綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
お姉様、お仕事する
「……」
「……」
ほんのちょっとだけ、俺達二人は無言だった。
いや、別に嫌いな奴だとか、そんなんじゃないよ? 寧ろ懐かしい気持ちになる。
うんうん、基本的に余り変わってないなぁ。
ベージュブラウンの髪を薬液で撫で付け、額を露わにしていて……八年ぶりとは言え、思ってたより若いままだ。背格好も本人曰く平凡で、こっちとしても特段否定はしないかな。女性としては身長高めな俺より、少しだけ上背があるくらいだし。
だだし、昔から非常に頭が良く、お母様あたりは特に評価していた。バンバルボアでは俺を捕まえるため、捜索隊の指揮を取ったりもしていたくらいだ。うん、中々の強敵だったよ?
とは言えその忠誠心はホントだったし、何処か信仰に近い想いを感じたこともあった。そんな彼が今、目の前に立っている。真っ青な顔色をして。
「……冒険者協会から依頼を請けて来ました、ジルと申します」
俺の自己紹介に益々青くなり、額に光るのは間違いなく冷や汗だろう。まあ、気持ちは分かるけど。
王都アーレ=ツェイベルンから幾つかの主要都市を周り、最後の目的地であるアートリスへと向かう道中。その行程の間、護衛依頼を請けたのが俺だった訳だ。当初はダイヤモンド級をあてがう予定だったが、バンバルボア帝国からの特使である以上、出来るなら超級をと考えたらしい。ツェツエの外務卿であるテレドア公の気遣いって話だけど、御本人様には可哀想な状況かもしれない。
だって、かつても今も、忠誠を誓う相手に護衛されるなんて、全くの逆だもん。随分と昔、幼い子供だった俺に言ってたからね。「このキルデベルト。ジルヴァーナ様の足元にも及ばぬ非才なれど、身命を賭してお守り致します」って。
そんな相手に護衛されるって……うん、辛いねぇ。
しかし残念ながら、周囲にも他の人が居るから
「……ジ、ジルヴァ……あ、いや、ジルど、の。よろしく頼み、頼む」
バンバルボア帝国の中でも名門に数えられる"コト家"の次男坊。キルデベルト=コト。俺がツェツエに居るとお母様にバレたのは、キルデが王都で見掛けたのがキッカケらしい。確か、王都から出るために馬車で並んでる時だ。ターニャちゃんと二人、アートリスに帰る日だね。
「騎士団の皆様がいらっしゃいますから、御身に危険のカケラも無いと思いますが……私も貴方様をお守り致します。御安心下さい」
一応他国から来た偉いさんだから、俺もそれなりに返した方が良いだろう。そんな風に軽く考えて話したつもりだけど、目の前のキルデはフラリと気を失いそうになった。おい、護衛の始まる前に倒れるなよ?
何とか踏ん張ったキルデ、偉い偉い。
「す、すまないが……新たな冒険者が加わる以上、少し詳細を詰めたい。しばし時間を貰えないだろうか? 無論超級であることは承知している。貴国に余計な不義を働くつもりも無い」
隣に控えていたのはツェツエの人らしい。多分外務卿直轄の高官だろう。外交関連の専門家だ。そのおじさんは僅かに眉を顰めたみたいだけど、特に反論もしないようだ。超級は国の抑止力や防衛にも関わる戦力として、暗黙の了解ってヤツがある。つまり、誘い込みや裏取引、はたまた暗殺なども含めて厳禁なわけ。いや、暗殺なんて当たり前か。
「……はっ。それでは半刻ほど」
「ありがとう」
礼を返したあと、お願いですからって視線を俺に送ってくる。まあ仕方ないか。
「では、彼方で如何ですか?」
声はまず届かないけど、人影は隠れない、そんな場所を案内しておこう。アートリスへ出発前で、逗留していたこの街からまだ出てはいない。そして案内したのは、店先にもテーブルと椅子を並べている一種のカフェだ。記憶ではかなり高級な部類に入るお店だから、失礼でもないだろう。
「ああ、構わない」
キルデってば冷静さを装ってるけど、冷や汗は引いてないよー? ゆっくりと二人で歩き、店員さんに断って席につく。朝陽も届くし、歩いてる人も少ないし、風も気持ちいい。モーニングティーらしきお茶を頼むと、店員さんは優雅に礼をして姿を消した。なかなか格好良い。
キョロキョロと周りを見回すと、キルデは堰を切ったように喋り出した。
「ジルヴァーナ皇女殿下……! こうして再び御尊顔を
「いやいや、何を最期みたいなこと言ってるの? もう、変わらないねキルデは……ちょっ! 頭を下げないで! 変に思われるでしょ!」
