綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、自らの不幸を笑う

 

 

 

 

「で、何処にいるんだジルは?」

 

「今は出店を回ってますよ? 同行者の人を案内してる筈です」

 

「おお! 聞いてるぞ! 誰にも靡かないジルが子供を保護したらしいな。もしかして人嫌いなのかと気を揉んでいたが、違ったらしい。どんな奴なんだ?」

 

「ターニャさんという女の子です。可愛らしい人ですよ」

 

 ジルは人嫌いでは無く只のヘタレだが、幸い此処にはクロ以外に真実を知る者はいない。

 

「なんだ女の子か……男なら面白かったのに。何時も澄ました顔だからな、冷やかしてやりたかったぜ。で、ジルはいつ男をつくるんだ? あれ程の器量なんだから選り取り見取りだろうに」

 

「お師匠様はそんな(ひと)ではありません。それに将来は決まってますから」

 

 クロはムスッとして、シクスを睨んだ。

 

「なんだ、まだ諦めて無かったのか? 殿下ですら袖にする奴だぞ? きっと趣味が変わってるのさ! それこそ女好きとかな! がはは!」

 

 もしジルが此処にいたら「正解です!」と内心叫んだだろう。シクスは何気に核心に迫ったが、本人は冗談のつもりの様だった。

 

「副長、大声を出さないで下さい……周りに人が大勢いるんですから」

 

 クロは溜息を我慢出来ずにシクスを嗜めた。そして勿論それを素直に聞く男でもない。

 

 

「ジルって誰だ?」

「さあ?」

「竜鱗が来るくらいだぞ……何処かの貴族か?」

「貴族なら青門だろうが……大商人の縁者とか、まあ只者じゃないのは間違いないな」

「商人にシクス様が態々? それも不思議な話しだろう?」

「殿下を袖にって……冗談だよな?」

「女好きって事は野郎か?」

「なら殿下ってリュドミラ様か……許せんな、それは」

「ジル……なんか聞いた事ないか?」

「そうか?」

 

 

 シクスは何度目かの皮肉染みた笑みを浮かべ、ザワつく周囲を気にもせずに声を上げた。

 

「さあ行くか!! ジルもそろそろ戻っただろうし、まだでも待たして貰うからな!」

 

 態とらしく宣言し、シクスはクロの肩を押す。当然周囲はゾロゾロと後を追い、それを見た人々が更に連なっていく。それは青門では起き得ない現象で、クロは天を仰いぐしかない。

 

「お師匠様、僕は悪くないですから」

 

 残念ながら、呟きは当の本人には届かないだろう。

 

 クロを先頭にシクス、騎士が3名、その後ろには群衆の列。

 

 彼らの邂逅はもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜

 

 

 

 

 

「ターニャちゃん、美味しい?」

 

「凄く美味しいです。きっと新鮮なんですね……それに凄く冷えていて驚きました」

 

「魔法で冷却してるの。最後に少し待たされたでしょう? あれは属性魔法じゃなくて、汎用なのよ? 面白いよね」

 

「ああ、成る程……魔素を見れば良かったですかね? 何か勉強になったかも」

 

 ターニャちゃんは偉いなぁ……頭が良いのも当然だよね! 昔の俺なら「美味い!」と叫びながら夢中で一気飲みだよな。

 

 ターニャちゃんが飲んでいるのは果物のミックスジュースだ。グルグルと歯車を回すと果物は砕かれて絞り汁が出る仕組みで、シンプルだけど美味いのだ。サトウキビを砕く奴に似てるかな。

 

「冷却の魔法なら王都の中でも見れるから、今度教えてあげるね。そうだ! ターニャちゃん、あっちに行ってみようね! きっと驚くよ!」

 

「なんですか?」

 

 ターニャちゃんはカップを返却して俺の横に並ぶ。ムフフ……デート感が堪らないぜ! 見たか前世の俺よ! こんな可愛い彼女なんて夢にも見た事がないだろう? まあ、彼女じゃないけどさ……将来は分からないよ?

