綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、決意する

 

 

 

 

 

 可愛い嫁(予定)と同棲を始めて、既に十日以上経過している。

 

 天気の良い朝は早起きして自慢のお庭で朝食。

 

 まったりとお茶を楽しみ、同時にターニャちゃんとの時間を愉しむ。

 

 その後は魔法教室や訓練をして、お昼前にお風呂に入る。訓練の様子は聞いちゃダメだ。

 

 午睡をしたらノソノソと起き出し、ご飯を一緒に作ったり買い物したりする。

 

 夜にはおつまみを用意してくれるので、ベランダやお庭で軽く晩酌したりもした。流石にターニャちゃんはジュースだが、酔いの回った俺の相手も笑顔でしてくれるのだ。ああ、可愛い。

 

 深酒した日はターニャちゃんに抱き付き、フワフワほっぺにチューしまくった記憶があるが……きっと夢だろう。

 

 おまけに翌朝ターニャちゃんから睨まれたが、多分気のせいだ。

 

 ああ、コレが幸せか……俺が夢見た楽園はココにあったのだ。可愛い嫁(予定)と仲良く二人暮らし。コレ程の幸福が他にあるなら教えてくれ。

 

 決めた! もう一生このままでいいや。派手に過ごさなければ金は十分あるし、偶にバイトでもすれば良いだろう。

 

 今朝もターニャちゃんは偶に一人で外出していて、お土産などを買って来てくれるのだ。その内おはようのチューをしてくれるかもしれない。

 

 チュー……つまりキ、キス……人生、前世も含めて初めての経験だ。今も外出中のターニャちゃんを想い、思わず顔を覆ってしまう。

 

 アカン……完全に童貞のソレじゃないか……まあ、確かに童貞ですけども! い、いや……今なら処女か?

 

 まあ、何でもいい! だって幸せなんだもの!!

 

「ふぁ……眠たくなってきた……寝よっと」

 

 お休みなさい……ぐぅ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 アートリス、冒険者ギルド

 

 ギルド長室

 

 

 

「ジルめ、何をやっとるんだ……」

 

 ウラスロ=ハーベイ、アートリスのギルド長は呆れ声を上げていた。

 

 大きな机に迫り出した腹が当たるが、それを気にした風もない。長い髭を巻き込み、腕を組んで唸り声が溢れる。ジル曰くドワーフとの描写はぴったりだろう。

 

 今日で合計13日間、超級冒険者[魔剣]ジルはギルドに姿を現していない。実力は勿論だが、あの美貌と愛嬌は男性だけで無く女性にすら笑顔を届ける存在なのだ。此処まで長期間顔を見せないのは非常に珍しく、特殊な依頼が無ければ有り得ない事だった。

 

 護衛などの依頼で留守にしていたダイヤモンドやコランダムの冒険者達も、ジルはいないのかと煩い。

 

 しかも最近は王国の勇者まで聞きに来る始末だ。

 

「超級にそんな義務など無いが……」

 

 超級には指定された依頼すら選択出来るし、ギルドへの訪問義務もない。他国への往来も事前に報告すれば拒否も出来ない程だ。

 

 それでもジルは……8年前にフラリとアートリスに現れると、気に入ったのかこの街に住み着き、殆ど毎日ギルドに来ていたのだ。

 

 

 報酬が多少少なくとも、小さな町の危機に脚を運ぶ。

 

 池に落ちた物を探す為、女の子と一緒に泥だらけになる。

 

 希少な薬の生成の為、危険なエリアに一人突撃する。

 

 街に出れば貴賎すら問わず、愛想を振り撒く。

 

 それでいて、ツェツエ最強の冒険者であり、長く生きたウラスロすら見た事の無い美貌を誇る女性。

 

 

 ウラスロはジルが打算で動いていると知っているし、実は深く物事を考えていない事も分かっている。だかそれでも根っこの部分はお人好しだと理解していた。

 

