ガンダムビルドモバイル Puzzle G/B   作:ウルトラゼロNEO

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俺の色

 バトルフィールドとなったのは建造物が立ち並ぶ昼の市街地ステージであった。

 協力プレイということで敵となるCPU機が出現するなか、一斉に空を見上げ始めたではないか。すると間髪入れずに太陽を背に二機のガンダムが落下してきて、ビルの合間に着地する。

 

 膝をつき、音を立てて降り立ったのはソラーレRとルーナBだ。二機はCPUを確認するようにゆっくりと頭部を上げると静かに起き上がって並び立つ。

 

「まさかソラーレと並び立つ日が来るなんて……」

 

 チラリと隣のソラーレRを見ながらアヤトが感慨深そうに呟く。どちらもアヤト製のガンプラだ。だがそれ以上にアヤトからしてみれば、ソラーレRを操るのがタツヤであるのが嬉しいようで上機嫌だ。

 

「しっかし前々から思ってたけど、ビルの作りこみ凄いよなぁ。窓の中まで作りこまれてるし、ミニチュアみたいだ」

 

 そのソラーレRは近くのビルをペタペタと触りながら窓から中の無人のオフィスの様子を見て、その作りこみに感心している。最初のバトルで鉄塔を武器にしたことはあったがどれも本物に遜色ない作りこみであった。

 

「ガンプラバトルはフィールドも売りにしててね。フィールドは実際にモデラーが作成したジオラマをスキャニングしてステージにしてるんだよ。だからビルにぶつかったり、触れられたりするわけ」

「へぇー」

 

 フィールドの作りこみに圧倒されているタツヤに苦笑しながらフィールドについても触れるアヤト。その説明を耳にしながらひょいと拾い上げた自動車を見つめては「凄いもんだなー」と唸るとそのまま地面にそっと戻す。

 

「俺さ、ジオラマとかミニチュアとかよく知らないんだけど、でも見てて飽きないんだよな」

「タツ兄って結構子供っぽいところあるもんね」

「はぁ? 良いか、アヤト。そういうのは自分が子供じゃないって思ってる奴がよく言うんだよ」

「いやいや、俺はタツ兄ほど子供じゃあ──」

 

 改めて作り込まれたステージに感心していると夢中になっている姿を見て何気なく放ったアヤトの言葉にからかわれたタツヤは眉尻をあげながら言い返すとそれはそれでアヤトの顰蹙を買ったのか、言い合いが勃発しそうになるなか、ふとセンサーが緊急を知らせるアラートを響き鳴らす。

 

 誘われるように見てみれば、既に横一列に並んでいたNPC機達が一斉に装備していた重火器のトリガーを引き、豪雨の如くソラーレRとルーナBに注ぎ込まれる。

 

「「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ”っ”っ!!!!?」」

 

 喧嘩していたのも束の間、ソラーレRとルーナBは回避するのもままならず、それだけではなく先程まで感心していたビルの崩落に揃って巻き込まれてしまう。

 

「うわぁ……だっさー」

 

 それを端から観戦モニターで見ていたヒマリは兄達の醜態に嘆息してしまっていた。

 

「もぉーっ! タツ兄の馬鹿話に付き合ってるからっ!」

「いやいや、言い出しっぺはお前だろっ!」

 

 妹の呆れも知らず、瓦礫から状態を起こした二人は尚も口喧嘩をしてしまっている。

 だめだこりゃとヒマリがバトルの結末を予感するなか、二機のセンサーにアラートが鳴り、それと同時に再びソラーレRとルーナBに対して攻撃が仕掛けられようとしていた。

 

「危ない、アヤトっ!」

「あべっ!?」

 

 これ以上の攻撃を受ける気はない。咄嗟に隣で顔を突き合わせて喧嘩していたルーナBの顔を押し退けながらバックパックの二門のヴェスパーを放つと光り輝く二つの一線が二機のNPC機を貫き爆発させる。

 

 まだNPC機は残っている。強化ビームライフルの銃口を向けようとした瞬間、ソラーレRの真横からビームが走り、鋭い一撃がまた一機撃破する。

 

「タツ兄、思いの外、ソラーレRを使いこなせてるね」

 

 そのままメインカメラを動かしてみれば、押し退けられた影響で横たわっているもののビームライフルをさながら狙撃手のように構えているルーナBの姿があった。瞬時にヴェスパーの使用に踏み切った瞬発力など今日、本格的にガンプラバトルを始めた人間にしては上出来だ。

 

「だったらこっちも負けてらんないかな」

 

 だがガンプラバトルであればアヤトの方が一日の長がある。

 ルーナBはビームライフルを肩部の高性能センサーに接続すると瞬時にNPC機達を瞬く間に狙撃していく。機体特性としてソラーレRが中距離戦を主とするならルーナBは遠距離による狙撃戦を主とするのだろう。

 

「よし、タツ兄、援護は任せて好きに戦ってっ!」

「分かった!」

 

