綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、恋愛話に花が咲く

 

 

 

 

 ここから美しい庭園が見渡せた。

 

 この宿自慢の庭は、中央にライトブルーの水を湛えた池を配している。アーチ状の橋が二本掛かっていて、散策出来るようにしているのだ。周囲には篝火が絶える事なく光を放ち、水面と木々を照らして綺麗だ。日本人だった俺から見ると日本庭園の趣きを感じてしまう様な、この世界では変わった庭だろう。

 

 極限にまで拭かれたのだろうガラス窓にはキリリとした俺の顔が反射している。まあ当然だ……美人である事は当たり前として、今は色々と思索を重ねているのだから。これから起こる大きな出来事に対し、凡ゆる手段を講じなければならない。

 

 え? 何を考えているのかって?

 

 それは……勿論アレだよ、うん。

 

 駄目だ、思考が逸れた……もう一度やり直しだ。

 

「何処まで考えてたかな? 確か桃源郷、だよな?」

 

 

 お風呂……それは身体を清める場所であり、心を癒す泉でもある。現世も前世も変わりなく人々を捕らえて離さない。

 

 ツェツエでは入浴の文化はそこまで浸透していない。魔族の住む北大陸は寒冷で長風呂も当たり前らしいが、この国は温暖で水浴びが多い。何より温水を用意したり、その温度を保つのもひと苦労だ。金持ちや貴族、王族などは良く利用しているが、庶民とっては偶の贅沢だろう。

 

 そして、俺にとっては更に別の意味が加わる。混浴は全く無いので当然女湯に入る訳だが……分かるだろ?

 

 前世から、女湯とは桃源郷と同義だ。行ってみたいし見てみたい、けれどそれは犯罪だし格好悪い。男と生まれた者の大半は夢見る世界だろう……えっ?違う? 覗きは駄目だぞ?

 

 ましてや、大好きな女の子と入るなんて有り得ない現実だったのに。

 

 今の俺はジル、超絶美人で正真正銘の女性なのだ! 見えないから心の中は別!

 

「遂に、遂にこの時が来たのだ。長らく待たされたが……この為に旅をしていると言っても過言では無い。ふっふっふ」

 

 我ながらキモいのは分かっているが、最早我慢ならない。

 

 双竜の憩はツェルセン最高の宿だけあってお風呂も充実していた、筈だ。付き人が入る別風呂すら用意されていて、流石王家御用達だけはある。以前も入ったが、人も多くて気が休まらなかった。あと何故か若い女性がいなくてガッカリした覚えがあるし。それにジロジロ見られて色々と質問攻めにあったのだ。

 

「だが今回は違う! 宿泊者も少なく、殆ど貸し切りらしいし……タ、ターニャちゃんと二人きり……」

 

 ヤバい……俺、平静を保てるのか? 最近ターニャちゃんはますます可愛いし、意識してるのは自覚している。だ、大丈夫だ……慌てるな。俺だって22年も女をやってるってんだ、今更なにを焦る必要がある。寧ろリードするくらいで……

 

「お姉様? 行かないんですか?」

 

 大部屋の中は幾つかの部屋に分かれていて、ターニャちゃんはその一つから出てきた。ど真ん中に広いリビングがあり、やはり巨大なテーブルが鎮座している。窓から庭園を眺めながら色々と考えていたら、随分時間が経っていたようだ。

 

「えっ? ええ、行くわよ? 考え事してて、ちょっと待っててね?」

 

 しまった、まだ準備してないぞ……急がないと。

 

 見るとターニャちゃんは宿に用意されていた小袋に色々と詰め込み、準備万端な感じだ。

 

「はい、部屋の中を探検してます」

 

 ターニャちゃんは荷物を椅子に置き、ニコリと笑った。くっ……やっぱり可愛い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぅ……ドキドキする……一体俺はどうしてしまったんだ!?

 

 チラリと隣りを見ればターニャちゃんが楽しそうに歩いている。サラサラの髪もユラユラと揺れ、まん丸な瞳はあちこちを観察してるようだ。ターニャちゃんは緊張しないのだろうか? 俺みたいなお姉様と一緒にお風呂だよ? 普通、緊張したり恥ずかしかったりしない?

