綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
双竜の憩。
宿場町ツェルセンに構える王家御用達のお宿らしい。更に言えば、記憶を失う前のジルが泊まった事もあるってさ。外を眺めたり御散歩も出来ないから、タチアナさんが細かく教えてくれるのだ。
しかも、貸し切り。なんて贅沢。ホントに良いの?
宿の中や外に紅炎騎士団の人を配置して、万全の体制を整えています。ですから安心して下さいと、笑顔で言われたから間違いないよね。
んー、でも、やっぱり大袈裟すぎない? だって、今日まで危ない目になんて一度も遭ってないし、そもそも危険人物がそこら中に居るとも思えない。日本ほどじゃなくても、治安崩壊してる訳じゃないでしょ? ここまでの道すがらだって何も無かったし。
「その顔。贅沢過ぎて何だか悪いなって思ってる?」
宝石が埋め込まれてると勘違いしちゃう瞳は、何度見てもルビーにしか見えない。ホント眺めてると綺麗だなって思う。そんなクロエさんがニヤリと笑いながらツッコミを入れてきた。
「い、いやそんな訳……えっと、ありますけど」
「フフ、だと思った。でもあの質を持つ宿なら当たり前に守りが固いから、勝手に選んだのはコッチなの。
「は、はあ」
今度はカラリとした笑顔を見せてくれて、凄くドキドキする。美人の度合いはジルが飛び抜けてるけど、クロエさんもすっごく綺麗なお姉さんだ。そんな女性に向かい合ってると、俺みたいな野郎は緊張してしまう、うん。はぁ、こんな人とお付き合い出来たら幸せだろうなぁ。
「ちょっと、余りジッと見ないでよ。ジルに見詰められると変な気持ちになっちゃう。同じ女なのに、反則」
「あ、ご、ごめんなさい」
うぉぉ、童貞野郎な視線は簡単にバレるらしい。
「わー! 真剣に受けないでよ! こっちもごめん! まあ、反則なのは冗談じゃないけど」
うぅ、思わせ振りな言葉やめて。勘違いしちゃうじゃん。
「そろそろ到着します。クロエ様、準備を」
「おっと。タチアナ、ありがと。さてと、ジル。私が先に出て確認する。そのあと合図したら馬車から降りて来て。それまでは座ったまま、良い?」
「はい」
キリリと表情が締まったクロエさんも格好良い。うー、惚れる!
ちょっとすると馬車の速度は緩やかになって、右に曲がるのが分かった。多分、お宿の敷地内に入ったんだろう。玄関前に横付けしたのかな。
えー……
あー……
いやいや、えー?
クロエさんから合図があって、馬車から降りたんだけど。そう言えば、タチアナさんが手を取ってくれて、まるでお姫様みたいな降り方をしてしまった。ん? ジルは皇女だから別におかしくないのか。
いや、そんなことより……
多分お宿の人が全員勢揃いしてて、一人残らず頭を下げている。と言うか膝も地面に付けてるし、銅像みたいにピクリとも動かないのが怖い。真ん中に一人だけ目立つのは白髪の混じるおじさん? 多分ここで一番偉い人なんだろう。
あのぅ、もうそういうのお腹一杯ですぅ。身分はそうかもだけど、中身が違うので大変申し訳なく感じるのだ。
「ジル様」
そばに控えてたタチアナさんが小声で教えてくれた。そっか、馬車の中で教えて貰った話を喋らないと。うー、落ち着かないよ。
「み、皆さん、お出迎えを心から感謝します。えっと、ら、楽にしてください。それと、地面に膝を付いたりとか大丈夫ですから」
最後の"膝を付く"云々は指示に無かったけど、我慢出来なくて話しちゃう。タチアナさんが少しだけ反応した気がした。でも見なかったフリだ。
色々な意味でビクビクしてたら、真ん中の人がスッと立ち上がり、片手を胸に当てながらニッコリと笑った。何だか執事みたいで格好良い。と言うか、この世界の人達ってみんな格好良すぎな気がする。
「
「は、はいぃ」
いやいや、だから大袈裟なんだって!