 先程までの喧嘩が嘘のように兄弟は短く意思疎通を交わすとグッと握ったマニピュレータ同士を打ち合わせてそれぞれの行動を起こす。一時はどうなるかと感じていたが結果、ソラーレRとルーナBの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

 セレクトMに帰ってきたタツヤ達は言われた通り買ってきた豆腐をアキに渡し、今日は三兄妹の大好きなすき焼きを食べてほくほく顔で舌鼓を打っていた。その後、閉店作業が行われるなか、厨房ではタツヤの姿があった。

 

 エプロン姿で包丁を握るタツヤの前には皮が剥かれた玉ねぎが何個か置かれており、それを手慣れた様子で0.数ミリかの極薄にスライスしていく。これはサラダやサンドイッチなど多岐に渡って使用するため、仕込みの作業ではまず欠かせない。

 

「おいおい、タツヤーっ。聞いてくれぇぃ」

「……なんだよ、父さん」

 

 用意した全ての玉ねぎをオニオンスライスに切り終えたタツヤは辛味を抜くために水で浸す。作業の一つが終わり一息ついている矢先、ハット帽子をかぶり、タツヤと同じくセレクトMのエプロンを着用した中年男性が絡んできた。

 

 彼はタツヤの言うように父親であり、このマトイ家の大黒柱でもあるマトイ・トモハルだ。

 

「新商品でなっ、杏仁珈琲を出そうと思ってんだよ! これ、試作品」

「また妙ちくりんな……。杏仁自体、好き嫌いが別れるだろうに」

「食べ物なんてそんなもんだ。何であれこういう積み重ねが大事なんだ。父さんなぁ、何れこのセレクトMをカフェの本場イタリアでも構えたいんだよっ」

「子供の頃から聞いてるよ」

 

 グイグイと子供のように瞳を輝かせて新商品の試作品を勧めてくるトモハルだが、タツヤ自体、あまり杏仁が好ましい方ではないのか顔を顰めていると「あれ、お前杏仁嫌いなの?」と首を傾げながら一口飲んで改めて自分の夢を語るも幼少期から耳に胼胝ができるほど聞いているのか、苦笑気味だ。

 

「ねーねー、タツ兄」

 

 父親と何気ない会話をしていると厨房に部屋着姿のヒマリがひょっこりと現れて、タツヤに声をかけてきた。

 

「なにか甘いの飲みたいの」

「おい、ヒマリ。こんな時間に飲んだら太るぞ」

「でも、飲みたいんだもん。ねーねー」

 

 どうやらタツヤに何か飲み物を作ってもらいたいようだ。しかし時間にしてみればもう少し経てば日付も変わる時間だ。ヒマリも年頃のため、一応注意するものの駄々っ子とまではいかないまでも我儘な子供のように背後からタツヤに抱き着いてぐらぐらと揺する。

 

「……分かった分かった。いいよな、父さん」

「ん? まあ一杯くらいならなー」

 

 観念したようにため息をついたタツヤはいまだ新商品の開発に頭を悩ませているトモハルに声をかけると父の承諾もあって、ヒマリは手放しに「やったー!」と喜んでいる。

 

「太っても泣きつくなよ」とヒマリに釘を刺しつつタツヤはアイスドリンク用のグラスにハチミツを底が浸るまでかけるとその上に熱々のコーヒーを少量をかけて、ロングスプーンでかき混ぜるとそのままアイスコーヒーを三分の一注ぎ、そこに更に牛乳を同様に注ぐと最後に氷を何個か入れる。

 

「はい、アイスハニオレ」

 

 手慣れた様子でドリンクを完成させるとそのままヒマリにカフェオレ特有の薄茶色のハニオレを渡すとヒマリは「ありがとー」と礼を口にしながら用意したストローでちゅーと一口。

 

「おいしーっ! はあぁ……ハニオレ飲むとね、アヤ兄を思い出すんだ」

「なんでまた」

「タツ兄もアヤ兄も声質も中性的って言うかね、アヤ兄はハニーボイスでタツ兄はキャラメルボイスなんだよねー。だからキャラメルマキアートとか飲むといっつもタツ兄を思い出すんだー」

「キャ、キャラメル……?」

「カラオケとか行くとさ、二人とも甘ったるくて蕩けるような声で歌うじゃん? でもくどくなくてもっと聴いてたいくらいな感じ」

 

 幸福感を表すように蕩けた顔を見せながら片付けられた客席の一角で何やらガンプラだけではなくノートを広げてペンを片手に頭を悩ませているアヤトを見やる。

 あまり自分の声を意識したことはないのか、アヤト共々甘味料に声質を例えられて何とも言えない面持ちを見せるタツヤだがヒマリはその間に飲み終えたのか、グラスを手早く洗うと「おやすみー」と礼の言葉と共に自身の部屋へ向かっていく。

 