 

「ターニャちゃん、嬉しそうだね?」

 

「はい! こんな立派な宿に泊まった事ないですし、きっとお風呂も凄いのかなって」

 

「そっかぁ……」

 

 ああ、可愛い。どちらかと言えば余り感情を表に出さない方だが、流石に今は子供っぽい反応をしてくれた。

 

「お姉様は一度来た事があるんですよね?」

 

「うん、一泊だけね。前はたくさん人がいて、そこまでゆっくりは入らなかったから……私も楽しみ!」

 

「王家御用達の宿に御招待ですよね? お相手はやっぱり?」

 

「この国の王子で、ツェイス殿下だね。これから会いに行く人だよ。まあ御招待と言っても」

 

「ツェイス殿下ですって? お師匠様、それは聞き捨てなりませんね」

 

「うひゃっ!」

 

 お前、何処から現れた!? 魔素感知こそしてないが、俺に気配を察知させないなんて! 直ぐ背後に忽然と立つクロは、ホラー染みた声をボソボソと呟いたのだ。

 

「クロさん、これでいいですか?」

 

「ええ、見事ですターニャさん。契約成立ですね」

 

「んん? 君達……何を言ってるのかな?」

 

 ちびっ子二人組は、スッと握手などしてやがる。

 

「やはり未来の妻が浮気など許せませんから。かと言ってお師匠様は口を割らないでしょうし、ターニャさんと取引をしたんです」

 

「お姉様、ごめんなさい。クロさんが可哀想で……怒りました?」

 

 ターニャちゃんは上目遣いして、そのお手々の指を俺の右手に添えた。あっ……温かい、スベスベしっとり……可愛い!

 

「か、可哀想なら仕方ないね! ターニャちゃん、優しいから!」

 

「チョロ」

 

 握り拳を天に突き上げターニャちゃんの可愛いらしさを神に感謝していた俺には、その呟きは聞き取れなかった。

 

「ん? 何か言った?」

 

「いえ?」

 

 あれぇ? 何か聞こえた気がするんだけどなぁ。

 

「お師匠様。まさかとは思いますが殿下の毒牙に……? 心の広い僕でも、それは許せませんよ?」

 

「は、はあ!? クロ、何てこと言うのよ! そ、そんな訳ないでしょう!? 私はまだ処……あ、貴方、その年齢でマセた事を言わないでくれる?」

 

 て言うか浮気ってなんだよ! 俺はお前の妻じゃないからな!

 

「お師匠様、何を言ってるんですか? その程度の事は誰でも知ってますから。それより慌て過ぎです。まあ、答えは分かったので良しとしましょう」

 

 クロは余裕の態度を崩さないで前を向いた。

 

 最近の餓鬼はみんなこうなの? 辞書の中からエロを感じる言葉を見つけて恥ずかしがってた俺は何なんだ!? だが、大人として舐められるわけには……

 

「くっ……私だって……」

 

「お姉様? それ以上は傷が深まるばかりです。別に処女でもいいじゃないですか。私だってキスくらいしか経験ないですし、恥ずかしい事じゃないですよ?」

 

 な、何を言ってるのかな!?

 

「べべべ別に処女とか言ってないし! 私は百戦錬磨の冒険者ジルだよ!? キスなんて余裕で……ん? 今、ターニャちゃん何て言った?」

 

「お姉様は処女」

 

「そ、そこじゃ無くて!」

 

「なんですか?」

 

 今、とんでもない言葉が聞こえたぞ!

 

「ターニャちゃん、キスした事あるの……?」

 

 キョトンと首を傾げて、あっさりと答えた。

 

「ええ、昔お付き合いしていた人と。何となくですけど記憶にあるので間違いないです。どうしました?」

 

「う、嘘だよね? ファーストキスは経験済みなんて……」

 

「ファーストキスって……お姉様、その言葉久しぶりに聞きました」

 

 呆れた顔も可愛いけど、それどころじゃないから!

 

「お付き合いって……まさか、彼氏彼女的な」

 

「ええ、まあ」

 

 ガハッ……膝から崩れ落ちるとはこの事か……脚に力が入らない……まるで背中にドラゴンが乗った様にズシリと重くなる。床についた両手もプルプル震えてるのが分かった。

 

「お師匠様、ここは廊下ですよ? 誰もいないから良かったものの、奇行は控えて下さいね?」

 

「ターニャちゃんが毒牙に……誰だ、抹殺しないと……私のターニャちゃんを汚す者は許せない……」

 

「お姉様……毒牙にかけたのは私の方と言うか……そこまで気落ちしなくても……て言うか私のターニャって何ですか?」

 

 うぅ……嘘だぁ、嘘と言ってくれぇー。

 

「ターニャさん、こうなったお師匠様は中々復活しません。一度トドメを刺した方が逆に早いですよ?」

 

「トドメ、ですか?」

 

「ええ」

 

 二人はコショコショと話をしているようだが、俺はショックを受けているんだ……たった一回とは言え、ターニャちゃんがキスだと? 前世だろうが許せん! 俺だってした事ないのに!

