綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

45 / 130
ターニャ視点です


☆女の子、勘違いを加速する

 

 

 

 

「クロさんが?」

 

 クロエリウスが迎えに来る筈だったけど、朝から全く崩れない縦ロールお嬢様がドアの外に立っていた。ここ数日で随分話すことが増えたけど本当に良い子だ。口調こそアレだけど、優しく気配りが出来て可愛らしい。執事の人が溺愛するのも分かる気がする。

 

 お姉様も言っていたけど、クロエリウスは一体何が不満なんだろう。まあ、あの人と比べたら誰でも普通に見えちゃうのかも知れない。

 

「はい。今朝方、我が兄に連れられて出立しましたわ。かなり急ですが重要な任務で、勇者として同行するそうです。ターニャさんならご存知だと思いますが」

 

 僕が知ってる事? あるとは思えないけど……

 

「兄、確かディザバル様でしたか? 蒼流騎士団長と伺っています」

 

「まあ、ターニャさんにも知られているなんて光栄です。任務ですが、姉々様達との旅路で"アークウルフ"と遭遇した筈ですわ。原因や状況を調査……あの魔物は本来あのような場所に現れてはいけない獣ですから。冒険者ランクも相当な高位を求められますし、軍ならば尚更」

 

「アリスお嬢様、詳しいですね」

 

 一見典型的な箱入り娘なのに、本当にしっかりしてる。

 

「お嬢様はやめて下さらないかしら。先日の夜会で朋友となったでしょう?」

 

 朋友なんて難しい言葉使うよね、しかも女の子なのに。

 

「すいません。アリス様」

 

「アリス様もです」

 

「流石にそれは……お姉様に叱られます」

 

 こう言えば大丈夫。

 

「む、仕方ないですわね……話を戻しますが、我がジーミュタス家は武を尊ぶ騎士の家系。ましてやディザバルお兄様は騎士の長、妹が足を引っ張る訳にはいきませんの。剣を取る事を許されないならば、せめて知識を持つのは当然ですわ。でも、だからこそ姉々様に憧れもします」

 

「なるほど……素晴らしいですね。それとクロさんが必要になった理由もよく分かりました。確かにあの狼を目撃したのはお姉様とクロさん、そして私ですから」

 

 ギルド長のウラスロさんとかは討伐後だから、この場合はクロエリウスが適任だろう。

 

「姉々様が同行すればもっと安心ですけれど、ディザバルお兄様がいますから危険の欠片もないですわ」

 

 態々朝早くから伝えに来てくれるなんて、この娘って本当に優しい。縦ロールとか見た目に騙されちゃ駄目なヤツだ。

 

「教えて頂いてありがとうございます」

 

「では行きましょうか」

 

「え? 何処に?」

 

「あら、ふふふ。何を驚いてますの? 今日はアーレを散策するのでしょう?」

 

 手を口元に当てて上品に笑うお嬢様。

 

 うん、絵になるね。

 

 

 

 

 王都アーレ=ツェイベルンは巨大で同時に美しい都だ。

 

 北欧の街並みに似てる気がするし、色合いも華やかで綺麗。白い石材が多くて石畳?の街路には統一感を感じる。所々に樹々も配置されて、木漏れ日だって街を飾る装飾だ。多分だけど、宿場町のツェルセンはアーレを参考にしたんだろうな。違うのは海が近い事くらい。潮風を偶にだけど感じて、益々ヨーロッパ辺りが頭に浮かぶ。

 

「アーレは一度たりとも他国に攻められた事がありませんの。偉大なるツェツエ王家の翼に包まれ、精強な騎士団と才能(タレント)持ちが何度も敵を蹴散らしたのです。そして今も、何より姉々様ともう一人の超級が王国を守る剣であり盾でもありますから」

 

 アリス様の街案内は観光と言うより歴史や軍事に関する事が多い。でも何だかサマになってるし、退屈しない様にお姉様の話題を挟んでくれる。

 

魔狂い(まぐるい)でしたか。お姉様から何度か名前だけは聞きました」

 

