綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
ようやく屋敷から移動になるらしい。
昨日の夜にタチアナさんが言ってた。色々あり過ぎて全部は覚えてないけど。とにかく、警護する上では今の場所が比較的に適していても、生活面で不便極まりないのが理由みたい。まあキッチンと客間くらいしかまともに使えないからね。魔法による鍵があちこちに利用されているってさ。魔法を施した御本人じゃないと解錠出来ないし、壊す訳にもいかない。
その御本人はジルだけど。
別の場所に移動かぁ。
「くふふ、やったぜ!」
正直な話、かなり飽きていたのだ。まず同じ部屋にいるだけでもアレなのに、遊べる場所はお庭くらい。訓練場はあるけど、今のジルじゃ使えやしないしさ。
おまけに周りを囲む壁も高くて、ファンタジーな街中を観察もしてない。つまり、ジルに憑依した後も、らしい異世界を堪能出来ていないのだ! 確かに豪華なお屋敷だし、タチアナさんも凄く丁寧にお世話してくれてる。でもでも、俺としては現実離れした何かを見てみたい。
特にとあるキャラが居たら嬉しいんだよね。
それはドワーフ! 金槌や金床、武器、あとお髭! もちろんエルフもだけど、もうジル本人が限界突破した美人さんだからなぁ。だから今はドワーフに会ってみたいかな。移動するとき探してみよう。
そうじゃなくても街中はどうなってるのか興味津々だ。
うー、楽しみ!
「あ、はい、どうぞ」
あのノックの音はタチアナさんだな。一拍置く優しい感じで、何だか彼女らしいって思うもん。
「失礼致します」
足音も無く、真っ直ぐな背筋。入って来て頭を下げたのはやっぱりタチアナさんだった。うーむ、格好良い、ホント。前に頭を下げたり何て要らないですよって言ったら、ちょっと怒られたけど。
「ジル様。こちらにお召し替えを。万が一を考え珍しくもない衣装ですが、アートリスで探したものです」
「何でも良いですよー。どれどれ」
ほー、ふーん、なるほど?
形として近いのはドイツ辺りの民族衣装かなぁ。色は地味だし、スカートの裾は長めみたい。まあ街娘って感じだろう、多分だけど。
「では」
すると、当たり前のように肩紐へ手を掛けた。タチアナさんが。
「え? え?」
スルリと脱がされたワンピース状の部屋着。余りに素早く自然だったから、気付いたらもう下着姿になっていた。ジルの艶やかな肌が眩しい。とにかく頑張って視線を外し、意識から遠ざけるしかないだろう。一人のときはともかく、タチアナさんの前でエロい視線はマズイのだ、うん。
あと、恥ずかしい! 人に着替えさせて貰うのは!
当たり前だけど、タチアナさんの指が素肌に当たる。うぅ、擽ったいよぉ。
我慢我慢。早く時よ過ぎ去れー。
「ジル様は非常に腰が細いので、少しだけ腰高で止めるようにしました。通常の市販のものだと、かなりキツくしないといけなくなりますから。移動する際に苦しくないよう……如何ですか?」
「だ、大丈夫です」
腰回りをサラリと撫でられたから、ちょっと震えちゃったよ。バレてないよな?
まあタチアナさんの話も分かる。ジルのウエストは滅茶苦茶に細いのだ。そのくせ胸やお尻はしっかりとあるから、そのギャップは凄まじい。超絶な美人さんで、スタイルも最高で、ホント綺麗なお姉様だよなぁ。
「次は髪を纏めましょう」
「はーい」
髪も凄く長くて、真っ直ぐに下ろすとお尻まで届くのだ。クセも全然ないから頭を振るとフワリフワリ舞ってくれて楽しい。一人のときに何回も遊んでしまったのは内緒だ。
ほほう、これはシニヨンってやつですな。うなじを見せるように頭の後ろに纏めて貰った。ゆるふわな感じで似合ってますよ。シニヨンって言葉自体がフランス語でうなじって意味らしいけど、なるほどって思うもん。
うむ、女性のうなじ、良い。
うんうん、ワクワクして来た。やっとお外に出れる訳だもの。あ、そう言えば、どうやって移動するんだろ?
「タチアナさん、移動って歩きですか?」
「いえ、馬車を用意致します」
「馬車」
うん、それも良いね。風を感じつつお馬さんの尻尾を眺めて、周りの景色を楽しむ事が出来る。ゆっくり進んで貰えるよう頼もうかな。
「ツェツエ王家のものをと考えましたが、目立つことを避けるため市井の馬車になります。正直、乗り心地も良くありません。どうかお許しを」
「全然大丈夫ですよー。寧ろ凄く楽しみです」
「楽しみ、ですか?」
タチアナさんには珍しく表情が分かり易い。少しだけ傾けた顔、キラリと光る眼鏡、好きです。
「アートリス、でしたっけ? 知らない街を見学出来るなんて、なかなか経験出来ないじゃないですか。ずっと見てみたかったんです」
あ、あれ? タチアナさん、顔色悪くなった?
「それは……申し訳ございません。二つの意味でお詫びを」
「お詫び?」
「はい。ジル様に我慢を強いたこと。もう一つは……アートリスの見学が出来ないことです」
「え?」
見学出来ないの? えー、何で?