両手をテーブルについて、頭を傾けたものだから慌ててしまった。何とか姿勢を戻したキルデはしかし、クワッて眼を見開くのだ。あの、ちょっと怖いです。
「八年、八年ですよ? シャルカ様は必ずまた逢えると仰っておりましたが、まさかここまで永きに渡って姿を眩ますなど……誰が思いましょうか」
うっ……それを言われると……
「うー、ごめんって。キーラにも怒られたし」
「当たり前でございましょう! 貴女様は我がバンバルボアの至宝にして、シャルカ様の宝珠。始原の種を受け継ぐ……うぅ」
泣くな! マジで変に思われるだろ⁉︎
「謝るから、ね? えっと、キルデに会えて私も嬉しいよ。元気にしてた?」
まあ目の前に居るし、元気なのは当たり前ではあるが。
「は、はい。こうやってツェツエ王国に足を運んだのも、シャルカ様より御指名を頂いたからこそ。そして、ジルヴァーナ様に邂逅出来たのは運命でありましょう」
邂逅って大袈裟だなぁ。
「そっか。うん、キルデは余り変わってないね。他の皆は……あ、そうだ、結婚は? もう子供とかいたりして」
ターニャちゃんとの遠距離恋愛もあり、最近は色恋事情に興味津々なんだよね。とは言え聞ける人も限られるし、キルデならちょうど良い。もう三十半ばだった筈で、最後に会ったときは独身だった。
「いえいえ、私などは……しかし貴女様は何処までもお美しい
「……ニコレ? 私のよく知ってる、あのニコレ?」
失礼になるのは分かってるけど、思わず聞き直してしまった。
「はい」
「えー⁉︎ だ、だって、ニコレとキルデっていつも喧嘩ばかりだったし、そもそも両家自体が
俺が仲裁に入った事もあるくらい、犬猿の仲って感じだったけどなぁ。ニコレってばまだ若いけど、細剣を使う凄腕の一人だし。凄え、歳の差婚ってやつじゃん。
「ジルヴァーナ皇女殿下の所為……いえ、お陰ですね」
んん?
「……私が?」
「ご存知の通り、ニコレはジルヴァーナ捜索隊主力の一人。そして、私も陣容に加わっておりました。八年前、貴女様の行方が一向に判明しない日々の中で、我等が啀み合ってはいけないと話し合いがもたれたのです。そもそも皇女殿下へ隙を与えたのは間違いなく私達でしょう。あの日、ニコレと意思疎通も出来てなかったですから」
「そ、そうなんだぁ。お、お幸せ、に?」
「現在、捜索隊は更なる進化と変貌を遂げ、皇帝陛下の覚も目出度い組織となっております」
いや、怖いから。一体どんな組織になってるんだ……
「えっと、えっと、そうだ! プロポー……じゃなくて婚約の申し込みは? やっぱりキルデから? 憎さ余って可愛さ百倍!みたいな。惚気を思い切り話してくれて良いよー?」
うん、何やら嫌な流れになって来たし、話題をチェンジしよう。あと、あれだけ仲の悪かった二人の馴れ初めが聞きたい!
「いえ? バンバルボアの至宝たる貴女様に逃げられ、悲嘆に暮れたニコレが自暴自棄になり……散々酔っ払ったあげく、私の寝所に押し掛け喧嘩を売りに来たのですよ。そして、気付いたら何故か二人、裸で朝を迎えておりまして。両家とも、あの頃は大混乱しましたね」
「……う、うん。それは大変、だった、ね」
「ニコレなどはお父上から随分と叱られたようですよ? あの方がどれだけ恐ろしいか、貴女様もよくご存知でしょう」
「そ、そうだっかなぁ……」
ぜんっぜん話題転換出来てないじゃん! ホンワカ恋愛話を聞きたかっただけなのにさぁ! 俺の所為なのは分かるけども!
「ははは……冗談ですよ、半分は。今では二人とも心から愛し合っておりますので。我等夫婦の、そして両家を結びつけたのは、やはり貴女様ですな」
目が笑ってないです! しかも、半分って言ってるし!
「あ、そろそろ出発じゃない? ね? 行こう、さあ行きましょう!」
立ち上がった俺の無理矢理な誤魔化しに、今度は吹き出すように笑うキルデ。
「ジルヴァーナ皇女殿下。お茶が未だですよ」
あ、そう言えば確かに……うぅ、早く逃げ出したいのに!
「おや、話をすれば、ですな。ほお、これはこれは……ふむ、良い香りだ。ジルヴァーナ様、どうやら時間が出来たようです。それでは……貴女様が居なくなったあとの、捜索隊が辿った紆余曲折を聞いて頂きましょうか。ああ、何よりニコレからの伝言もありますので。しっかりとお伝えしなければ帰ったあと殺されます。さあ、お座り下さいませ」
「は、はい……」
うぅ、思い出しちゃったよ、昔からのキルデとのやり取り。
「先ずは……」
何だか懐かしい、そんな気がした出発前でした。
近々新キャラが登場。とは言え何回か名前は出てたり。