綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、開き直る

 

 

 ザワザワ……ザワザワ……

 

 あれが、超級……魔剣……名前は確かジル……

 

 うぅ、完全に見世物だよ……もしカメラがこの世界にあったならフラッシュが眩しかっただろう。

 

 もう一度振り向くとターニャちゃんは嬉しそうに、握り拳を握ってる。頑張れって感じだね。こうなったら開き直っていくしかないが、どうせならターニャちゃんも巻き込んじゃおう。どの道一人にはさせたくないし。

 

 俺が覚悟を決めてニコリと笑い掛けると、ターニャちゃんはウゲッって顔をしたがもう遅い。魔力強化を一瞬で終えると、人混みを避けてターニャちゃんを捕まえる。お姫様抱っこをしながら再び戻れば、もう逃げられないだろう。

 

「ちょっ……お姉様、下ろして下さい!」

 

「え〜、ターニャちゃんを一人には出来ないし……私が連れて行ってあげるよ?」

 

 俺の腕の中でイヤイヤするが、当然逃しはしない! ターニャちゃんの香りと柔らかい感触に、俺は思わず感動してしまった。照れて真っ赤になったターニャちゃん、凄く可愛い!

 

「いい加減にしないと……怒りますよ?」

 

 怒ったターニャちゃんも可愛いなぁ。

 

「大丈夫だよ? きっと可愛い妹だなぁって……」

 

「この場でお姉様の装備を解除して、裸にしましょうか? これだけ触れてるなら、何とかなるかもしれません」

 

 ヒィ……!

 

「そ、そろそろ下りようね?」

 

 優しく地面に下ろして、俺はターニャちゃんの顔色を伺う。ギロリと睨まれて一瞬魔素が動く気配がしたが、思い止まってくれたみたい……あ、危ねぇ。

 

「後でお話ししますから」

 

 最近、ターニャちゃん怖くない!?

 

 

「誰だあの娘は?」

「なかなか可愛いな」

「ちっこい」

「持ち帰りたい」

 

 

 あん? お前ら顔は覚えたからな? ターニャちゃんに変な事したら、ドラゴンに遭遇するより酷い目に合わせるから。

 

 さっきよりザワザワしてるが、もう諦めた。あっちではシクスさんが面白い物を見たぜ!って顔で笑ってるし。

 

 仕方ないから、超級冒険者"魔剣"ジルとして……気持ちを切り替えた俺は、ターニャちゃんを促して歩みを進める。今はターニャちゃんの手は取らない。

 

 大した距離じゃないし、俺達は直ぐに到着した。

 

「コーシクス様、お久しぶりです。御健勝で何より……騎士の皆様も」

 

 少しだけ腰を曲げ、頭を下げた。口元を微笑で飾り、視線はしっかりと合わせる。その後は背筋を伸ばして所作と美しさに気を配るのだ。すると周囲の群衆も静かになり、固唾を飲んで見守るしかない。

 

「ジル、久しぶりだ。相変わらず美しい……いや、更に磨きが掛かったな。それと前も言ったが、シクスと呼んでくれ。俺とお前の仲だろう?」

 

 人を弄るのが大好きなシクスさんはニヤニヤと笑っている。こういうおっさんには意趣返しが一番だ。

 

「まあ……! 何時もシクス様はお上手です。それと誤解を招く様な言葉遊びは変わりませんね……奥様やお嬢様方に嫌われても知りませんよ?」

 

 こんな軽口を叩くシクスさんだが、愛妻家として有名だ。三人の娘さんが居て、全員が紅炎騎士団を目指している。父親に憧れる娘達、ある意味で幸せの理想形ではないだろうか。

 

「おっと……参ったな、ジルには負けるよ。まあ……()()()()()()()()、少しは手加減してくれよ」

 

 ザワッ……

 

 おい、噂は本当だったのか……

 コーシクス様が負けるって……

 信じられん……

 

 ほ、ほら、へんな雰囲気になったじゃないか……

 

「シ、シクス様、冗談はやめて下さい……騎士の皆様に怒られてしまいます」

 

 こんな大勢がいる場所で何を言ってるだよ。おっさんはツェツエの軍の要だろう? 冒険者相手に……近くには竜鱗の騎士達だって……

 

 シクスさんは間違いなくツェツエ最強の騎士だ。軍の重要人物であり、支えでもある。いくら超級とは言え公式に言って良い事と悪い事があるだろう。戦争でじっくり一対一なんてあり得ないのだから、個人の戦闘力が全てでは無い訳だし。

 