バリトンの効いた声で、ツラツラと喋るおじさん。もうまんま執事なイメージを形にしたような人だ。絶対に名前はセバスチャンだろう。愛称はセバスであってくれ、うん。
「支配人。殿下は移動でお疲れです。早速案内をお願い出来ますか? また事前にお伝えした通り、あくまで
「は。タチアナ様」
「警護に関しては急ぎクロエ団長と詰めてください。もう一つ。この度の逗留、伸びるかもしれませんので、その点も」
「委細承知しております。ではまず、お部屋まで」
「ではジルヴァーナ皇女殿下、参りましょう」
「……は、はい」
落ち着かないよー。もう早く一人になってゴロゴロしたい。お姫様みたいな態度って意外に疲れる。身分の高い人って大変なんだなぁ。気が抜けないもん。
◯ ◯ ◯
「ほえー」
セレブなお宿だから派手派手なイメージだったけど、中はすっごく落ち着いた雰囲気だ。
案内された部屋は三階で、多分最上階。
扉を開けても部屋の中は見えない。衝立みたいなのがあって目隠しされてる。回り込むともう豪華な一軒家のリビングかって言いたくなるスペースだ。テーブルもでっかいし、椅子なんて十脚もあった。ソファかベッドか判別不能なアレはお昼寝用のものらしい。つまり正式なベッドは別にある。意味分かんない。他にも幾つか部屋があるっぽいし。
「ジル様。こちらからの眺めは当宿の自慢で御座います」
支配人に促された先は巨大な全面ガラス窓。そしてそこに立つと中庭が見えて、自慢の意味が理解出来た。
「綺麗……素敵です」
「はっはっは。美の女神であるジルヴァーナ皇女殿下にお褒め頂いたとなれば、此処はいま祝福されたも同然。何とも光栄なことです」
美の女神って言葉にツッコミを入れたくなったけど、まあ確かに綺麗だものジルって。でもそれに反応出来なくなるほどに美しいのが見えた眺めだった。
ライトブルーの水を湛えた池。そこにはアーチ状の橋が二本掛かっていて、散策出来るようにしているみたい。周囲には篝火?が風に揺れてて、水面と木々をユラユラ照らしてる。不思議だけど、何となく日本庭園の趣きを感じてしまった。宿の周囲は高い土壁に覆われてるから、異世界に居るって忘れてしまいそうだ。
「貴女様の瞳の、その水色の輝きにはとても敵いませんが……シャルカ様の宝珠へ捧げる事が出来たなら、ある意味で本望でしょうな」
「え?」
うー、意味が分からなかったぞ。
「おっと、これは失礼致しました。
ニコニコと笑い格好良い姿勢で挨拶したあと、支配人は部屋から去って行った。うーむ、何だったんだろ?
「ま、いっか。ようやく一人になったし、息抜きしよ」
さっきまで居たタチアナさんも、気を利かせてくれたのか姿がないのだ。
「んんーー!」
お昼寝用らしき巨大なソファに寝転がり、思い切り背伸びする。スカートの裾が捲れて太ももまで見えたけど、今は許して欲しい。真っ白な肌につい視線が向いたのも許して。ごめんって、仕方ないじゃん、俺だもの。ほら、下着は見えないよ?
「馬車って座ってるだけでも疲れるんだなぁ。まだ揺れてる気がするよ。あとお尻が痛い」
双竜の憩はお庭が自慢らしいけど、他にも色々と特徴があるらしい。先ずはお風呂。そして葡萄。葡萄はワインとかお酒じゃなく食べるための品種で、ジュースとかも美味しいってさ。ふむ、お風呂から出たら葡萄ジュースを一気飲みすると最高かもしれない。コーヒー牛乳じゃなくても良いはずだ。
でもやっぱり外で遊びたいなぁ。ここって宿場町らしいし、如何にも異世界な感じがあるかもしれない。夜ならランプの灯りがあって、あちこちがお祭りみたいに騒がしくて、魔法だって見れたり。馬車の窓まで塞がれてたくらいだから無理だろうけどさ。
白くて艶々で、触らなくても分かる瑞々しい太ももを眺めつつ、ツラツラと考えてしまった。何だか愚痴みたいだけど仕方ないよ。
「はぁ」
無意識に右手が動く。無意識、これ大事。
「おっほ」
期待を裏切らない質感が堪らない。この触り心地、世界最高なのでは? それほどまでに太ももの感触がすごいのだ。サワサワと撫でるだけで、もうずっとこうしていたくなる。そのうち中毒症状とか出たりするかも。
「……」
何となく、何となくだから。えっと、無意識ですし?
捲れたままの裾を指で挟み、少しずつ上に引き上げていく。そうすれば肌が空気に晒されて、ちょっとだけプルプルしてる指に力が入った。街娘風だから全体的に露出の少ない衣装。そして今はチラリを超えたギャップ。
もう少し、もう少しで下着が……
「あー! やめやめ!」
何をやってるんだ俺は! これじゃ完全な変態だよ、マジで!
いやまあ、否定は出来ないですけれど!
「ジル! 大丈夫⁉︎」
「うひっ! ク、クロエさん!」
「貴女の大きな声が聞こえて……何かあったの⁉︎」
「な、何でも無いです!」
ちょっと変態が現れたたけで! もう居なくなりましたから!
「もう、吃驚させないでよ」
「えっと、その、ほら、お庭が綺麗だなぁって、ははは」
「寝転がってたのに?」
う……
「お、思い出してブワーッて」
「ふーん。まあ大丈夫なら良いけど。あと、はしたないよジル。そんな姿見せたらタチアナに怒られるかも」
「え⁉︎ あ、はい! ごめんなさい!」
捲れ上がったスカートを指差し、クロエさんのジト目が突き刺さった!
やっぱり変なことするものじゃない、うん。