 

「見てのお楽しみ! すぐ近くだからね」

 

 夕方になり周囲はランタンの灯りが目立ち始めた。ユラユラと淡い光を放つ風景は、本当に綺麗だと思う。雰囲気も最高だし、ターニャちゃんも楽しそうで良かった!

 

 もう手を繋ぐのも慣れたもので、ターニャちゃんも拒まない。これはやっぱり両思いなのでは? 幸せを噛みしめながら、俺たちは目的の場所に着いた。まだ始まる前みたいだな、良かった。

 

 少しだけ開けた場所に一人の男が立っている。目に眩しいカラフルな衣装を着込んだ姿を見れば、彼が何者なのか一目瞭然だろう。

 

「大道芸……ですかね?」

 

「うんうん、初めて見たらびっくりするよ? あっ、そろそろ始まるみたいだね」

 

 背の低いターニャちゃんでは見え難いかもと心配してたが、丁度良く最前列を確保出来た。これなら目の前で楽しめるだろう。

 

 大道芸人は木製の玉を幾つも取り出して空中に放り投げる。ジャグリングだが、ここは魔法が一般的なファンタジーの世界。勿論これで終わりでは無い。

 

「……わっ、わぁ!」

 

 目の前で起きた事にターニャちゃんは歓声を上げる。

 

 夕闇に合わせてそれぞれの玉が光り出した。

 

 青、赤、黄、紫、緑、白、クルクルと入れ替わりながら空を舞う玉は更に複雑な動きを始める。交差したり、態とぶつかったり。ぶつかった時は花火の様に光が舞い散りキンと音までするのだ。その光は目の前まで飛んできて、ターニャちゃんは思わず手に取ろうとする。蛍の様に輝いた後はゆっくりと消えていった。

 

「綺麗だ……」

 

 ターニャちゃんは思わず男っぽい言葉を溢したが、それも不思議と似合っていた。

 

 フッと全ての色が消えたと思うと、今度は紙で出来た人形が周囲を踊り出した。ドラゴンや狼、鳥やネズミ、それと人の楽隊だ。やはりそれぞれが光を放ち、残像を残しながらクルクルと回る。

 

 それに目を奪われていたら、笛の音色が響いて来て思わず大道芸人を見てしまう。しかも一人で吹いているのに、音色は二重三重に聞こえてくる。音の奏でる場所も四方から感じて、まるで小さなコンサートの様だ。

 

 ターニャちゃんは無言になり、ただ素晴らしい芸に目が輝いている。

 

 

 その後も……次々と技が飛び出して、俺も夢中になってしまった。凄いなぁ……どうやって魔法を行使してるんだろ? 戦闘や冒険向きの魔法ばかり覚えて来たけど、ターニャちゃんがあんな風に喜ぶなら覚えてみたいな。

 

 万雷の拍手が巻き起こり、あちこちから歓声が上がった。俺もターニャちゃんも拍手して、見事な礼をする彼に尊敬の眼差しを送るしか無い。

 

「ターニャちゃん、コレ」

 

 ターニャちゃんの手にチップのコインを数枚渡して、地面に置かれた帽子に入れてあげるよう教える。ターニャちゃんは頷き、テクテクと芸人に近づいた。

 

「凄かったです。あの……感動しました」

 

 チャラリとコインを帽子に落とすと、ターニャちゃんは言葉を掛ける。

 

「こんなに沢山……ありがとう、お嬢ちゃん。お兄さん嬉しいよ。そうだ、この後夕ご飯食べるけど、一緒にどうかな? さっきの色々教えてあげるよ?」

 

 チラチラと俺を見ながらも、ターニャちゃんをナンパする男。ほほう……きみ、趣味いいね……ターニャちゃんは最高に可愛いからな。男に言い寄られるTS女の子……さあ、どうする? まあ、実際には許しませんが!

 

「えっと……姉に怒られますので……すいません」

 

 チラチラと俺に助けを求めるターニャちゃん……やばい、可愛い! もうちょっとだけ見させて!

