綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、先生になる(二度目)

 

 

 

 

 

「ふんふーん♫」

 

 着替えも済んだし、準備もバッチリ!

 

 今日の装いはレディースのスーツと言えばいいだろう。無論現代日本の物とはかなり違うが、明るいグレーを基調にしたパンツスタイルだ。少しキツめに誂えたのでピッチリと身体に張り付いている。

 

 自慢のヒップラインとスラリと伸びた脚、髪はシニヨンにしている。所謂まとめ髪だね。少しカジュアルにしたのがポイントで、うなじもチラチラと見える。

 

 座学とは言え多少体を動かす予定なのだ。

 

 後ろ姿を見た男は誰もが視線を奪われるだろう。俺もOLさんのお尻から目を離せなくなった経験がある。あのカタチ、最高なんだよなぁ。下着のラインも少し出るかもだけど、それは仕方がない。

 

 更に、魔力により比類なき美を誇る長い髪も纏めた事で可愛らしさも忘れてないし、もしかしたら良い香りだって届くかも。

 

 くくく……今日も男共の視線は釘付けだ!

 

 でも残念でしたー!! ジルの心には決まった人がいるんですぅ! 君達には手に入らない至高の女、それがジルなのだ。俺は今、恋をしている……まだ蕾だが、いずれ綺麗な花を咲かせるのは間違いない。

 

 そう! 至高のTS美少女、ターニャちゃん!

 

 頭も良くて、料理などの家事はプロ級、クールな精神と優しい性格、そして……可愛い!!

 

 まだ禁断症状は出ていないが、その内プルプル痙攣するかもしれない。手早く終わらせて時間を作らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

 

 

「知っての通り、超級冒険者"魔剣"ジルが我が竜鱗の特別教官として来城している。四年以上前に一度だけ一部で教鞭を取ってもらった事があるが、この中には初めての者もいるだろう。因みに、初めての者は挙手しろ」

 

 中にはお互いの顔を見合わせた者もいたが、大半が規律良く挙手を行った。

 

 意外に思われる事も多いが、竜鱗騎士団はかなり自由な風が吹く組織だ。それぞれが蒼流などで鍛えてきた騎士で、若い者でも何らかの才能(タレント)を持っている事が多い。100人と決まっている竜鱗は組織力と同じく個人の力にも重点を置いているのだ。まず求められるのは他の追随を許さない戦闘力、そしてツェツエに対する忠誠だ。

 

 それぞれが自身の力に誇りを持っており、ツェイスやコーシクスに憧れはあってもそれ以上ではない。100人もいるからには考えもバラつきがあり、冒険者を下に見ている騎士もいるだろう。

 

「ふむ、七割程度か……意外と多いな。本日は座学だ。明日以降の二日間は実戦を踏まえる。よいな?」

 

「「「は!!」」」

 

「では、副長。宜しくお願いします」

 

「おう」

 

 コーシクスにジルを迎えに行った時の不良中年の雰囲気はなかった。そこにはツェツエ最強の竜鱗騎士団副長であり、この人ありと言われた剣神が立っている。

 

「傾聴!」

 

「楽にしてくれていい。さて……聞いた事があるだろう、六年前のツェツエの危機を。あの戦いで多くの冒険者が名を売ったが、"魔剣"に勝る者はいなかった。勿論この俺も。最後の魔物"カリュプディス・シン"を倒したのも彼女だ。対魔物なら我等より先を行っていると考えてもいいだろう。他にも魔素感知、複合型恒常式治癒、身体魔素検査、魔力生成対流、面白いのでは自動洗浄装置などの技術理論も魔剣が開発し世に知らしめたものだな。その名の通り剣技も相当だが、今回は魔法に関しての講義が中心になる。心して励む様に……まあグダグダと話しても仕方が無い。何か質問はあるか?」

 

「では……魔法と言えば普通は"魔狂い(まぐるい)"が適しているのではありませんか? 事実、この中には魔狂いに教えを乞うた者もいるでしょう。敢えて魔剣を招聘した理由を教えて頂きたい」

 

「ああ、良い質問だ。だが、それこそが本日の座学の本質を捉えている。今教えてもいいが、下手な先入観を与えたくない。ジル……魔剣の声に耳を傾けろ。それが答えだ」

 

「……はっ」

 

「他には」

 

「はい!」

 

「おう、元気だな。いいぞ」

 

「明日は実際に試合出来るのでしょうか?」

 

「それは魔剣次第だな。内容は全て任せてある。ただ敢えて言うなら……お前達に戦う価値があれば相手をしてくれるだろう」

 

 それは明らかな挑発で、暗に価値が無いかもと言っているのだ。

 

 個人や少数に特化している冒険者と比べることは、ある意味で極論になってしまう。集団戦や戦略、国の威容を支えているのはあくまでも軍だからだ。しかし竜鱗の皆は蒼流などで修羅場を潜って来た猛者達でもある。噂ではコーシクスすら勝てないというが、やってみないと分からないのが戦いだ。まだ魔剣を詳しく知らない騎士達は、自身の力を見せつけてやると意気込む。それこそが副長の狙いだろうが、要は勝てばいい。皆に強い意志が宿ったのが分かった。

