綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
お天気は今朝もばっちりだ。
風が少し強いかもだけど、澄んだ空気も合わさって気持ち良いくらい。天幕の中で身支度を終えて外に出たら、思い切り深呼吸。うん、やっぱり気持ち良い。
それから朝ご飯を食べて、色々と片付けして、最後の旅程を消化すべく進み出した。もうアートリスまで大した時間も要らないからね。
「いや、本当に済まない」
「大丈夫です。気にしてませんから」
出発と同時に先日の隊長さんが謝って来た。晩御飯のときの騒ぎを謝罪してる訳だが、実際そこまで怒ってないし。まあ超絶美人のジルが一緒にご飯食べてたら、色々聞きたくなるのでしょう。来賓を護衛中なのは指摘しちゃダメだきっと。
「普段は任務にも厳格で、あんな事のない連中なんだが……アートリスの女神が相手では平常心が保てなかったのかもしれん」
「あの、出来ればその呼び名は……」
勘弁してよって顔をして、オジサンを見てみる。しまったって表情に変わったみたいで、きっと分かってくれたかな?
「ツェツエの女神の間違いだったな」
違うよ!
うんうんと頷くオジサン。もう否定するのも疲れて来たよ。
「魔剣殿、少し話しておきたい事があるんだが」
真面目な視線で、さっきの様な巫山戯た空気もない。それが分かって、俺も気を引き締めた。きっと仕事に関わる話だな。何か心配事でもあるんだろう。
「何でしょう」
「今から向かうアートリスだが、我がツェツエの騎士団の編成に少しだけ改変が行われる事になったのだ」
「改変、ですか?」
主要な各都市には軍の駐屯地が併設されており、定期的に部隊編成も変わっている。主たる目的の魔物対策では冒険者と連携する場合もあり、その情報を一定量聞かせるのも不自然とはならない。しかし、訓練の意味合いも兼ねる駐屯地の人員配置はよく変わるし、細かな内容なんて態々伝えるほどじゃないだろう。
「基本的に蒼流騎士団の一から三までで対応して来たが、新たに違う騎士団から派兵される事になる。詳しくはギルドからの情報も確認してもらいたいが」
「違う騎士団……まさか竜鱗では無いでしょうし。そうなると残るは紅炎騎士団ですか?」
「御名答だ」
「それはまた……確かに珍しい編成ですね」
「うむ。正直な話、我ら蒼流としても少し混乱しているな」
紅炎とは女性騎士だけで組織された騎士団だ。主な任務はツェツエ及び他国からの来客……その中でも王妃、王女、貴族のご令嬢などを護衛する事にある。男性騎士では細かなところで護衛に穴が空くし、心配りなども必須になるからね。だから、礼儀などを学んだ各貴族の娘達が多く参加しているのだ。因みに、婚約時の箔付けなどにも利用されている。ぶっちゃけ蒼流からも実力では大きく劣り、御飾りなどと揶揄される場合も多い。
まあクロエさんみたいな男性騎士顔負けの人もいるから、全員が弱々な訳じゃない。紅炎騎士団長は魔法も火属性を得意としていて、剣捌きと速度を重視した強力な魔法剣士だからね。うん、久しぶりにクロエさんに会いたいなぁ。赤髪と赤い瞳、綺麗だもん。
「つまり、アートリスにどなたか来ら、れ……る」
「ん? どうなされた」
もしかして……いや、もしかしなくても。
やっぱりこれって俺の所為では? おまけに無断で来国したお母様、つまりバンバルボア帝国の皇妃まで最近はいた訳だし……
これからも偶に来そうな上に、一年後は確実に現れるだろう。ターニャちゃんの成長を確認するために。いや、予定通りにターニャちゃんが力を手に入れて、えっと、その俺がに、妊娠などした暁には、下手したら別邸とか用意しそう。監視を目的にして。
いやいや、もう既にツェイス辺りと話し合いしてるんじゃないか? 何でも先回りしてくるのがお母様だもの。
「少し顔色が悪い様だが……」
俺に護衛など要らない。だって超級の一人だ。でも、だからと言って放置は出来ないんじゃないか? 万が一があった場合、国際問題になる可能性だってある。つまり、護衛とは名ばかりの監視が必要で、俺はバンバルボア帝国の皇女、つまり女性だ。重ねて言えば、ターニャちゃんは超可愛いTS美少女。
そうなれば派遣されるのは当たり前に紅炎騎士団になる。そもそも俺って"水魔"と恐れられたお母様の娘だし……我ながら過去に仕出かした事も多いし……最近だと、王都にある貴族の屋敷を壊したりもしたね。昔だとアーレ近郊の土地を変形させたりもしたような?
う、うわーん! 絶対に俺の所為じゃん!
