もしシルビアさんがノンケだったらスパダリレベルカンストしてた 作:D.フラン
「疲れました」
あれからすぐに魔物に囲まれ、アリスちゃんといなしている内にマルティナさんとはぐれてしまった。
しかし心配は無用だったとあとになって知る。
グレイグさまに聞いたところによると、正気に戻ったマルティナさんがVIPルー厶にたどり着いた頃には、すでにブギーは無力化されていた(だからこそ私たちは人間に戻れたわけだ)。
最初こそ私が失敗したのかと思った彼らだったが、再び悪魔化したマルティナさんがプギーに(曰く惨たらしく)とどめを刺したことを見て安心したと共に、戦慄を覚えたそうだ。
「エルザが今日のMVPよねー。時点がアリスちゃんで」
どこからか調達してきた厚紙で作った雑な王冠をリアルお姫様が私、それからアリスちゃんに載せている。
かたじけない、とアリスちゃんは照れいっていた。それにしてもマルティナさんはやはり強かった。
ただでさえ格上だというのに、魔物化していたことで身体能力も飛躍的アップしていたのだ。
こちらも魔物化していたとはいえ、よく殺されなかったと思う。
あと、勇者様たちがブギーを倒したに関わらずその特殊すぎる力を我が物にしてしまった
(私はすでに失っていた。ブギーから直接魔力を注がれたせいだという結論にすぐに至った)あたり恐ろしい。
もう逆らえない。
一方で、シルビアさんの顔は晴れない。
「正直申し訳なかったわ。マルティナちゃんとエルザちゃんが戦うのって、やっぱり良くなかった」
「確かにワシらが姫を押しつけたようなもんじゃな。黒幕打倒とはいえ、すまんかった」
「私なら大丈夫だよ!」
頭を下げてくる年上男性二人。
それをちょっと楽しげに見るマルティナさん。なんだこの絵。
「そりゃ相手が仲間ならふつう戦いたくないですもん!たたかいの歌も教えてもらったし!あとはお金さえくれれば私はもう何にも文句ないです!」
「そう?じゃあ今日は弾んじゃうわよ!」
「やったー!!シルビアさん大好き!」
所詮は傭兵なのでこんなものである。
それを差し引いても、多分戦闘面で彼らに直接貢献できたのは初めてのことだったので、本当に腹など立ってもいなかった。
むしろ諸々、いい経験になったとさえ思える。
「それは良いのだが」
そこに口を挟むのはグレイグさま。
低い声はただ今回の勝利を喜ぶばかりのものではなかった。
まだ次があるだろう、というような現実的なものだ。
「このとらおとこはなぜ捕らえた?」
睨むように見る先には拘束されたとらおとこのニャオスさん。
あのブギーの手下だけにダメな魔物が多かったのだろう。
逃げ出した(そうでなかったもののほとんどは元人間であり、それもあって犠牲はゼロだった)魔物がほとんどの中で唯一捕らえられ、小さくなって半べそをかいている。
「何か情報を持っている見込みでもあるのか?ならば我がデルカダール軍の方式に則った尋問で口を割らせるが」
「ひいいいっ!!」
悲鳴をあげる魔物。
「勘弁してくださいにゃ。勘弁してくださいにゃ。俺は何も知らないですにゃ。
ちょっと博打が好きなだけのしがないとらおとこですにゃ。
そしたら先月女房が間男のキラーパンサーと、子どもを置いて出て行っちまいやがってよぅ」
まるでだめなおっさん全開のニャオスさんに、困惑するデルカダール国が将軍。
「その…大変だな。お前も。子どもはかわいいか?」
「俺そっくりのかわいいボウズですにゃ」
「よしかわいくない!」
「失礼にゃ!」
そんなわけのわからない会話を遮る今日の勇者は。
「ちょっと全然おもしろくないわよ」
蹴りたいグレイグさまの背中ことマルティナさんだった。
完全に油断していたグレイグさまは守るべき姫に背後を許した挙句蹴り倒される。
なんとも残念な光景だった。
「姫…様」
「次つまんないこと言ったらキッついオシオキするって言ったわよね私?…で、」
マルティナさんはまっすぐ私を睨む。
「あなたでしょう、エルザ。このとらおとこ拾ったの。実際どうするの?生かしておくメリットってある?」