 

 それを確認して静かに締め括れば、コーシクスの役割は終わりだ。

 

「よし、いいな。もう暫くすれば来るだろう。休んでおけ……ああ、一つだけ言い忘れていた」

 

 全員が力を抜いた瞬間だったが、真面目な雰囲気に再度姿勢を正す。

 

「いいか? 初めて会う、いや見る奴は気をしっかり持てよ? 余り長い間見続けるな、抜け出せなくなる。以上だ」

 

 一瞬静まったが、直ぐに騒めきが支配する。

 

 大半が何の事が分かってないが、経験者も多い。知っている者達はコーシクスが何を言っているのか理解しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 講義開始の時間ーーー

 

 先程まであった騒がしさは一瞬で消え去った。

 

 一瞬で静まり返ったのだ。

 

 勿論竜鱗の団長であり忠誠を誓うツェイスが入室したからだが、その後に続いた一人の女性から視線を外せなくなったのが最大の理由だろう。

 

 会った事がある者、噂を耳にした皆、殆ど知識がなかった新人、例外なく目を離せない。

 

 "戦いと美の女神"

 

 そう呼ばれているのは知っていた。竜鱗ではコーシクスがよく話していたからだ。

 

 だが、予想を簡単に裏切って魔剣は歩む。

 

 まったくぶれない姿勢、何頭身なんだと言いたくなる均整の取れた体形、肌の露出など皆無でありながら、女性らしさを隠しもしない衣装。

 

 かなりの長さと思える艶やかな白金の髪は、複雑に編み込まれて後ろで纏めてある。珍しい水色の瞳も、大勢に見詰められている事実など存在しないと揺れたりはしない。

 

 美しい……

 

 それが全員が単純に思った事だった。美を讃える言葉は数多いが、結局はそれ以外に見つからないのだ。

 

 その沈黙はツェイスが高座に上り、皆を睥睨しても変化しない。コーシクスがいい加減にしろと咳をして、漸く時は動き出した。

 

「詳細は既に聞いているな? 貴重な時間を奪いたくない。紹介しよう。ジル、此方へ」

 

「はい」

 

「初めての者も多いと思う。この彼女がアートリスのギルド所属、超級"魔剣"のジルだ。軽くでいい、自己紹介を」

 

 スッと軽く頭を下げ、全員に礼をした。それだけなのに視線を奪われてしまう。

 

「冒険者総合管理組合アートリス支部所属の冒険者、ジルと申します。今日から三日間、僭越ながら魔法を中心とした講義を担当致します。よろしくお願いします」

 

「ありがとう。皆も知っての通り、彼女の才能(タレント)は"万能"だ。しかしはっきりと言っておく。彼女の魔法行使の理論は才能とは関係ない。全てが努力の結晶である事を此処に断言しておこう。事実、我がツェツエの勇者クロエリウスに万能はない。彼女に師事して培った力なんだ。だから、この機会を大切にして欲しい」

 

 今まで無表情に近かったジルだが、ツェイスの「努力の結晶」という言葉に少しだけ微笑を浮かべた。才能に頼り切った力ではないと肯定されたのが嬉しかったのだろう。皆がやはり目を奪われたが、ツェイスの言には意味があった。

 

 全員に学ぶ姿勢と意志が固まったのだ。

 

「ジル」

 

「はい、ツェイス殿下」

 

 高座から降りたツェイスはコーシクスの隣りに腰を下ろした。自身も更なる研鑽のために学ぶのだろう。

 

「改めて……竜鱗騎士団の皆様、宜しくお願い致します。さて、皆様にとっては当たり前の基本だとおもいますが……再度確認したいと思います。魔法とは? どなたかお願い出来ますか? はい、そちらの方」

 

「魔力或いは魔素に依る元素、空間等への作用及び結果とその法則……だ」

 

「お見事です。私がこの三日間伝えさせて頂くのは、魔法……この法則の再確認、ただその一点のみ。ですので、頭を柔らかくして気軽に聴いて下さいね」

 

 言葉の最後に咲いたジルの笑顔に息を飲んだが、同時に初心者でも知る知識の再確認と言われては、誇りある竜鱗には耐えられなかったのだろう。当たり前に反論が生まれる。

 

「ジルさん……いや、教官殿。我等も幼き頃より魔法を学んできているし、最低限は押さえているつもりだ。基礎を疎かにするのは愚か者の所業だが、今更に初歩の初歩から始めるのか?」

 

「はい、御心配はごもっともです。ですので、皆様が学んできた一般的な魔力行使を今から説明します。皆様は戦いを生業とした騎士様。分かり易く属性魔法から確認しましょう」

 

 ジルは皆に視線を送り、再度口を開いた。

 

