綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「あの! 大丈夫ですから!」
「ジル様。なりません」
「ちょ、タチアナさん? な、何してるんですか⁉︎」
「何をと言われましても、着替えです。お世話するには私にも必要となりますので」
「いやいや! ですからオ、いや私一人で入りますよ!」
「今の皇女殿下は以前のジル様と違うのです。その事はご存知でしょう」
「え、でもこの間は変わらないって、人柄はそのままって」
「それに、御屋敷ではお世話に限界がありましから。これからはこのタチアナにお任せ下さい。この双竜の憩には専用の場所もあり、他の者もおりませんのでご安心を」
スルーした! タチアナさんって意外に頑固だ! あ、ギャ、ギャー、見えちゃう見えちゃいますって!
タチアナさんは着てたメイド服らしき何かを脱ぎ、畳んで籠に入れた、みたい。ほら、途中から視線を外しましたので!
「うぅ」
「さあジル様。力を抜いてくださいませ」
気付いたら背後に立っているの怖いんですが。見事な手つきでこっちも脱がされそう。と言うか上手すぎませんか⁉︎
「ど、どうしてもですか?」
「はい。貴女様の髪は非常に長いですし、手入れもしなければ。更に言えば今は非常時。可能性は無きに等しくともお傍に控えさせて頂きます。さあ恥ずかしがらずに」
「む、無理ですぅ」
無理に決まってるじゃん! タチアナさんみたいな綺麗な女性とお風呂に入るなんて! 嬉しいけど! 凄くエッチな気持ちになるけれど!
「では、下着を」
前に回り込んだタチアナさんは、薄い貫頭衣?みたいな服を着てる。裸じゃないのはざんね、いや良かった。ただ、かなりの薄着なので視線に困るのに変わりは無いです。えっと、タチアナさんって思ったよりお胸があるんですね、うん。
ん? げ、いつの間か素っ裸だ、俺が!
「な、何で私だけ裸なんですか……?」
せめて俺もソレ着たい。
「これはお世話をする者が纏う浴着です。貴女様が着ては意味がありません。お肌の手入れをするにも不要ですから」
「え⁉︎ じゃ、じゃあ髪だけじゃなく私の身体を洗うのもタチアナさんが……?」
「当然です」
ヒィ! ムリムリムリ! 恥ずかしくて死んじゃうよ!
「お風呂くらいなら覚えてますって!」
「そう言えば、ここの湯は肌だけでなく疲労にも効能があるとされております。先ずは湯の中で疲れを取りましょう」
またスルーした!
「あわわわわ」
「こんな機会は滅多に有りません。以前のジル様は隙が無かったので、絶対に逃しませんよ」
「何か不穏なこと言ってる⁉︎」
「さあ、お早く。肌が冷えてはお体に触ります」
「で、ですからぁ!」
押さないでぇ!
え? 感想?
初体験、ヤバかった、です。
女性の肌って凄く敏感なんですね。
ははは。
はぁ。
「うぅ、馬車に乗ってるより疲れた……」
しかも、お世話してくれたタチアナさんの方が幸せそうだったのが解せない。何であの人まで肌がツヤツヤになってるんだ……
まさか寝る時まで一緒なのかと期待半分、ビビり半分で聞いてみたけど、流石にそれは無いらしい。宿周りは厳重に警備されていて、超小型の魔物さえ入る事は不可能だってさ。ん? じゃあ風呂も一人で入れたのでは?
しっかしおかしいな。今までしてた妄想だと、美人さんとお風呂に入るって最高なはずなのに。でも現実はそんなに甘くない。ビビりな童貞野郎に楽しむ余裕なんてありませんでした。そもそも擽ったいし、ちょっと気持ち良いし……
我が桃源郷、湯気の彼方へ、ハァ。
お? あれは?
「支配人が言ってたやつかな」
テーブルの上に銀色したバケツらしき何かが置いてある。いやまあバケツじゃないだろうけど。多分ワインクーラーとかシャンパンクーラーとか言われる入れ物だな。中を覗けば予想通りに氷がたっぷりと入ってて、ガラス瓶が突き刺さっていた。
半透明の瓶の中身は間違いなく葡萄ジュース。以前の世界みたいに濃縮還元でもなく、果汁そのものの最高級なジュースだろう。冷やしたのが飲みたいって答えてたから、バッチリ用意してくれたんだね。しかもお風呂上がりに時間が合うよう計算もされてる。だって、氷がまだ溶けてないもん。
「意外に多いな。一リットルくらいありそう」
そばには磨き抜かれたグラス。こっちも綺麗。
よし、早速頂こう。
凄く濃厚なのか、トクトクトクって注がれる液体は少しだけトロってしてる。うわ、香りも強いな、コレ。ふむ、色は如何にもな葡萄色だ。
「頂きます」
……んー、うま! 甘い! 何だコレ!
