綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、壁に当たる

 

 

 

 

「リーゼ、戻りましたか」

 

「はい、タチアナ様」

 

 部屋の端から話し声が聞こえた。リーゼさんって、確か鎧姿でショート髪の人だよね。視線が鋭くてちょっと怖かったのを覚えてる。

 

 さっきまでの俺は、鏡に映る姿に魂を抜かれて暫く動けなかった。何とかって国の皇女だとか、魔剣だとか、竜だとか。魔力もある異世界って分かったけど、それどころじゃなかったから。ジルの常識外な美貌のせいで。

 

 だから、タチアナさんが俺から離れて話してるのも今更に気付いたのだ。

 

「屋敷周辺はエピカ=バステドに警護させています。曰く、今のところ不審な影はないとのこと。ご安心ください。はい、彼女の才能(タレント)ならば間違いありません。また増援も直ぐに駆けつける予定で、恐らくクロエ団長も飛んで来るでしょう」

 

「クロエ様が来られたら一先ずは安心ですね。ただ、それまでは移動も出来ませんし、この事は何としても伏せなければなりません」

 

「はっ。このリーゼ=マグダレナ。命に換えてもお守り致します」

 

 その台詞、格好良い。でもリーゼさん大袈裟すぎです。

 

 聞こえてくる声、いや多分態と聞こえるように話してる? あと知らない名前がドンドン出て来て覚えられないな。えっと、エピカ、クロエ? 多分凄く強い人達なんだろう。響きから全員女の人かな。

 

「頼みます。ただ、警備はあくまで自然に、アートリスの者達に不審を与えては本末転倒となってしまうでしょう。此処はアーレよりギルドの影響力も強く、優秀な冒険者が多く在籍する街。何処から漏れるとも知れません」

 

「確かに。再度皆に周知致します」

 

「クロエ様が来られるまで、どれほどですか?」

 

「恐らく三日、と」

 

「三日……」

 

「タチアナ様。まさか、演算に何か」

 

「私の才能(タレント)などジル様と言う存在の前では児戯に等しいのです。つまり、何が起こるかを予測出来ない。ただそれだけです。ごめんなさい、不安にさせて。私の悪い癖ですね。とにかく今は……詳細はまた後で話しましょう」

 

 やっぱり聞き耳立ててるの分かってる? だって急に話を止めたもん。んー、しかしだんだん意味不明になって来たな。才能とか演算とか、何だろう?

 

「ジル様」

 

「あ、はい」

 

「お食事を摂られますか?」

 

「食事ですか」

 

 んー、言われてみたらお腹空いたかも。お茶は飲んだけど、やっぱりご飯だよね。

 

「軽いものばかりになりますが、よろしければ」

 

「えっと、じゃあ少しだけ」

 

「はい。ではそのままお待ち下さい」

 

「はーい」

 

 足音一つ立てず部屋から出て行くタチアナさん。

 

 うーん、至れり尽くせりだなぁ。あんな優秀な人にお世話されたら堕落しそう。いや、間違いなくする、俺ならば。

 

 うんうんと内心で頷いていたら、窓の方から音が聞こえた気がする。ん? あの窓、開いてたっけ?

 

「一応さっき聞いた話もあるし、ちゃんと戸締りした方が良いかも」

 

 こ、怖くなんてないしー。

 

 頑張って窓を閉めつつ、見える景色を眺めてみた。敷地を囲う壁は凄く高くて、街の雰囲気が分かりにくいのはちょっと残念かな。ファンタジー感たっぷりの街とか絶対に見てみたい。でもその代わり、手の込んだ庭は目を惹いた。花がたくさんで、小屋とか可愛い。青と白の配色なんて良い趣味してるぞ、うん。

 

「しかしホント綺麗な御庭だな。雰囲気が何だかスペイン南部の何とかって村に似てる気がする。えっと、アンダルシア地方の……あれ? 名前何だっけ?」

 

 忘れちゃったよ。いつか行きたいって覚えたつもりだったのに。

 

「きっと、フリヒリアナ、です、ね、ジル姉様」

 

「ひぅ⁉︎」

 

 絶対にさっきまで、俺一人だったのに! いきなり背後の、しかもすぐ近くから声がしてきて吃驚する。うぉぉ、こ、怖い……振り向きたくない!

 

「こんな、簡単に侵入、出来て、しかも、ここまで、近くに。本当に、力を忘れ、た?」

 

 声は若い女の子だけど、片言なのが余計に怖いんですが!

 

「私、です。ジル姉様?」

 

「んん?」

 

 回り込んで来たのはピンク色した何かだった。フワフワの綿菓子を思い出すソレは髪の毛で間違いないね。あと、どうやら元のジルを知ってるらしい。

 

「デッ」

 

 キミ、御胸が凄くおっきいな。若いしちょっと可愛いし、糸目なのも愛嬌あって良い感じ。でもさ、小柄で巨乳でピンク髪ってキャラ立ち過ぎでしょうよ。あと、何でそんなに近いの? 距離間バグってない? 女の子同士だと普通なん?

