ガンダムビルドモバイル Puzzle G/B   作:ウルトラゼロNEO

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第一章 目醒めし最強の遺伝子
パープルアイ


 ──“あの日”の記憶はあまりない。

 

 確かに覚えているのは全身を駆け巡るような衝撃の後に徐々に重くなっていくような身体と暗くなっていく視界。

 

 目を覚ました時、最初に見たのは見慣れない天井と自身に取り付けられた医療器具。そして……。

 

「ヒマリ……。ヒマリぃっ……!」

 

 大粒の涙を零しながらぐしゃぐしゃになった顔で私の手を握るタツ兄とアヤ兄。そしてお父さんとお母さんの姿だった。

 

 ・・・

 

 温かな朝日を受けながらもぞもぞと上体を起き上がらせたのはマトイ家の末っ子であるヒマリであった。

 枕元に置いてあるスマートフォンのアラームを停止させて時間を確認してみる。いつもの起床時間よりも早く起きられたようだ。タツヤは今頃、ルーティーンのマラソン等の運動をしている頃だろうか。

 

 起床したとはいえ、いつまでも行動を起こす素振りを見せないヒマリ。まだ覚醒しきれていないのだろうか。

 ふと窓から見える電信柱に止まっている囀っている鳥を見かける。今まさに鳥は飛び立とうと翼を広げており、すぐに快晴の空を舞うことだろう。

 

「……」

 

 ……しかしその姿を瞳に映すヒマリの瞳には鳥の動きがあまりに鈍重に見えた。

 まるでスローモーションの動画を見ているかのように鳥は漸く飛び立ち、やっと一振り二振りと翼を動かして空を飛んでいる。

 

 寝ぼけているのだろうか? いやヒマリにとってはそんな鳥の動きでさえ、その“紫色の瞳”に普段通りの事ように捉えていた。

 

「あっ……」

 

 ヒマリの視界には全てがスローモーションのように見えるなか、ふと窓には見慣れた姿が見えてくる。見慣れた柔らかなポニーテールを揺らし、走って来るタツヤの姿だ。大切な長男を視界に捉えたヒマリの瞳はいつの間にか普段の“翡翠色の瞳”に戻っており、身支度を始めるのであった。

 

 ・・・

 

「…………来ないね、新入部員」

 

 部活紹介から数日が経った夕暮れのガンプラ部の部室。茜色の空が眩しい程に広がるなか、部室内にサナの呟きが木霊する。輝かしい青春などとは程遠く部室にはタツヤ、トウマ、サナの三人しかいなかった。

 

「二、三年生は例の噂のせいで敬遠してくるだろうと予想できたが新入生の希望者もゼロとはね」

「例の噂?」

「口に出したくもない……。迷惑な噂だよ」

 

 マトイ兄弟とトウマのバトルを機にバトルの参加者も出てきただけあって新入生からも希望者がいないのは予想外だったのは言うまでもない。

 トウマの言葉から部活紹介の時から気になっていた噂について尋ねるもトウマは露骨に眉間に皺を寄せ、サナも余計に表情が暗くなっていく。この噂についてはずっとこの調子でアヤトも似た反応をする。

 

「まあ、来ないものはしょうがないよ。暗い話はやめにして、部活部活っ。漸くタツヤも来てくれるようになったしね」

「ああ。これまで通り家の手伝いをしながら、だけどな」

 

 ただでさえ人数が少ないのに暗い話をしたため、どんよりとした空気が満ちていく。それを振り払うようにムードメーカーでもあるサナが話題を切り替えてタツヤを見る。部活紹介の日に言っていた通り、都合を合わせてガンプラ部に顔を見せるようになったタツヤ。無茶な勧誘であったことはいまだに自覚している為、この結果は喜ばしい。

 

「都道府県大会まであと二週間。とにかく実戦を繰り返して個々の力を底上げしよう」

 

 とここまで何気なしに会話に加わっていたタツヤの動きがピタリと止まる。

 都道府県大会なんて話は今、初めて聞いたし、何よりそれまでの日数があと二週間しかないなんて寝耳に水もいいところだ。

 

「二週間後の大会は所謂、新人戦的なものだから気楽にいこっ!」

「勝ち抜いても全国大会へはつながらない。各校のエースは出場を見送るかもしれないが、とはいえ実戦に勝る経験はない」

 

 そんなタツヤに気付いたのだろう。安心させるようにニコニコと笑って励ますサナに頷きながらトウマは変に気負う必要はないとフォローする。

 

「……そうだな。どうせなら当たって砕けろだ。この二週間、二人の胸を借りるつもりで行くよ!」

 

 元々体育会系気質なところがあるのだろう。話をすぐに飲み込んだタツヤはすぐさま切り替えて短い時間の間、二人の技術を見て体感し少しでも自分の糧にしようと練習に臨むのであった。

 

 ・・・

 

 そんなガンプラ部とは裏腹に支度を整えたアヤトは一人、帰ろうと校門へ向かおうとしていた。

 周囲には部活に向かおうとする者、もしくはアヤトのように下校しようとする者など思い思いの行動を起こしていた。

 

 キラキラと部活へ勤しむ情熱溢れる生徒達とは対照的に燃え残った灰のような色褪せた瞳のまま、どんよりとした足取りのアヤトであったが……。

 

「アーヤ兄ぃーっ!」

 

 快活な声と共に降ってきた軽い衝撃をよろけそうになりながらも何とか踏ん張る。後ろから首もとを抱き締めてくるか細い腕と馴染みのある甘い香りにもう誰だか検討は着いているのだろう。振り返ってみれば予想通り、ヒマリがいたのだ。

 