 

「お師匠様、ターニャさんに聞いたんですが」

 

「うぅ、何よ……?」

 

「キスの経験は三回、お付き合いした方は二人だそうです」

 

「ぐはっ……!」

 

 俺は意識が遠のくのを感じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、元気を出して下さい。お風呂が見えて来ましたよ?」

 

「ターニャちゃんがキス……私だってほっぺにチューしかした事ないのに……私のターニャちゃんが大人の階段を登ってたなんて……」

 

「酔っ払った時に何回もキスして来ましたよね? ほっぺどころじゃないですし。それと、さっきから私のターニャって変な事言わないで下さい。あと、大人の階段とかファーストキスとか死語じゃないですか?」

 

 ターニャちゃんが何かを言っているが、今の俺は魂の抜けた人形なのだ。音として聞こえるが、意味は伝わらない。

 

「こうなったら……無理矢理でも……」

 

「何を無理矢理するんですか……仕方ないですね、お姉様が悪いんですよ?」

 

「うっひゃぁ!?」

 

 今、脇腹を撫でられた! あと、ふとももの後ろ側も! ク、クロか!? 奴はさっき男風呂に向かった筈なのに……!

 

「クロ! 貴方ねぇ……あ、あれ?」

 

 俺の背後には姿は無く、気配も感じない。どう言う事だ?

 

「うひっ……」

 

 今、耳をフーって! 耳にフーってされた!

 

「ななな、何!? ま、まさか、お化け?」

 

「そんな訳ないでしょう……残念さが際立ってきましたね」

 

「あ、あれ? ターニャちゃん!? いつの間に!」

 

 離れた距離から魔素を動かすなんて、いつの間にそんな技術を……俺の魔素を動かすなら近づくか触らないと駄目だった筈なのに。数歩離れたターニャちゃんは呆れて溜息をついていた。

 

「いつの間にって……あぁ、魔素の操作ですか? 先程お姉様が前後不覚に陥っていた時にクロさんからコツを教わったんです。取引条件ですね」

 

 さっきのアレか!

 

「コツを教えて貰ったからって……そんな簡単に……」

 

「まあいいじゃないですか。お姉様、お風呂に入りましょう?」

 

「あ、はい。お風呂……」

 

 ふとターニャちゃんの成長にヤバイものを感じたが、お風呂というパワーワードの前では意味が無かった。

 

 そうか……色々とショックが強かったが、お風呂か! ふっ……昔ターニャちゃんにキスをした奴等め。流石にお風呂へ一緒に入るなどした事ないだろう。俺の勝ちだ!

 

「わあ、広いですね」

 

 俺達の前には脱衣所があった。広いと言っても日本の旅館と違い、大勢が着替える様にはなってない。精々10人ってとこだろう。ロッカー替わりの衣装棚が並び、それぞれに鏡すら完備されている。床は石材だろうけど、薄いグレーと白のコントラストは美しい。広間くらいの面積は此処が脱衣所だと思わせない。

 

 しかも個室すらある様だが、今は俺達二人だけだ。

 

 二人だけ……

 

「お姉様、ニヤついてないで準備しましょう?」

 

 ニ、ニヤついてなんてないし!?

 

「そ、そうね」

 

 沢山ある衣装棚から俺はターニャちゃんの横に並んだ。

 

「お姉様、何も真横じゃなくても良いのでは?」

 

「ほら、ターニャちゃん初めてだし。分からない事があるかもしれないでしょ?」

 

「ただ服を脱ぐだけですよね? お姉様って……」

 

 うっ、うぎゃーー! 何か不審者を見る目になってる? そんな馬鹿な! 俺の欲望がバレる事などあるはずがない!

 

「大丈夫。変な事はしないから」

 

「そんな事言ってませんが?」

 

 ターニャちゃんの目は益々キツくなり、袋を持つと俺から離れて行った。3人分離れたターニャちゃんは、ギロリと俺を睨むと上着を脱ぎ始める。

 

「タ、ターニャちゃん……どうしたの?」

 

「今日のお姉様は変です。それに私は物じゃありません。独占欲もほどほどにしないと嫌いになるかもしれませんね」

 

「あっ……」

 

 嫌われる? ヤ、ヤバい!

 

「ご、ごめんなさい! 私が悪かったわ! 絶対変な事しないから!」

 

「そこじゃないですから……はぁ……」

 

 ターニャちゃんは溜息を何度もついて、ズボンに手を掛けた。

 

 見、見ちゃダメだ……我慢しろ! 衣擦れの音が聞こえてきて俺は思わず耳を塞ぐ。煩悩退散、煩悩退散……鎮まるんだ!

 

 

 

「まあ何時か、お姉様は私のモノ(おもちゃ)にしますが。いや、ペットかな?」

 

 ターニャちゃん、何か言った?

 

 

 

 

 




次話 念願のお風呂
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