綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、怒られる

 

 

 

 

 

 蹄の音は遠く感じる。木製の窓は閉め切ってるから仕方ないけど、外の風景やっぱり見てみたいなぁ。ジルが移動してることそのものを隠してるらしいから仕方ないけど、やっぱり残念だ。

 

「じゃあ、魔力強化はもちろん魔素感知も今は無理ね」

 

「はい。魔力銀製の衣服、剣、ナイフ。どれもジル様の行使が無ければ柔らかな金属でしかありませんから。一応屋敷で見つかった物は持って来ておりますが……それを踏まえての護衛をお願いします」

 

「了解。今までたくさんツェツエを守ってくれたジルだもの、恩返しの良い機会と思いましょう」

 

「あ、あの」

 

「ん? なあに?」

 

「クロエさん。さっき、魔力強化って」

 

「ああ、うんうん。超級魔剣の代名詞で、とにかく凄いの、ホント。真面目な話、もう反則」

 

 おお……! 超格好良いじゃん! 想像通りならアレだよね⁉︎

 

「目にも止まらぬって感じで走り回るし、力も増すから凄く強くなるんだよ? あと魔力銀製の剣は理論上斬れないものが無いって、以前のジルが言ってた」

 

 やっぱりか! くー、ジルってば最高じゃないか! その魔力銀製の剣も気になるけど、何より強化だよ! いつか見てみたい。いや、自分で出来るなら体験出来るってことだ。やっべぇ、何かのアトラクションみたいに凄いのかな?

 

「おまけに魔法まで無制限に放つから、本気出されたら近寄ることも出来ないし。こんな見た目なのに、一体どうなってるのよ」

 

 またまたこっちをジロジロと見てくるクロエさん。まあ確かに、それは同じ意見です。

 

「まもなくアートリスを出ますね」

 

 タチアナさんは外も見ずに言った。何故に分かるんだろう。

 

「うん。魔素感知でも異常は感じない。()()()()()もちゃんと追跡出来てるから安心して」

 

「例の方は?」

 

「もうすぐね。人影の少ない場所で待って貰ってる。彼が事情を知らないのは拙いし、ジルをよく知ってる人だからタチアナも安心して。コーシクス副長も馴染みのお爺さんよ」

 

「それは伺っていますが……万が一も」

 

「その万が一を起こさないために必ず必要なことなの。ツェイス様からも許可は貰ってる」

 

 うーむ。色々と話題が飛ぶからよく分からないけど、この後お爺さんと会うらしい。ちょっと緊張する。

 

 暫くすると馬車の速度が落ちるのを感じた。多分お爺さんとやらの待つ場所が近いんだろう。そして緩やかに止まり、左側の扉が開いて小柄な姿の誰かが乗って来た。乗って来たんだけど……こ、これは!

 

 お、おお……! マジですか! ついに、ついにホンモノの異世界が目の前に!

 

「失礼する」

 

「はいどうぞ。久しぶりねお爺さん」

 

「ふん、お前も偉くなったもんだ。あのくそ餓鬼がまさかな」

 

「ちょっと! 折角の格好良い雰囲気が台無しじゃない!」

 

「そんなとこが餓鬼なんだ、クロエ」

 

「このクソジジイ……」

 

 もう辛抱堪らん。口調までイメージ通りで、姿形を見ても絶対間違いない!

 

「あ」

 

「「あ?」」

 

「握手してください! ドワーフさん!」

 

 皺くちゃの顔に長い白髭! 出っ張ったお腹! ちょっと乱暴な物言いと、筋肉質な両腕! ついに、ついに、出会ってしまったのだ!

 

「誰がドワーフだ! 俺はハーベイだと何回も言っただろうが!」

 

「うひぃ!」

 

 こ、怖い! でもそんなとこもドワーフのイメージに合ってて最高!

 

「ククク……ほらほらドワーフのお爺さん? 怒っちゃダメだよ? この方はバンバルボア帝国の皇女殿下で、今は昔のことを忘れちゃってるの。口の聞き方に注意して」

 

「コイツら、何一つ変わっちゃいねぇ……」

 

 あのねクロエさん。お前が言うなって顔で見てるよ、タチアナさんが。

 

「……こちらの方はウラスロ=ハーベイ様。アートリスの冒険者ギルドのギルド長で、ジル様を超級まで推薦した方でもあります。それでよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ。済まない。貴女はかの有名な演算、タチアナ=エーヴだな。いや、エーヴ侯爵家の御令嬢に対しては失礼か、申し訳ない」

 

「お気になさらず。普通にタチアナ、とお呼びください」

 

「そうか、悪いな。で、ジルよ。一つだけはっきりと訂正しておくが、俺はドワーフなどと言う空想上の生き物じゃない。普通の人間だ」

 

「ええ⁉︎ ドワーフお爺さんじゃない? 絶対に嘘だぁ」

 

「ホントに記憶喪失かお前」

 

 すっごく残念。あとでサインとか貰おうと思ってたのに。それと吃驚したんだけど、タチアナさんで侯爵家のお穣様なの?

