綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

108 / 130
お気に入り登録やコメント、嬉しいです。新章スタートしますが、投稿は相変わらず不定期になりそう……


第四章〜誘惑の一年間〜
お姉様、お仕事する


 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 ほんのちょっとだけ、俺達二人は無言だった。

 

 いや、別に嫌いな奴だとか、そんなんじゃないよ? 寧ろ懐かしい気持ちになる。

 

 うんうん、基本的に余り変わってないなぁ。

 

 ベージュブラウンの髪を薬液で撫で付け、額を露わにしていて……八年ぶりとは言え、思ってたより若いままだ。背格好も本人曰く平凡で、こっちとしても特段否定はしないかな。女性としては身長高めな俺より、少しだけ上背があるくらいだし。

 

 だだし、昔から非常に頭が良く、お母様あたりは特に評価していた。バンバルボアでは俺を捕まえるため、捜索隊の指揮を取ったりもしていたくらいだ。うん、中々の強敵だったよ?

 

 とは言えその忠誠心はホントだったし、何処か信仰に近い想いを感じたこともあった。そんな彼が今、目の前に立っている。真っ青な顔色をして。

 

「……冒険者協会から依頼を請けて来ました、ジルと申します」

 

 俺の自己紹介に益々青くなり、額に光るのは間違いなく冷や汗だろう。まあ、気持ちは分かるけど。

 

 王都アーレ=ツェイベルンから幾つかの主要都市を周り、最後の目的地であるアートリスへと向かう道中。その行程の間、護衛依頼を請けたのが俺だった訳だ。当初はダイヤモンド級をあてがう予定だったが、バンバルボア帝国からの特使である以上、出来るなら超級をと考えたらしい。ツェツエの外務卿であるテレドア公の気遣いって話だけど、御本人様には可哀想な状況かもしれない。

 

 だって、かつても今も、忠誠を誓う相手に護衛されるなんて、全くの逆だもん。随分と昔、幼い子供だった俺に言ってたからね。「このキルデベルト。ジルヴァーナ様の足元にも及ばぬ非才なれど、身命を賭してお守り致します」って。

 

 そんな相手に護衛されるって……うん、辛いねぇ。

 

 しかし残念ながら、周囲にも他の人が居るから()()()は態度を変えられない。ツェツエからも護衛の騎士が来てるし、他にも事情を知らない人が大勢。まあ俺からも、余計な事を言うなよ?って圧力を感じてるので、益々顔色が悪くなってるのだ。

 

「……ジ、ジルヴァ……あ、いや、ジルど、の。よろしく頼み、頼む」

 

 バンバルボア帝国の中でも名門に数えられる"コト家"の次男坊。キルデベルト=コト。俺がツェツエに居るとお母様にバレたのは、キルデが王都で見掛けたのがキッカケらしい。確か、王都から出るために馬車で並んでる時だ。ターニャちゃんと二人、アートリスに帰る日だね。

 

「騎士団の皆様がいらっしゃいますから、御身に危険のカケラも無いと思いますが……私も貴方様をお守り致します。御安心下さい」

 

 一応他国から来た偉いさんだから、俺もそれなりに返した方が良いだろう。そんな風に軽く考えて話したつもりだけど、目の前のキルデはフラリと気を失いそうになった。おい、護衛の始まる前に倒れるなよ?

 

 何とか踏ん張ったキルデ、偉い偉い。

 

「す、すまないが……新たな冒険者が加わる以上、少し詳細を詰めたい。しばし時間を貰えないだろうか? 無論超級であることは承知している。貴国に余計な不義を働くつもりも無い」

 

 隣に控えていたのはツェツエの人らしい。多分外務卿直轄の高官だろう。外交関連の専門家だ。そのおじさんは僅かに眉を顰めたみたいだけど、特に反論もしないようだ。超級は国の抑止力や防衛にも関わる戦力として、暗黙の了解ってヤツがある。つまり、誘い込みや裏取引、はたまた暗殺なども含めて厳禁なわけ。いや、暗殺なんて当たり前か。

 

「……はっ。それでは半刻ほど」

 

「ありがとう」

 

 礼を返したあと、お願いですからって視線を俺に送ってくる。まあ仕方ないか。

 

「では、彼方で如何ですか?」

 

 声はまず届かないけど、人影は隠れない、そんな場所を案内しておこう。アートリスへ出発前で、逗留していたこの街からまだ出てはいない。そして案内したのは、店先にもテーブルと椅子を並べている一種のカフェだ。記憶ではかなり高級な部類に入るお店だから、失礼でもないだろう。

 

「ああ、構わない」

 

 キルデってば冷静さを装ってるけど、冷や汗は引いてないよー? ゆっくりと二人で歩き、店員さんに断って席につく。朝陽も届くし、歩いてる人も少ないし、風も気持ちいい。モーニングティーらしきお茶を頼むと、店員さんは優雅に礼をして姿を消した。なかなか格好良い。

 

 キョロキョロと周りを見回すと、キルデは堰を切ったように喋り出した。

 

「ジルヴァーナ皇女殿下……! こうして再び御尊顔を拝謁(はいえつ)する日をどれだけ待ち望んだか……私は、私は、もう思い残すことなぞ御座いません!」

 

「いやいや、何を最期みたいなこと言ってるの? もう、変わらないねキルデは……ちょっ! 頭を下げないで! 変に思われるでしょ!」

 