「どうしたのアヤ兄、もしかして帰っちゃう?」

 

 ヒマリなりのスキンシップにポンポンと頭を撫でていると無邪気に問いかけてくる。当のヒマリはというと特に鞄を持っているわけでもなく恰好も奏海高校指定のジャージの為、まだ学校に残るようだ。

 

「……そういうヒマリは?」

「部活っ! ……ってぇ言っても仮入部だけどね」

 

 ガンプラ部の活動に参加せず、幽霊部員である事自体に負い目は感じているのだろう。

 咄嗟に話題をヒマリに逸らすと妹は相変わらず元気いっぱいに答える。部活紹介から数日後、確かに今は仮入部の期間内だった筈だ。

 

「何の部活にしたの?」

「チアリーディング部っ! 入学前からずーっと入りたかったんだっ! ヒマリ、柔軟には自信あるしっ」

 

 そう言えば学校での生活は何気なしに聞いていても部活については聞いていなかったなとこれを機に聞いてみれば、どうやらチアリーディング部に強く憧れていたのだろう。幼子のような瞳を輝かせながらその場で片足を大きく上げて両腕で抱えて見せた。所謂I字バランスという奴だ。

 

「家でI字バランスが出来るのはヒマリだけなんだよっ! 昔、新体操やってたお母さんももう出来ないって言ってたしっ!」

「……ヒマリ、分かったからこんな往来で止めなって」

 

 ぼちぼち部活などで人が捌け始めたとはいえ、ここは廊下だ。そんな場所でI字バランスなんてやれば注目が集まる。しかし当のヒマリは気づいてないのだろう。綺麗な体勢のまま褒めて褒めてとばかりに無邪気に話すが、恰好がジャージとはいえ流石に見かねてか、アヤトがすぐに止めさせる。

 

「アヤ兄は柔軟はどうなの? タツ兄は元々運動も柔軟もキチンとやってた人だからY字バランスは出来てたけど」

「俺がY字バランスなんてやったら荒ぶる鷹のポーズみたいになる」

 

 タツヤとヒマリはタイプとしては同じ部類で家でも共通の話題があるのだろう。逆にどちらかと言えばインドア派のアヤトはたまに運動する程度でタツヤやヒマリ程ではなく柔軟も同じように自信がないのだろう。自嘲めいた乾いた笑みを見せた。

 

「ヒマリーぃっ」

 

 例え正反対のタイプでも仲は良いのだろう。顔を合わせればついつい長話に発展するマトイ家次男と末っ子の時間は思わぬ来訪者によって崩される。声に誘われるまま視線を向けて見れば、そこには二人の少女の姿があったのだ。

 

「こんなところで何を? これから部活だろう?」

「ごめんごめん、ちょっとお兄ちゃんに会ったから」

 

 二人組の少女が合流してくるなか、ヒマリに声をかけてきた少女とは違うもう一人の凛とした雰囲気の少女が男性言葉で話しかけてくるとヒマリは道草食った理由を明かせば、二人の少女の視線はアヤトに注がれる。

 

「へぇー、ヒマリのお兄ちゃんか。中々可愛い顔だね。でもフウカちゃんの方がもぉーっと可愛いけどね!」

「馬鹿者。まずは挨拶からだろう」

 

 ヒマリに声をかけてきた少女はお調子者なのか、フフンとどや顔を見せるものの間髪要れずに隣の少女が後頭部にチョップを振り下ろし、どや顔は一転して淚目に変わってしまう。

 

「失礼致しました。私はスエナガ・アオイと申します」

「私はカミシロ・フウカ! よろしくねーっ!」

 

【挿絵表示】

 

 改めるように軽く咳払いをしつつ畏まった態度で挨拶をしてくる少女……スエナガ・アオイ。切れ長な瞳とサイドテールが印象的な少女だ。

 

【挿絵表示】

 

 そしてもう一人はウインク混じりにピースをするヒマリに負けず劣らずの活発な少女であるカミシロ・フウカ。よく友人を家に招くヒマリな為、ある程度、ヒマリの友人は知っていたがこの二人は初めて出会った為、大方、入学後に知り合ったのだろう。それにしても入学から数日で名前で呼び合える程度に親しくなっているとは我が妹ながら感服してしまう。自分にはそこまで出来ないなと思いながらアヤトもアオイ達に倣って自身も簡単に自己紹介を済ませるのであった。

 

 ・・・

 

 一方、タツヤ達がそれぞれの時間を過ごすこの町に一人の来訪者が訪れていた。

 無骨なトラックがハザードランプを点滅させて道幅に寄せれば程なくして、助手席からは無骨さとは正反対の麗人のような印象の少女が降りてくる。

 

「じゃあ嬢ちゃん、今度は道に迷わないようにな」

「一時はどうなるかと思ったが辿り着けて何よりだ! 素晴らしい御仁との出会いに改めて感謝する!」

「ははっ、大袈裟だなぁ嬢ちゃんは。んじゃ、あばよ!」

「うむ、あばよっ!」

 

 どうやらヒッチハイクでこの町までやってきたようだ。

 開かれた窓越しに親しみやすそうなドライバーと小気味の良いやり取りを終えながら少女は去っていくトラックをブンブンと手を振って見送る。

 

「──さて、漸くといったところか」

 

 トラックを一頻り見送った後、仕切り直すように一呼吸置き、改めて自分がこれから足を踏み入れるこの町へ向き直る。先程までの溌溂とした様子から一転、その薄紅色の瞳が一瞬だけ“紫色の瞳”に変化すると確信を得たように堂々とした足取りでその腰まで届くポニーテールとロングカーディガンを靡かせながら突き進んでいくのであった。




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