綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、誘われる

 

 

 

 

 アーレ=ツェイベルン、ツェツエ王国の王都は目覚めも早い。

 

 夜を通して警備にあたる者は別だが、最初に動き出すのは市場だろう。勿論そこに商品を持ち込む業者も忙しそうに働いているし、競りや商談は毎日の様に行われて活気を呼ぶ。

 

 大陸最大の国家であるツェツエには凡ゆる物が流通し、中には別の大陸から流れてくる珍しい品もあった。アートリスとは違い、中々お目にかかれない高級品も多く、反物や陶器、特殊な薬品や鉱物、武器や防具、魔道具などが手に入るのだ。

 

 他に動き出すのは冒険者達だろう。

 

 トパーズに満たない若い冒険者は我先にと王都内外に散っていく。馬車の見張り、城壁の補修や交代要員、果ては草抜きやごみ拾いまであって、オーソクレーズ、つまり初級の冒険者は冒険など殆どしない。等級の一つ上であるクオーツから漸く魔物退治が始まるが、これも騎士団の応援や訓練相手が中心だ。

 

 その間に実力をつけて冒険者にとって難関となるトパーズへと挑むのだ。一般的にトパーズに至る迄、五年から長い場合は十年はかかると言われる。トパーズからは身入りも上がり、一人前の冒険者となる。勿論全てに於いて例外はあるが。

 

 コランダム以上の等級を持つ者達は、護衛や特定の魔物退治、時には貴族の子息へ教鞭を振るう教師にもなる。数は僅かだが士官したり貴族お抱えになるのだ。

 

 ダイヤモンド級はある意味で変人ばかりだ。戦闘狂や特殊な分野に特化した者、各国を渡り歩き未知の土地へ踏み込んでいくなど。殆どが才能(タレント)持ちで、常人では考えられない能力を持っている。

 

 そして……超級などは言わずもがなだろう。現在世界広しといえど五人しかいないのだから当たり前だ。

 

 魔狂い 魔法馬鹿 殲滅魔法命

 剣聖  剣技馬鹿 くそ真面目

 反魂  体力馬鹿 不死身?

 吼拳  体技馬鹿 戦闘狂

 魔剣  何でもありの規格外 紅一点

 

 この五人は各国に散らばり、軍事的均衡に影響を与えている。ツェツエ王国には魔狂いと魔剣がいて、大陸最強の要因となっているのが一つの例だろう。王家や貴族達は血と紡いできた歴史で戦うが、超級にはそんな常識すら通用しないと自由を謳歌しているのだ。

 

 その最強の一角、各国への抑止力でもある魔剣ジルが王城の一室で目覚めようとしていた。

 

 その水色の瞳に、何を映すのか……

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

 

 

「ターニャちゃん……こっち……」

 

 何で逃げるの?

 

「変な、事、しない……」

 

 おかしいな、魔力強化が使えないぞ……でも頑張れば……

 

「グヘへ……捕まえ、たよ」

 

 さあ、お風呂に行こう? 服を脱いで……お姉さんが脱がしてあげよっか?

 

「ちょっとだけ、ね?ちょっとだけ……」

 

 ……うひゃあ! 何それ!?

 

「なん、で、それが……」

 

 間違いなく"ジルヴァーナに罰を"だ! なんでそんな危険物を!? その茶色と水色の縄は間違いない!

 

「ひぅ!」

 

 や、やめて……謝るから! 謝りますぅー!!

 

「ご、ごめんなさい! ぶひゃ!」

 

 

 

 あ、あれぇ……

 

 

 

「夢か……もう少しだったのになぁ」

 

 ベッドから落ちるの最近多いな……

 

 しかし、ターニャちゃん手強すぎないか? いつになったらデレてくれるんだよ!