 

「お姉さん怒ってないみたいだよ? 凄く綺麗なお姉さんだね……でも僕はキミと一緒に過ごしてみたいな」

 

 さりげなくターニャちゃんの手を取る男。ああん!? 何をターニャちゃんに触ってやがる! そこまでは許してないぞ、こら! くっ、我慢だ我慢……もうちょっとだけ……

 

「この後用事があるので……すいません!」

 

 ターニャちゃんは慌てて俺の後ろに隠れ、チョコンと顔を半分だけ出す。ウッソだろ……そんな可愛い仕草、お姉さん教えてないよ!?

 

「ふられちゃったか……残念。また今度ね」

 

 男は潔く引き、片付けを終えて立ち去った。いいね、サッパリしてて良いよ!

 

 チラリと俺の横から顔を出していたターニャちゃん。安堵の溜息をつくと、ギロリと上を睨みつけた。その相手は勿論、俺だ!

 

「どうして助けてくれないんですか? 私が困ってるの分かってましたよね……?」

 

 俺から離れると、正面に回り込み更に睨む。それも可愛いぞ! ふっ……言い訳は考えてある。

 

「ごめんね? でも必ず私が側にいるとは限らないし、ターニャちゃんがどうするのか確認したくて。勿論、ちゃんと最後は助けるつもりだったよ?」

 

「その割には楽しんでましたよね?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない! 楽しんでなんかないよ?」

 

 鋭いな……ヤバイぞこれは……

 

「へぇ……言い訳するんですね……分かりました。そう言う事にしておきましょう」

 

 こ、怖い!! なにその、後で覚えておけよ的なやつ!

 

「ほ、本当よ? 私はターニャちゃんが心配で……」

 

「ええ、分かってます。お姉様は心配で、様子を見てた、確認して、観察してたんですね。ニヤニヤしながら。大丈夫、信じてます」

 

 ひぃ……怖すぎる! ど、どうする?

 

「帰りましょう、お姉様。クロさんも戻っているかもしれません」

 

 あわわわ……どうする、謝るか!? いや、謝ったら更に追い込まれるかも!

 

「お姉様、帰りますよ」

 

「は、はい!」

 

 うぅ……後でご機嫌を取るしかない!

 

 フリフリと可愛いお尻を振りながら、ターニャちゃんは先を歩く。勿論、手なんて繋げる雰囲気じゃない……でも、お尻可愛いな……

 

「なんですか?」

 

 うひっ! ターニャちゃんが振り返った! 鋭過ぎだろう!?

 

「お、お尻……い、いえ! なんでもありません!」

 

 危ねえ!!

 

 暫く睨まれたが、再び前を歩くターニャちゃん。

 

 でも……それも可愛いんじゃーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにあれ……」

 

 ヤンくんが見張ってくれてる馬車辺りに人集りが出来てる。何やら円を描く様に中央に注目してるみたい。

 

「何かあったんですか?」

 

 ターニャちゃんの小柄な身体では見通す事は出来ないだろうけど、俺にも無理だ。これじゃあ人を掻き分けて進まないと駄目かもしれない。

 

「分からないけど……回り込むのも無理みたいだし、頑張って行ってみようか。逸れないよう手を繋ごうね?」

 

「はい」

 

 流石にターニャちゃんも素直に従ってくれた。柔らかくて暖かい小さな手を握り、俺達は人波に飛び込んだ。

 

「すいません……」

「馬車があちらで」

「通して貰っていいですか?」

 

 俺はターニャちゃんを守りつつ、前に進む。中には俺にびっくりした男も居たが無視するしかない。偶に後ろを確認すると、渋い顔のターニャちゃんが見える。

 

「ターニャちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫ですけど……凄い人ですね。よくあるんですか?」

 

「うーん……私も王都にはそこまで詳しく無いけど、こんなの知らないよ。事故でもあったのかも」

 

 前世でも交通事故があれば野次馬が集まったものだ。不謹慎と知りつつも興味には勝てないよね。馬車同士の事故とか、馬の暴走とか?

