綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
ツェツエ王国は、温暖な気候に恵まれた領地を抱えている。だから、街から街へと移動する際、気温などの激変に殆ど注意が払われたりしない。アートリスへの道すがらも旅行気分になりそうなくらい気持ち良いのだ。
当たり前だけど、護衛依頼を請けた冒険者である以上、周囲の警戒は怠らない。でも、見るからに王家由来の集団で、おまけに騎士団の姿がある連中に攻撃を仕掛ける馬鹿はいない。まあ魔物は違うけど、そっちは俺が魔素感知で分かるから大丈夫。
つまり小さな鼻歌が溢れてしまいそうな、そんな旅路だ。
「魔剣殿。確認だが、アートリスまでの行程に注意点はあるか?」
ん? ああ、蒼流騎士団の人かな?
キルデは俺がマンツーマンで護るけど、バンバルボアから訪れているのは一人じゃない。他の事務方なども何人か追随してる。流石に知らない人達だけど、何度もチラチラ俺を見てるから間違い無いだろう。そんな数人の、帝国からの客人たちを蒼流が護衛してる。
俺はキルデが乗る馬車の御者台に相乗りさせて貰ってます。見晴らしも良いし、超級と言えどそもそも一冒険者だからね。まあ御者台に飛び乗る俺を見て、キルデが今日一番の青白い顔色に変わったけど。アイツから見たらコッチは皇女で、あっちは臣下だもんねぇ。「逆でしょう⁉︎」って目が訴えてた。うん、我慢したまえキルデくん。
そんな馬車に並走する騎馬、その馬上に居るオジサンが声を掛けてきたのだ。筋肉こそ至高!って見た目の縦横にデッカイ人だ。鎧も相まって益々大きく見える。お馬さんが凄く大変そうだけど。可哀想だし、内緒の疲労軽減魔法をプレゼントしてあげよう。こっちを見てブルルって鼻を鳴らしたのは、ありがとうって意味かな。ちょっと可愛い。
「そうですね。油断は禁物ですが……道中は視界も良く、奇襲は殆ど不可能と思います。敢えて言うならこれから見えて来る丘でしょうか。越える向こう側は確認出来ませんので」
とは言え、当然ながら先行して安全を確認する部隊も居る。魔素感知にも引っ掛かってる人達は、そう言う任務にあたってるはずだ。
「ふむ、なるほど。では、厄介な魔物はどうだろうか?」
「アートリスまでの街道は冒険者の活動が非常に活発です。それこそ貴方様の本拠がある王都アーレ=ツェイベルン周辺よりも。理由はお分かりでしょう。ですから、余程の異変が重ならない限り大丈夫と思います」
蹄と石畳が奏でる音を聞きながら、ちょっと格好良い返しをしてみたり。だって、俺は超級魔剣の、超絶美人なジルですからねー。スイとオジサンに視線を合わせれば、凄く慌てた風で面白い。ずっと俺の横顔をチラチラ眺めてたの知ってるよ?
「そ、そうか。確かにアーレ周辺は騎士団の影響が色濃い。そして、その分冒険者の依頼は少ないと聞く。同じツェツエと言えど違いはあるのだろう」
クロやターニャちゃんと旅したとき、アークウルフの集団が現れたけど、アレこそ例外中の例外。確率的に再発は考えられないし、実際魔素感知にも異変は感じない。
「はい、仰る通りです……えっと、どうしました?」
魔剣ジルとして会話してたんだけど、オジサンが「うむぅ」と少し辛そうに唸ったのだ。んん? 何ですかー?