「くくく……お前が焦ってどうする? 事実だよ、これは。俺は間違いなくお前には勝てない。殿下もご存知だし、竜鱗なら周知の事さ。ジル、もしかして知らないのか?」

 

「……何をですか?」

 

「はぁ、クロエリウスよぉ……師匠に自覚が足りないと言ってやれ」

 

「それがお師匠様ですから」

 

「全く……ジル、お前はツェツエの守護神として騎士団では知られているよ。魔法と剣の化身、戦いと美の女神、ジルとして。話に女神と出れば、大抵はお前のことだ」

 

「……冗談ですよね?」

 

 いくら何でもそれは……

 

「因みにアートリスでも、アートリスの女神として有名ですね」

 

「やめて」

 

「私も聞いた事あります。アートリスの女神」

 

 ターニャちゃんまで!?  それは聞いた事あるけども!

 

「ぐははは! みんな、この娘がかの有名な魔剣! ツェツエの女神、ジルだ!! しっかり拝んでおけよ!」

 

 ば、ばか!!

 

「「「おおーーーっ!」」」

 

 ひぅ……!

 

 

「やっぱり魔剣、本物か!」

「俺でも聞いた事あるぞ!」

「女神だ!」

「噂通り、いや以上だな!」

「いいオッパイだ」

 

 最後! 誰だよさっきから!?

 

「シ、シクス様。早く街に入りましょう……このままでは皆様にご迷惑が」

 

 早く逃げるぞ!

 

「ああん? 俺は楽しいぜ?」

 

 おっさんはどうでもいいんだよ!

 

「ク、クロ……」

 

「お師匠様、ターニャさんを紹介しないと」

 

 あっ……わ、忘れてた!?

 

「ご、ごめんなさい。シクス様、皆様、この子はターニャ。色々あって今は私と一緒にいます。ターニャちゃん、自己紹介出来る?」

 

「はい、ターニャと言います。アートリスの森で遭難していたところをジルさんに助けて貰いました。今はご厚意で保護して頂いてます。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと軽く頭を下げるターニャちゃん。挨拶って意外と難しいものだけど、しっかりしてるよね。でも早く逃げよう? それに周りの人達、近づいて来てない?

 

「ほお……これはしっかりしたお嬢さんだ。俺はコーシクス、気軽にシクスと呼んでくれ。コイツらは竜鱗騎士団の団員だが、詳しくは後にするか。女神様が慌てていらっしゃるからな」

 

 ニヤニヤと俺を見るおっさん。この野郎……

 

「慌ててなんていません。それと女神はやめて下さい」

 

「なら、もう少し遊んでいくか? 女神様、俺は構わんぞ?」

 

 いや、構うから……それと、女神はやめろって!

 

「シクス様、殿下をお待たせする訳には参りません。早く行きましょう」

 

「えっ? さっきと違う……モガッ……」

 

 クロめ!余計な事を言うんじゃないよ!

 

「くくく……相変わらず面白いな、お前等は。仕方ない、行くか」

 

 近くで石像になっていたヤンくんに残りの半金を渡し、俺達は王都へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シクス様、何故ここに?」

 

 おっさんはツェツエの要人だし、仕事も多い。竜鱗の副長としてだけで無く、他にも沢山の役割がある筈だ。まあ、この辺りに仕事があったとか、誰かの送り出しに同行してたとかだろうけどさ。

 

「あん? そんなもん、ジルの迎えに決まってるだろ?」

 

「シクス様、冗談は……」

 

 未だに周囲には人々がゾロゾロとついて来ていて、おまけに聞き耳を立てているのだ。冗談が噂話になる場合だってあるんだぞ? もしここにアートリスのマリシュカが居たら、一瞬で全員が知る所となるのだ!

 

「お師匠様、本当ですよ? どうもディザバルさんと賭けたらしく、シクスさんの勝ちですね」

 

「おおよ、ディザバルの家にある秘蔵のワインは俺のものだ! 奴が笑いながら口を震えさせるのが目に浮かぶぜ」

 

「賭け、ですか?」

 

「まあな。お前らがそろそろ着くのは分かってたし、青かこっちか賭けたんだ。俺はジルの事だがら目立たない様にアーレに来ると踏んだ訳だな。で、予想通りだった」

 

「そこまで分かって頂いているなら、そっとしていて下さい……」

 

「馬鹿だな、それじゃ面白くないだろう! 周りを見ろ! 最高じゃないか!」

 

 この野郎!! 相変わらず人をおちょくるのが好きなおっさんだな!

