綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、解説する

 

 

 

 

 

「クロ」

 

 今朝早い時間に王都へと続く最後の宿場町を出た。結局双竜の憩に勝る宿は無く、後は王都に入るだけだ。まあ、ターニャちゃんとの仲も深まった気がするし、他の宿も良かったけどね。

 

 初日のアークウルフ以外は順調な旅だったんだけど、お昼に差し掛かったところでバンディドエイプの群れに出会った。バンディドエイプ……多分訛っただけでバンディット、つまり山賊みたいな猿と名付けられた魔物の集団だ。

 

 身体はゴリラくらいで、見た目はマントヒヒみたい。全体が真っ黒で、如何にも泥棒って感じ。名前の通りに人から色々なものを盗んでいく猿だ。最悪なのは人の女性を拐うことで、理由は……わかるだろ?

 

「うわー……バンディドエイプだ……今回は遭わないと思ってたのに」

 

 危機感は感じない。まあ、この程度の数じゃクロには勝てないからね。十匹じゃなく5倍は居ないと、うん。旅ではゴブリンに次ぐ登場率で、力も大したことない。

 

「クロ、魔法無しで戦ってみてくれる?」

 

 "また始まった"って顔をする。クロくん、文句でも?

 

「お師匠様、面倒です。魔法で一掃しましょうよ?」

 

「修行とは違うわ。そもそもエイプ程度じゃ意味ないし」

 

 て言うか、師匠じゃないからな!?

 

 エイプ達は俺と言う獲物を見つけて嬉しいのか、キーキー騒いでる。興奮するなよ、お猿さん。

 

「では何故?」

 

「ちょっと確認したい事があってね」

 

 ターニャちゃんは馬車の中に隠れて貰った。猿共の汚い目に映すなんて許せないからね! もしそんな事したら、殲滅魔法で塵にしちゃうよ?

 

「はあ……魔力強化も無しですか?」

 

「魔力強化は大丈夫よ。属性魔法は禁止ね?」

 

「それなら、まあ」

 

 渋々って感じで剣を抜くと魔力強化を開始したクロ。おやおや、反抗期か? 思春期も近いし、まあ許してあげよう。

 

「ほら、来るわよ」

 

 クロはエイプ達を睨み付け、膝を曲げ腰を落とした。ちょっとしたクラウチングスタートみたい。戦闘前にバレバレの構えなんて厳禁だけど、エイプ相手なら問題ないだろうし。

 

「お師匠様は相変わらずだなぁ……戦闘の事になると容赦無いし、加減も知らないし……将来はやっぱり尻に敷かれる運命か。でも、お師匠様の尻に敷かれる……ふむ、其れも有りか」

 

 聞こえてるからな! お前が言うと変な意味に聞こえるよ……

 

「早く行きなさい!」

 

「行って来まーす」

 

 アークウルフと違い、エイプはバラバラで向かって来ている。組織立ってないし、中には戦闘する気もないのか涎を垂らしながら俺を見てる奴もいる。しかも三匹。

 

 クロは速度を一気に上げ、先頭を走るエイプのど真ん中に突っ込んで行った。エイプは魔力強化の速度について行けないし、気付いてない。

 

「フッ!」

 

 横なぎに払った刃は最初のエイプの脇腹を裂き、勢いを殺さないまま反対側に回転切りを見舞う。首が切断された二匹目はヨタヨタと歩き地面に倒れた。最初の奴は既に絶命している。

 

 何時もなら即座に魔法を放ち周囲を蹂躙するだろう。だが、属性魔法を使用しないと決めた場合はどうかな? 昔のクロだったら魔力強化で撹乱しつつ削る筈……しかしそれを裏切った。

 

「へえ……」

 

 半分予想はしてだけど、実際見ると興味深いな。

 

 クロはその場にドシリと構え、動かない。ふむ?

 

「ギャギャ!」

「ウキ!」

 

 漸くエイプ達は仲間がやられた事に気付いて、クロを囲み始めた。袋叩きにする気だろうけど、そう上手くいくかな?

 

「ウキー!」

 

 右手の猿が噛み付こうと飛び上がる!

 

 それを見たクロは半歩だけ脚を出し、僅かだけ躱しざまに片手で剣を振るった。力は入ってない様に見えたが、猿はあっさりと両断される。反対側に倒れた猿を盾にしながら、隙間からもう一匹に一突き! 上手いね!

 

 背中を引っ掻こうとした背後の猿は、しゃがんだクロを見失ってお返しに背中をバッサリ。そして、此処からが面白かった。何とクロはピョンと宙を舞い、エイプの頭を蹴り抜くと包囲を抜けたのだ。

 

 そこからは……まあ、あっさり?

 

「フギャ……」

「ギャ!」

「ブ?」

「ウキーーーー」

 

 お猿さん達がお眠りになりましたとさ。お休みなさーい。

 

「ふぅ」

 

 血を払った剣は、歪む事なく鞘へ帰った。おー、格好良いじゃん!