「いやそれなんだけど…」
マルティナさん(この人ちょっと性格悪くなってない?)の顔が直視できない。
下手を打ったらグレイグさまの二の舞だ。こういうことに関してはマルティナさんはそれこそ魔物並みに容赦ない。
「その…ここ何日かニャオスさん――あ、そのとらおとこの名前なんだけど。
ニャオスさんには良くしてもらってて、情が湧いたっていうか…」
「情?」
「うちで雇おうかなって」
「ええええええ」
一番驚いていたのは、ニャオスさんだった。が、状況に頭がついていってないらしく、質問を言語化できていない。
代わりに、どういうことなのかとロウさんが聞いてくる。
「皆さんがご贔屓にしてくれてるお陰で資金も貯まったからさ。こんな時代だけど、そろそろ故郷のデルカダールに家を買うか借りるかしたくて。
…でも滅多に帰れないだろうから、管理してくれる人を並行して探してて」
「最近の若いモンはくだらんことを考えよるわい」
言いながらロウさんはくつくつと笑う。割と型破りな王族だからか、こういうのはお好みらしい。
「…でも、ニャオスちゃんだって魔物よ?街に置いといて大丈夫なのかしら?」
非常に現実的なことをシルビアさんが聞いてくる。…確かにそういう問題はある。
が、ニャオスさんは多分思ったよりだめな魔物だ。
「いいい命を!たたた助けていただいた暁には!ボウズ共々誠心誠意エルザちゃん…様に仕えさせていただきますにゃ!」
土下座。何というか必死だった。
カジノには人間臭い魔物も結構いたが、ニャオスさんはちょっと群を抜いていた。
とらおとこのくせにあの暴動から生き残ったのも、それが関係してたのかもしれない。
暴れようとしてもワンパンでのびてたし。
「が…害はなさそうね。何というか」
シルビアさんはちょっと引いていた。こういうタイプは得意ではないのだろう。
「…エルザちゃんもあっしを拾ったネエさんと同じでしょう」
アリスちゃんが口を開く。
「何かピンとくるものがあったんじゃないでげしょうか」
「…それもそうね。野暮だったわ」
シルビアさんは苦笑して、しかし形のいい眉をあげ、びしりっとカッコをつける。
「エルザちゃん!でも餌はちゃんとあげること!散歩の時のフンは持ち帰るのよ!」
「承知しておりますシルビア先生!」
私は敬礼で応える。
その光景をペットじゃないんだからとマルティナさんはつまらなさそうな顔でツッコむが、少しだけ微笑んでいる。
勇者様の反応がここに来て少し気になった。というか今まで忘れてたが、楽しそうな顔をしていた。
「あああありがとうございますにゃ!ありがとうございますにゃ!!!」
歓喜にむせび泣くニャオスさんをよそに、私は改めて聞く。
「ところで、これからみなさんはどうするの?」
ロウさんが答えた。
「もうわかっておると思うが、まだ散り散りになった仲間がいるからの。
あいつらを探しにクレイモラン地方へ向かうつもりじゃ」
エルザは?と聞きかえされたので答える。
「私はニャオスさんを連れて一旦デルカダールに帰ろうと思ってる。仕事も教えなきゃいけないし」
ニャオスさんも私に従うと同意した。
「…とても、言いにくいのだが」
そこに、また唐突にグレイグさまが口を挟む。どうやら話の腰を折るのが趣味のようだ。
と嫌味の一つでも言いたくなるが、内容は思ってたよりも深刻だった。
「デルカダールはすでに街も城も魔物に攻め滅ぼされている。しかも王の勅令で現在立入禁止だ…」
「えっ」
とりあえずその後勇者様一行と別れた私とニャオスさん(とボウズくん)は、グロッタのカジノの再興に力を貸すことにした。
ニャオスさんはさすがのパワー系の魔物だけあって人間の数倍以上も働き、すぐに信頼を得ていった。
この街には戦士も多いからという理由で、私はニャオスさんを一旦グロッタに置いて、また流れの傭兵として旅に出ることにした。
ペットのエサ代を稼がないといけないからね。
久々に、晴々とした気分だった。