綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
幾つか用意されたドレスを眺め、そして決める。
少しだけ迷ったけどAラインかな。因みにこのドレスはくれるらしい。流石ツェツエ王国、太っ腹だなぁ。
肩紐だけだから鎖骨から肩まで露出して女性らしい線を見せる。正直大きなオッパイだと似合わない気がしてるので、きつめの補正下着らしきもので抑えた。それでも谷間が出来ているが、チラリしか見えないし大丈夫。緩やかに広がるスカートは膝下まで。バストの直ぐ下で締め付ける様になっているが、調整は可能だ。
色は黒が中心だけど、刺繍やらがあって単純じゃない。まあ、黒色は女性を美しく見せると昔見たアニメで言ってたからね。後は細めのネックレスを二本垂らし、髪はメイドさんに結って貰った、と言うか結われた。髪型は昔見た「氷の国の女王様」の氷を操る人にそっくりだ。お姉さんの方ね。
「うむ。死ぬ程に美しいな」
メイドさん達も居ないので独り言を呟く。化粧も施されたが、薄めのナチュラルメイクだ。メイドさん曰く、俺には必要ないそうだ。最後に溜息が聞こえたが気のせいだろう。
俺は筋力より魔力強化を主としている関係上ゴツゴツした筋肉はない。引き締まった身体は見事な黄金律を保ち、ドレスも助けるスタイルは完璧と言っていい。
「ターニャちゃんに見せたいな……アートリスに帰ったらファッションショーを開催しよう。まあ、九割はターニャちゃんがモデルですけどね!」
ふっ……流石のターニャちゃんも頬を赤らめるだろう。それ程にジルは美しいのだ!
「ん?」
デカイ鏡の前でニヤついていると、軽やかなノックの音がした。そろそろかな?
「ジル様、お時間です。宜しいですか?」
「はい。どうぞ」
カチャリと開いた扉から、先程髪を結ってくれたメイドさんが一礼して入ってくる。うーむ、見事な姿勢ですな。教育が行き届いているのが分かるよ。
「失礼致します」
挨拶したメイドさんの後ろからもう一人入って来た。身長も高く、脚も長い。ただでさえイケメンなのに、歩く姿まで綺麗で腹立たしい。色々と複雑な縫製で飾られた白いシャツ、袖にはカフスボタンがキラキラと輝いている。ズボンは濃い目の青で、薄っすらと模様が入っているようだ。
しかし……まあフォーマルと言えるが、気軽な感じにも見える。これじゃあ如何にもパーティドレスな俺は浮いて見えるんじゃないか? 張り切り過ぎて勘違い女みたいで恥ずかしいぞ。まあツェツエで用意したものだから失礼にはならない筈だけどさぁ。
「ジル。もう準備は良さそう……しかし本当に美しいな……君のドレス姿なんて滅多に見れないから、凄く新鮮だ。父さん達も驚くだろう」
「ツェイス殿下。ありがとうございます。あの……」
「なんだ?」
「このドレス……凄く素敵ですけど、えっと……」
「堅苦しいか?」
「すいません。もしかして合わないのかと」
「確かに今日は家族だけで楽しむ夕餉だ。パーティドレスだと目立つ、間違いない」
なんですと?
「……では何故?」
「母さんからの要望だ。ジルの着飾った姿が見たいと煩くてな。準備したのも母さんだし諦めろ。ああ、そう言えばミラも手伝っていた」
……いやいや。家族団欒にドレス姿で乱入なんて恥ずかしいだろ⁉︎
「え、あの……」
「因みに俺も大賛成だ。ジルの綺麗で困った顔を見れて最高だな」
俺も前世でそんな台詞を吐いてみたかった……このイケメンめ!
「ツェイス、いい加減に……あっ」
しまった! つい昔みたいに……
「ほぉ……怒らせると面白いな。漸く昔の様に呼んでくれた。俺は構わないぞ?」
気を利かせたつもりなのか、扉の側に立っていたメイドさんが退出していった……あのぉ、そんな事しなくていいからね? まあ人の目も無くなったし、もういいや!
