綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

118 / 130
新キャラと久しぶりのあの人も登場。尚、ジル視点はお休みです。


お姉様、膝枕される

 

 

 

 ジル曰く、

 

 ミルクティーの様な優しい色をした髪。

 

 フレームのない眼鏡はキリリとして格好良い。

 

 でも、色々と見透かされそうで、怖かったりもする。

 

 

 そんな女性の名は、タチアナ=エーヴという。

 

 

 

 エーヴ侯爵家の三女として生まれ、偉大なるツェツエ王国へ忠誠を誓っている。もちろん侯爵家としての責務が主だが、仕える王家を慕う気持ちも強い。

 

 表の役目はリュドミラ王女の教育係兼侍女だ。しかし王家を影から支えるエーヴ家は、数々の情報を扱う部門でもあった。そのため、タチアナ=エーヴは今回の役割を快諾したのだ。いや、素直な気持ちを示すならば、また美しき水色の瞳を眺める機会に恵まれたからだろう。

 

 端的に言えば、会えるのが楽しみ。それだけ。

 

 以前から謎の多い女性(ひと)ではあった。

 

 美の代名詞であるアズリンドラゴンが尻尾を巻いて逃げ出すだろう美貌。それでいながら精神は何処か幼く素直で可愛らしい。

 

 少年を思わせる言動だって魅力に華を添えていた。まあ本人は隠しているつもりらしいから、あまり指摘すると可哀想なのかもしれない。

 

 近い将来ツェツエ王国に輿入れすると思っていた。しかしそれだけは才能(タレント)の"演算"も予測を外した様だ。彼女に関してだけは昔から正解率が著しく下がる。お相手がターニャである点も含め、不思議と驚きは少なかった。

 

 今は朝日が昇り暫く経った頃。そんな時間と同じ、タチアナの心には爽やかな風が吹いている。

 

 きっと再会が待ち遠しくて、でも幸せな気持ちなのだろう。

 

「タチアナ様」

 

「はい」

 

「間も無くです。皇女殿下のお住いは、あの角を右に折れた先と」

 

「ありがとう。では気を引き締めて参りましょう」

 

 そのタチアナには同行者が居る。紅炎より選抜された騎士の中から三名。彼女等は、このツェツエ第二の都市アートリスに居を構えるジルヴァーナ=バンバルボアを……かの皇女を護衛、或いは監視する役目を負っている。

 

 その内の一人、リーゼ=マグダレナが声を掛けて来たのだ。

 

 リーゼは本騎士団屈指の堅物として有名で、今回の任務の部隊長を仰せつかった女性騎士。低位ではあるがタチアナと同じ貴族で男爵家の次女だ。そして、男性騎士と変わらぬ戦闘を全く厭わない稀有な者でもある。紅炎騎士団長であるクロエ=ナーディに見出され、将来を期待される逸材だ。

 

 ジルヴァーナ皇女の護衛任務に関しては、諸々の事情から若い娘が選抜されたのだが、彼女は比較的に年齢が高めだろう。とは言え皇女と近い二十一歳だから、まだまだ若輩だと自覚もしている。

 

 女性として不似合いな短く揃えた黒髪は、騎士としては似合っているだろう。身長も高く、もしかしたら護衛対象のジルより上背があるかもしれない。日々の鍛錬からか引き締まった身体をしており、細身でありながらも持つ空気は鋭く感じる。相当な美人なのだろうが、任務中の為か視線はギラついていて怖さもあった。

 

 追随する残り二名の新米騎士……まだ若い彼女達は緊張で顔が強張っていた。

 

 訪れる目的地には、ツェツエ同等の大国であるバンバルボア帝国の皇女が座すのだ。しかも現在世界に五人しかいない"超級冒険者"で、その中でも唯一の女性にして最強の呼び声も高い。"万能"と称される才能により凡ゆる魔法を行使し、同時に不滅と言われた古竜の鱗すら両断する剣士。そう、憧れであり、恐怖の対象でもある"魔剣"こそ、そのお相手だ。

 

 超級は各国の防衛力に影響を与える。ツェツエ王国が強国である理由の一つに、"魔狂い"と"魔剣"二人の所属があるのは間違いない。

 

