綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「ルオパシャ様は認め下さったけれど、ジルヴァーナの母として未だ良いとは言ってないわ」
誓いのチューを止めた手を引きながら、お母様は厳しそうな声を出した。そこには悪戯や意地悪をする空気もない。慣れてるけど、それでもちょっと恐いのだ。
「ええ……?」
まさかお母様ってば反対なん? 拙いぞ、最も最強の恐ろしい壁が残っていたなんて……
「二人とも少し待ってなさい」
そう言うと、ルオパシャちゃんを連れてコショコショと話し合いを始めたようだ。そして、短い時間で終わったのか、こっちに歩いて来た。
「ジルヴァーナ、土魔法で椅子を出しなさいな」
「う、うん」
土魔法を行使して、丸い椅子を生成する。俺とターニャちゃん、お母様と残っていたルオパシャちゃんの四人分だ。ついでにやっぱり丸いテーブルも。コロッセオ擬きの真ん中辺りで場所は変わってないし、風は吹いてないから過ごしやすいかも。
「キーラ、飲み物を頼めるかしら」
「はい、シャルカ様」
いきなり現れたキーラ。いつもの無表情でお茶を並べる。あのぉ、何処にいたん? 湯気を出してるお茶はどうやって用意したんでしょうか?
「ありがとう。下がっていなさい」
スッと頭を下げたキーラは再び姿を消した。ホントにどんな技術なんだ、アレって。疑問が消えないし、キーラが消えた辺りの空間を眺めてみる。見ればターニャちゃんも何やらチェックしてるし。も、もしかして、あの技を盗もうとしてるんだろうか? 何やら寒気が走ったのは勘違いだと思いたい。
直ぐにお母様の声が聞こえてきて、気も逸れたけど。
「そうね……まず、愛し合う二人の心を否定する気はないわ」
「じゃあなんで」
「全く、貴女達は大切な事を忘れてない? ジルヴァーナの恋人探しをしていた訳じゃないのよ?」
はっ、そうだった!
「シャルカさん。魔素に関してはお姉様も認めてくれてます。絶対に……」
「絶対に? 本当にそう言い切れるのかしら、ターニャさん」
「そ、それは……」
怒ってはないけど、何時もの威圧感が滲み出して流石のターニャちゃんも萎縮しちゃったみたいだ。こんなときのお母様はホントに怖いよな。
「ターニャさんは……皇位継承権はなくとも我がバンバルボア皇女の一人を娶ることになる。そして、例えジルヴァーナが市井に下りるとしても、竜帝様から引き継ぐ御意志は変わらない。これだけは絶対に。なのに貴女はまだ若く、しかも女の子。この娘の父であり、そして皇帝陛下でもあるあの人を、どう説得出来ると思う? 私はターニャさんを知っているけれど、あの人は甘く無いわよ?」
あー、あの余り感情を出さないお父様ねぇ。まあ偶に甘えてあげると微妙に嬉しそうだったし、何となく大丈夫そうな気がするけどなぁ。あと、お母様にベタ惚れだったのを憶えてる。
「……はい。分かっているつもりです」
「まだ子を成せるか不明な貴女に、我が娘をキズモノにされたら堪らないわ」
む。
「お母様! そんな言い方酷いです!」
大体キズモノって何だよ! そもそもこっちがターニャちゃんをプルプル……いや、俺が子供を産む訳で……プルプルされるのは、えっと……あ、あれぇ?
「黙りなさい。私はターニャさんと話してるの。ねえターニャさん。貴女は大切な娘さんを下さいと言いに来た人と一緒でしょ? 母として譲れない点がある以上、どうする気かしら?」
俯いてしまったターニャちゃんは必死に言葉を探しているようだ。でも、頭の良いターニャちゃんだから、確実なんて言えないって分かるんだろう。うぅ、どうしよう。折角お付き合いが始まるのに……
「シャルカさん、私は……」
「言ってみなさいな」
グッと前を向き、お母様の目を真っ直ぐに見た。あれ、何だか格好良いぞ、ターニャちゃん。
「……一年、一年だけ時間を下さい。それまでに魔素を操る力を認めさせます」
「一年、ね。流石ターニャさんと言いたいけれど、そんな簡単に言葉にして大丈夫かしら?」
「はい。あの、ルオパシャ様」
『ん、なんじゃ?』
ずっと黙っていたルオパシャちゃんも橙色した瞳をターニャちゃんに合わせた。真っ白な肌、真っ白な髪が綺麗。
「私が勝ったら、子を成す技術を教えてくれると言いました。ですから、お願い出来ますか?」
『ふむ、約束は必ず守ろう。じゃが、一年とはかなり厳しいと思うぞ? 妾も最近使えるようになった技術であるし、片手間で覚える事など不可能じゃ。それだけの短期間でと言うなら覚悟がいる。それこそ命を賭けてな。魔素は全ての始まりであり、そして終わりでもある。ましてや妾は竜。お主とは違うからの。甘い考えは捨てた方が良い』
「……やります。必ず」
「ちょ、ちょっとターニャちゃん! 危ないことなんてダメだよ!」
命を賭けてなんて大袈裟に言ってるだけだろうけど、簡単じゃないのは間違いない。怪我とかしたらどうするんだ!
