綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
何だろー、やっぱり気持ちいいぞー。
二つのグラスを空けたら、かなり酔いが回ったよ……
おかしいな、ここまで弱かったっけ?
大人の女性として、お姉様として情け無い姿は見せられないのに。先に何か食べないと駄目だったかなぁ。
「ジル様。それでどうなったんですか?」
「あっ、えっとですね……その後にお母さんドラゴンが飛んで来まして、暫く雨宿りさせてくれました」
「えっ! ドラゴンさんに、ですか?」
「はい。少しだけ翼を広げて……私が子供を守ったと理解してたのか、勿論会話なんて無くて不思議な体験でしたよ?」
うぅ、フワフワする。
折角の超絶美少女リュドミラちゃんとのデートなのに、カッコ悪いとこ見せたく無い……
でも夜光の花ってこんなに綺麗なんだなぁ。
「そんな事があるんですね……まるで物語に描かれた一場面みたい」
「冒険者生活の中でもたった一度だけですから。何かの巡り合わせだったのかも」
「巡り合わせ……そう言えば以前から気になっていたのですが」
水でも飲んで落ち着こう、うん。リュドミラちゃんは既に飲み切り、次のグラスを手に持ってるし。て言うか酒強くない? 俺の何倍も飲んでますよね? 顔色も変わらないみたい……うぅ、ヤバい。
「……なんでしょう?」
「ジル様は8年前にツェツエ、いえアートリスに来られたと聞きましたが、以前はどちらにいらっしゃったのですか?」
ゔっ……それは……
「えっと、遠い国なので……幾つかの偶然がツェツエ王国へ導いてくれました。こうしてリュドミラ王女殿下と一緒の時間を過ごせるなんて、想像もしてなくて驚くばかりです」
綺麗な紫紺が此方を射抜くが、余り話したくないのを察してくれたのか少しだけ話題を変えてくれた。
「聞いて良いのか分かりませんが、御家族は?」
「両親共に健在ですし、兄妹も何人かいます」
ホッと息を吐いたリュドミラちゃん、優しいなぁ。
「さぞ自慢の娘だとお喜びでしょうね。世界に僅か、超級の魔剣なのですから」
魔剣どころか、ツェツエに居る事も内緒だけどね!
「偶に手紙は出しますが、放任主義みたいですから」
放任主義は嘘だけど。
でも生存してる事は報せてる。マジで探されたら大変だし、年に一度だけ手紙を出しているのだ。勿論出処が分からない様に小細工してるよ? 幾つかある伝手を利用してるから、まさか別大陸に逃げてるなんて想像もしてない筈、多分!
生まれ故郷のバンバルボアも、一緒に過ごした皆んなも好きだけど、淑女としての強制が合わなかったんだよな。それに、あのままだと御約束の許嫁とか出来そうだったし。
それよりも今は、最高の美少女との時間が大切なのだ! でも、おかしいな。何かグラグラフワフワするんですけど?
「ジル様? 大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよー、酔ってなんかいませんから!」
リュドミラちゃん綺麗だね!
「失敗しました……こんなに弱いとは、可愛いですけど」
「リュドミラ様? 何か言いました?」
「いえ……」
タチアナ様が選んだだけあって美味しいな、このワイン。後で名前を教えて貰おう。帰ったらターニャちゃんにも一口だけあげて冷やかすんだ。
おかわりを頼もう。
○ ○ ○
「少し……酔ってしまいました」
ウェーブのかかったブロンドの髪は綺麗で、紫紺の瞳は夜光の花々の光を反射して星空を纏う。彼女は俺の肩にコテンと頭を乗せ、暫くそのままだった。鼻を擽ぐる仄かな女の子らしい匂い、其の中に混ざるお酒の香りは大人を感じさせて少しだけ混乱した。
こんな感覚、初めてだ。
胸は変わらず高鳴るのに、身体は動かない。ボーッとする頭が司令を発しようとも、鋭敏なセンサーからは隣の美しい人の存在以外を捉える事は無かった。
でも、俺達の気持ちは互いに分かってる。
少しだけ歳は離れているけど、なんの障害にもならないだろう。
「
「ジル様……ずっとお慕い申しておりました。本当によいのですか?」
「何を言うんだ。
「嬉しい……咲いた夜光の花々の色、それは私達二人の瞳を示していたのですね」
「そうだね、もう俺にはリュドミラの瞳しか映らないけど、きっと花達も祝福してくれているさ」
「ああ……ジル様……」
「リュドミラ……」
祝福のキスを……紫紺の瞳は閉じて、薄紅色した唇だけが意識に残る。再び瞳が開いたとき、俺達は新しい世界に旅立つのだろう。
「……お姉様? 何をしてるんですか?」
う、うん?