マジで人生最高の一杯なのでは! 小皿にあったチーズと合わせても美味しい! 夕ご飯の前だけど、これは我慢出来ないぞ!
「うまうま」
二杯目を注ぎ、今度はゆっくりと味わう。堪らないな、コレ。ふむ、まだ半分以上残ってるし、景色でも眺めながら飲んでみるか。きっとお庭の篝火が綺麗だろう。
そんな時、とあるスペースに気を取られた。
部屋の反対側に配置されたお洒落なバーカウンター。壁には棚板があって、色とりどりの瓶が並んでる。間違いなくお酒だ。もちろん其処にあるのは知ってたんだけど、未成年な俺には関係ないと思ってたのだ。だが、ジルは聞いたところ二十二歳。つまりお姉様。そうなると飲んだとしても怒られないのでは? いや怒られない!
やっぱりお酒って大人の印象だし、グラスなんてユラユラさせたりしたら似合いそう。それに、そのまま飲むのは無理だとしても、この最高な葡萄ジュースで薄めらたら俺でもイケるはず。
「アリ、だな」
俺は今日、初体験を済ませて大人の階段を登ります!
「ふんふーん♫」
んー? 正直な話、種類が有りすぎて全く分からない。ただ、ジュースで割るからワインとかは無しだよな。あと、あっちの世界みたいにアルコール度数とか書いてないから判断も難しい。やっぱり透明なやつだろうか。ジュースの色が消えるのは違うだろう。お、こっちには氷があるじゃん。丸いやつ。これも透明で綺麗。
よし決めた。キミに我が初体験を捧げよう!
微妙にキモい台詞だから口にはしない。あと、ジルの女性らしい声で再生されたらヤバいのもある。
しかし、どれくらいで薄めるのか分からないな。半分、じゃなくて多分三割くらいがお酒かな。先ずはコルクみたいな蓋を取り、匂いを嗅いでみる。
「ぐえー、お酒くさ!」
当たり前だけど。ちょっと怯んでしまったが、俺だって中身は男だ! ビ、ビビってなんてないしー! でもやっぱり二割にしよっかな、うむ。
透明な液体を注いだあと、葡萄ジュースを加える。ちょっと学校の実験みたいで楽しい。あと薄まった色が淡くて可愛い感じなのも高得点だ。更に氷を浮かべてみれば……
「完成!」
おお、この雰囲気とバーカウンターと言い、間違いなくアダルティだな。やっぱり今はお姉様だし、ここはグイッといく?
「よし!」
頂きまーす。
◯
◯
◯
「ふひ、ふひひひ」
いやー、もしかして意外にイケる口ってやつじゃね?
うむ、やっぱり二割じゃなく三割にしたのが正解だった。俺ってば超絶に天才。いや、超絶美人!
「仕方ないじゃん、ジルだもの」
甘さの中にぃ、キレがあってぇ、苦味もアクセントになってるしぃ。あとチーズとの相性もパワーアップゥ。
しかも今日は
「んー? 何を考えてるんだろ? 頭の中もフワッフワで良く分かんないなぁ。でも気持ちいい。酔っ払うってこんな感じなんだね」
今度は半分で割ってみるぅ? この透明なお酒、ジルに合ってるんだよ、ふへへ。
おや? おやおや?
「ほー、エピィったら
他にも
でも、まだ
??? んん?
「は? え? な、何だコレ。周りの人が何処にいて、何に意識を向けてるかまで分かるぞ……エピィの顔の向きだって」
まるで全体を俯瞰で眺めてるみたい。いやそれ以上の何かだ。信じられない。
凄い。ジルの、これが
反則ってクロエさんが言ってたけどそりゃそうだよな。ほんのちょい力を知るだけで、こんなに世界が変わってしまうなんて。
「ふふふ、では最後の一杯を頂きましてー」
足元も視線もフラフラだけど、それも良い。雲の上を歩くってこんな感じかなぁ。
「では、囚われのお姫様、いや皇女? まあ何でも良いや。脱出ゲームを開催しまーす! 紅炎騎士団に見つからずにお宿から抜け出し、成功のご褒美はなんと宿場町ツェルセンの観光! バレたらタチアナさんからお説教が待ってるので頑張りましょう!」
上着とマントは羽織っていこうかな。ワンピースだけなんて寒いかもしれないし。
さてと。
ミッションスタート、だ。
ふひ、ふひひ。