「皆様が、例えば"炎の矢"を放つ時。先ず魔力を集めて属性を付与、出来るなら威力と速度を規定します。多少の曖昧さは許されますが、魔力の収集固定に最も神経を注ぐのではないでしょうか?」

 

 誰もが当然だと頷く。

 

「初めて魔法を行使する際に付与する属性は殆どが"炎"です。これは日常に火を見る機会が多い事と、熱や光といった物理的効果が想像しやすいからと言われています。逆に魔力を集めるのに苦労するのは、明確に目視出来ず、感覚でも捉えにくいからですね。例外的な一部の才能(タレント)は其れを成すでしょうが、当然一般的ではありません」

 

 すると徐に持って来ていた木箱から何やら取り出すジル。それは幾つもの木製の立方体だ。それぞれに着色しているが、似た物を探すなら子供が好きな積み木だろうか。

 

 だから、全員に困惑が浮かぶ。

 

「最初の質問を思い出して下さい。魔力或いは魔素による……この部分です。先程の炎の矢を放つ際、皆様は魔素を意識していますか?」

 

「魔素は魔力の元だ。魔力を集めるとはそれ即ち魔素を集める事。それを態々意識する者はいないだろう。桶に溜まった水を汲むのに水滴を意識するのはおかしな話だからな。しかしながら、共に水である事に変わりは無い」

 

「そうですね……それはある意味で正しいです。魔力をより多く集める事が出来れば、威力も向上し飛距離や速度も単純に伸びますから。ですが、それが全てなら矛盾が生まれます。魔力()()()魔素。或いは……不自然ですよね? 何故分けて理論立てしているのでしょうか」

 

「それは……」

「言われてみたらそうだな」

「でも、そんな事誰も……」

 

「それを考えながら、これを見て下さい」

 

 両手を机についたまま、ジルは瞬時に魔法を行使。魔力を集める集中力も、時間も、気配すら感じなかった。目を離せない美貌を眺めてなければ、理解すら出来なかっただろう。

 

 それは一本の"炎の矢"だった。

 

 ジルの頭上、真っ直ぐな剣に見える。

 

 珍しくもない、だが室内で放つには危険過ぎる代物だ。攻性の魔法は反撃されても文句も言えないだろう。そんな危険な魔法を構築しながらも、ジルは気にせずに話を続けていく。

 

「続いてこれを」

 

 一つだった炎の中は、二つ、四つ、八つと分離してジルの周囲に現れた。その指向性がジル本人に向かっていなければ、何人かは魔法防壁を用意したかもしれない。

 

「質問です。私はどうやって矢を増やしたでしょうか?」

 

 無音のまま、炎の矢が空間に固定されている。普通ならフヨフヨと揺れるし、そもそも固定が難しいのに。

 

「……そ、それは当然に魔力を集めて連続に生成したのだろう。それ以外に……まさか……」

 

「ご推察の通り、私は元々あった矢を分離させただけです。追加の魔力は集めていません。魔力を感じ取れる方は確認して頂いて結構です」

 

 ザワザワと竜鱗の騎士達が騒ぎ始めた。一度属性付与した魔法は一本の矢と同じだ。以前に魔剣の教えを受けた者以外には、余りに衝撃的な事だった。常識だった知識が崩れていく。

 

「馬鹿な……まやかしでは?」

 

「いや、間違いない……魔力は最初から増加してないぞ……矢の一本そのものは薄まってる」

 

「信じられない……」

 

 全員が確認したのを見たジルは、八つあった炎の矢をあっさりと消した。因みにそれも簡単ではない。出したり消したり出来るなら、戦闘中の牽制に多用される筈だ。しかし寡聞にして聞かないのは、息をする様に出来ないのが常識だからだ。

 

「私が伝えたいのは魔法を行使するには魔素を知る事。それだけなのです。この魔力偏重主義……すいません、私が勝手に名付けたのですが……それは、魔力を繰る(くる)才能がある人が中心となった理論体系。確かに、理論的には間違ってはいません。しかし大半の人は、その表面くらいしか学ぶ事が出来ないのです。でも……魔素を知れば、必ず魔法行使の技術が向上します。其処に際限はありません」

 

「際限が、ない……」

 

「はい。限界はないのです。魔力量は一つの目安、そう考えてください」

 

 一人残らず、全員の心に火が灯った。湧き上がる熱量を制御するのが困難な、それ程の感情の爆発だった。

 

 貴方達はまだまだ強くなれる……そう魔剣は言ったのだ。

 

 すると……超級"魔剣"ジルの笑顔が咲いた。ニッコリと笑ったのだ。

 

 美の女神……

 

 その絶佳を視界に入れたなら息をするのも忘れる。死を意識すらしないのではないか……そんな馬鹿な事を考えてしまう。コーシクスは言った。気をしっかり持て、長い間見るな、と。

 

「魔剣……か」

 

 誰かが呟いた。

 

 

 

「では……ねえねえ、魔素ってなぁに? 始めますね!」

 

 

 

 魔剣は……両手に木箱から取り出した積み木を持ち、子供っぽい笑顔に変えて朗かに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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