 

 忘れてたけど"ジルヴァーナに罰を"はまだターニャちゃんの手の中だ。マリシュカさんも余計なお土産をくれたものだよ……バレない様に取り返さなければ。

 

「ふぁ……早いけど起きるか。目が覚めちゃった」

 

 朝風呂に入ろう、汗かいたし。

 

 下着の替えはっと……今日は初日だし座談だから……可愛いのにしよう、うん。

 

「ふふーん♫」

 

 空も白んできてるし、天気も良さそうだ!

 

「おっふっろ〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パ、パミール様……」

 

 

 ツェツエ王国第十三代の王はツェレリオと言う。ツェイス、リュドミラ両殿下と同じ紫紺の瞳を持ち、明晰な頭脳と先見の明で、ツェツエを更に発展させた賢王だ。戦闘はそこまでではないが、人を信じ見抜く力に長けていると評判の人だね。

 

 超級に対する縛りを殆ど取り払い、自由にさせてくれる。俺や魔狂いは其処が気に入ってツェツエに住み着いていると言って過言じゃない。アートリスに辿り着いて八年になるが、一度たりとも王権をふりかざす事は無かった。

 

 両殿下も素晴らしい人柄で、血だけじゃなく心も受け継いだのだろう。ツェツエ王国の平穏はこれからも保たれるのは間違いない。

 

 そして、ツェレリオ王のもう一つの特徴を挙げるなら……超が付くほどの愛妻家である事だ。

 

 遠くアシェ王国から嫁いで来たらしいが、政略結婚をものともせずに甘々ラブラブ。最近では食べるのが大好きな王妃の為に、飲食店が連なるメインストリートを整備したりした。何処に王権を使ってるんだか。

 

 王妃の名は、パミール=ツェツエ。

 

 ふくよかな身体は食べるのが好きな王妃らしい。肝っ玉母ちゃんの言葉がピタリだが、上品さは流石。看板オババのマリシュカが街の母ちゃんなら、パミール様は王家の母ちゃんだ。

 

 グルリと頭部に巻き付く様に編まれた美しい金の髪は二人の子供達と同じ。瞳だけは明るいブラウンだからアシェの系譜なのかもしれない。

 

 優しくも偉大なるツェツエの母、そんな人が朝から訪ねてくるなんて……いやいや、なんでだよ!?

 

 

「ジル、久しぶりですね」

 

「は、はい。パミール様、お久しぶりです。態々お出で頂かなくてもお呼び下されば参りましたのに」

 

 慌てて跪こうとした俺をやんわりと止めて、優しく両手で包む。手にはパミール様の温かい体温が伝わってきた。

 

「ふふふ……我慢出来なくて。ミラなんて昨晩からソワソワしてましたから、早い者勝ちです」

 

「は、はあ」

 

 おっとりした言葉は何処までも優しい。

 

「髪も随分伸びましたね。それと大人の女性になりました。本当に綺麗……お願いだからツェレリオを誘惑しないでね?」

 

「パミール様! 冗談はおやめ下さい!」

 

 マジでやめて!

 

「あらあら、ごめんなさい。若い娘にはツェレリオは駄目ね。仕方ないからツェイスにしておく?」

 

「パミール様……」

 

「いいじゃない。此処には邪魔な人はいないわ」

 

「紅炎の皆様がいますから! クロエ様だって」

 

 当たり前だがパミール様一人で来た訳じゃない。警護として紅炎騎士団から4名が付いている。その中には騎士団長のクロエさんもいて……フリフリと此方に手を振ってるから警護もくそもないが。

 

「クロエ、駄目かしら?」

 

「いえ、全く」

 

「ほら、クロエも許してくれたわ」

 

「……パミール様、もう許してください……お願いですから」

 

 これだからアーレは苦手なんだよな……みんなしてツェイス殿下との仲を冷やかすし、そりゃ最高の戦友兼友達だけどさ。反対に血が穢れるとかで、煩い貴族までいるから面倒くさいのだ。

 

「私は賛成よ? 分かったわ、そんな顔しないで。もう少ししたらツェイスとミラが来るし、私が怒られてしまうから」

 

 だからなんで王族が態々来るんだよ……呼び出せばいいじゃん。殿下なんて訓練で会うんだしさ。まあ、リュドミラ王女様とは会いたいけど! 無茶苦茶可愛いんだよ、リュドミラちゃん! ターニャちゃんがもし居なければ嫁にしたいNo. 1はミラ!