 

「事故ならお姉様の治癒魔法が役に立つのでは?」

 

「そうだね。まあ王都も直ぐそこだし、事故なら誰かが来てると思うけどね。もう少し進んでみようか?」

 

 本当に治癒魔法が必要なら躊躇はない。困った時はお互い様だし。ターニャちゃん優しいな。

 

 そんなターニャちゃんを優しく引っ張り、何とか様子を伺えるポジションを見つける。さて、何があったのやら……

 

「……うん?」

 

「事故では無さそうですね、良かった」

 

 ターニャちゃんが俺の横から顔を出して、人柄を感じさせる言葉を発したが、俺はそれどころでは無かった。

 

 クロ……お前、何やってんの? 目立ちたくないからこっちに来たのに! しかも彼奴らって竜鱗じゃないか!

 

「お姉様?」

 

「げっ……」

 

 振り返ったおじさんには思い切り見覚えがある……間違いなくアレってシクスさんだよね!? ツェツエでも国民に人気のシクスさんが居たら、そりゃ人集り出来るだろうね……有名な映画俳優が街中に!って感じだもん。

 

 最悪な事に彼らがいるのは俺達の馬車、その側だ。クロとにこやかに談笑している。可哀想にヤンくんは青白い顔をして意味も無く馬を撫でていた。

 

 あの馬鹿クロ……どうするんだよ!

 

「お姉様、行かないんですか?」

 

「ターニャちゃん、あんなの行きたくないよ……」

 

「クロさんと居るのは悪い人ではないですよね?」

 

「それは大丈夫だけど……寧ろ良い人だし、でもヤダ」

 

「お知り合いですか?」

 

「さっき話してたシクスさん、あのおじ様ね」

 

「なるほど……」

 

 とにかくクロに合図を送って逃げよう。場合によっては俺達だけでも先に街に入れば……

 

 ドンッ……

 

「あっ……」

 

 背中に衝撃を受けた俺は人の輪から数歩前に出てしまう。ついでにその勢いで頭を隠していたフードも背中に消えた。自慢の髪がフワリと流れるのを感じる。閉じては無かったからマントも身体を隠す事は出来てない。

 

「はっ……?」

 

 振り向くとターニャちゃんが可愛い手をフリフリして笑っていた。

 

「な、なんで……?」

 

「私はお姉様が心配で、こんな時どうするのか確認したいと思います。大丈夫、何かあれば助けますよ……多分、きっと。では、頑張って下さいね?」

 

 ま、まさか……さっきの仕返しかぁー!?

 

 これ以上ない笑顔で俺を送り出したターニャちゃん……かわ、可愛くない!

 

「おっ!! ジル!! 漸くお出ましか!」

 

 ひーーー!

 

 そーっと振り返ると、シクスさんは戦場ですら良く通る大声で俺を呼んだ……ご丁寧に手まで振って。

 

 空気が固まるのを感じる……鎮まりかえる人々。ひくつく唇。思わず笑い声が漏れた。

 

「う、うへへ……」

 

 その声は俺自身しか聞こえないだろうけど。

 

 

「「「う、うおーーー!!!」」」

 

 ぎゃーーー!!!

 

「なんだあの美女は!?」

「やべえ、なんだよあのオッパイ!」

「あの水色の眼を見ろ!」

「無茶苦茶だ! 人間か!?」

「女神だ!」

「何処かの王女様か!?」

「脚なげえ!」

「白金の髪、水色の瞳……」

「シクス様が態々出迎え……」

「聞いた事があるぞ! 超級冒険者の……」

 

「「「まさか!?」」」

 

 もうどうにでもなれ!! うわーん!

 

 俺は騒がしい人々に手を振った。

 

「「「う、うおー!!!」」」

 

 シクスさんは楽しそうに笑っている。俺も笑うしかないだろう……

 

「……はは……は」

 

 

 

 

 

 

 

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