「大丈夫ですよ? ジル様はとてもお優しい御方。お会いすれば分かります。それよりも、女神や宝珠と謳われる美に驚かないで下さい。大半の人は視線を外せなくなって、言葉を失いますから」

 

 緊張を見て取ったタチアナが柔らかな声を掛けた。

 

「は、はい!」

「頑張ります!」

 

 変な返しをしてしまった二人目は、後でリーゼからお叱りを受ける事になる。まあ今は関係ないだろう。

 

「いらっしゃれば良いですが」

 

「リーゼ。分かっていますね?」

 

「はっ、勿論です。何日でもお待ち致しましょう」

 

 使者を拝命したタチアナが訪れる理由だが、紅炎騎士団新部隊の配置の第一報を届ける、ただそれだけだ。形式的な承認を貰った後、詳細の詰めに紅炎騎士団長のクロエ=ナーディが再訪することになる。

 

 一冒険者であった以前と違い、相手は皇女殿下である。ギルドから情報も入っているだろうが、何よりも礼を失する訳にはいかない。屋敷付近に待機し、何日でも待つ予定だ。先ずはツェイス殿下とクロエ団長連名の書礼を届ける。

 

 これはツェツエ王国の古来からの慣例であり、最初だけは直接に渡すからだ。この場合、不思議なことに事前の報せは入れない。ただ相手の都合もあるため、何日でも、場合によっては一月以上待つ事もある。その期間も相手への敬う心が宿るとされているのだ。まあ実際には初見で無言の圧力を与える意味も含まれているが。

 

「前以ての確認で、皇女殿下がアートリスを離れていないと分かっていますが……その点ギルドに所属しておられるのは非常に助かりますね。ただ緊急の依頼や、強力な魔物の出現だけは予想出来ません。例えば、つい最近もカースドウルスを討伐されています」

 

「カースドウルスを……⁉︎」

 

 タチアナの言葉に驚いたリーゼの反応も当然だろう。それ程に珍しく、そして厄介な魔物だ。

 

「ええ。あれ程の魔物がそうそう現れるとは思えませんが、こればかりは予測出来ない」

 

「あ、あのぉ、カースドウルスって? ウルスって森に住む熊ですよね?」

 

 新人騎士二人はよく知らない様だ。これは明らかな勉強不足な上に、タチアナ達の会話へ許可を得ず割り込むのも好ましくない。後でたっぷりと言い聞かせなければと、リーゼは恥ずかしくなった。これだから紅炎は"御飾り"と揶揄されてしまうのだ。

 

 しかしタチアナの前で説教も違うだろう。リーゼはグッと我慢した。

 

「……森の深部に出現する魔物の中では最強に近いのがカースドウルスだ。名前の通り巨大な体躯を持つ熊型の魔物で、物理的な攻撃の殆どを無効化し、魔法による討伐が主となる。しかしながら強力な魔力の防壁を備えるため、簡単には倒せない。しかも、時間が経つと霊的な奴等も呼び寄せるんだ。冒険者であればダイヤモンド級を幾人か求められる程の化け物だよ」

 

「な、成る程です」

 

 ダイヤモンド級となると、想像を絶する戦闘力を持つ。紅炎の団長であるクロエすら未だ届かないとされる領域だ。若く可愛らしい二人には想像も出来ない世界である。

 

「……あのお屋敷ですね」

 

 角を曲がると、まだ先だが華麗かつ豪奢な屋敷の上部と、予想より高い外壁が見えた。以前訪れた事がある勇者クロエリウスや、王子その人のツェイスから聞いた内容とも一致している。魔剣が施した魔法防壁を備える為、見た目に反してかなり危険な場所である。無知な愚か者が侵入を試みた場合、酷く後悔するのは間違いないだろう。

 

「はい。しかし……妙です」

 

「リーゼ?」

 

「予め伺っておりました魔法防壁が魔素感知にかかりません。いや、幾らか残ってはいるようですが……」

 

「……とにかく、失礼のないよう近くに参りましょう」

 

「はっ」

 

 何らかの隠蔽をしている可能性がある。タチアナもそう考えたし、リーゼでさえ何か理由があるのだろうと思った。そうしてゆっくりと四人が歩き、最初に気付いたのはタチアナだった。