 

「お疲れ様。凄いじゃない。立ち回りが上手になってるわ」

 

 クロは照れ臭そうに頬を染め、ニヤニヤしている。間違いなく成長してるなぁ、うん。

 

「お姉様、終わりました?」

 

 馬車の幌から顔を出したターニャちゃんだが、周りは猟奇殺人の現場みたいだから……ちょっと待って貰おう。

 

「ちょっと待っててね? 少し移動するから、中に居てくれるかな」

 

「はい、分かりました」

 

 ターニャちゃんは素直に幌の中に姿を消した。聞き分けの良い子で、お姉さん嬉しいよ!

 

「クロ! 馬車に乗って! 移動するから」

 

 事情を察したクロは討伐証明も取らず、すぐに戻って来てくれた。この子も偉いなぁ。

 

 俺はエイプの死骸を気にもせずに馬車を操った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターニャちゃん、もういいよ」

 

 後ろを振り返って声を掛けるとターニャちゃんは幌を開いた。何時もの可愛い顔がちょこんと覗いてキョロキョロと周囲を見渡す。

 

「魔物はクロがやっつけたから安心してね」

 

「ちょっと苦労しましたけどね……」

 

 んー? やっぱり反抗期かい?

 

「大変だったんですか?」

 

「お師匠様が条件を付けてきたので」

 

「条件?」

 

「属性魔法を使うな!って」

 

「なるほど……お姉様、やっぱりクロさんのお師匠様なんですね」

 

 ターニャちゃん、その微笑ましいものを見た的な笑顔止めてね? それにクロさんや、そんな強く言ってないから。

 

「違います。確認したい事があっただけですから」

 

「へー……」

 

 誤魔化さなくていいのにって顔も必要ないからね?

 

「そろそろ教えて下さい。何なんですか?」

 

「大したことじゃないのよ? アークウルフの時も思ったんだけど忘れてただけ」

 

 他に大変な事が多かったから! ターニャちゃんとかお風呂とか!

 

「最近シクスさんから剣を習った?」

 

「……えっ? な、何故ですか?」

 

「何故って……クロの戦い方が変わってたから」

 

「ぼ、僕は決してお師匠様の教えを蔑ろにするつもりは……」

 

 クロは珍しく焦った様子で、紅い眼はフラフラと泳いだ。別に責めてる訳じゃないのに。

 

「悪いと言ってないの。何度も言うけど私は貴方の師匠を辞めたのよ? 例え今もそうだとしても、やっぱり責めたりはしない」

 

「僕は……」

 

 クロはどんよりと顔を伏せ泣きそうな顔になった。ターニャちゃんが何とかしなさいと睨み付けてくる、気がする。

 

「クロ……さっきの戦い方は凄く良かったわ。格好良かったし、もっと鍛えればまだまだ強くなれそうよ?」

 

「格好良い……? じゃあ、僕と結婚してくれますか!?」

 

 ガバリと顔を上げたクロは此方に身体を寄せて来た! 近い、近いから! 俺は手綱を握ってるから逃げられないんだよ!

 

「クロ、近いから。それと、結婚はしません」

 

「くそっ……まだ足りないか」

 

 何言ってんのコイツ?

 

「お姉様に認めて貰うか、強くなるかでお付き合い出来ると考えたのでは? その為にジル流以外からも技術を学んだんですよ。健気でいいじゃないですか」

 

「ターニャさん、合ってますけど言わなくていいですよね!?」

 

「はぁ……そんなの関係ないのに……」

 

 俺は男と付き合う気なんてないの! 何回も断っただろう?

 

「でも……ツェイス殿下も言ってましたし……」

 

 殿下ーー!? 余計な事言わないで下さい!

 

「あのねぇ……」

 

「お姉様、シクスさんて誰ですか?」

 

 この際はっきり言おうと思った時、ある意味当然の質問が出た。確かにターニャちゃんを置き去りにした会話だったな……反省。

 

「シクスさんは……クロから聞いた方が良いわ。ツェツエ王国の人だから」

 

「そうですね。ターニャさんもこれから王都に入りますし、簡単に説明しましょうか」

 

「お願いします」

 

 俺やクロと行動するなら会う事もあるだろうしね。

 

「折角だから王都や騎士団の説明もして貰える? 貴方やシクスさんも所属してるから丁度いいでしょう?」

 

「分かりました。では、王都から……」

 

 

 

 

 

 

 

 アーレ=ツェイベルン

 

 これがツェツエ王国の王都、その正式な名称だ。長いので国民のみんなは愛情を込めて王都やらアーレと呼ぶ事が多い。サイズはアートリスより小さいが、王城を中央に据え歴史を重ねた美しい都だ。

 

 三日月状の湾に接する様に造成された街は、数百年の時を経て存在感を増している。全体的に石積みの建物が多く剛健な印象だ。緩やかな斜面を利用し立体的な街並みを持つ。

 

 王城はドイツのヴァルドブルク城にそっくりで、横に長細いかな。勿論防衛も考えてあり、小高い斜面の上に建っている。なかなか格好良い。

 

 因みに時を重ねた建材は抗魔力が向上し、魔法で破壊するのが困難になる。まあ、何百年の話だけどね。俺達が住むアートリスは歴史が浅いから、まだまだ無理だろう。

 