 その後も売り上げ処理をしているアキに代わって仕込み作業をこなすタツヤだがアヤトは変わらず何か悩んでいる様子で店内にいる。その姿を横目で見ていたタツヤはチラッと近くに置いてあるサンドイッチ用に薄く切られたブレッドを見やる。

 

 ・・・

 

「よっ」

 

 いまだ頬杖をついてペン先でノートを叩いているアヤトだがふと頭上から声を掛けられる。

 そこには気さくな兄の姿があり、手に持った皿ごと向かい側に座ると邪魔にならない位置に皿に乗ったサンドイッチを置く。

 

「差し入れ。あんま根を詰めすぎるなよ」

「うん……。まあちょっとガンプラで悩んでて」

「コンテスト用のジオラマとか?」

「それもあるけど……今は違う。ソラーレとルーナのこと」

 

「父さんと母さんには内緒な」と人差し指を鼻筋に当てながら話すタツヤに「共犯だね」と微笑んだアヤトはサンドイッチを手に取って二人で食べる。キュウリとハム、レタスで彩られたハムサンドは辛子マヨネーズのアクセントも加わって中々美味しく手軽に食べられた。

 その最中、タツヤは気分転換になればと何気なく話を続けてみれば、アヤトは近くに置かれているソラーレとルーナを見やる。

 

「ソラーレとルーナは兄弟機みたいなもんなんだよ。だから二機を作る上で互換性を重要視して作ったんだ」

「へぇ……」

「ソラーレはロッソパック、ルーナはブルパック。それぞれ中距離と遠距離に対応したパックなんだけど実はこの二つは装備を入れ替えて戦う……“ビルドチェンジシステム”を採用したんだ」

「えーっと……つまりはブルをソラーレに組み込んで、逆にロッソをルーナに……って感じか。その時々の自分に合わせられるんだな」

 

 話に付き合っているタツヤだがガンプラどころかガンダムに対して詳しい知識がない為、アヤトとは少し温度差があるもののソラーレとルーナを交互に見ていると目の前でアヤトによってひょいと二機とも持ち上げられ、そのままガチャガチャとソラーレとルーナのパーツを外して取り付けていた。

 

「そういうこと。"俺色に染め上げろ"……いや、俺色に組み上げろってとこかな。とまぁここまでは良かったんだけどね。そろそろ違うパックを用意しようとは思ってるんだけど、中々案が浮かばなくて」

「コンセプトは?」

「色々浮かんでるんだけどね。パーツを買うにもお小遣いの範囲内とかそれを手掛ける俺の技量とか考えるとより複雑になってくって感じ」

 

 両腕とバックパックを取り替えた二機はそれだけなのにまた違う印象を受ける。

 とはいえアヤトとしてはまだロッソ、ブルに続くパックを作りたいのか、その為に悩みに悩んでいるらしく、そんな弟の姿にタツヤは苦笑気味だ。

 

「そうだ、タツ兄。ちょっと気分転換にガンプラバトルに付き合ってよ」

「……こんな時間にガンプラバトルは出来る場所はやってないだろ」

 

 このままでは埒が明かないと気分転換に無邪気にガンプラバトルを提案するアヤトだがもうそろそろ日付も変わる時間ということもあってタツヤは厳しく眉を顰めて渋い面持ちを見せる。

 

「ここで出来るんだよ、スマホさえありゃね」

 

 しかしタツヤのその反応も織り込み済みだったのか、「ふっふーん」とシートにもたれながら自身のスマホを見せつけてくる。

 

「スマホで通信してバトルが出来るんだよ。まあ流石に筐体を使った本格的な事は出来ないけど、慣らし運転とかちょっとした暇つぶしなんかで手軽にね」

「そんなことも出来るんだなぁ……。まあそれくらいなら」

「よしきた。じゃあ早速、ソラーレとルーナの装備を戻しって、と……」

 

 何と手持ちのスマートフォンでも簡易的ではあるもののバトルが出来るらしい。

 家で手短にやる程度ならタツヤも文句はないのか、自分のスマートフォンを取り出すとアヤトは早速、お互いに扱いやすいパックにソラーレとルーナを換装させる。

 

「……ありがと」

 

 ソラーレRをスマートフォンを操作しているタツヤの前に置き、その姿を重ねながらふと何か思うように目を細めたアヤトは静かにか細い声で感謝の言葉を口にする。

 タツヤはガンダムについて詳しくない。ただサナにしろアヤトへの対応にしろ、お人好しなのだ。今だってわざわざガンプラバトルに付き合う理由も自分の為にわざわざサンドイッチを作る理由もないはずだ。そんな兄の存在を改めて感じて自然に出た感謝だった。

 

「なにか言ったか?」

「うぅん。それじゃあスタート、ってことで!」

 

 とはいえあまりにか細い声だったため、タツヤには何か話したのは認識できても何の言葉だったのかまでは分からなかったようだ。聞き返すタツヤに首を横に振ったアヤトは誤魔化すようにバトルをはじめ、結局二人はアキに怒られるまでバトルをしてしまうのであった……。


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