「ええ、あの(おきな)は"殲滅"と呼ばれる戦術魔法を多用し研究する第一人者ですわ。広範囲を効率的に破壊する強力な魔法です」

 

 何故か整った眉を少しだけ歪め、遠くを見たお嬢様。

 

「どうしました?」

 

「ツェツエを様々なカタチで助けて下さる偉大な方ですが……女性に対する、態度が……」

 

「態度、ですか?」

 

 頬をほんのり赤く染めると小声で耳元に囁いてくれた。

 

「女性の、その……お尻とかを触ったり、時には胸だって」

 

「ああ、セクハラ……」

 

「何ですの?」

 

「いえ、つまりエッチなんですね」

 

「そ、そうですわ」

 

「それで分かりました。お姉様が何度も魔狂いさんに怒ってましたから」

 

「あの絶佳ならば被害も酷いのでしょうね……」

 

 絶佳……確か風景に対する美しさを讃える言葉だけど、人に向けるなんて珍しいな。アリス様なら知らない筈ないし、眺望絶佳に勝るお姉様は人を超えたって意味かな。

 

「アリス様も気を付けないと」

 

「他人事みたいに言っては駄目ですわよ?」

 

「何故ですか?」

 

「何故って……ターニャさんは可愛らしい早乙女(さおとめ)でしょう」

 

「な、成る程」

 

 そう言えばそうだった。所謂"か弱い女の子"ってヤツだもんな。暴漢に襲われたら太刀打ち出来ないかも。

 

「ふふふ、そろそろ昼餐の時間ですわ。パミール通りに行きましょうか」

 

 

 パミール通り、確か最初にアリスお嬢様と会った通りだよね。飲食店が軒を連ねたって感じの。伯爵家のお嬢様が行くようなイメージ無いけど、慣れてるっぽいからよく行くのかな。

 

 

 

 

 

 人通りがほんの少し減ったみたい。

 

「随分と遅くなりましたわね。ターニャさんとの時間が楽しくて時を忘れてしまいました」

 

 街灯りに照らされた通りはまだまだ明るいけど、空を見上げたら夜になってるのが分かる。僕も楽しかったから全然問題ないけど。

 

「アリス様、私も楽しかったです。アーレの事をもっと好きになりました」

 

 心からそう思う。それにお姉様が住う都になる訳だから嫌いになる事なんて無い。

 

「ターニャさん?」

 

 まるで覗き込む様に、碧眼が瞬いた。

 

「はい」

 

「少しは元気になったかしら。可愛らしい笑顔が似合ってましてよ」

 

「……えっと」

 

「クロエリウス様も心配されてましたわ。今は寂しくても貴女は変わらず姉々様の妹。きっと大丈夫です」

 

「アリス様……ありがとうございます」

 

 全部お見通しだったのか。

 

 顔には出ない方だと思ってたのに……昨日の朝もお姉様が来てくれたけど、何だか顔を見せたく無くて断った。あの人の事だから辛い顔を少しでも見せたら大騒ぎしそうだし。クロエリウスにも被害が及ぶかもしれない。

 

「もし将来アーレに住まう時が来たら、必ず私を訪ねて下さってね。素敵な王都の生活を扶翼しますわ。ジーミュタスの娘としてだけでなく、貴女の朋友として」

 

 全部がお姉様のお陰かな。こんな素敵な女の子にだって出会えたんだ。アートリスにも沢山の優しい人達がいる。やっぱり幸せ者だよね、僕って。

 

「その時が来たら甘えさせて貰います」

 

「ええ、遠慮なくどうぞ」

 

 そう言うとアリスお嬢様は笑う。元気も貰えたよ。

 

「今日の最後に案内したいところがありますの。きっと気に入りますわ。もう少しだけ宜しくて?」

 

「はい、勿論」

 

 周りの護衛、ジーミュタス家の人達だって何も言わないし、意外とお嬢様に甘いみたいだ。

 

 まるで妹の手を引き歩く姉の様に、アリスお嬢様が連れて行ってくれた先は……

 

「特別に入れて貰える、と言う程ではありませんが、今の季節ならば一度は訪れますの。普段であればお兄様が一緒ですが、ターニャさんは特別。どうですか?」

 

