綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、泣きそう

 

 

 

 

 

 

 奇襲の多かったクロも接近戦を挑み。

 

 ツェイスは剣と魔法を交互に放つ。

 

 スーヴェインさんは大剣だけじゃなく、魔狂いと同じように攻性魔法を連発。

 

 ルオパシャちゃんはたった一人なのに、四人を相手取り一歩も退かない。しかも俺の動きを牽制するよう視線を届けながら。分かっていても古竜の力を垣間見て恐ろしさを覚える。

 

 そもそも冒険者協会が認める超級や超級クラスを相手にしながらだ。

 

「だめです。魔素の収束が全く衰えません」

 

「そっか」

 

 ぱっと見は防戦一方に見える。なのに収束は乱れない。つまり、アレで全力じゃないのだ。

 

 だから俺は、皆への治癒魔法すら最小限にして、あるかもしれない隙を探す。この試合唯一のチャンスを逃さないために。

 

 皆の汗が流れ、時に血が吹き出る。

 

 ハァハァと荒い息遣いはツェイスやクロだろうか。魔王陛下であるスーヴェインさんでさえも余裕は全く無い。魔狂いもキツそうだ。俺の単発の治癒だと間に合ってない。だけど、今は我慢だ。

 

『どうした! つまらぬ戦いに終始するなら直ぐにも終わらせるぞ!』

 

 そしてルオパシャちゃんは更に煽り、竜化を止める気もないようだ。だけど黙って戦い続けるツェイス達は、ただ隙を作る為に頑張っている。対古竜の戦い方はこれしかないのだ。

 

 駆け付けたい気持ちを抑え、俺はターニャちゃんの体温と柔らかさを感じているだけだ。

 

「……行くよ」

 

「はい」

 

 凄まじい破壊力が飛び交う戦場に少しずつ近づいていく。

 

 一撃でも喰らえば痛みで動けなくなるだろう風雷、時に姿が掻き消える魔力強化、そして複数の大剣と局所魔法が乱雑に飛び交い、そんな皆が離脱した瞬間爆裂する破壊的な殲滅。

 

 軽やかに受ける白い少女の所為で錯覚しそうだけど、どれもターニャちゃんにとって強力で致命的な攻撃なのだ。

 

 そんなターニャちゃんを抱えてだから心配だけど、みんなも必死に戦っている。思わずギュッと抱き締め直したとき、優しくて綺麗な声が聞こえて来た。

 

「私を気にしないで下さい。大丈夫です、お姉様。だから」

 

「……ありがとう」

 

 僅かにあった緊張も解れる。魔素だけじゃなく、人の不安も消せるのかな、ターニャちゃんって。

 

 ホントに久しぶりの、ある意味懐かしい魔法を準備する。

 

『ぬ⁉︎』

 

 魔力の収束を始めただけでルオパシャちゃんは警戒したようだ。まあ、隠蔽も特にしてないし驚く事じゃない。

 

 この魔法は、前世でよく見たアニメを参考にしている。と言うか、格好良いから真似したかったのだ。この世界の魔法は詠唱もなく、前段階の色々も存在しない。はっきり言えば地味で殺伐としている。戦いに必須な以上、目立つのは悪手なんだろうきっと。だから、これから行使するモノはある意味ナンセンスだ。

 

 ルオパシャちゃん達の上空に巨大な魔法陣が現れる。一段、二段、三段と生成され、それぞれが赤や青などに光り輝き、速度も微妙に違って回転している。まあ滅茶苦茶に目立つ訳だ。ちなみに、全てデザインが変えてあり、描かれた模様や文字も違う。何気に平仮名も混ざっているのは内緒だよ? 我ながら格好良い作品です、うん。

 

『なんじゃこれは? ジルの魔法か?』

 

 意味分からんとルオパシャちゃんは怪訝な様子。ツェイス達も足を止め、思わず上を見上げていた。この世界では存在しない魔法陣で、派手派手だもんね。ただ一つ、文句を言いたい。君達まで攻撃を止めちゃ駄目でしょ! 目立つけど無視してって伝えてたよね?

 

『派手じゃな。馬鹿らしいが、行使者がジルであるからには油断出来ない、か』

 

 お、ルオパシャちゃんの注意を引けたみたいだ。

 

 まあこのド派手な魔法陣に深い意味は……全く無いですけれど! 超絶美少女ジルちゃんの時代に、面白がって練習しただけだもんね。

 

 ゆっくりと前に足を出し、少しずつルオパシャちゃんに近づく。魔法陣の各所から小型の攻性魔法が落下し、地面や空気に爆ぜ始めた。その魔法陣は更に輝き出し、回転速度も僅かに上昇。非常に危なそうな雰囲気を醸し出している。まあこれも、そう見えるように俺が操作してるだけですけど。

 

「流石のルオパシャちゃんも、この魔法には耐えられないかもね。私特製のすっごいヤツなんだから、無理しちゃ駄目だよ?」

 

 ついでに煽ってみたり。

 

『ほほう! 良かろう、受けて立ってやるわ!』

 

 ルオパシャちゃん、分かり易い反応をありがとう。

 

 そこから動かないでね、お願いだから! 