「アーレには夕方に着きますから楽しみにして下さい。アートリスとは違った魅力がありますから」

 

「はい、楽しみです」

 

「ツェツエには幾つも組織がありますが、お師匠様の依頼は騎士団からです。ですので騎士団を説明しますね?」

 

 ターニャちゃんはコクリと頷き、しっかり覚えようと構える。ターニャちゃん頭良いから全部覚えてしまいそう。

 

「ツェツエには6つの騎士団が存在します。竜鱗(りゅうりん)騎士団、蒼流(そうりゅう)騎士団、紅炎(こうえん)騎士団、それと蒼流の下に第一から第三までの騎士団です。騎士団と名前が付いてますが、魔法士や補給部隊、下働きも含まれていますね」

 

「竜鱗騎士団……お姉様に依頼した騎士団ですね?」

 

「その通りです。竜鱗は精鋭の集まりで団員は百人と決まっています。各騎士団から推挙され選抜試験に合格しないと入団出来ませんから、本当に狭き門ですよ。ツェツエ国民にも憧れの存在です」

 

 仮に合格しても欠員が出ないと入れないが、実際には欠員が出て募集がかかるので心配要らないらしい。任務は王族や他国からの賓客の護衛、各騎士団のフォローと戦時の指揮、そしてツェツエ最強の剣として魔物の退治だ。

 

「団長はツェツエ第一王子のツェイス殿下です。これは慣例で代々名誉職扱いでしたが、今代は実力でも団長として認められた珍しい方ですね。指揮能力も個人としての実力も王国屈指ですよ」

 

 まあ本当の戦争となれば前線には出させてもらえないだろうが、今は平和だからねー。ん? いやいや、あの時普通に戦ってたよな? どうなってるんだこの国は……

 

「そして先程お師匠様が言ったシクスとは竜鱗騎士団の副長の事です。本名はコーシクス=バステド。ツェツエの剣神と呼ばれる剣の申し子です。噂では剣に於いては世界最強の超級冒険者"剣聖"と互角に戦ったとか。もし冒険者なら超級に届く事が確実な凄まじい剣士ですよ」

 

 シクスさんは本当に強かったなぁ……昔だけど少しだけ教わった事がある。放出型の魔法無しなら俺も勝てる保証は無い。

 

「うんうん。クロの戦い方が変わったのはシクスさんの教えだよね? あの人は後の先が得意だし、相手を見て戦法を簡単に変えるから」

 

「ええ。氷魔法も扱いますし、本当に強いですね」

 

「ウラスロさんの話だと、お姉様に勝てる人はいないと聞きましたが……特に対個人で」

 

「うーん……そこは難しいところだね。戦場の状況に依るし……」

 

「ターニャさん、何でもありの戦いならお師匠様は誰にも負けません。それはシクスさん自身が認めてますよ」

 

「何でもあり?」

 

「クロ、余計な事を言わないで」

 

「いいじゃないですか。ターニャさんだって自身の姉を知りたいと思うのは当たり前です。隠してる訳じゃないでしょうし、シクスさんがあちこちで言いふらしてますよ?」

 

「え!? シクスさんが?」

 

「ええ、騎士団では有名です。6年前のツェツエの危機でお師匠様は有名になりましたから……ツェイス殿下もよく話してます」

 

「はあ……」

 

 普通ならドヤ顔なんだが……騎士団の連中、面倒なんだよなぁ。

 

「お師匠様なら戦闘が始まったら直ぐに距離を取るでしょう。魔力強化したお師匠様の速度に追いつく人間は存在しませんから。そして凡ゆる魔法を連発して殲滅、出来なくても疲弊しますし……そんな状況で魔剣に接近されたら対処など不可能です。通常なら魔法士の魔力疲れを待つのが定石ですが、お師匠様の魔力は無尽蔵ですので実質手がありません」

 

 しかも高速で移動しながら魔法を連発しますから……やれやれと肩を竦めたクロは話を打ち切った。まあ事実だけどさ。

 

「無茶苦茶ですね……チー、反則過ぎます」

 

 そんなの誰も勝てないのでは? そう言うターニャちゃんだが、世の中は甘くないのだ。

 

「魔剣に限らず、超級冒険者を封じる手は考案されています。一言では難しいですが簡単に言えば物量作戦ですね。大軍で囲い込んで範囲殲滅魔法を連発すれば速度は関係ありませんから。その代わり被害も甚大なので誰も実行なんてしませんけど」

 

 あくまで仮定だが、その大軍の中にターニャちゃんが居れば俺は簡単に負ける。片っ端から魔力を無効にされたら防御もままならない。俺の能力は対少数に最も効果を発揮するのだ。

 

「なんだか怖い話ですね……」

 

「ははは、ツェツエがお師匠様に敵対する事はないですから安心して下さい。僕も居ますし」

 

 その笑みはターニャちゃんを緊張から解きほぐした様だ。やるじゃんクロ!

 

「それで、他にも騎士団があるって……紅炎と蒼流でしたか?」

 

「はい。では続きを話しましょうか」

 

 

 

 

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