 道すがらは人が随分と減り、路地裏と言っていい細い道を抜けて来た。確かに誰か一緒じゃないと女の子には怖いかもね。背の高い城壁に登り、開けた視界には美しい光景が飛び込んで来る。アーレの外は闇に沈んでなんか無かった。

 

「綺麗……あの光って何ですか?」

 

「あら? ご存知ないですの? 夜光花ですわ」

 

「夜光花?」

 

「群生地を借景に出来るの場所は多くはありません。まるで夜空を歩いているようでしょう?」

 

「夜空……確かに星の海を眺めているみたい……」

 

「星の海。素晴らしい表現ですわ……詩的で、優しい」

 

 元の世界では其処まで珍しい言葉じゃないけど、アリスお嬢様には響いたみたい。嬉しそうだし良かったかな。

 

「アリス様が訪れたくなる気持ち、分かります。こんな光景が見れるなんて」

 

 高層ビルが立ち並ぶ都会の夜景にも勝る圧倒的な光。お姉様と見た星空にだって負けない、そう思う。

 

「王城内に夜光花が咲き乱れる庭園があると聞きますが、私はまだ見た事がないですわ。いつか足を運んでみたいと思っています」

 

「それなら……お姉様も見ているかもしれませんね、夜光花を」

 

「ふふ、きっとターニャさんと同じ様に幸せを感じて、女神に微笑みが浮かぶのでしょう」

 

「美の女神でしたか」

 

「ええ。女神と讃えられた人は多いでしょうけれど、あれ程に似合う人は姉々様くらいですわ」

 

「確かに」

 

 アリスお嬢様の目を見ると思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 夜光花を眺めてから大した時間も経ってない。

 

「キミに不法入国と滞在の嫌疑が掛かっている。同行願いたい」

 

「私に、ですか?」

 

 まるで取り囲む様に男達が立っている。

 

「お待ちなさい! 何かの間違いですわ! ジーミュタスが世話役として承認が……」

 

「アリス嬢、勿論全て理解している。だが、此れは正式に蒼流へ要請が降ったものだ」

 

「そんな……お兄様は、ディザバル団長は知っているのですか⁉︎」

 

「ご存知の通り、団長はアートリス近郊の調査に向かっている。権限は副団長以下しっかりと残されたが、当然の事だ。それとも、ジーミュタス家の令嬢として反論されるのか?」

 

「……くっ」

 

 血の繋がりで無理を通すのはきっと愚かな事だろう。それは僕にも分かった。アリスお嬢様の気持ちは嬉しいけど迷惑をかける事になる。

 

「アリス様、大丈夫です。この方は嫌疑、つまり疑いがあると言われているだけです。ちゃんと説明すれば」

 

「ターニャ、その通りだ。やましい事がないなら堂々と」

 

「お黙りなさい! その言葉、失礼ですわ!」

 

「ふむ、撤回しよう。だが、お二人とも理解しているのか? このツェツエに名高い"魔剣"への疑いが拡がる可能性を。かの英雄を蔑める事などしたくはないが」

 

 何か怪しい光が瞳に見えた気がするけど……此れから幸せになるお姉様に迷惑は掛けられないよね。そもそも全てを無償で、何一つ得のない僕を引き取ったのが原因なんだし。

 

 アリスお嬢様は悔しそうに俯いている。お姉様と同じ、優しい女性(ひと)だ。

 

 怖いけど、きっと大丈夫。だって何一つ悪いことなんてしてない。アートリスの皆んなだって味方してくれる筈。

 

 それに、お姉様だって知ったら怒り出すかも。

 

「ふふっ」

 

「ターニャさん?」

 

「いえ、すいません。お姉様を思い出してしまって」

 

「……必ず姉々様に報せます。お父様に相談しますから安心なさって」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

「では、同行願おう」

 

「分かりました」

 

 

 

 段々遠くなるアリスお嬢様を見てると、不安が大きくなるな……

 

 でも、不法入国に滞在か。

 

 困った……僕の身元なんてこの世界にあるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。