 両手をテーブルについて、頭を傾けたものだから慌ててしまった。何とか姿勢を戻したキルデはしかし、クワッて眼を見開くのだ。あの、ちょっと怖いです。

 

「八年、八年ですよ? シャルカ様は必ずまた逢えると仰っておりましたが、まさかここまで永きに渡って姿を眩ますなど……誰が思いましょうか」

 

 うっ……それを言われると……

 

「うー、ごめんって。キーラにも怒られたし」

 

「当たり前でございましょう! 貴女様は我がバンバルボアの至宝にして、シャルカ様の宝珠。始原の種を受け継ぐ……うぅ」

 

 泣くな! マジで変に思われるだろ⁉︎

 

「謝るから、ね? えっと、キルデに会えて私も嬉しいよ。元気にしてた?」

 

 まあ目の前に居るし、元気なのは当たり前ではあるが。

 

「は、はい。こうやってツェツエ王国に足を運んだのも、シャルカ様より御指名を頂いたからこそ。そして、ジルヴァーナ様に邂逅出来たのは運命でありましょう」

 

 邂逅って大袈裟だなぁ。

 

「そっか。うん、キルデは余り変わってないね。他の皆は……あ、そうだ、結婚は? もう子供とかいたりして」

 

 ターニャちゃんとの遠距離恋愛もあり、最近は色恋事情に興味津々なんだよね。とは言え聞ける人も限られるし、キルデならちょうど良い。もう三十半ばだった筈で、最後に会ったときは独身だった。

 

「いえいえ、私などは……しかし貴女様は何処までもお美しい女性(ひと)になられましたね。シャルカ様の美を受け継いだ、まさに女神。それと、結婚はニコレと。ニコレ=ハースと夫婦になりました。子供は未だですが」

 

「……ニコレ? 私のよく知ってる、あのニコレ?」

 

 失礼になるのは分かってるけど、思わず聞き直してしまった。

 

「はい」

 

「えー⁉︎ だ、だって、ニコレとキルデっていつも喧嘩ばかりだったし、そもそも両家自体が天敵(ライバル)同士だよね?」

 

 俺が仲裁に入った事もあるくらい、犬猿の仲って感じだったけどなぁ。ニコレってばまだ若いけど、細剣を使う凄腕の一人だし。凄え、歳の差婚ってやつじゃん。

 

「ジルヴァーナ皇女殿下の所為……いえ、お陰ですね」

 

 んん?

 

「……私が?」

 

「ご存知の通り、ニコレはジルヴァーナ捜索隊主力の一人。そして、私も陣容に加わっておりました。八年前、貴女様の行方が一向に判明しない日々の中で、我等が啀み合ってはいけないと話し合いがもたれたのです。そもそも皇女殿下へ隙を与えたのは間違いなく私達でしょう。あの日、ニコレと意思疎通も出来てなかったですから」

 

「そ、そうなんだぁ。お、お幸せ、に?」

 

「現在、捜索隊は更なる進化と変貌を遂げ、皇帝陛下の覚も目出度い組織となっております」

 

 いや、怖いから。一体どんな組織になってるんだ……

 

「えっと、えっと、そうだ! プロポー……じゃなくて婚約の申し込みは? やっぱりキルデから? 憎さ余って可愛さ百倍!みたいな。惚気を思い切り話してくれて良いよー?」

 

 うん、何やら嫌な流れになって来たし、話題をチェンジしよう。あと、あれだけ仲の悪かった二人の馴れ初めが聞きたい!

 

「いえ? バンバルボアの至宝たる貴女様に逃げられ、悲嘆に暮れたニコレが自暴自棄になり……散々酔っ払ったあげく、私の寝所に押し掛け喧嘩を売りに来たのですよ。そして、気付いたら何故か二人、裸で朝を迎えておりまして。両家とも、あの頃は大混乱しましたね」

 

「……う、うん。それは大変、だった、ね」

 

「ニコレなどはお父上から随分と叱られたようですよ? あの方がどれだけ恐ろしいか、貴女様もよくご存知でしょう」

 

「そ、そうだっかなぁ……」

 

 ぜんっぜん話題転換出来てないじゃん! ホンワカ恋愛話を聞きたかっただけなのにさぁ! 俺の所為なのは分かるけども!

 

「ははは……冗談ですよ、半分は。今では二人とも心から愛し合っておりますので。我等夫婦の、そして両家を結びつけたのは、やはり貴女様ですな」

 

 目が笑ってないです! しかも、半分って言ってるし!

 

「あ、そろそろ出発じゃない? ね? 行こう、さあ行きましょう!」

 

 立ち上がった俺の無理矢理な誤魔化しに、今度は吹き出すように笑うキルデ。

 

「ジルヴァーナ皇女殿下。お茶が未だですよ」

 

 あ、そう言えば確かに……うぅ、早く逃げ出したいのに!

 

「おや、話をすれば、ですな。ほお、これはこれは……ふむ、良い香りだ。ジルヴァーナ様、どうやら時間が出来たようです。それでは……貴女様が居なくなったあとの、捜索隊が辿った紆余曲折を聞いて頂きましょうか。ああ、何よりニコレからの伝言もありますので。しっかりとお伝えしなければ帰ったあと殺されます。さあ、お座り下さいませ」

 

「は、はい……」

 

 うぅ、思い出しちゃったよ、昔からのキルデとのやり取り。

 

「先ずは……」

 

 何だか懐かしい、そんな気がした出発前でした。

 

 

 

 

 

 

 

 




近々新キャラが登場。とは言え何回か名前は出てたり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。