綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「質問は騎士団の動向だな、アートリスに関わる分で」
「えっと、はい」
「お前ならもう分かってるだろうが……当然にバンバルボア帝国への配慮と、畏れ多くもジルヴァーナ皇女殿下が
口を開こうとしたら、スッと手を上げて止められた。
「言いたい事は分かる。そもそも超級である魔剣を、はるかに戦闘力の劣る紅炎が護るなど笑い話にもならん。お前もそれを望んではないだろうし、どうせ申し訳ないとか思ってるんだろ?」
思わずコクリと頷いてしまう。全部お見通しだね、やっぱり。
「だが、だからと言って放置も無理だな。魔剣としての活動に制限をかけず、また自由に動き回るためには、必要な落とし所だよ。選抜はツェイス殿下とクロエ団長が話し合い決まるそうだが……大人数にはならない予定だとよ。あのな、本当なら貴賓として迎え入れ、竜鱗も含む連中でがっちり固めないといけない相手だからな? まあ当事者様に自覚はなさそうだが」
「だって、私は八年もアートリスにいるんですよ? ほら、きっとだいじょ……うひっ、す、すいません」
むー。睨むなよ、怖いじゃん。
「それは何処とも知れぬ生まれで、所詮は一冒険者だったからだろうが。例え常識を超える強さだろうと、な。皇女と知ってしまった以上、ツェツエとして何もしないなんて無理だ」
やっぱり反論は無理っぽい。うーん、せめて出来るだけ少人数になったら良いなぁ。あまり負担掛けたくないし、クロエさんと話しようかな……
「ああ……負担を掛けたくないってとこか? まあジルのその気持ちも考慮して、選抜には幾つか条件を付けてるらしい。まあ殿下を信じろ」
「条件ですか?」
何だろ?
「ああ。ひとつ、紅炎騎士団本隊に戦力の極端な低下が起きないこと」
ふむふむ。
「ふたつ。同じ理由から部隊編成は最小限の規模に」
なるほどなるほど。
「みっつ。皇女殿下の実力から、直接的な戦闘力は多く求めない」
うんうん。
「よっつ。バンバルボア帝国皇女の身分を理解した上で、柔軟な対応力を要する者。また、魔剣への憧れや親しみを持つ人材を選ぶ。これは余計な反抗心など邪魔との判断だ。まあその方がジルとしても動きやすいだろ?」
むむむ。
「いつつめ。宝珠と謳われた美貌や年齢を鑑み、可能な限り歳の近い者……簡単に言うと直接的な戦力が不足でも、若く容姿端麗な人材を選抜する。礼儀や外見への気配りも出来ない娘など、皇女殿下の周囲に置くわけにいかん。そして未だ訓練途中の者であれば、戦力低下にも繋がりにくい」
よく考えてくれてるなぁ。あと、気になる点もある。容姿端麗で年齢が近いって。
「ジルを見て鍛えられれば、多少は戦力になるかもと言う打算も入ってるけどな。お前の近くにいれば色々と学ぶことも多いし、余程安全だろう?」
近く……多分ベッタリ張り付くことはないから、何気無く周囲を警戒したり、街へ侵入する不審者の情報収集がメインかな。そもそも魔力強化したら誰も追いついて来れないし。街に戻ったら場合によって話し掛けてきて、秘密のコミュニケーションを取る事になる。うんうん、凄く良いよー。
「さすがに誰でも良い訳じゃない。当然だが、戦闘とは違う別の能力が求められる。具体的に言えば情報収集、精査、更には尾行や気配隠匿などに類する
秘密のぉ、こみゅにけーしょーん。良いねぇ良いねぇ。しかも同年代で可愛いんでしょ? うひひひ……ひひ……ん?
んん? なんだろ? 何やら一瞬嫌な予感がしたような?
「おいこら、話を聞け」
楽しそうなのに……あれぇ?
「ジル! まだ話の途中だぞ!」
「うひゃっ」
ななななに⁉︎ 吃驚したぁ! あ、ドワーフさんがスッゴク怒ってらっしゃる。ご、ごめんね?
「はぁ……これが超級で、おまけにバンバルボア帝国の皇女とはなぁ……」
"これ"って失礼ですよ! まあ怖くて突っ込まないけれど!
「話の途中ですね! ささ、どうぞ!」
暫く無言の時間が続いたけど、ウラスロの爺さんも諦めたらしい。もう一度盛大な溜息をこぼし、続きを話し始めた。ふぅ。
「……ちょうど今日、最終選抜してる筈だ。聞いたところによると、倍率が十倍近くまで届きそうな勢いで盛況だったらしい」
「盛況?」
「ああ、希望者が殺到したって話だ」
んん? 確か紅炎騎士団の殆どは貴族の子女で、アーレに住んでるって昔聞いたような気がするけど……普通転勤なんてイヤなものじゃないの? ましてやツェツエの象徴である王都から離れるのだし。
「なんでまたそんな」
「相変わらず無自覚か、魔剣様は。いいか、お前も知っての通り、騎士団の中で女性陣の羨望を強く集める筆頭はクロエ=ナーディだろ? 貴族出身でもなく、自らを研鑽してあれほどの実力を得たのが主な理由だ。もちろん彼女自身の性格も影響しているだろう。そして何より、リュドミラ王女殿下や"演算"のタチアナ=エーヴとも馴染みの関係だ」
うんうん、そうだね。あの三人って身分を超えた友達ってところかな。
「翻って、お前はどうだ」
ん?