俺の表情も暗くなっただろう。タチアナさんは益々申し訳ないって顔に変わる。スッと視線を下げて説明を続けてくれた。
「屋敷の正門前に横付けしたら直ぐにお乗り頂きます。馬車から外をご覧頂くことも出来ません。貴女様の存在、アートリスを離れること、その全てを隠す為です。また、馬車の中でお会いして頂きたいお二方がおります。このお二人はジル様にとって非常に馴染みのある方々ですが、今は初めてに等しいでしょう。ですので……ご希望には沿えません」
もう心からの謝罪って分かる。タチアナさんは頭を下げたままだもん。うー、護衛する立場の人からしたら当たり前か。でも、そこまで隠すなんて大袈裟だと思うけどなぁ。
「だ、大丈夫ですから。頭を上げてください」
とにかく、タチアナさんに悪いよ。今までも一生懸命お世話してくれた人だからね。
「……ありがとうございます」
「えっと、そうだ、次の目的地って何処なんですか?」
暗い雰囲気のままは嫌だし、話題をチェンジだ!
察してくれたのか、タチアナさんの表情も少しだけ柔らかくなったみたい。
「はい。最終的には王都を目指しますが、まずは宿場町のツェルセンに参ります。治安も比較的良いですし、貴女様をお守りするのに適した宿があるのも理由ですね。何より大きな町では無いので、人目もアートリスよりずっと少なくなるでしょう」
ほほう。宿場町とな? ちょっとロマンな感じがして良いね。
「分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」
「とんでもございません。では、まもなく馬車が着きます。直ぐに移動しますので御準備を」
「了解です!」
あ、タチアナさんの眉が歪んだ。思わずだけど、変な返事しちゃって御免なさい。
◯ ◯ ◯
頭巾?を被り、横付けした馬車にそそくさと乗り込んだ。窓は塞がれ、前後にベンチ状の椅子が配置されてる、まあ想像通りの馬車だね。サイズ的には六人くらい座ったら一杯ってところ。そして、タチアナさんに促されて座った向かい側に、一人の女性がいる。その人は、頭巾を被ったままの俺をジロジロと見ているのだ。
コランダムの変種で、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ。語源はラテン語で「赤」を意味するルベウスに由来し、石言葉は情熱や自由、勇気などかあるらしい。
目の前に座る女性の瞳を見て最初に思ったのは、まるで"ルビー"みたいだってこと。ポニーテールにした髪まで赤いから、一目見たら忘れたり出来ないな。歳上なのは確実だけど、何処か可愛らしい印象もある。あと、奥に立てかけてるの間違いなく双剣だよね? もうそれだけで最高に格好良いんですが。
「クロエ様。ジロジロと、失礼ですよ。この御方は帝国の皇女殿下で」
「分かってるって。タチアナったら相変わらずね。でもさ、ホントに記憶がなくなっちゃったの?」
ハァと溜息をこぼすタチアナさん。何となく普段からこんな感じなのが分かるな。ちょっと微笑ましい。あと名前はクロエさん。うん、聞いたことあるな。このクロエさんが来れば一先ずは安心って言ってたし、凄い人なんだろう。
「それは間違いありません。ご自身のお名前も、お立場も、そして魔剣の力も、今は」
「ね、フード取ってみてよ、ジル」
「クロエ様!」
「え、あ、ご、ごめんって、つい、いつもの感じで」
ププ、歳上なのに歳下のタチアナさんから怒られるなんて、何だか可笑しいぞ。多分ジルって呼び捨てにしたのが悪いんだろうけど、俺は全然構いませんよ? 言われた通りにフードを取って、クロエさんに向き直る。
「えっと、クロエ、さん? ジルで大丈夫ですよ?」
「ほら、ジルもこう言ってるじゃない。元々こんな娘だし、今は固苦しいのも良くない……タチアナってば顔が怖いから」
「……全く。後でお話しをしないといけませんね」
縁無し眼鏡をクイってする仕草、いい。
「そ、それは許して!」
何この人たち、面白いんだけど。それに、タチアナさんの新しい一面も見れて嬉しいな。
「ジル様、申し訳ございません。こちらはクロエ=ナーディ。ツェツエ王国三大騎士団の一つである紅炎騎士団の団長です。さあ、クロエ様」
団長? わー、やっぱり凄い人なんだ。
「はいはい。んー、名前はまあそんな感じで、私とジルは昔から友達なんだ。だから気軽にしてね? 王都に到着するまで一緒に居て、まあ護衛する感じかな。あと、こんな登場にも理由があって、私もそこそこ名が売れてるから、アートリスに現れたって知られたくなくてね。紅炎がいるってことは、女性の客人が居るってことだから余計な注目を集めるの。だから馬車の中で待ってた。早くジルに会いたかったけど、こればかりは仕方ないし」
まさに友達みたいな喋り方で親近感が湧くなぁ。でも、タチアナさんが射抜くような視線を送ってるの気付いてないのかな? 絶対あとで怒られると思うけど。
「また思い出すまで新しい友達になろっか。そしたら次は親友になれるでしょ?」
手を取り握手してくれた。綺麗なお姉さんと握手なんて嬉しい。何よりもこの人好きだなぁ。人柄が良いの全身から出てるもん。
「はい、こちらこそ」
「くっ、この微妙な距離感変わってないわね。やっぱりジル、手強い」
真っ赤な瞳、真っ赤な髪。早速タチアナさんに怒られる姿も可愛い。んー、歳上だけど素敵な人だ。