「はぁ……貴方はツェツエの王子でしょう? そんな事でいいの?」
口調を戻すとツェイスは嬉しそう。笑顔まで決まっててイラッとくるな……
「確かに俺は王子だが、ジルは共に死線をくぐった戦友でもある。二人の時くらい本性を隠すなよ。それに、ミラなんて今でもジルを勘違いしたままだ。優しくて控えめ、意地らしさも併せ持つ女性だとな。何度訂正しても信じない」
「勘違いなんかじゃないし! 流石リュドミラ様だね、うん!」
「いーや、間違いなく騙されてる。見た目がこれだけに仕方がないが……慎ましやかで清楚な女性が冒険者で超級? 論理が破綻してるだろ」
「ツェイス、貴方喧嘩売ってるの?」
イケメンは世界の大半、大多数の男達の敵だからな?
「喧嘩は売ってないが、ジルとは戦いたいな。滞在中に時間を作ろう。超級の力を見せてくれ」
「ふーん……明日、竜鱗の皆の前でもいいけど?」
「それも面白いが、団の学ぶ時間を奪いたくはない。別に用意するさ」
「あら? よろしくてよ? 楽しみですわ」
「なんだそれは……似合わない、いや似合いはするが止めてくれ。背中がゾワゾワする」
くっ……大半の男達は俺と話す時に余裕などないが、ツェイスは違う。これがイケメンの力か……視線も泳がないし、オッパイや肌もチラチラと見たりしない。悔しいがカッコいいんだよなぁ、話し易いし。
「何だか懐かしいね。あの駆け出し騎士様が立派な王子様なんて」
「それを言うならジルもだ。あのときコソコソと逃げ出そうとしてた少女とは思えない。俺の目の前に居るのは間違いなく美しい大人の女性だ。中身はともかくな」
「ツェイス……試合で泣いても知らないわよ?」
「ほぉ……楽しみだ。やってみろ」
ジィーっと紫紺の瞳をジト目で見たが、ツェイスは動じない。ムゥ……
「ふふっ」
「ふっ」
思わず笑ってしまったが、仕方がない。男友達と遊んでいるみたいだもんな。まあ二年振りに再会した悪友ってやつだね。何だか懐かしいなぁ……ツェイスって友達として最高なんだよ、イケメンだけど!
「ツェイス殿下、お時間です」
……う、うん?
何か聞こえたんですが?
「ああ、分かった」
「……タ、タチアナさ、ま……」
え……いたの? いつから⁉︎ だってさっきまで……う、嘘だろう? それにツェイスは何で平気なんだよ!?
「はい、ジル様」
ミルクティー色の髪を揺らしながら、表情を変えずに佇んでいる。絶対いなかったよね⁉︎
「い、いつから……」
ニコリと笑って眼鏡がキラリ。でも答えない。
「ツェイス……ツェイス殿下。ご存知だったのですか?」
「ああ、勿論だ」
あわわわわわ……タチアナ様、ヤバすぎるだろう‼︎ 魔素感知にも掛からないし、気配も感じさせないなんて……怖すぎるよ!
「うぅ……教えて下さいよ」
「それじゃ演技をやめたりしないだろ。会ってから今まで他人行儀を許していたんだ。意趣返しくらいするさ」
「そんなぁ……」
「ジル様」
「は、はい! す、すいませんでした!」
クイッて、眼鏡をクイッてしたぞ!! 似合ってるのが怖い……怒られる! これじゃあクロエさんの二の舞だ!
「謝罪など……私には必要ありません。可愛らしくて素敵でした」
「あ、あれは違くてですね……本当の私は」
「ふふふ、本当の私、ですか。一体どちらなんでしょうね」
知ってますからね的なタチアナ様が笑っていらっしゃる。綺麗だなぁ……怒ってないみたいだ。
「ジル、タチアナは最初から分かってるさ。良い加減諦めたらどうだ?」
「むむ……」
「ほら、行くぞ」
ツェイスは俺の横に立って肘を軽く上げた。腕で輪っかを作り、エスコートをするつもりだろう。まあ断るのもアレだし、いいけどさ。作られた輪っかに手を掛けて腕を組む。でも、恋人的なヤツじゃないから!
タチアナ様……眩しい物を見たって視線やめてね?
「お母様! ジル様が来たわ!」
「ミラ、来たとは何ですか……はしたないですよ」
パミール様が優しく嗜めた。リュドミラ様もハーイってペロリと舌を出す。
おお……何だよそれ! 可愛過ぎないか⁉︎ もう一回見せてくれ‼︎ ターニャちゃんにもして貰いたい!