 

「おっ、なんだ怒ったのか? 綺麗な顔が歪んでるぞ? くくく……そんな貴重なモノも拝めて最高だな」

 

「はあ……もう結構です。私達はギルドに行きますので、そろそろこの辺りで……」

 

「ギルドなら済ましたぞ」

 

「は、はい?」

 

 な、何を仰ってるのかな、このおっさん様は。

 

「もう、報告済みだ。殿下が首を長くして待ってるんだ、諦めろ」

 

 な、なんだと……! まだターニャちゃんと一緒に居たいのに、時間稼ぎのチャンスが……

 

「シ、シクス様……ターニャちゃん、えっと……連れの滞在の準備もありますし、先ずは色々と」

 

「ああ、タチアナが言ってたな。ジルならそう言って時間を稼ぐから先手を打ちましょうってな。安心しろ、お嬢ちゃんの滞在も王城に準備済みだ。タチアナが全てを整えたってよ」

 

 タ、タチアナさーん!? 何やってくれてんの? やっぱり演算の才能(タレント)持ちは苦手だ!

 

「そ、そうですか……」

 

「と言ってもお前が寝泊りする賓客用の居室じゃなくて、外郭の来客用らしいがな。まあ、大した距離でもなし、気にする程じゃないだろ。あと、何故かお前も含め伯爵家が世話を申し出たらしいぞ?」

 

「タチアナ様のエーヴ家では無く? いえ、勿論望外の対応ですが……」

 

 タチアナさんはメイド兼リュドミラ様の教育係だが、演算の才能を無駄にしたくないのか、王家から色々と仕事を頼まれているらしい。何時もメイド服を着こなしているが、実はエーヴ侯爵家の三女だし、本来なら有り得ない事だ。だが、本人がメイドに固く拘っていて、意地でも離職しない。

 

「エーヴ家も声を上げたらしいが、他との影響もあって辞退だ。そこへ登場したのがジーミュタス伯爵家だな。ジーミュタス家は騎士の名門で政治中枢からは離れているし、丁度良いと即決だ。しかし、何故ジーミュタス家が手を上げたのか……お前何か知ってるか?」

 

 うぅ……つい最近ジーミュタス家の名が出たよね……確か、クロにぞっこんのアリスってジーミュタス家の長女で、しかもジーミュタス伯はアリスにメロメロらしいし……まさか……

 

「いえ……特には……」

 

「だよなぁ……ディザバルは違うだろうし、変な話だが……まあ、普通に考えれば超級の力に興味があるんだろう。騎士の名門にとっては力は重要だからな。へんな奴らでもないし、良かったじゃないか」

 

 多分、違うと思います……

 

「そ、そうですね」

 

「とにかく、お前が竜鱗で遊んでいる間お嬢ちゃんを一人に出来ないし、タチアナが配慮してくれたのさ。それに、リュドミラ様もお前の登城を楽しみにしてるんだ。今朝から大騒ぎらしいぞ?」

 

「リュドミラ様が……それは身に余る光栄ですが……」

 

 おお、リュドミラ様、超可愛いんだよな……アリスの事は後で考えよう、考え過ぎかもしれないし。それよりリュドミラ様だ! 守ってあげたい女の子筆頭だよ、うん。あの紫紺の垂れ目気味な瞳が堪らないんだよなぁ……性格もお淑やかだし何より、可愛い! 兄であるツェイス殿下に求婚されたけど、リュドミラ様ならOKしてたかも。まあ、今はターニャちゃん一筋ですけどね!

 

 あれやこれやと話している内に門の下をくぐった。随分と人は減ったが、それでもゾロゾロとついて来ている。門番らしき人が俺を見ながらポカンと口を開けているのが可笑しい。まあ、ジルだし?

 

 

 さあ、いよいよアーレ=ツェイベルン……つまり王都に到着だ。ちょっと久しぶりだけど、何か変わったかな……早いところ仕事を終わらせて、ターニャちゃんと遊ぶぞ! 更に仲良くなって、あわよくば……グヘへ……

 

「さて、お嬢様方? ようこそ、王都アーレ=ツェイベルンへ!まあ、楽しんでいってくれ!」

 

 コーシクス=バステドの声は、俺達の耳を超えて街へと響き渡った。ターニャちゃんも興味津々で周囲を見渡し、クロは先程の門番と何かを話している。周囲の群衆も何故かパチパチと手を叩き、街中に居た人々も何事かと此方を伺う。

 

 て言うか……おっさん、声がデカいよ!?

 

 

 

 

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