「まだ、厄介な依頼は無いが……情け無い事に士気に関わる……ジルは何をしとるんだ!」

 

 お茶を持って来たリタはウラスロの大声にも動じず、飄々と答えた。

 

「偶に買い物してるみたいですし、ターニャさんでしたか? あの娘と散歩してたり、パルメの店で時間を潰してると聞いてますが」

 

「……つまり、遊んでいると?」

 

「まあ、有り体に言えばそうですね」

 

 益々苛つきを抑えられなくなったウラスロは、お茶を一気飲みした。

 

「熱!! ひ、ひたがやけど……」

 

「……お大事に」

 

 ドアを開け、ギルド長室から出ようとしたリタは脚を止めた。

 

「ど、どうひた?」

 

 スタスタと机まで舞い戻り、一通の封筒を渡した。

 

「誰からだ?」

 

 やけどは落ち着いたらしい。ひっくり返して、ウラスロは「うひっ」と悲鳴を上げた。

 

「リ、リタ、此れはいつ? いつ届いたんだ?」

 

「つい先程です、大変身なりの良い方でした。ギルド長に渡してほしいと」

 

「そいつ……いや、その方はまだおられるのか!?」

 

「いえ、直ぐに帰られました。あの、何か」

 

 ギルド長の豹変にリタは細い眉を曲げ、不安そうな顔をする。

 

「リタ、これは王家からの玉簡だ。つまり手紙だよ。無論、階位は低いものだが……」

 

「……冗談ですよね? だって封蝋を確認しましたけど、王家の物では……」

 

「これは友人、或いは近しい者に送るかなり個人的な物だからな。おまけに陛下のモノでもない。第一王子のツェイス殿下の封蝋だ」

 

「ツェイス殿下の……では先程来られたのは……」

 

「見てないから分からんが、まあ側近だろう。この手の書簡は信用する者にしか預けないからな」

 

「この手の書簡と言いますと……?」

 

「ん? 幾つかあるが、分かり易いので言えば恋文だ」

 

「……ま、まさか私に!?」

 

「それは無い」

 

 封蝋に目を落としつつも、しっかりと否定するウラスロ。

 

「……では何故ギルドに……あっ……」

 

 リタは気付いた。こんな非常識なのは、きっとあの人だろう。

 

「見たくはないが、見るしかない。宛名は一応ギルド長だからな……」

 

 丁寧に封蝋を剥がし、恭しく中身を取り出す。

 

 ウラスロは短い文章を読むと、大きな、非常に大きな溜息をついた。

 

「見るか?」

 

 ギョッとしたリタは、恐る恐る手紙を受け取ってウラスロを見た。

 

「よろしいのですか? その、私が見ても」

 

「構わない、内容自体はおかしなモノではないからな」

 

「で、では」

 

 リタは生まれて初めて王家所縁の物に触れた。ましてやウラスロの言葉が事実なら、王子直筆のかなり個人的な手紙の筈だ。只の紙すら神々しい気がする。

 

 少しだけ震える手と足を止める事も出来ず、必死に文字を追う。

 

「あの、コレは?」

 

 手紙が求める相手は予想通りの人だった。最近遊び呆けているあの人だ。

 

「見ての通りの依頼だ。ジルを臨時教官として招聘したいだとさ。王子直轄の竜鱗騎士団、精鋭中の精鋭だな」

 

「私でも竜鱗騎士団は知ってますが、何故王子自らがジルさんに手紙を? しかもギルド経由なんて」

 

「まあ、照れ隠しだな」

 

「はい? なんですか?」

 

「照れ隠しだよ。直接ジルに逢いたいと、立場上も個人的にも恥ずかしいのさ。ジルも態々王都には行かないからな」

 

「つまり、王子殿下はジルさんに惚れていると?」

 

「ああ、その筋では有名だ。別に知ったからと言って大変な事にはならないから安心しろ」

 