「
ま、まさか……
リュドミラちゃんは俺を待ったまま動かない。まるで時間が止まってしまった様だ。
「ハーレムを許可した途端に羽目を外すなんて、お仕置きするしかありません。大丈夫です、少しだけ痛くしますから」
タ、ターニャちゃん?
振り向くと、可愛いターニャちゃんが両手にロープを持って立っていた。
「この"ジルヴァーナに罰を"であれば、お姉様は二度と悪さ出来なくなるでしょう? 大丈夫、使い方ならバッチリですから。シャルカ
あわわわ……何でその危険物の名前を……しかもお母様まで!
「さあ、覚悟して下さい。この後、クロエさんやタチアナ様、パルメさん、リタさん、他にも皆から話がありますよ」
ひ、ひぃ……タ、ターニャちゃん落ち着いて!
「私は落ち着いてますが?」
ぎゃー! キスを待つ王女様には悪いけど、此処は撤退だ! ごめんよ、リュドミラちゃん!
あ、あれ? 身体が……動かない!
「お姉様の魔力強化ですか? 既に無効化済みです」
い、いつの間に其処まで⁉︎
「往生際が悪いですね? さあ、行きますよ……」
こ、怖い! ジリジリ寄ってくるのが怖すぎるよ!
「今更プルプル震えても遅いです。寧ろ……」
あ、あ……
い、いやーーー!!
○ ○ ○
「ごめんなさい、お兄様」
「気にするな。ジルも講義で疲れてたんだろう。今日は模擬戦もあったし、しかも相手はコーシクスだ。流石の魔剣も少しだけ本気を出していたからな」
「少しだけ、ですか?」
リュドミラは遠目ながら見学していて、まさに超級の人を超えた力を目撃したのだ。見たどころか速すぎて目で追えない程だったが。ましてやツェツエ、いや大陸最強と言って良い竜鱗騎士団を相手取っての戦いだ。そして5人目は剣神として名高いコーシクス=バステド。
ツェイスが謙遜する理由もなく、自然な疑問だった。
「ああ、ジルの本気はあんなモノじゃない。魔力強化も僅かしか使ってないし、属性魔法も限定的な使用に抑えていた。模擬戦で、しかも教官として心掛けていたんだろうが……兎に角、まあ三割といったところだ」
二人の兄妹は視線を下げて、その本人を眺めた。
ワインが効いたのか、目尻に皺を寄せて僅かに身動ぎしている。ツェイスに横抱きにされて、普段では見れない幼さを感じる姿だ。膝裏と背中をツェイスに支えられたジルは頬を赤く染めて眠っていた。
「酔い潰れた姿まで美しいなんて、本当に女神様みたい」
「全く……弱いのに無理するからだ」
苦笑いの中に、隠せない恋慕がある。愛おしい人は変わらず、飽きさせない少年の様な女性だった。反する美貌と無邪気な心。人を狂わせる何かを持つ彼女は、悪夢でも見ているのか薄く唇を開く。
「あぅ……だ、ダメ……」
傾けた表情は確かに何かに追われているかの様に歪んだ。だが同時に、男性には見せられない人外の色気を発するのだ。
「……もうお酒は飲ませては駄目ですね。こんなジル様をお兄様以外に見せては」
流石のツェイスも目を奪われて両腕に力が入る。冒険者とは思えない柔らかな身体と、起伏のハッキリした線。同性であるリュドミラすらも赤らむのを感じた。
