綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
こんなの初めてだ。
自分は捻くれ者で、欲らしい欲も薄い人間だと思っていた。だって、あれ程に綺麗なお姉様が寄り添っても冷静でいられたのだから。華やかな美貌、お日様の様な笑顔。何よりポカポカ優しい心だって。そんな
寧ろ、プルプルする姿を……宝石と見紛うばかりの姿形を眺め、それでも冷静でいるつもりだったのに。なのに今、身体が震えているのは僕だ。いや、それ以上に心だって叫んでる。
そう、間違いない。
これが"欲望"だ。ルオパシャさんを吃驚顔で見詰めるお姉様を、その全てを自分の手に掴むんだと。これはもしかして、三大欲求の一つ"性欲"なのかも。睡眠欲も食欲もお姉様のおかげで満たされていたから気付かなかった。ううん、知らないふりして諦めてたんだ。
真白のルオパシャさんの言葉。
『ああ、そう言う意味か。それなら案ずるな。始原が種を超え血を広げた方法を妾も扱う事が出来るのじゃ。まあ、完成したのは最近ではあるが、ジルに我が精を注ぎ込むのに障害はないぞ』
種も性も理論的には超えられるって。
魔素を古竜並みに扱えなければならない? 僕の
この震えを止める必要があるだろうか?
ううん、そんなの意味なんて無いだろう。ただ気持ちに従うだけでいい。
「シャルカさん」
「何かしら?」
僕の雰囲気も、声音から漏れる緊張も分かってるだろうに、お姉様のお母さんは軽く返して来た。全然驚いてないし、予想通りって表情が物語ってる。多分シャルカさんは分かってたんだ。思い返してみれば、意味深な質問を何度か受けていたし。
だったら小細工は要らない。真っ直ぐに伝える。千切れそうな細い糸でも手繰り寄せるんだ。
「私も
同時に、ルオパシャさんの興味を惹く言葉を選んで。
『ほぉ……この妾を退けると言ったか。面白い! シャルカよ、この者も参加させよ! お主が勝った暁にはジルを孕ませる方法を伝授してやる。まあ学ぶ事など不可能じゃがなぁ!』
よし、引っ掛かった。
満面の笑みには嘲りも含んでいる。お前に出来るのか、いや出来ないだろうって。でも、誘いに乗ってくれたならそれでいい。
「タタタ、ターニャちゃん、どうしたの⁉︎ 幾らあの才能があっても危な過ぎるよ!」
あ、お姉様の反応を忘れてた。
不安そうな表情を見れば心の中の声が聞こえてきそう。少しの危険だって許さないから!って叫んでるのが分かる。まあ普通に考えて危ないもんね。僕の才能は戦いに向いてる訳じゃないし、そもそも方法だって学んでない。
「はい、分かってます。お姉様の力が必要ですけど……私を支えてくれますか? 以前誓ってくれました。大切な妹だと、大好きだって、必ず守るって」
それが家族としての親愛だとしても。
「で、でも、私は……お姉ちゃんで、同性で……」
「種も性も超えられます。ルオパシャ様が言いました」
姉妹愛じゃない別の何かにしてみせる。
「え⁉︎ え、だって、私、ターニャちゃんにフラレて……」
変なこと言ってる。まあお姉様だし、何か勘違いしてるんだろう。でも
「フラレ? 私は最初から今もお姉様が大好きですけど?」
「ま、まさか、れ、れ、恋愛的に? ラブ、な感じ、ですか?」
「ふふふ……お姉様、片言でプルプルしすぎて可愛いですよ?」
気持ちを無視した結婚なんて最初から許せなかった。なのに今はそれを利用してる。だから僕はきっと、最低な奴だろう。
でも、誰にも渡したくない。
◯ ◯ ◯
「最初にお詫びさせて下さい。全力で戦った皆様なのに、途中から参加なんて卑怯だと思います。でも、私にも参加資格があったなんて知らなかったんです」
ツェイス殿下、魔王陛下、そしてクロエリウス。此処に居る誰もがお姉様に惹かれてしまった者達だ。僕よりずっと長く想い、時を待っていた。だから自分の悪足掻きを感じるけれど、絶対に退けない。ホントに参加資格があるなんて知らなかったんだから。
きっと怒られるだろう。卑怯者だと罵られても反論なんて出来ない。これだけはお姉様に助けてもらう訳にいかないし。
「……最初から分かっていたよ」
「ツェイス殿下?」
震える身体を自覚したとき、ツェイス殿下がボソリと言った。何故か怒りを感じない不思議な笑み。
「愛する人は誰なのかを」
そっか。ツェイス殿下にもバレバレだったんだ。僕がお姉様を恋愛的に好きなんて、分かり難いと思ってたけど。
「それどころか、シャルカ皇妃陛下も同じだろう。さっきのキミの要望にも全く驚いていなかった。当たり前だが、そんな話なんて一顧だにしないのが普通だ。大体、嬉しそうに笑っていたしな」
やっぱり凄い人だな、ツェイス殿下。
「だが、二人は姉妹として歩んでいくのだろうと、そう考えて不安を見ないようにしていた。例え相思相愛だとしても、キミたちは同性だからと」
相思相愛……?
「えっと……」
ほら、お姉様も戸惑ってる。
「まさか隠してるつもりだったか? やっぱりジルはジルだな。あれでバレてないと思ってるなんて」
「つまり……好きなんですか? シャルカ皇妃陛下が言っていた人って」
シャルカさん? 何の話?