「黙りなさいと言ったでしょ、ジルヴァーナ。ターニャさん、本気なのね?」
で、でもさ!
「はい、絶対にお姉様を幸せにしてみせます」
ニコリと笑ったお母様は姿勢を正し、ルオパシャちゃんに向き直る。そしてそのまま言葉を続けた。
「ルオパシャ様。私からもお願いしますわ」
『うむ』
「では一年後、また会いましょう。そのときターニャさんが技術を受け継いでいたら、正式に二人の仲を認めます。もし間に合わなかったり、無理だったなら、ジルヴァーナは私の選んだ者へ嫁いで貰いますよ? 二人とも分かりましたか?」
一年後かぁ……まあ両想いだし? 最悪二人で逃げ出して……いやいや明日からでもイチャイチャすれば……
「ジルヴァーナ……言っておきますが、それまで
「な、なんで!」
「はぁ、やっぱり変なことを考えてたわね……そもそもお相手はまだ子供でしょう。ましてや女の子で、沢山の経験を積み、そして世界をもっと知る必要があります。つまり、先程の打ち合わせ通りでお願い出来ますか、ルオパシャ様」
『うむうむ、それしかあるまいて。しかし、ジルの予想通りな反応には笑ってしまうの。それともシャルカの才能か?』
え? なに? 何の話?
「ふふふ、私はジルヴァーナの母ですから。お腹を痛め産んだたった一人の娘である以上当然ですわ」
『そういうものか? まあ良かろう。ターニャよ、一年間妾と共に旅へ出るぞ。みっちりと教えてやるわ』
「当然ジルヴァーナは居残りよ?」
「……分かりました。頑張ります」
え?
俺抜きで旅? や、やだぁーーー‼︎
とにかく、何とかして止めないと!
「ほ、ほら、旅なんて危険だし魔物が現れたら」
『妾がおる』
「で、でも、ルオパシャちゃんって竜だから人種の常識とか……」
『それこそターニャがおるじゃろ。ジルと比べてもよく出来た娘と聞いておるぞ』
「うっ……えっと、タ、ターニャちゃんはまだ幼くて!」
『ふむ。今はその幼き少女と二人きりにする方が危険と、そこのシャルカが言っておったが?』
「そそそんなコト……」
な、何か反論を! 何かないのか我が頭脳よ、超級魔剣の経験よ!
「お姉様」
ん?
「……ターニャちゃん」
「心配してくれて嬉しいです。でも、この機会を逃したら私達はずっと姉妹以上になれません。お姉様は今まで、たくさん戦って来ました。魔物相手に、多くの人を助けるために。貴女の隣に堂々と立つには、今の私ではダメなんです。だから……信じて待っていてくれませんか?」
俺よりずっと小さいのに、上目遣いが最高なのに、超絶美少女なのに、何故か凄く格好良かった。ドキリとオッパイの奥が鳴り、濃紺の瞳から視線を外せなくなる。
「でも、一年も会えないなんて……」
もうターニャちゃん抜きの生活なんて考えられないのだ。禁断症状が現れて、身体がプルプル震えてしまうだろう。
「……お姉様、耳を貸してください」
「あ、うん」
そっと寄せた耳に、ターニャちゃんの吐息が届いた。寒気とは違う何かが背中を走って吃驚する。
「たくさん、一年後にたくさんイチャイチャしましょう。お風呂を一緒に入って、抱っこもして、キスも息が出来ないくらいに……下着や服も好きなもの選んでください。約束です」
「……ホント?」
あんな事やへんな事も⁉︎
「酷く変な事じゃなければ」
「やっぱり心を読んでるよね⁉︎」
ふふふと笑うターニャちゃん、可愛い。
「それと、浮気は許しませんよ?」
でも、真面目な瞳、ちょっと恐いです。しかも何処かお母様っぽいのが尚更。
「そ、そんな事しないし! 私はすっごく一途なんだから!」
「ハーレム、実は好きですよね? リュドミラ様、アリス様、クロエさん、パルメさん、リタさん、他にもたくさん……」
指折り数えるターニャちゃん。
バ、バレてるぅ!