 クワッと血走った目を見開いて、ウラスロを睨み付けたリタは言葉を重ねた。

 

「超玉の輿じゃないですか!? ツェイス殿下と言えば、人格に優れ、剣魔の腕だけでなく頭脳明晰と言われる……しかも大変美しい天姿(てんし)で……あー!もう! 何なんですか一体! そっそう言えば、以前魔王からも求婚って……」

 

 最早思考を放棄したリタは、ワナワナと震え手紙を握りつぶしたくなった。

 

「俺が遊び呆けてるジルに怒りを覚えるの分かるだろ? アイツをその辺の人間と一緒に考えたら駄目だ。ついでに言っとくが、ツェツエの勇者クロエリウスはジルの元弟子でゾッコンだ」

 

 はあ!? 王子、勇者、魔王……なんなの!?

 

 同年代の王子、歳下の勇者、年上の魔王、全部揃ってるじゃない!

 

 そう呟くリタにウラスロは憐憫の視線を送る。

 

 分かるぞ、うんうんと頷くウラスロはリタに指示を出した。

 

「とにかくヤツを捕まえるぞ。丁度良いからターニャを連れて来てくれるか? 受付から離れていい」

 

 ジルは妙に勘が働くから、直接捕まえるのは難しい……そう補足するウラスロにリタは自信無さげに返事をする。

 

「見つかればよいですが……とりあえず行って来ます」

 

 ガックリと肩を落としたまま、ギルド長室をリタは後にした。

 

「あの馬鹿……まったく……」

 

 ウラスロは超級冒険者兼問題児ジルの笑い顔を幻視して、再び溜息をつくしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、なんでしょうか?」

 

 リタにあっさり見つかったターニャは、ギルド長室に連行されていた。大量の食材を仕入れ、重そうに紙袋を抱えていれば目立つ事この上ない。リタが声を掛けたのはギルドを出てから僅かな時間だった。

 

 ターニャは不安そうにウラスロを見ている。紙袋は部屋の隅にあるテーブルに預けられた。

 

「ああ、そんなに不安そうにしなくていい。悪い話をしようって訳じゃない。どうだ? アートリスは慣れたか?」

 

「はい、お陰様で。おね……ジルさんに良くして貰ってます」

 

 不審な呼び名には触れず、取り敢えず世間話を続けるウラスロは紙袋を見る。

 

「凄い荷物だ。アレはジルから頼まれたのか?」

 

 小さな女の子に持たせるには余りに重く大きい。

 

「ジルさんから頼み事をされる事は殆ど有りません。市場を歩いていたら良い食材を見つけたので、つい……料理が好きなんです」

 

「そうか……可愛らしい女の子に酷いことをしてないなら良いが、君は今もジルの家に住んでいるか?」

 

「? 私の特殊な状況から離れる訳にいかないと聞いていますが。違いましたか?」

 

 ターニャは分からない程度に目を細めたが、ウラスロは何とか感じ取った。

 

「……いや、そうだったな。確かにジルに任せていたよ。俺も歳をとったものだ」

 

 ターニャは全く信じていない様だが、ウラスロもそこまで責任を取る気はない。どうせジルが適当に理由を作ったのだろう。

 

「それで、御用件はなんでしょうか?」

 

「ジルに手紙を渡して……いや、至急ギルドに顔を出す様に言って貰いたい。大事な用件を伝えなければならないと、冒険者の依頼だと知らせて欲しい」

 

「依頼、ですか。どうでしょう、ジルさんは来ないかもしれませんよ?」

 

「……何故だ?」

 

 ジルは問題もあるが、基本的に仕事には真面目に取り組んで来た。依頼があれば余程の事が無い限り請け負う冒険者なのだ。

 

「最近よく言ってますから。もう冒険者は辞めた、二人でゆったり過ごすと。何処かの田舎に引っ越すとも言ってます」

 

「「ぶーっ!!」」

 

 ウラスロとリタは我慢出来ず吹き出した。

 

