綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「でも間違いなく見切った筈、何で……」
更に距離を取り、もう一度だけ下を見る。魔力銀の服と下着は見事に斬られたが、肌にキズはない様だ。まるで衣服だけを狙ったと錯覚しちゃうけど、流石の剣聖もあのタイミングでは不可能だろうし。
「タネも仕掛けも……ありますが」
有るのかよ! しかし本気でヤバイな……確実に見切ったのに、躱せてないなんて。其れが僅か数センチや数ミリであろうとも、勝敗を決するのに十分だ。相手は剣を持たせたらコーシクス=バステドにも勝つであろう剣聖、しかも此方の力は半減中と言っていい。
普通ならば凡ゆる魔法を乱発して距離を取るか、殲滅魔法を近距離でぶちかます方法だってある。全力の魔力強化を用いて脱出すれば、自身への被害も最小限に抑えられるからな。
だけど此処は大して広くない室内で、オマケに地下。そして何よりもターニャちゃんがいる。あの鳥籠が魔力に反応したら碌な結果にならないのは明白だろう。
つまり攻性の強力な魔法は限定される。
だけど、それでも負ける訳には……どうする?
何とかぶっ飛ばして此処から離れる……いや、例え可能だとしてもターニャちゃんを置いてなんて出来ない。
こうなれば剣への魔力供給を最大限に上げるか? だけど、加減が出来なくなるし、凡ゆる物を斬ってしまうから下手をしたら致命傷に……流石に命まで奪いたく無い。
「この"ポロちゃん"はとある遺跡から出土した魔法剣でして」
……サンデルのやつ、何か語り出したぞ。
「大変珍しい
今度は鞘に納め、ペロペロ舐める様に眺め始めた。うん、キモい。
まあ、何か手を考える時間が要るから丁度いいか。しかし相変わらず剣マニアだな、コイツ。
「斬れ味は正直微妙ですな。数多在る吾輩の愛剣達に比べた場合、中の下と言うところかと。しかし其れは問題ではなく、ポロちゃんにだけ許された特殊な力があるのです。ジル殿、この"物打ち"から"
再び鞘から抜き、両手で抱える様にグイと前に出した。そして剣の先端辺りに注目させる。サンデル……さっきまでの真剣勝負は何処に行った? しかも、何で解説してるんだよ。
「何よ? 何かの作戦?」
「いえいえ、ジル殿の魔素感知でしっかりと確認を。驚きますぞ」
言われた通りに感知すると理解出来た。非常に小さな変化だから戦闘中はまず気付けないだろう。そして、サンデルの言葉の意味を理解する。
コイツは厄介だな……
肉眼では全く見えないが、何かが先端から伸びている。長さは自由に変化出来るようで、数センチの範囲で伸縮をみせてくれた。つまり、見切りや判断を狂わせる剣という訳だ。一見大した力では無いと錯覚するが、事は簡単じゃない。特にサンデルの様な達人に持たせたら最悪だろう。
躱したと思った瞬間に斬られる、其れが僅かな傷だとしても次からは絶えず意識しないと駄目だ。くそっ、どうしたら……態々知らせたのは牽制の意味もあるんだろうか。早くターニャちゃんを助けたいのに。
「ポロちゃんは吾輩が付けた愛称でして、正式な名前は"dressmaker's shears(裁ち鋏)"と申します。ほら、ポロちゃん御挨拶を」
サンデルはペコリと剣を傾ける。って言うかポロちゃんって全く掛かってなくない?
「……だから何?」
やるしかないか。全力で……
「ジル殿、ポロちゃんの力ですが……」
此奴なら死にはしないだろう。
「衣服だけを切る事が出来るのです! しかも女性限定‼︎」
「覚悟しなさ……はぁ?」
「伸びた先、人を傷付ける事なく! 何と素晴らしい!」
拳を振り上げ、目をカッと開くサンデル。全身で褒めて褒めてと叫んでいるようだ。
「……ポロちゃんって?」
「勿論
「……」
「ジル殿! 御安心召されい! 怪我も心配要りませんし、本気で続きをやりましょう! さあご一緒に、眼福眼福‼︎」
「ア……」
「ア? ジル殿? 何かプルプルして……」
剣を鞘に戻し、本日最も強力な魔力強化を全身に施す。半分以上は無意識だが、誰一人文句はないだろう。更に脚から爆発的な魔力を吐き出し、一気にサンデルへと跳ぶ。呆けたままの間抜け面がハッキリ見えてイラッとした。
一瞬で右肩、右腕、拳へと力を伝え……
お・も・い・き・り! ブン殴る!