「クロエリウス。ジルの顔を見たら簡単だろう」
「私? か、顔?」
あ、真っ赤っか。今まで見た中で一番かも。白い肌も耳も、ちょっと涙目だし。
「……まあこれだけ真っ赤で、足なんて仔ウサギみたいにプルプルしてますからね。疑うのもバカらしいですけど」
何だかよく分からないけど……お姉様も僕を大切に想ってくれてる事は間違いない。
「お姉様の魅力にやられたのは男性だけじゃ無いんです。すいません」
だから僕も正直に言葉にするだけだ。困った顔のお姉様も可愛いからね。
「タタタターニャちゃん? それってつまり、えっと、アレだよね、意味として」
ほら、水色の瞳が僕を見詰めてくれてる。
「ふふふ」
「……誤魔化した!」
「面白い、さすがジルだ。だが、我はまだ諦めてはいないぞ。人の心は移ろい、そして流れていくもの。ましてやどうやってルオパシャに認めさせるつもりだ? いや、我らもだ」
魔王陛下も認めてくれたのかな。よし、漸く同じ立場で戦える。
「……そうですね。でも、私だってお姉様を奪われるのイヤですから。必ず認めさせますし、自信だってありますよ?」
「ふん、やはり面白い。我にとって元々不利な戦いだが、興味を惹くのが上手い……良かろう。あの白竜を黙らせる方法があるなら聞こうじゃないか。ジルが本気を出せるなら状況も変わるが、そもそも当たり前にやったらあっさり負けるぞ?」
だから、堂々と宣誓する。
「はい、私が何とかします」
「私の
隠し事は無しだ。お姉様に禁止されてるけれど、この人たちには話さないといけないだろう。
「抑える?」
魔王陛下の眉が歪んだ。ツェイス殿下やクロエリウスも怪訝な表情を隠してない。何よりお姉様がアタフタしてるし。
「タ、ターニャちゃん。まさか全部話すつもり?」
「はい。すいません」
「でも……ううん、一緒に戦うなら理解して貰わないと、だね」
予想通り、魔剣として、超級の冒険者として判断してくれた。強大な古竜に立ち向かうには隠し事なんてする余裕はない。みんなで戦わないと勝ちは拾えないんだ。
それに……もしルオパシャさんにお姉様を奪われしまったら、誰一人会う事も出来ない場所に連れて行かれるかもしれない。みんなだって望まないだろう。誰もがライバルだけど、同時に竜からジルヴァーナ皇女を守る騎士団だ。まあその皇女自身が戦うのは可笑しいけれど。
「剣も握れず、魔法を操ることも出来ません。でも誰にも負けないたった一つの力が有ります。こんな私よりお姉様……いえ、超級冒険者の魔剣その人から説明して貰った方が良いでしょうか?」
「ふん。ジルよ、我等が納得するだけの説明をして貰おうか。つまらない話なら、今からでも参加に反対するぞ」
言葉こそ厳しいけど魔王陛下は優しい人だ。
「魔王陛……あ、スーヴェインさん。ツェイス達もよく聞いて。でも最初に言っておくけど、知った後ターニャちゃんに危害を加えるような事をしたら、私が絶対に許さないからね?」
薄くニコリと笑ったお姉様だけど、水色の瞳は全然笑ってない。魔素が蠢き、空間が悲鳴を上げてると錯覚しそう。いや、お姉様に合わせた意思を魔力が持ったのかも。こんな怖い雰囲気を僕には見せないから驚いてしまった。本気になった魔剣には誰も勝てないって、やっぱり本当なんだろうか。
「ターニャちゃんは
「魔素を? 魔力じゃなく、か?」
「ツェイスの言う通り。魔力なら幾つか方法があるし、私だって似た事も可能でしょう。それにスーヴェインさんなら別の遣り方もあるかも。でも、ターニャちゃんは違うの。魔力を分解し、魔素も消えてしまう」
僕は……自分の才能を本当の意味で分かってなかったのかもしれない。お姉様の言葉を聞いた皆が、張り詰めた緊張を顔に浮かべている。
「魔素を消せるならば、魔法の全ては無意味だな。それどころか凡ゆる国々を混乱に落とす事も可能だ。我が魔国も、ツェツエもバンバルボアも崩壊するだろう。だが、魔素が消えるなど理論的に有り得ない。魔力は世界を循環し、漂い続けている。だが、消失したらどうなる? いつの日か魔力が世界から失われるのだ。ジル、消えた魔素の行方は分かっているのか?」
魔剣ならば当然に説明出来るだろう。そう魔王陛下は言っている。まあ僕も魔素の行方なんて知らないけれど……
「……スーヴェインさん。残念だけど、間違いなく
戸惑いもなく、はっきりと言った。其処にいつもの優しさも笑顔だってない。あれ? 何だか怖くなって来た。
「それは……つまり……」
「はい。恐らく、スーヴェインさんの想像通りです」
「……何者なのだ、この娘は」
魔王陛下がジッとこっちを見て、ツェイス殿下もクロエリウスも慄いているのが分かる。ズキリと胸が痛み、同時にお姉様が才能を伏せるよう言った意味も理解した。この世界にとって間違いない異物なんだ、僕は。「誰にも悪さなんてしない」そう叫びたくなったとき、すぐ隣から涼やかな音色が響く。
「ターニャちゃんですよ? 私の、大切な妹」
頭を撫でられて、沈みそうな身体と心がフワリと浮上した。もうそれだけで全部が許された気がする。はあ、ホント、この
「いつまでも妹でいる気なんて無いですからね?」
貴女を妻に迎えるんですから。気持ちの良い感触を頑張って無視して、お姉様の手から逃げてみる。
「えぇ⁉︎ やっぱり勝手にナデナデしたのが駄目だった……?」
いや、違うから。
さっきまであった緊張感は消えて、皆にクスリと笑顔が咲く。
「もし私が悪い事をしたら、お姉様が止めてください」
「え、うん。お姉さん、怒ったら怖いよ?」
「はい、知ってます。では皆様、作戦会議をしましょうか」