乱れた長い白金の髪は、それでも艶を失わない。美の代名詞アズリンドラゴンに例えられる瞳は瞼に隠れたが、長い睫毛と整った鼻筋を見慣れる事はないだろう。
「もう遅い、ミラは休め。ジルは俺が部屋まで運ぶ」
「あら? 此れが市井で有名な"お持ち帰り"?」
ツェイスは整った顔を歪めて妹に睨んだ。
「何でそんな言葉を知ってるんだ……母さんに叱られる、いやタチアナに聞かれたら大変だぞ?」
「……タチアナには内緒でお願いします。それと、もし怒られるならクロエも一緒ですよ? 教えてくれたのはクロエですから」
「クロエか。仕方がない奴だ」
紅炎騎士団長は貴族出身ではない珍しい叩き上げの女性だ。キツめながらも可愛らしい容貌、天真爛漫な性格、そして男性騎士にも負けない実力から同性の圧倒的な人気を博している。
リュドミラとタチアナ、クロエの三人は普段から行動を共にしていて年の離れた友人でもあった。
「ではお兄様、お先に休ませて頂きます。ジル様をよろしくお願いしますね?」
「ああ、任せておけ」
数歩先で何処からともなく現れたタチアナに驚き、リュドミラは何やら青白い顔に変わった。少し涙目になったのも見えたツェイスだったが助けたりはしない。同時にクロエの無事を祈るくらいだ。
再び歩き出すと、再びジルを眺める。
「眠り落ちた女神か。一体どんな夢を見てる?」
その呟きは届いてないだろうが、薄っすらとジルの瞼が開いた。
「あ、あれぇ? 何でツェイスがいるの?」
「夢だからだろ?」
何となくツェイスは返す。
「夢、夢だったんだ……良かったぁ」
「怖い夢でも見たのか?」
「うん、大好きな人が怒ってさ」
「大好きな人? 誰だろうな」
良くない事だと知りながら、ツェイスの口は止まらなかった。
「んふふ、内緒だよー。ツェイスには言えないもん」
「それは残念だ」
何故だかホッとしたツェイスの視界に送り届ける部屋の扉が見えた。
ジルを抱えたままに鍵を開けると押し開く。
またも眠りに落ちた女神様は緩やかな吐息を漏らしていた。溜息すら凍ってしまう美貌を眺めながら、寝室へと向かった。ベッドが目に入ればどうしても意識してしまうが、努めて無視する。
優しく横たわらせると、真っ白なシーツを肩まで掛ける。その後暫く眺めていたが、ツェイスはニヤリと笑みを浮かべた。
「お持ち帰りではないが、送り狼と言う言葉もある。少しくらい役得があってもいいだろう?」
当たり前に返事をしない戦友兼愛しい人の額に軽く唇を付け、笑顔のままにツェイスは去って行った。
「う、うぅ……ターニャちゃん、ゴメンって」
「ね? もう解いてよ……」
「な、何するの?」
「ひ、ひゃー! ぶへっ!」
痛い……な、何だ? どうなった⁉︎
「あ、あれ? 此処は……?」
ターニャちゃんもいないし、"ジルヴァーナに罰を"に縛られてもないぞ?
「ゆ、夢かぁ。怖かった……やっぱりあの縄は取り返ないと、うん」
しかし、リュドミラちゃんとのデートはどうなったんだ⁉︎ 至高の美少女とのデートだぞ⁉︎ 貴重な体験だったのに!
「何か途中からツェイスも出て来た気がする……何処からが夢なんだろ」
うぅ……やっぱりお酒は苦手だーー!