 

「すいません……でもパミール様とお会い出来て凄く嬉しいのは本当です。もしかして何か御用件が?」

 

「あらあら、忘れていたわ。ジルはアーレにいつ迄いるのかしら?」

 

「ツェイス殿下から依頼頂いた訓練は三日間です。なので今日を含めて三日、余裕を見て五日間を予定しています」

 

「たったの? 少ないわ」

 

「は、はい。すいません」

 

「約束を忘れたのかしら?」

 

「約束、ですか?」

 

 何かあったか……? 思い出せないぞ、ヤバ……

 

「以前に食べさせてくれたスープのレシピを教えてくれる約束だったでしょ? 作り方も習いたいの。名前はなんて……」

 

 ああ……ってアレ約束だったの!? 世間話の一つだと思ってたよ!

 

「ミソスープですか?」

 

「そう、それね! ミッソスープ!」

 

 ミソがミッソになってたな……完全に思い出したよ。

 

「しかし材料が……レシピを書き出しましょう」

 

「六日よ」

 

「はい?」

 

「頼めば六日で手に入れてみせる。アレから色々と手を尽くしているから、仕入先も増やしたの。珍しい食材も任せてね?」

 

「つまり」

 

「滞在期間を延ばしてくれる? ギルドには延長を伝えるから……何か用事でもあったなら諦めるけど」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 まあ元ニートなので、アートリスの仕事も受けてないですから! まあ、断れないよね。

 

「良かったわ。ジル、ありがとう」

 

「アーレに滞在出来るなんて良い経験になりますし、帰ったら友達に自慢しますね。きっと羨ましいってなりますから楽しみです」

 

 此処でジルスマイルを出せば完璧だろう。案の定パミール様も嬉しそうだ。

 

「ふふふ……ところでそのジルのお友達って? まさか男性じゃないわよね?」

 

 違います! 最近友達になったリタさんとか、パルメさんとか! 間違ってもギルド長のウラスロは友達じゃないからね、うん。

 

「女性です……」

 

「そう? それならツェイスも安心安心」

 

 ……うぅ、これがあるからアーレに来にくいんだよなぁ。

 

「では材料を書き出しておきますね」

 

「ツェレリオにも食べさせてあげたいから、多目に書いておいてね?」

 

「分かりました」

 

 ニコニコ顔のパミール様は紅炎の三人を伴って去っていった。まあ、ツェツエの皆んなは好きだから構わないけど、滞在が延びるのか。逆に考えればターニャちゃんとデートが出来る日が増えたと思えばいいのでは?

 

 ……うん、アリだな。

 

「ジル、久しぶりだね! 元気だった?」

 

「はい。クロエ様もお元気そうで良かったです」

 

 クロエさんも綺麗なんだよな……小柄で勝気、髪も瞳も赤くて炎魔法まで使う火属性盛り盛りの女性だ。何時もポニーテールにしてる。片刃のソードと小剣を操るから、二刀流じゃん!って最初見たとき興奮したよ。無意識に魔力強化も少しだけ行っていて、恵まれた身体能力を駆使した敏捷性が武器。速度と手数で勝負するタイプだね。まあ炎魔法は別だけど。

 

「もう!他人行儀はやめてよ! 私は貴族でもないし、堅苦しいの嫌いなの知ってるでしょ?」

 

「そうはいきません。ツェツエが誇る紅炎騎士団の団長クロエ様を軽々しく扱うなど、一塊の冒険者に許される事ではありませんから」

 

「相変わらず真面目なんだから……せめて二人きりの時は普通にしようよ、ね?」

 

 二人きり……なんて素晴らしい響き……い、いかんいかん! 俺はジル! 孤高の女冒険者、綺麗で格好良くて、謎めいた、そんな最高の女だぞ!