 

「……記憶、喪失? ほんと、に?」

 

 ビックゥ!! べべべ別にエロい俺はいませんよ、ちょっといろいろ忘れちゃっただけで! ひー、糸目の奥にうっすら見える瞳がこっちを観察してて怖い。何だか背中がゾワゾワする。

 

「ホ、ホントですぅ」

 

「私の、名前、分かり、ます?」

 

「え? いや、分からないです」

 

「そう、ですか」

 

 哀しそうな空気。伏せた顔のせいで見えないけど、泣いてるのかな? そう、そうだよ。相手は可愛い女の子だぞ? そもそも警戒し過ぎで俺が悪い気がしてきた。何だかプルプル震えてる気もするし。これは優しくしてあげないとダメだろう。

 

「その、ごめんね。大丈夫かな?」

 

 すると、糸目巨乳ピンク髪ちゃんは勢いよく顔を上げ……いや、キミ笑ってるやん。糸目もクワッて開いて瞳孔見えてるし。あと、何だかにじり寄って来てる……おわ! 近い近い! ピンクちゃん、このままだとオッパイ当たっちゃうよ⁉︎

 

「流石、流石ですジル姉様。やはり貴女はこのふざけた世界の主人公でありヒロインだった。あれだけの力を持ち、それ程の美貌を湛え、それでいながら心まで優しく、そして今度は記憶喪失? ああ、()()()()をバッチリ抑えてあってたまらない。何よりターニャさんが居ないこの時、貴女は誰よりも無力でしょう。つまり大ピンチってやつです。今のか弱いジル姉様は誰かに守ってもらわないといけません。そう、例えば私程度の新人騎士に。だって今なら押し倒して好きに出来ますよね?」

 

 ひ、ひぃ、あばばばばばば! おい、さっきまでの片言は何処いったんだよ! この娘、メチャクチャヤバイ……何だよ押し倒して好きにするって! 俺はイチャラブが好きな健全童貞男子なんだぞ、中身は!

 

「う」

 

 げ、気付けば壁に背中が当たってるし! 知らないうちに後退りさせるなんて怖過ぎる! あ、ま、まさか、それは、壁ドンですか⁉︎

 

「ひっ」

 

 に、逃げられない。折角の可愛い女の子が相手なのに、ヤンデレだけは勘弁して! と言うか、壁ドンはされる方じゃなく、したいんです!

 

「……ジル姉様?」

 

「ひゃい!」

 

「ふ、ふふ、可愛い。私の、名前、エピカ。エピカ=バステド。エピィと、呼んでくだ、さい」

 

 スッと離れたエピィ?は糸目になっている。どうやらノーマル巨乳ピンクに戻ったらしい。いや、それが更に怖いけれども。でも距離を取ってくれたから少し落ち着いた、ふぅ。 あれ? その名前って……

 

「エピカ? 確か護衛の」

 

「はい。私は、貴女様の、護衛を命じ、られた、騎士団の、一人、ですよ? もし、ジル姉様に、悪さする、やつ、いたら、()()使()()()()()()()()()()、消し、ますから、安心して、くださいね」

 

 一歩一歩ゆっくりと離れながら、エピィは片言で教えてくれた。いや、消すって怖いから。

 

「また、遊び、に、来ます。それと、いつでも、見守って、ます。これからも、ずっと」

 

 そう言い残し、エピィは窓から去っていった。音もなく。

 

「いや、見守るって……」

 

 どっちかで言うとストーカーぽくない?

 

「ジル様、お食事の用意が出来ました」

 

 エピィが消えたと同時に、タチアナさんが帰って来た。

 

「あ、ども」

 

 折角のフリヒリアナに似た綺麗な庭だったけど、今は見ないようにしよう。草陰にピンク髪とか巨乳が見えたら反応に困る。いや、巨乳はありか。

 

 まあ名前も合ってたし、間違いなく護衛の一人で間違いない。こう、忍者的な何かなんだ、多分。

 

 ん? あれ? いま、何か違和感が浮かんだような?

 

 んー、んー?

 

 ダメだ、忘れちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これ美味しい」

 

「お口に合いましたか?」

 

「はい。コレって何ですか?」

 

「お野菜のパン包みです。露店物で申し訳ございませんが」

 

「パン包み」

 

 ちょっと乱暴に作ったサンドイッチって感じだな。パンも固めだけど、逆にそれが美味しく思う。ただ気になるのは"お野菜"が蛍光色みたいに派手なことだ。最初プラスチックか何かと思ったもん。

 

 露店物ってことは買い出しに行ったのかな。でも、この屋敷のキッチンは入れたはず。え? いや、不満とかないですよ? タチアナさんの手料理食べれるかもって、勝手な期待なんてしてませんから。

 

「本当は簡単でも調理をしたかったのですが、このお屋敷は魔力により操作する施設が多く、部外者は何も出来ません。ターニャさんさえ……」

 

「はい?」

 

 偶に小声になるよね、タチアナさん。

 

「いえ。ですので、護衛が整いましたら移動する予定でいます。よろしいでしょうか?」

 

「それは大丈夫ですけど」

 

 俺からしたら知らない家だし、部外者が動かせないなら不便だもんね。魔力操作ってやつ見てみたかったけど。

 

 あー、でもこのサンドイッチ擬き、本当に美味しいなぁ。好みにバッチリだし、ソース?も和風を感じるのだ。何が近いかな、テリヤキ? うん、異世界でも食事は近いみたいで安心だ。

 

「そのパン包みは、つい最近開発された新商品だそうです。()()()()()()が大切な人に喜ばれるようにと、たった一人で創り出したとか。独特な味付けには特に拘ったと聞きました」

 

「へー。素敵な話ですねぇ」

 

 いいねぇ、そこまで尽くしてくれるなんて最高じゃん。あー、人生一度で良いからそんな女の子と付き合ってみたいなぁ。朝から晩までイチャイチャしたい。ほら、二人でお風呂に入ったりなんかして。グフフ。

 

「そんな女の子が居たら幸せですか?」

 

「え?」

 

 え? え? ま、まさか、俺の下心はバレバレなのか⁉︎

 

「その希望、叶えば良いですね。いえ、きっと叶うと信じています」

 

 ややややっぱりバレてますか⁉︎

 

 うぉぉ、煩悩退散、煩悩退散!

 

 

 

 

 

 

 

 

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