 

「今日ご足労願ったのは、ジル様の現状を知って頂くこと。そして」

 

「ああ。ジルへの依頼も、不在であることも、全てをうまく誤魔化す必要があるんだろう? アートリスにとっても重要なことだし、もちろん協力しよう。あとジルが懇意にしている奴が何人かいるから、そちらも調整が要るな……まあ任せてくれ」

 

「宜しくお願いします。でも、あっさりと信じるのですね? もっと説明に時間が必要かと考えていました」

 

「ん? ああ、ジルのことか? クロエも感じているだろうが、中身はともかく魔剣としては別人だよ。多少戦いを生業にしてる奴なら直ぐに気付く。ましてや俺はコイツと何年も仕事をして来たからな。独特の凄みも、自信も、魔素感知にも、今は違い過ぎるな。逆に言えば、この美貌を見られさえしなければ早々バレないってコトだ」

 

「なるほど……」

 

「だが、問題は時間だ。記憶を失った原因や対策はあるのか?」

 

「いえ、今のところは」

 

 うーむ。難しい話が続くと入れなくなるな。ジルの話ってのはもちろん分かるけど、他人事に感じるし。さっきまで明るかったクロエさんも真面目な表情。この辺は騎士団のリーダーだし当たり前なのかも。

 

「超級は街を離れる依頼を請ける事もある。だからある程度は大丈夫だが……何にしても限度がある。それに、前のカースドウルスみたいな厄介な魔物が出たら、より深刻な問題となるかもしれん。だから、キミの演算に期待しているよ」

 

「……出来るだけの事はするつもりです」

 

「ああ。さて、そろそろアートリスの外円だ。俺は降りる」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 馬車だけに揺れるけど、意外に会話は普通に出来た。まあお尻がちょっと痛いのは間違いない。またまたゆっくりと止まると、ドワーフ、じゃなくてウラスロのお爺さんは降りて行った。うー、あの見た目、絶対にドワーフだけどなぁ。

 

「でもジルったら記憶が無い割にドワーフとか覚えてるんだね」

 

「うぇ⁉︎ え、えっと、不思議ですねぇ」

 

 あ、危ねぇ。記憶喪失じゃなくて俺が憑依してるだけってバレたら大変だ。気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 街から離れ、街道に出て随分と経った。すれ違う人も殆ど無いから間違いないだろう。

 

 タチアナさんから許可を貰い、ほんの少しだけ窓を開けている。馬車はかなりゆっくりした速度みたいで、流れていく景色も緩やかだ。ちょっとでも異世界的な何かがあれば良いけど、見えるのは小高い丘や樹々、あとはお空と雲くらい。

 

 多分植生とか違うから、異世界らしい木とかもあるんだろう。でも、はい、全く分かりません。

 

「何か面白いものでもあった?」

 

 さっきから俺の方を観察しているクロエさん。やっぱり記憶喪失なジルだけに、色々と気になるのは理解してる。してるけど、ルビーみたいに綺麗な瞳で見詰められると緊張します。

 

「特には。あ、質問良いですか?」

 

「もちろん。ジルから頼み事されるなんて珍しいし、何でも言ってよ」

 

 ……な、何でも? いま何でもって言った?

 

 い、いやいや落ち着け。そんな方面の話じゃないだろ。軽く深呼吸だ!

 

「この道は安全なんですか? 魔物とか、盗賊とか」

 

「あー、不安だよね。何だか貴女からそんな質問されると不思議な感じ。そうね、まず魔物の出没は絶対無いとは言えない。まあ王都まで繋がってる街道で、定期的な討伐はされてるけどね。それと盗賊連中はまず居ないかな。騎士団も冒険者も動きが活発な地域だから、まず近寄って来ないし」

 

 ふむ、つまり基本的には安心と。普通に考えたら当たり前か。陸路にいつも危機があったら身動きが取れないもんね。

 

「仮に何か現れても私が守ってあげる。だから安心して」

 

「は、はい」

 

 ニコリと笑い掛けてくれたクロエさん、可愛いし綺麗。こうギュッとして守ってくれたら嬉しいよ? そのお胸に顔を埋めて。

 

「あの、クロエさんは以前のジ、じゃなくて私をよく知ってるんですか?」

 

「そうね。私は友達だと思ってる」

 

「タチアナさんから色々教えて貰いましたが、えっと、私はかなり強い冒険者だったんですよね?」

 

「うん。超級は現在のところ五人しかいないし、そのうちの一人が魔剣、つまりジルだもの。個人で対抗出来る人間はほぼ居ないよ。なんで?」

 

「お屋敷にあった訓練場で摸擬剣を振ってみたんですが、重くてまともに持ち上げるのも大変でした。つまり、例え記憶が無いにしても、身体まで衰えるのは不思議だなって思ったんです」

 

「あー、それは多分簡単だよ。さっきも言った魔力強化が今は出来ないから、力も普通の女性みたくなってるはず。貴女の力の大半は魔力によって構成されてたから仕方ないかな。でも、魔法がいきなり使えなくなるなんて、ちょっと想定出来ないよ。記憶を失ったとしても、かなり珍しいと思う」

 

「そうなんですか?」

 

「え? うん。魔法なんて子供の頃から使うし、もう身体が覚えてるみたいな? 歩き方や喋り方を忘れたりなんて普通しないでしょ?」

 

「なるほど……」

 

 魔法が一般的な世界だとそれが常識になるわけだ。うーむ、そうなると、俺が憑依してる限りやっぱり無理っぽいな、魔法を使うの。

 

「ジル様、少し宜しいでしょうか」

 

「あ、はい」

 

 静かだったタチアナさんが眼鏡をクイッ。

 

「お一人で、摸擬剣と言えど触るのはお控え下さい。万が一があってはならないですから」

 

 ひぃ⁉︎ ちょっと怒ってる!

 

「は、はぃぃ!」

 

「タチアナってば、それはキツすぎない?」

 

 だよね! さすがクロエさん!

 

「クロエ様、何か?」

 

 またまた眼鏡をクイッ。

 

「いえ! 何でも御座いません」

 

 よわ……弱すぎですよクロエさん!

 

 

 

 

 

 

 

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