「す、すまない……実のところ行程の確認は、貴女と会話する為の言い訳なのだ。どうしても早く御礼を伝えたくて、な」
「御礼ですか?」
残念ながらオジサンに見覚えは無いけど……
「ああ。六年前、私は西の遺跡での戦いに参加していた。"ツェツエの危機"と呼ばれる魔物共との、あの戦いだよ」
ああ、ツェイスと初めて会ったあの時かぁ。暴走精霊とかカリュプディス=シンとか現れたっけ? 遺跡の場所にはつい最近訪れたから分かり易い。ほら、ジルヴァーナ争奪戦に使われましたので。
で、それがどうしたんだろ?って思ったら、オジサンが苦笑して教えてくれた。
「暴走精霊の魔素爆発が起き、旋風に巻き上げられた。そして地面に落ちて死ぬ筈だった我等は、謎の力に助けられたんだ。訳も分からないまま王都に帰還して随分経ったあと、あの奇跡は貴女が起こしたと聞いたよ。だから……今まで御礼も出来なかったが、蒼流の皆を代表し伝えさせて欲しい。本当にありがとう」
鎧の胸辺りに手を当て、小さく頭を下げるオジサン。確か馬上で出来る最高の礼節だった筈。流石に似合ってて格好良い。しかし、あの戦いって思ってた以上に影響あったんだなぁ。
んー、六年くらい前だからまだ記憶に残ってはいるけれど……
◯ ◯ ◯
確かあのとき、ほぼ完成したと思い込んでた魔素感知波を使ったんだ。コントロールも、調整も、未だ未だ改良の余地があったのにね。
全方位に、そして全力で放つのは初めてだったから、沢山届く情報に混乱した。戦況、怪我人、次から次に溢れて来る魔物達。自分独りなら逃げれば良いけど、当然状況がそれを許さない。あとお世話になってる"蒼槍の雨"のマウリツさん達も居たし。
そして予想通りに現れたのは骨と皮だけな女の亡霊……そんな姿をした暴走精霊の成れの果て。姿もアレだけど、何よりデカいから最初はメチャクチャ怖く感じた。
そして魔力が……つまり魔素が収束を始める。
あー、ヤバいなぁ。絶対に爆発するよアレ。そんな風に思ったら、無意識のうちに魔法を放っていた。四方に属性魔法を撃ち、魔物もついでにやっつける。集まる筈だった魔素は魔力へと変換され、規則性を与えた。無邪気に暴れる魔力なんて捕まえるの簡単だったし。
つまり、収束しようとするなら、それを邪魔したら良いよねってヤツ。
そんな安直な考えは……意外にハマった。爆発までの時間は遅くなって、その威力も減少した、はず、多分。まあ遅くなったのは確実だから、逃げる時間も少しは稼げただろう。
それでも、暴走精霊の魔素爆発は止まらず……台風なんて真っ青の馬鹿げた暴風が発生した。
ホント驚いたんだよ。
だって大勢がビュンビュンお空に飛んでったから。経験や言い伝えがあったのか、全員じゃなく殆どは剣を地面に刺したりして耐えてたよ? それでもポーンと飛ばされた人がパラパラと落ちて来るのを見たら、冷静になんて無理だった。
必死に頭を捻り、導き出したのは魔力弾。属性魔法はそもそも属性付与のタイムラグが邪魔。だから風魔法を選ぶ道は諦め、似た作用を働かせる。威力も比較的調整し易いし。
うーん、結果的には良かったのかな?
でも落下速度や高さもバラバラだったから、何人かは怪我しちゃったみたい。我ながら情けなくて、思い切り治癒魔法も飛ばしたっけ?
騎士団にはツェイスも居て、初めて話したりしたんだよな。そしてオジサンも、ポンポン飛ばされた人の中に居たってことか。
でもなぁ、今思うと違うやり方があった気がするんだよなぁ。
付与を強制的に省略した風魔法で打ち消すとか、そもそも暴走精霊を暴走させないとか。今の俺なら他にも方法が浮かぶんだよ。寧ろ下手っぴな対処な気がして少し恥ずかしかったり。まだ超級になって無かったとか関係ないもん。
あと実際には、そのあと現れるカリュプディス=シンのために力を温存してた気がする……全力で守ったのかと聞かれたら自信がない。
ああ、だからか。
あの半魚人擬きな魔物を本気で倒したんだ。モヤモヤが何処かにあったんだろう、きっと。ツェイスの雷魔法も助けになったけど、そんなの無視するくらい滅茶苦茶したもんなぁ。ツェイスなんて終わったあと、引いてた、絶対。
それと、剣でカリュプディス=シンの腕を両断したとき。
相手を斃すつもりの全力なんて初めてだった。魔力銀の剣がホントの意味でヤバいと気付いた日でもあったんだよ、うん。
魔力と魔力銀の純度やバランスにもよるけど、斬れないものが原理上存在しないかもって。つまり、間違うと斬りたくないものも斬っちゃう。斬った感触すら無くなるのは、凄く怖い事なんだって気付いた。だからあのあと、修行に力が入ったんだよな。
んん? 思い出してみると、余り誇らしくないような?
助かったのは事実だろうけど、御礼と言われると困っちゃうな。派遣された冒険者としての仕事のうちだし……治癒魔法を使えることはギルド長も知ってたから、それも依頼に入ってたんだよ。
んー、御礼、要らないかも。
でも、そう返すのも失礼だよなぁ。誇りを大切に思う騎士なら尚更だ。そもそも詳細を話すのも大変だし。
ふむ、どうしようか。
ここはやはり、魔剣ジルとして格好良い返しをしますか。嘘をつくのも違うから、ちゃんと本心で。
◯ ◯ ◯
「……たくさんの」
「ああ」
「私に、今まで沢山の幸せを、この王国は与えてくれました。ですから……御礼はお互い様です」
「それは、騎士に対する世辞か?」
「まさか。私の、心からの本心ですよ?」
超絶美人ジルの、最高の笑顔をプレゼント。オジサンは思い切り照れて、それでも視線を外せないのが可笑しい。
でも、ホントに本心だよ? だってアートリスで楽しく過ごさせて貰ってるし、何よりターニャちゃんと出逢えたんだから!
今や相思相愛で、遠距離恋愛だけど付き合ったりしてる。
さらにさらに!
一年後には晴れて夫婦?にだってなるんだ。
ああ、早くターニャちゃんの顔を見たい。ギュッて抱き締めたーい!
新キャラ登場はもう少し先の予定。