余計な予算と、人員配置まで変えさせた張本人はここに居ますぅ!
「魔剣殿?」
ど、どないしよ? 我等
「最悪……」
「す、すまん。アートリス防衛の一角を担う貴女からしたら、軍の弱体化は許せないだろう。私ごときに意味など無いが、せめて謝罪を……」
「え⁉︎ い、いや、違いますから! 紅炎騎士団の皆様を悪く言った訳じゃないですよ!」
誤解です! 悪いのは俺たち
「いやいや、気遣い無用だ。越権行為だが……より厳しく訓練に励む様、私からクロエ団長に直訴しておこう。せめてもの詫びの気持ちだ」
「で、す、か、ら! 違うんですぅ!」
お願いだから勘弁して!
◯ ◯ ◯
色々と頭を悩ましていると、時間はあっという間に過ぎてしまうものだろう。
視線の先には見慣れた風景と街。そんなアートリスは今日も平和みたいだ。多くの人が行き交い、ツェツエ屈指の貿易都市であることを証明している。
まあこんな真面目なナレーションが頭の中を流れるのは、ツェツエの高官が遠くに見えるアートリスの説明をしてるからだけど。そのおじさんは、丁寧にゆっくりとバンバルボアからの特使であるキルデベルトに話し掛けている。
一方のキルデも興味深そうに耳を傾けてて、あの街に住む俺としてもちょっと嬉しいかな。王都アーレと比べたら雑多で洗練されてる訳じゃないけれど、それはそれで味があるもんね。
「成る程。人口はアーレを上回る訳ですか」
「はい、特使殿。王都は海に面しているため、開発出来る土地も限られております故。一方のアートリスは陸路の貿易を担い、それが現在の隆盛を支えています」
「ほう。超級である魔剣が住まうのも納得ですね」
キルデ、思い切り聴こえる様に言わなくても良いんじゃない?
「ははは。確かに、魔剣ジルが
うわぁ……何か牽制してるっぽいし、微妙にギスギスしてる。高官のおじさんが言うのも分かるけど、キルデはそんな意味で言ってないよ、多分。どっちかと言うと、俺への嫌味とか当て付けじゃないかなぁ? 長い間バンバルボアから行方不明になって、気付いたらアートリスの住民だもんな。でも、もう謝ったじゃん。え? ダメ?
そう簡単には許しませんよ……そんな風に聞こえた気がする、キルデの視線から。
とりあえず知らないフリだ、うん。
「魔剣ジルよ」
「あ、はい。何でしょう」
明後日の方向を見て知らないフリしてたのに……高官の人が語り掛けて来たみたい。
「キミから見たアートリスとはどんな街だろうか。良ければ特使殿に教えて欲しい」
んー? そりゃ先ずはターニャちゃん。それにパルメさんとかリタとか美人さんから可愛い系まで取り揃えた街ですから? 他にもたくさん素敵な女性達が居て……いやいや、そんなの説明出来ないに決まってます。
「そうですね……王都アーレ=ツェイベルンは歴史も深く、とても美しく洗練された街だと思います。でも、アートリスはまだ新しいですし、そこまで整っている訳じゃありません。でもだからこそ、皆に活力が溢れて毎日がお祭りみたいですから。明るくて、柔らかくて、誰もを優しく包み込んでくれる。こんな私も、そうやって受け入れてくれました」
フニャフニャした理由だろうけど、意外と本心なんだよ? アートリスって下町的な風情と、新しく街が出来ていく活気が混ざってるからね。正直かなり無計画に造成してるし、迷路みたいな路地も多い。結構長い間住んでるけど、今でも知らない店とか見つかるもん。
「ジルヴァー……い、いや。そうか、なかなか面白い視点だと思う。とても参考になったよ」
殆ど本名を言い掛けてるぞ、キルデ。もし最後まで言い切ったら魔力強化して気絶させるとこだった、昔みたいに。そんな不穏な気配を察したのか、俺の視線から逃げた。うん、なかなか鋭いじゃん。
「さて、そろそろ参りましょう」
高官のおじさんの一言で、特使様御一行はゆっくりと進み出した。多分夕方前には着くだろう。護衛の仕事も終わりだけど、もう少しキルデと話した方がいいかなぁ。いやいや、内緒の手紙でも渡しておけば良いか。ツェイス達との事や、ターニャちゃんと遠距離恋愛中なんて説明が面倒くさい。
あと、教えて貰った紅炎騎士団の情報も集めないと。もしかしてクロエさんが来たりするなら久しぶりに会いたいし。
あ……浮気じゃないよ? 変なことなんてしないから、ホントに。ほら、俺って硬派で一途だし? 何故だろう、ターニャちゃんにギロリと睨み付けられた気がして、ブルルと身体が震えた。
ようやく紅炎騎士団の話を出せました。