「アホかぁーーー!!!」
「ブギャ⁉︎」
剣聖サンデル=アルトロメーヴスはクルクルと天井に向かって行き、ビターンと張り付いた。予想以上の凄い轟音が響き渡り、耳を震わせる。多分だけど外まで聞こえたかも。暫くすると、ペリペリと剥がれて床にポトリと落ちた。白目を剥き、涎も酷い。当然意識は無いだろう。まあ全力の魔力強化は半端ないからな……手首が痛いぜ。
サンデルめ……さっきまでの真剣な空気を返せ、このおバカ! くそ真面目な奴と思ってたのに、とんだ変態野郎じゃねーか!
「うぅ……これ結構恥ずかしいな。動いたから尚更だよ」
改めて斬られた箇所を見ると、太ももから脇腹、オッパイの下まで結構な面積の肌が見える。地下は薄暗いのに、真っ白な肌が艶かしい。オマケにパンツもだから凄く心許ない。魔力はまだ通るから全体の形が崩れないのが救いかなぁ。普通の服ならダラーンってなって最悪だと思う。
「何てふざけた剣なんだ……いや、そもそも剣なのか?」
まあ今はどうでもいい。早くターニャちゃんを助けないと。思わず溜息が溢れたけど仕方無いよね。
「ジル! これを見ろ!」
この声は……まさか……
「グハハハ! 油断だな、魔剣よ!」
「ミケル……」
振り返ると鼻血で口周りが真っ赤なままのミケルが立っている。最悪なのはターニャちゃんが捕らえられている鳥籠の傍にいる事だ。奴の右手は鳥籠を構成してる柱の一本に添えられてしまった。
「ん? どうした? ジル。先程までの威勢は何処に行ったんだ? ククク……お前に面白い物を見せてやる!」
ミケルの魔力が鳥籠に伝わるのが分かる。大した量じゃないし、純度も低い。しかし、そんな事はすぐ気にならなくなった。
「や、やめて!」
鳥籠の内側、横たわるターニャちゃんに向かって槍状の鋭い穂先がズズズと迫る。籠が変形し、まるで押しつぶす様に四方八方、何本もの太い針が……
「何故やめるんだ? ん?」
だ、だめだ……やめてくれ……
「誰とも知らぬ孤児を引き取り、雑用で働かせていると思っていたが、その反応……最愛の妹とやら、事実だったか! 此れは傑作だぞ!」
ミケルは気色悪い高笑いを繰り返す。
隙を見つけて何とか近付かないと。魔力強化なら……
「おっと、魔力強化は厳禁だ。今すぐ解除しろ」
「くっ」
「どうした? ああ、そうだ。面白い事を教えてやろう。この特別製の牢だが、魔力を注がなくとも作動させる方法がある。つい先程設定は終えたが、私を攻撃したりすれば大変な事になるかもしれんぞ?」
間違いなくはったりだ。そんな都合の良いものがあるなら最初からやっていれば良い筈。
「ジル、嘘だと思うならやってみろ。私は抵抗しない、さあ!」
だけど、万が一本当だったら……
「ふん。分かったならば魔力強化を解け! その剣も此方に放り投げるんだ!」
また蠢き始めた鳥籠を見れば逆らう気力も消えていった。剣帯を外し、其れごとミケルの足元に放る。奴は滑って来た剣を足で踏み付けた。分かり易い嫌がらせだ。
「まだ強化が解除されてないな。講義で見たが、その服はかなり形を変えるのだろう? 早くしろ!」
言われた通り、魔力強化を止める。すると肌にピタリくっ付いていた感触が消えて、ごく普通の衣服の様にゆったりと身体に掛かった。サンデルに斬られた箇所もダラリと下がってしまい、益々素肌が空気に晒される。思わず両手で隠すしかない。
「誰が隠していいと言った? 手を下げろ」
くそっ! こんな野郎に見せる為に磨いて来た訳じゃないのに!