「私は独占欲が強いので覚悟して下さい」
「わ、私だって!」
ターニャちゃんこそ超絶美少女なんだから、エッチな変態野郎達に言い寄られたら大変だ。うぅ、やっぱり心配だぁ。
◯ ◯ ◯
あの日覚えた不安も、幸せも、目の前にあるような気がする。過去のことって、思い出すのも一瞬だ。ついさっきのことみたいに浮かんで来たもん。
美味しかったお茶の朝の時間も終わり、もうお別れのときだ。
一年と言う限定された期間だとしても、寂しいのは寂しのだから仕方ない。
「それじゃ、行ってきます」
「……うん」
ターニャちゃんは所謂旅装に身を包んでいる。アーレに旅したときのアレだ。濃いグリーンのズボン、焦茶色のマントは大判に誂えてある。細い腰回りには太めの皮ベルト。包帯や薬、非常食などなどが入っている筈だ。ホントはもっと色々持っていって欲しいけど、マリシュカに怒られて諦めた。
比較的小さめの背嚢には衣服と下着、あと生理用品とか。簡易的な野営が出来るセットも。御飯はルオパシャちゃんが何とかするらしい。
あと心配なのは魔物との遭遇だけど、そもそもルオパシャちゃんが居る以上あっちが逃げ出すだろう。お馬鹿が近付いて来ても、ターニャちゃんの魔素感知を躱すなんて不可能だ。
きっと大丈夫。大丈夫だ。
「ふー、間に合った!」
「リタが朝寝坊したからでしょ」
「パルメだって危なかったの知ってるからね?」
「マリシュカさん、余計なこと言わないでくれる?」
姦しいという漢字の通り、ワチャワチャした三人の女性陣の登場だ。
そばかす可愛いリタ、格好良い美人さんのパルメさん、そしてアートリスの情報を掌握するマリシュカおばちゃん。全員ターニャちゃんと仲良しで、年齢を超えた友達なのだ。
「皆さん、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるターニャちゃん、やっぱり礼儀正しいな。
「気にしないの。うん、よく似合ってる。ジルの魔力銀の服には流石に敵わないけど……頑丈な生地を選んだつもりだから少々乱暴に扱っても大丈夫よ」
職業柄かパルメさんがターニャちゃんの服をチェック。アーレに行く前に買った分だけど、金にモノを言わせて選んだのだ。ターニャちゃんには内緒だけど。パルメさんは襟裳を整えたりして、その後シュッと髪に指を入れたみたい。
「うん可愛い。正直心配だけど……頑張ってね」
「はい、パルメさん」
「うー、やっぱり寂しいよー。ターニャちゃん、辛かったらいつでも帰って来ていいんだからね? ジルの家が無理なら私のトコでも大丈夫だよ」
リタとターニャちゃんが二人並ぶ様は、なかなかの絶景です。年上だけどリタは幼い容姿だし、キリリとしたターニャちゃんとの対比が良い。やっぱりお礼を返すターニャちゃんはギュッと抱き竦められて驚いていた。うむ、尊い。
うむうむと内心の寂しさを抑えて頷いていたら、最後の一人に挨拶するようだ。少し小太りなオバ様だけど、侮ったら終わるやばい人です。
「マリシュカさん、
「ああ、任せておきな。大体隠し事が苦手なんだから余り心配要らないと思うけどねぇ」
例の件? なにそれ?
「一見自覚してて、実は無自覚の人誑しですから。天然なんで油断出来ません」
「そうかい? アンタが言うならそうなんだろうさ」
クシャリと笑ったマリシュカは、折角俺やパルメさんが整えた髪をクシャクシャに撫でている。苦笑するパルメさんも諦め気味だ。しかし、例の件って何だろう? あとで確認しなくては。
ルオパシャちゃんに向き直り、ターニャちゃんは数歩離れて立ち止まる。そのまま背中を見せて、暫く動かなくて、どうしたんだろうと思ったときーーーー
またこっちに向き直ると、タタタと駆け寄って来る。
どしたん? ルオパシャちゃん待ってるよ?
「お姉様」
「どうしたの?」
「……泣かないでください。私まで泣きたくなります」
「……え?」
またまたぁ、泣いてなんか……
思わず手を両目に当てると、何やら冷たい感触があった。
わぁ、ホントに泣いてたぁ。全然気付かなかった。
「ち、違うの、これは」
ギュッとされた。思い切り。顔は自慢のオッパイに沈んでるから表情が分からない。でも、多分、泣いてる。だってプルプルしてるもん。
いや、もしかして、俺も。
「……行って、来ます」
「うん」
そうして、ターニャちゃんはアートリスから離れて行ったんだ。
第三章終わりです。続きを書き貯め中なので、改めて投稿再開したいと思ってます。出来れば六月の早いうちに……あと、それまでに間話を投げるかもしれません。
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