう。

働きかける煩悩を振り払う。

 

「一応聞きますけど、断るって選択肢って、あります?」

 

グレイグさまは呆れたように応えた。

 

「俺の今までの話を聞いていたか?なしだ。それでも断ると言うならせめてもの情けだ、俺が今斬ってやる」

 

「ですよねー」

 

完全に白旗だ。上げるかわりに、剣を取る。

考えてみれば。私が勇者様たちと知り合ったのは昨日の今日だ。

シルビアさんに恩があると言ったってその恩返しはダーハルーネでもうすませているつもりだ。

そしてお陰で今捕まっている。

もう。なんだ。とにかく。

みっともなくて良いからまだまだ太陽の下で生きていたい。それだけだ。

そのためなら斬るのにためらうほどの相手ではないはずだ。そんなに濃い繋がりでは、考えてみればない。

そんな風に自分を騙すことに決めた。

 

「…悪魔の子たちはユグノア国跡地に向かうようだという間者の情報が入っている。そこを叩くつもりだ。

お前の出陣はそこにする」

 

そんな決意を知らずグレイグさまがさっそく命令を下す。

私は腰に支給された剣をはきながら返事をした。我ながら、死んだような声だった。

そしてこれだけどうしても言いたかった。けれど黙っているのが恐らく正解だろう。

変わったのは多分あなたもです、グレイグさま。

 

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