「な、何を……ジルが冒険者を辞める、と? 本当にそんなことを言ってるのか!?」

 

 超級冒険者でまだ22歳の若さだぞ! 何を隠居するババアみたいな事を言ってるんだ!! そのババアと言う言葉にリタは白い目を向けたが、ウラスロは幸運にも気付かない。

 

「本気かどうかは……私も出会ってから日が浅いですし、ジルさんの思いが全て分かる訳ではありません。ただ……」

 

「ただ……なんだ?」

 

「あれでは只のニートです。ジルさんには似合わないと思っています」

 

「ニー? ニート? なんだそれは?」

 

「……家から出ない、無職の人です。所謂駄目人間ですね」

 

 ターニャ見た目の可愛らしさに反して、かなり辛辣だった。

 

「なら、何とか連れて来てくれないか? 俺も説得しよう。たのむ!」

 

 ギルド長として、ツェツエを愛する国民として、ジルを引退なんてさせる訳にはいかないのだろう。ついでに言うと、王家からの難癖が恐い。マジで。

 

「直接家に来られたら良いのでは? 男性一人というのは良く無いでしょうから、リタさんもご一緒にどうでしょう? あの人はリタさんを気に入ってますし」

 

「わ、私をですか? な、なんでまた」

 

「お酒を飲んで酔うと、リタさん可愛いいなぁって嬉しそうにしてますから。でへへって気持ち悪い声で笑ってます。あとお友達になりたいそうです」

 

 あっさりとジルの恥ずかしいところをバラすターニャ。呆然とするリタ。

 

「可愛いって、アンタがその可愛いの権化でしょうに……いや、嬉しいですけど! 超級冒険者とお友達に? お茶とかしちゃったり……あ、凄くいい」

 

「帰って来い、リタ。だが勝手に家に訪ねる訳にもいかんよ。俺は付き合いが長い方だが、それでも家に行った事など無い。そもそもジルの私生活は謎に包まれていて、街の噂話に上るくらいだからな」

 

「それなら大丈夫です。私に友達が出来たら何時でも御招待する様に言われてます。何でもお友達チェックをしないと駄目だと」

 

「「過保護か!」」

 

 思わず揃ってツッコミを入れるウラスロ達。同時に謎に包まれていたジルが、実は姉馬鹿と判明した。

 

「今から行きますか? 私も帰るところでしたから」

 

 ウラスロとリタはお互いの顔を見て、頷いた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

「うーん、うーん……駄目だって……そんなトコ触ったら……」

 

 躱そうにも何故か体が動かない……

 

「うぅー……ターニャちゃん、訓練はもうやめようよ……」

 

 ちっちゃな両方のお手々で縄をピンと張ってジリジリと近寄って来るターニャちゃん。怖い……でも可愛い! 

 

 ハッと思わず目を開けば、何時もの枕が頭を受け止めてくれていた。

 

「……夢か……はあ、トイレ行こっと」

 

 て言うか、あの縄ってなんだよ……変な夢だなぁ。

 

 

 

 ふー、まだ昼前かな? もう一眠りしよう。ターニャちゃんは買い物だし……

 

 はあ、自由だなぁ。そう、俺は自由だ!

 

 もう働かないぞ! 俺はこの屋敷を守る"屋敷警備員"になったのだから‼︎ むふふ、世界最強の警備員誕生だぜ。

 

 ターニャちゃんが帰って来たら、何して遊ぼうかな?

 

 そうだ、久しぶりに着せ替え人形になって貰おう。前に買った服まだ着てないのあるからね。しかし、この世界にカメラが無いのが悔やまれるな。仕方ないから記憶の中に記録するしかない。つまり何度も何度も確認しないとダメな訳だよ、うん。

 

 よし、体力を温存する為にも……

 

「おやすみなさい……ぐぅ……」

 

 

 

 

 

 




次回。ターニャ視点でお送りします。
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