 

 一気に竜化して真正面から受け止める気だろう。古竜本来の姿であれば魔法など効かないと自信があるし、単純に興味が唆られてるんだな多分。

 

 膨れ上がるルオパシャちゃんの魔力は膨大。俺が作った魔法陣にも迫り、陣の構成の邪魔をする。そして、その結果を見るためか、視線が俺から完全に外れた。同時に竜へと至る過程だろう身体が光り始めたのだ。

 

 よし!

 

 今、俺は魔力銀の装備を全くしていない。それでも、全身に満遍なく、薄く魔力を流した。不思議と久しぶりに感じる魔力強化は、白金の髪一本一本まで包まれる。何より、微弱な上に属性付与も無いから、ルオパシャちゃんは気付いてない。作戦通りだ。

 

 一歩、たった一歩、俺は駆け出した。

 

 直ぐ右を、光速な筈の紫電が並んで走っていく。

 

 立ち上がる炎の光と熱も置き去りにして、僅か数ミリの見切りで大剣の群れを躱した。今の俺たちとほぼ同様の超速で動くクロだけがゆっくりに見える。

 

 俺の首によりギュッと強く巻き付けたのは、ターニャちゃんの両腕だろう。そんな感覚も背後の空間へ流れ去った。

 

 距離のあった筈の真っ白な少女……ルオパシャちゃんはもう目の前。魔素が見えない俺でも感じる異常な魔力の量は、物理的な干渉を空間に与え始める恐ろしさだ。つまり、タイミングは()()しかない!

 

『……ん? なんじゃぁ? ジ、ジル! 巻き込まれるぞ! あ、あぶ』

 

 魔力強化の速度に気付いたのか、ちょい可愛らしい声をルオパシャちゃんが溢した。

 

 走り抜けざま、俺は可愛いルオパシャちゃんを力一杯に抱き上げる。そして勢いのまま戦場の中心から離れ、コロシアム擬きの壁際ギリギリで一気にブレーキ。ズザザと分かり易い音がして、俺たち三人は止まった。超絶美人のジルが、ターニャちゃんとルオパシャちゃんの美少女の二人を抱き上げている図……きっと良い感じでしょ?

 

『こ、こりゃ! 危ないじゃろう!』

 

「んー? 何のことかなぁ?」

 

『惚けるでない! 変化に巻き込まれるであろ……あ、あれ?』

 

「竜に変わるの? ホントに?」

 

『な、な、な、なん……妾の魔力が、き、消えた?』

 

 ターニャちゃんがしっかりとルオパシャちゃんの手を握っている。俺には見えないが、次から次へと魔力を消し去っている筈だ。ただ、ターニャちゃんにも余裕がないのは明らかで、フルフルと震える小さな身体やシットリと濡れた汗が証明している。今は互いに()()()()()()()()()()()()から、強く感じるのだ。

 

「今のルオパシャちゃんは可愛い可愛い真白の女の子、だよ? ツェイスの風雷もスーヴェインさんの大剣も、魔力で強化した私達も、あっちの魔狂いだって防げない。分かるよね?」

 

 ゆっくりと皆が近づいて来る。ツェイス、スーヴェインさん、クロ。エロジジイだけは遠くから眺めてるけど。視線がキモい、マジで。全力でない魔力強化の速度だろうとも、普通の衣服は衝撃に耐えられない。あちこち破れて解れてる。ちょっと恥ずかしいけど、今は他にやることがあるのだ。

 

 でもでも、やっぱり抱っこも良いなぁ。ターニャちゃんの肌も素敵だけど、ルオパシャちゃんの冷た目な皮膚は、思った以上にサラサラだ。竜鱗みたいな固さもない。

 

 うん。二人の美少女を抱き上げる俺は今、一番の幸せ者かも!

 

『信じられん。この娘の才能(タレント)か』

 

「ね、勝負は?」

 

 とは言え、ターニャちゃんにも限界がある。早く終わらせないと。

 

『……妾の負けじゃ』

 

「はーい。みんな、お疲れ様! ターニャちゃん、もう良いよ」

 

「は、はい。正直もう限界でした」

 

 クタリと俺に体重を預け、全身から力が抜けたのが分かる。僅かな時間だけど、古竜を鎮めたのはホントに凄い。

 

「うん、ご苦労様」

 

 ルオパちゃんや皆にも全力の治癒魔法を放ち、試合終了を告げる。

 

 本当にご苦労様でした、ターニャちゃん。

 

 因みにこれは、パサリと破れかけのスカートが落ちて、俺が悲鳴を上げる数秒前のこと。パンツは無事だったことを、喜んで良いのやら……はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

 

 

 数日後ーーーー

 

 

 

 

 

「ターニャちゃん、そっちのお皿を三枚お願い」

 

「これで良いですか?」

 

「うんうん」

 