ゆるゆると腕を下ろすと、もう衣服としての役割は果たせない。胸からお腹、鼠蹊部までが外気に晒されてしまった。大事な箇所は隠れているのが分かるけど、正直滅茶苦茶恥ずかしい……他人に、しかも男に肌を見せる事なんてないからな……
「おお……想像を遥かに超えて美しい! 此れからじっくりと躾けてやろう! ハッハッハ!」
そう言いながら俺に近づき、そしてグルリと回りながらジロジロと眺める。調子に乗って露出した肌に指まで這わせた。ターニャちゃんに触られたときはくすぐったくて、ほんの少しだけ気持ち良かった。でも今はただ気持ち悪いだけだ。粟立つ肌から寒気を感じて思わず逃げ出したくなる。
「動くなよ? 少しでも逆らったらなら哀しい結果になる」
「う……」
うぅ、吐きそう……嫌な男に触られるってこんなに気色悪いんだ。
「ふん、此処では楽しめんな。今すぐにでも連れ帰り遊びたいが……興味が湧いたぞ」
ミケルはそう呟くと、視線をターニャちゃんに向けた。こんな奴に……
「駄目……!」
「何を勘違いしている? あんな餓鬼に。だが、お前程の者が其処まで拘る理由が判らない。会ったのも最近で、何処の生まれとも知れぬ孤児だろうに。まさか本当に妹なのか?」
「アンタには関係ないで……うっ……」
飽きずに蠢く指に、出したくもない声が出る。
「答えろ」
くそっ……
「……血の繋がりはないわ。でも、私にとって誰よりも大切な人」
「ほう……それはツェイスよりもか?」
「比べる様なモノじゃ、ひぅ……分かった!答えるから触らないで!」
「そうだな、まずツェイスとの結婚はしないと誓え。言葉にしろ」
「しない!」
当たり前! 何度も言わせるなよ。
「……躊躇がないな。愛する男よりも大切か」
愛してるのはターニャちゃんだからな。
「言う事を聞くから、ターニャちゃんには絶対に手を出さないで。ツェイスに二度と会わないと誓う。それが望みなんでしょ!」
くだらない貴族の話なんてどうでもいい。
「両膝を突き、頭を下げるんだ。さっき言っていたな、頭を地面に擦り付けるんだろ? このミケルの女になると心から願うならば、その餓鬼に手は出さない」
どうしたら……何か手がある筈だ……
「どうした? 跪け!」
「くっ」
今は言う事を聞くしか……
命令を聞かない体を無理矢理動かして、腰をゆっくりと下げて行く。悔しくて瞼をギュッと閉じた。でもその時、不思議な事が起きたんだ。
もう少しで膝が汚い床につきそうな其の瞬間……綺麗な声が耳に届く。
「離せ」
「何だと?」
「聞こえなかった?
「……ターニャちゃん」
両手を縛られたままのターニャちゃんが上半身を起こしてミケルを睨んでいた。可愛いらしい瞳は怒りに燃えて、濃紺がギラギラと光を反射してる。
「庶民の分際で……生意気な餓鬼が!」
ミケルが何かしたのか、鳥籠の魔素が動くのを感じる。ターニャちゃんが傷つくと思うと、堪らず叫ぶしかない。
「ターニャちゃん! 私なら大丈夫だから、大人しくして……」
「お姉様? 私と言う
まるで怖くないと、ターニャちゃんは首を傾ける。鳥籠が変形し、小さな体を押し潰そうとしてるのに……
「ターニャちゃん?」
「ゴチャゴチャと! 泣き叫んでも許さんぞ!」
ミケルの声に反応したのか、一本の鋭い針が綺麗で、細くて白い喉に迫る。するとターニャちゃんは……腰を落としたまま針の先端に指をツンと当てた。
たったそれだけ。
「……は?」
ミケルの間抜けな声が聞こえたけど、俺も内心は一緒だった。
だって……ターニャちゃんが触れた先から鳥籠がバラバラと崩れていったから。
まるで、元素同士の結合が解れていく様に。
全てが粉々に崩壊する。それは鳥籠全体に及び、音もなく真っ白な粉体に変わって床に山を作った。
「な、なにが……」
小さな白い山に囲まれたターニャちゃんは、ゆっくりと立ち上がり俺に微笑むのだ。縛られていた細い紐すらもう存在していない。可愛いらしい笑顔を俺に向けてくれた。
そして、高らかに宣言する。
「さあお姉様? 貴女はもう自由です」
次回はターニャ視点を予定しています。