「今言った三人と旧知の仲で、リュドミラ王女殿下に至っては姉と慕ってるらしいじゃないか。おまけに五人いる超級冒険者で唯一の女性。更には最強とも噂される実力と、ついでに言えば
お、おおー。確かに言われてみれば! 見た目だけってとこに物申したくなりますけれど! 最後、ボソッと溢したの聞こえるからな?
「しかも、ツェツエと同格と言っていい、バンバルボア帝国の皇女殿下でもある。何やら深い理由で国を離れ、市井に身を置く薄幸の……はぁ、話しててアホらしくなってきた。恐ろしいな、噂話ってやつは。何だよ、薄幸のって」
ぶつぶつ独り言を話してるけど、それも聞こえてるぞ?
「話が逸れたな……とにかく、そんな訳で紅炎から選抜された女騎士達がアートリスに来るって事だ。ちなみに、反論の余地はないからな?」
「はーい」
色々と事情は込み合ってるけど、要は若くて可愛い女騎士さんが沢山やって来るってことだよね? 特に迷惑を掛ける訳じゃないなら……うん、反論なんてする訳ないじゃん!
どんな人が来るのかなぁ?
◯ ◯ ◯
「聞いたよ、紅炎騎士団から何人か来るんだろ?」
このアートリスに起きてる事であれば何でも聞けばいい。そう噂され、実際に答えてくれる凄い人。そんな人が開口一番に言った。まあ生活雑貨店の看板オババ、マリシュカですけれど。
「えーっと、良くご存知ですね」
まだツェツエから正式な発表はされていない。漸くギルドに伝わった情報を当然の如く知っているのだ。ちょっと怖い。
「仕方ないじゃないか。紅炎なんてアーレに引き篭もってるお嬢様達の団だよ? そんなのがアートリスに配置されるなんて噂も立つさね。ほれ、お茶」
いやまあ、そうなんだけど。コトリと置かれた水色のカップに、薄い紅色のお茶。毎度のように店先から連れ込まれ、更には椅子に座らされて、始まったのがこの会話だ。
「ありがとうございます」
あ、美味し。紅茶じゃないけど、ほんのり甘い。ターニャちゃんも好きそう。
向かいに座った顔色を伺ってみる。パルメさんにはバンバルボアの事がバレたけど、マリシュカは知っているんだろうか。口調も変わってないし、大丈夫なのかな。
「しかしアンタも大変だねぇ。せっかく八年も隠してきた身分なのに」
はい、もうバレバレでした。
「え、ええっと……」
「ああ、流石にこんな喋り方じゃ拙いかい?」
「い、いや! 今まで通りでお願いします!」
そうかい? そんな風に笑うマリシュカに何故か安心する。このアートリスに来てからも色々と助けてくれた。パルメさんと一緒で、凄く感謝してる人だからね。何よりターニャちゃんもお世話になってるし。変に畏まった態度なんてされたら悲しくなるよ。
「しかし、随分と若い娘達が選抜されたみたいだけど、私は心配だよ。ホントに大丈夫かねぇ」
「え? 何がですか?」
別に怖い人が来る訳じゃないし、可愛いんでしょ? 寧ろ大歓迎ですが? ああ、ギルドの仕事に影響あるかもだし、逆に危ない目に合わせちゃダメってことかな。紅炎に参加する人達の大半が貴族に類するからね。
ふっふっふ。
その辺は超絶美人にして超級冒険者の魔剣にお任せあれ! ホントにヤバイ時は強化してお助けしましょう。ピンチに現れるヒーローだから惚れちゃうかもよ?
「そのだらしない顔、やっぱり何もわかっちゃないね」
ん?
「魔剣ジルに憧れた娘達が選ばれてるんだよ? しかも大半が未熟者で若い連中だから、随分と可愛らしいだろうさ。中にはアンタ好みの子や
「えっと」
「誘惑に勝てるなら何も言わないさ。ただし、ターニャはああ見えて本当に恐ろしい子だよ。おまけにアンタにベタ惚れで、独占欲も貞操観念もかなり強い。つまり、周りに別の女の影なんてチラつかせたら、どんな"お仕置き"が待ってるか分かってるのかい?」
「……お仕置き」
何をしてるんですか、お姉様? そんな風に呟きつつ冷笑を浮かべるターニャちゃん。その手には"ジルヴァーナに罰を"を持ち、一歩一歩近づいて来る。魔素特化型の人が扱えば最強の拘束具になるのだ、あの縄は。しかもSっ気を隠さないターニャちゃんだから……
うん、怖い。
すっごく怖い。
「アンタはソッチ方面に弱いから、相手から本気で迫られたときは心配さね。もう一度言うけど、綺麗で可愛らしい娘達なんだよ?」
「……」
「ジルを誘惑から守るよう頼まれてるんだ、パルメと私も。それでも何かあれば……ターニャに報告するしかないねぇ」
ひ、ひぃ!