 最近アートリスで見つけたソレは、綺麗なスクエア型で浅めな感じ。少し遅めの朝ご飯だけど、普段とは違う感じにしたかったのだ。何だかカフェっぽいかなって。

 

 カチャリと横に置かれた真っ白な皿、手を離すターニャちゃん、窓から差し込む陽の光、全部が眩しくて瞼を閉じそうになる。それとも涙が溢れてしまうかもしれない怖さが無意識に反応したのかな。

 

「……お姉様?」

 

 ターニャちゃんが怪訝そうに見上げてた。折角の晴れた朝だし、変な雰囲気はやめよう、うん。

 

「ん? 何でもないよ。新しいお皿、買って正解だったかなって」

 

 視線を逸らしつつ、焦げかけのベーコンエッグのお世話を再開。黄身はトロトロにしたいから、さっき軽く蒸し焼きした。多分良い感じのはずだ。

 

「はい、完成!」

 

「良い匂い……サラダとお茶も用意出来ました。お客様はそろそろですか?」

 

「うんうん。お庭に直接来るはずだから」

 

「直接、お庭に? あの……アートリスのみんな、驚きませんか、それって?」

 

「大丈夫だよ。隠蔽も出来るようになったらしいし、パパッて変身するんじゃないかな」

 

「変身したら、見た目は小さな女の子ですもんね。まああの方なら大丈夫でしょうか」

 

「だね」

 

 本来、天敵なんていない古竜に隠蔽なんて必要ないだろう。実際最初に会ったときに教えたら驚いていたしね。魔力がとんでもなく大きいから難しいと思ってたけど、サイズは問題なくて安心したもん。

 

 そんなことを話してたら、お庭の方に気配を感知。隠蔽も解いたみたいで、魔素感知にばっちり引っ掛かる。うーん、相変わらずとんでもない魔力だなぁ。

 

「あ、来られたみたいですね」

 

 ターニャちゃんも気付いたみたい。普段の練習には気合入ってるし、魔素のコントロールなんてヤバいなんてもんじゃない。当然に魔素感知も磨かれて、なかなかのレベルに到達している。気合いの入る理由は分かってるけど、ちょっと複雑な気分だ。

 

「お皿とか並べたりは私がするから、お迎えに行ってあげて?」

 

「あ、はい。行って来ます」

 

 タタタと軽やかな駆け足でターニャちゃんはキッチンから出て行った。はぁ、ついにこの日が来てしまったか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『久しいの、ジル』

 

「んー、そんなに日は経ってないよ? おはよ、ルオパシャちゃん」

 

『まあ、人種に合わせた挨拶じゃ。気にするな』

 

 ニコリと笑ったルオパシャちゃん、可愛い。服装は前の戦いの後に買ったヤツだね。チェック柄のワンピースだけど、橙色と水色が薄く入った全体は白を基調にしてる。裾は長めで膝下あたり。まあそれでも真っ白な手脚が出てて綺麗。ヒールが少しだけ高めのサンダルも似合ってるね。

 

「ルオパシャ様、こちらへ。朝食を用意してます」

 

 タイミングよくターニャちゃんが流石のエスコート。

 

『ほうほう! それは楽しみじゃ!』

 

 ルオパシャちゃんって御飯食べるの大好きだもんね。街に変身して来る目的の半分は摘み食いらしい。

 

「簡単な料理だけど、心は込めてるからねー」

 

『ジルが作ったのか?』

 

「うん、大切な()()()()()だから、それくらいしないとって」

 

『お主の作るモノは旨いから楽しみじゃの』

 

「ふふ、ありがと。でも私なんかよりターニャちゃんの方が凄いからね? 市場とかで有名人だし」

 

『ほほう。楽しみが増えるのは良いことじゃ』

 

「……そだね」

 

 淹れ立てのお茶を並べたターニャちゃんは、恥ずかしそうに席に着いた。その照れた顔を見れて幸せだよ。

 

「じゃ、食べよっか」

 

『うむうむ』

 

 フォークを持つルオパシャちゃんは、あの巨大な竜とは思えない。何だか面白くて笑ってしまった。

 

「いただきます」

「はい、召し上がれ」

 

『ん? 何じゃそれは』

 

「食べる前の挨拶です。食べ物になった食材達や、料理してくれた人に感謝の気持ちを込めて……確かそんな感じだったと」

 

『ふむ、言われてみれば、じゃな。では妾も、いただきます』

 

「どうぞー」

 

 二人の超絶美少女が料理に舌鼓を打つ姿。モグモグ動く口や顎、幸せそうに浮かぶ笑顔、次から次へと消えていく料理達。うん、可愛い。思わずベーコンを一枚プレゼントしちゃったよ。

 

 そして同時に、覚悟はしていたつもりの時間が迫っている。

 

 御飯を食べて、ターニャちゃんが淹れたお茶を愉しんだら、もうその時だ。

 

 そう。

 

 今日、ターニャちゃんは旅立つ。

 

 二人を眺めながら、あの戦いの後のことを思い出して……

 

 あー、やっぱり泣きそう。

 

 

 

 

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