内心の叫びをばっちり抑えながら入ったところは、意外と小ぢんまりした場所だった。外と繋がったカフェテリアって感じのオシャレな空間だ。借景に王都アーレの夜、飾られた花々と色とりどりのランプ達。魔法を流用した柔らかな光が美しい。ツェルセンの双竜の憩といい、ツェツエはいちいちカッコいいんだよなぁ。
見れば、透き通った水色の長細いテーブルの上に艶やかな食器類が配してある。食事や飲み物は順番に出てくるのかな、きっと。
「ジル、久しぶりだな」
そしてベランダに居たのだろう渋い男性が声を掛けて来る。ツェイスが歳を取ったらこうなると誰もが思う超イケメンのオヤジだ。身長もツェイスと同じくらい、紫紺の瞳は子供達よりずっと濃い。王様にありがちな髭は生えてないので、実年齢より若く見えた。
「陛下。こんな素敵な夜に御招き頂き心から感謝を。そして御顔を合わせる光栄に何にも代え難い喜びを感じます」
ツェイスからゆっくりと腕を離し、スカートを両手で軽く摘む。そして膝を軽く折り曲げ、やはりゆっくりと頭を下げた。所謂カーテシーだけど、足の位置が少しだけ違うのだ。
「ジルよ、変わらず固いな。この場所では皆が家族として振る舞う規則があるのだ。知らなかったか?」
知らないよ! て言うか嘘だよね? 皆んな笑ってるもん。
ツェツエ王国第十三代の国王であるツェレリオ=ツェツエは賢王として名高く、同時に中々はっちゃけた王様だ。王妃であるパミール様のために自分で厨房に立つらしい……どんな王様だよ!
「ふふふ、陛下は何時も御冗談がお好きですね。でも、緊張を解きほぐす御心遣いはとても嬉しく思います」
「此れは困ったな……しかし、これ程の美姫を目の前にしては誰もが舞い上がるものだ。黒のドレスも良く似合っているし、ツェイスはよく平気だな?」
「平気ではないけどね? 何時も我慢してるんだ」
「えっ⁉︎」
思わず振り向いてツェイスをマジマジと見てしまった。いつも平気そうだよね⁉︎
「私だって吸い込まれそうなるもの。お兄様はよく耐えてると思うけど……ね? お母様」
「そうね……ツェレリオが鼻の下を伸ばすくらいだけど、仕方無いと思う私がいるもの」
「な、何を言う! 俺にはパミールしか……」
「2人とも、そう言うのは外でやってくれ。ジルが固まってるからな?」
いや固まると言うか、ツェイスだけは俺に対して普通でいると思ってたんだけど⁉︎ 思わずツェイスを目で追ってしまい、パミール様とリュドミラ様が笑うのが見えた。
うぅ……何か恥ずかしい!
「さて……美しいゲストも我が家族の元を訪れた事だし、ゆっくりと楽しもう」
ツェレリオ陛下の優しい号令で、其々が席に着く。両陛下は隣同士に座り、反対側に俺。両側にツェイスとリュドミラ様。リュドミラちゃん可愛いなぁ……
まるで全てを見ていた様に奥側の扉が無音で開き、背筋の真っ直ぐに伸びた男性が入室して来る。そのままに泡の音が弾けるお酒を注いで回った。シャンパンかな? 酒に弱い俺に気を使ってくれたのか、余り強いアルコール臭はしない。甘くて上品な香りが漂う。
「今日は……そうだな、ミラに頼もう」
「はーい」
はーいも可愛い! 出来るなら録音して目覚まし音にしたい! 録音機器なんて、この世界にないけど……
「私達の家族の時間に、こんなに綺麗で素敵な人が共に過ごして下さる事に感謝します。
「乾杯」
「あらあら」
「娘が1人増えたか」
「……ジル、よく固まる日だな」
ターニャちゃんに続き、リュドミラちゃんにも"お姉様"呼びかぁ……それは嬉しいですけど……
「か、乾杯……リュドミラ様、困ります」
「先程お父様が言ったでしょう? 規則があるのです、ジルお姉様?」
上目遣いから、更にコテンと顔を傾けるだと⁉︎ さっきの"はーい"と合わせて、最高のコンボだ! くっ……ターニャちゃんに並ぶ美少女の双璧……TSクールとホンワカ王女様か……
世界最高レベルの美少女に
「は、はい」
「良かった! ではこの時だけは"ミラ"と呼んで下さいね?」
「ミラ、良い事を言ったぞ。よし、今から全員の名前を言って貰おう。まあ私とパミールは我慢するから、ツェイスだけでも、な」
「……」
や、やられたー‼︎