 

 思わず二人きりでお風呂に入る幻まで見てしまった。

 

「すいません……」

 

「はぁ、悲しいなぁ……」

 

 そんな泣きそうな顔しないでくれぇ……

 

「じゃあ、せめてお願い聞いてくれる?」

 

 それぐらい勿論です! 綺麗な赤毛のお姉さんのお願いか……お風呂か?お風呂なのか!?

 

「出来る事なら……」

 

「簡単だからね。今回は竜鱗だけだし、個人訓練に付き合あわない? そのあとで一緒にご飯でも食べてさ。女二人で酒でも飲みながらお話しましょ? そういえば、ジルはお酒に弱いまま?」

 

「あまり得意ではありませんね……でも、二人で食事なんて素敵です」

 

 女子会か!?いやいやデートじゃね!? やっぱりモテ期が来たのかもしれない……グフフ。

 

「決まりね! 今日明日はアレだから、明後日かな?どう?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 ターニャちゃんとご飯が難しいけど、アーレ滞在中だけだし……毎朝と合間に会いに行くからね、待ってて!

 

「そろそろツェイス様とリュドミラ様が来るわ。それとタチアナも」

 

「タチアナ様とお会いするのも久しぶりですね。どうしました?」

 

 苦虫を噛んだような表情でクロエさんは俯いた。

 

「……聞いてよ! タチアナったら酷いのよ! リュドミラ様と一緒におやつ食べてたらすっごく怒るの! だいたい……」

 

「クロエ様、何か?」

 

「ひぅ!!」

 

 直ぐ背後にタチアナ様がいて、ボソッと呟く。

 

「ななな……なんで何時も気配ないのよ!」

 

 確かに……戦闘系の才能(タレント)じゃないのになぁ……俺も一瞬見失ったよ。演算にそんな力ないはずだし。

 

「気配? 私にそんな能力はありません。ただ、最適な道を計算し歩けば普通は分からないものです」

 

 いや……それ結果的に気配消えてるよね?

 

「あわわわ……」

 

「ジル様、お久しぶりです」

 

 クロエさんを無視するタチアナ様は、優雅な仕草と礼を見せてくれた。俺も背筋が伸びるんだよね。

 

「タチアナ様、此方こそご無沙汰しておりました。あの……冒険者に敬称など必要ありませんから、ジルとお呼びください」

 

 タチアナ様はエーヴ侯爵家の三女だ。しかもリュドミラ殿下の教育係でもある方なのだ。ミルクティー色の髪をオカッパにして目つきが鋭いけど、眼鏡がキラリと光るスラリとした美人さんだ。

 

「そうは参りません。理由はお分かりのはず」

 

「それは……でも、困ります」

 

「間も無くツェイス殿下とリュドミラ殿下が来られます。準備はよろしいですか?」

 

「あ、はい」

 

 無視されたよ……タチアナ様の中じゃツェイス殿下と俺がって決まってる、そう言ってたよな……はぁ。

 

「では、暫くお待ち下さい」

 

「はい」

 

「少し失礼致します。クロエ様?」

 

「は、はい!」

 

 油断していたのかクロエさんは余所見していたようだ。

 

「リュドミラ殿下と同じ席につくのは万歩譲りましょう。許されないのは半分以上を貴女様が食したからです」

 

「だって……リュドミラ様が食べていいって……」

 

「何か?」

 

「い、いえ! 何でもありません! 以後気を付けます!」

 

 ビシリと固まったクロエさん、悲哀を感じる。

 

 確かクロエさんは25歳位で、タチアナ様は19歳。年下女の子に弄られるなんて、プププ……笑えるな。

 

 

 

 あん? 鏡を見ろ?

 

 なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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