 

「開いている?」

 

 正面に見える最初の入り口。巨大な一枚板を加工したであろう両開きの扉、その片側が少しだけ開いているようだ。敷地内が僅かに見える事から錯覚ではない。この周辺は貴族の別邸などもある地域のため、比較的治安は良いが……しかし未婚の女性が暮らす家なのだ。不用心と言っていいだろう。

 

「まさか……予めご存知の上、お待ち頂いているのでしょうか?」

 

 魔法防壁が既に解除されているのも説明がつく。しかし、もしその通りならば、待たせたのは失礼に当たるだろう。タチアナも顔色を悪くして、足早に変わった。

 

 屋敷前に到着すると、リーゼ達紅炎の三名は地面に片膝をついた。顔も上げず、視線は絶対に合わさない。相手の許可、つまり皇女殿下の許しが無い限り、声も発してはならないのだ。

 

 それを確認したタチアナは、扉に設置されている呼び鈴に指を添えた。魔法具の一種で、屋敷内に音が伝わり、ジルに来訪を告げた筈だ。しかし、暫く待っても彼女は姿を現さない。

 

 何かおかしいーー

 

 彼女の為人(ひととなり)を知るタチアナは思った。留守かもしれないが、扉は開いて魔法防壁も解除されている。ジルは誰もが認めるお人好しだが、このように安易な隙を見せる女性(ひと)でもないのだ。

 

 チラリと、失礼の無い範囲で扉の隙間を観察する。

 

 すると、ある意味で見慣れた、しかし今視線の先にあるのは不自然な色が見えた。それはキラキラと輝きを放つ白金だ。整然と並ぶ真っ白な石畳に広がっている。白金の其れ等はかなりの長さのため、まるで大海の波間に映る朝日の光のようだった。

 

 何が倒れているのか分かったとき、タチアナは今までの人生で最も驚愕し慌てた。

 

「ジル様!!」

 

 儀礼を無視していようが、後にどんなお叱りを受けようが構わない。扉を更に押し開け、タチアナは全く動かないジルに駆け寄った。

 

「ジル様! しっかり!」

 

 うつ伏せになっていた皇女を抱え、自身の膝に彼女の頭を乗せる。仰向けに変わったが、瞼は閉じていて水色は見えない。サラサラと白金の髪が流れ、タチアナに僅かな感触を与えた。そこには、何かが失われるかもしれない恐怖も孕んでいる。これほどの大きな声でも意識を手放したままなのだから。

 

「く……リーゼ! 早くこちらに!」

 

「は、はい!」

 

 タチアナの叫びは聞こえていたが、どうして良いか分からずにリーゼも固まっていたのだ。しかしタチアナ=エーヴの指示があった以上、騎士として鍛えた身体は素早く動いた。

 

「お前達はそこで待て! 誰も通すなよ!」

 

「「は、はい!」」

 

 若い二人はリーゼの命令に従い、扉の両脇に立った。剣に片手を添えて周囲への警戒を始める。

 

「タチアナ様!」

 

「貴女は身体魔素検査を使えたはず! 急いで!」

 

「は、はは! し、しかし許しもなく肌に触れては」

 

 身体魔素検査……正に今意識のないジルが開発した魔法で、かなり高度で特殊な技術だ。対象者の魔素を体内各所に循環させて何らかの異常を見つけ出す。素晴らしい技術なのだが、直接肌に触れる必要がある上に、行使者の能力や知識で結果が左右するのだ。誰もが使えないし、効果の振れ幅が大きい。しかしリーゼはこの体内循環を十全に使える数少ない騎士の一人だ。選抜された理由の最たるものでもあった。

 

「つべこべと……いいから急ぎなさい!」

 

 普段かなり冷静で温厚なタチアナの怒りに、騎士であるリーゼは震えた。その厳しい視線に耐えられず、リーゼは皇女の尊き肌に触れる。薄い部屋着のままなのか、両肩も腕も露出していたのだ。肩紐はあっても邪魔をするほどではない。同じ女性であるが、その肌は噂に違わない美しさだった。

 

「まさか……こ、これは……!」

 

 そして、リーゼの声はタチアナの耳を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想やコメント待ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。