綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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ターニャ視点です


☆女の子、マジギレする

 

 

 

 

 

 アリスお嬢様と別れた後、すぐ近くにあった馬車に押し込まれた。薄っすら憶えてるテレビで見た事があるけど、両脇から挟まれる様に座らされた。警察に捕まった犯罪者扱い……何だか空気も悪いし、かなり怖い。

 

「あの……」

 

「勝手に喋るな。黙っていろ」

 

 此方を見る事もなく低い声で注意された。移送用なのか窓が無くて外が見えない。殆ど真っ暗だ。

 

 体感で30分くらい、馬車が止まった。居心地が悪かったからホッとする。

 

 騎士の人達に連れて来られたところは、小型のお城みたいな建物だ。ただ、お姉様がいる筈のでっかいツェツエ城?に比べると、何だか汚い気がする。まあ、役所なんてそんなものかもしれない。

 

 頑丈そうな門扉は既に開かれていて、入り口の近くで降ろされる。見れば玄関じゃなく裏口だと分かる。人の姿もなく、まるで隠れて行動してるみたいだ。

 

 ……おかしいな。此処が警察ならもっと人が居てもよさそうなのに。警備らしき人影もないし、そもそもの灯りだって足りない。夜だからか、まるでお化け屋敷みたいだ。

 

 僕の周りには4人の騎士。

 

「早く歩け」

 

「は、はい」

 

 かなり強めに背中を押されて、転びそうになる。やっぱり人権とか弁護士を呼ぶとか無理なんだろうな。

 

 建物に反するような小さな扉をくぐると、其処は屋敷内だ。やっぱり人はいなくて、奥に細い廊下が続いている。違和感が強まるけど、今更逃げたり出来ないし……アリスお嬢様の受け答えからも、この人達は間違いなく騎士団の騎士だろうと思う。

 

 小さな部屋に入ると、椅子に座るよう促された。ギシギシと鳴る古臭い木製だ。

 

「ターニャ」

 

「はい」

 

 取調べってこんな感じか。お腹もムズムズして落ち着かない。

 

「これを飲め」

 

「え?」

 

 差し出された木の小さなコップに、半分程の透明な液体が入っていた。匂いはないけど、何で?

 

「全てを飲み干すんだ」

 

「あ、あの……此れは何ですか?」

 

「答える必要はない。お前は言った通りにすれば

 いいんだ!」

 

 酷く怒鳴られて、身体がビクリと震えてしまった。この世界に来て、初めて怒られたかも。お姉様はいつも優しかったから。

 

「落ち着けよ、バル」

 

 もう一人部屋に入って来た騎士だ。残り二人は廊下で待ってるのかな。

 

「エイル、ルクレー侯がお待ちだ。遊んでいる暇はないぞ!」

 

 ルクレー侯? 何処かで聞いた気がする。

 

「時間は取らないさ。ターニャちゃんだっけ?」

 

「は、はい」

 

 精悍で男前な若い騎士が腰を屈めて僕を見た。さっきまで怒鳴っていたもう一人は黙ったみたい。

 

「その飲み物に害はないよ。味も悪く無いし、効果だって直ぐに出る」

 

「効果、ですか?」

 

「このツェツエに住む者ならば、知ってる人も多いけど? キミは分からないみたいだね?」

 

 しまった……珍しいモノじゃ無いのか。不法入国だって自白したみたいになってしまうかも。

 

「其れを飲めば、汎用魔法の効きが向上するんだ。治癒などの効用を高める事に使ったりね。今日みたいに事情を聞く時、心を落ち着かせる意味もある」

 

 なるほど……

 

 何となく意味も分かった。其れに素直にしてないと、お姉様に迷惑をかけたら目も当てられない。

 

「さあ、飲んで」

 

 量も少しだから、一口で済んだ。コクリと喉を鳴らしたのが分かったのか、エイルと呼ばれた男は笑う。

 

「言い忘れたけど、痺れ薬も入ってるかな。ゴメンね、ターニャちゃん」

 

「な、なに、を……」

 

 舌がビリビリしてる……手足から力も抜けて……

 

「直ぐに眠りを促す魔法を掛けてあげるからさ。少しだけ我慢して欲しい。ほら、質問に答えてあげないと」

 

 さっきまで優しい笑顔だったエイルは、急に真顔になった。酷く気持ち悪くてゾッとする。

 

「この屋敷はルクレー侯爵家の別邸だよ。暫くすればキミの保護者を標榜する人も来る。超級冒険者、魔剣のジルさ。何でもターニャちゃんのお姉様だって? 笑えるなぁ」

 

 馬鹿にしたのがありありと分かる。凄く腹が立つけど、身体はもう動かない……

 

「キミは万が一の保険らしいよ。魔剣が逆らわない様にする為の、ね。こう言うのを何て言ったかな? バル」

 

「エイル、くだらない遊びなど興味はない」

 

「相変わらず固いね、バルは。ターニャちゃんなら分かるだろう? キミは……人質さ」

 

 何かの魔法を準備してるのが見えた。魔素が動いて、エイルの手に集まっていく。それはお姉様とは比べるのも馬鹿らしい程に、汚くて少ない。散らすのだって簡単に……

 

 アレ? 魔素が……動か、ない……

 

「ふふふ……キミも運が悪かったね。魔剣なんかに拾われなければこんな事にならなかった筈」

 

 瞼が落ちて行く……

 

 ダメだ、このままじゃ……

 

「さあ、お休み」

 

 クロエリウスも警告してくれたのに。

 

 

 

 ゴメンな、さい、お姉様……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

 声が聞こえる。

 

 この世界に来て何度も何度も聞いた。

 

 澄んだ水の様に、天上の楽器が奏でる音楽の様に、何処までも美しくて優しい。

 

 なのに、耳に届く響きは辛そうだ。

 

 こんなの聞きたくない。

 

 見えないのに、お姉様の泣き顔が浮かぶ。

 

 やめて、駄目……それは叫び声。

 

 動かない瞼や身体を無視して、耳を澄ます。

 

 すると、初めてなのに鳥肌が立つ様な気持ち悪い男の声が届いた。

 

 

 

「グハハハ! 油断だな、魔剣よ!」

 

「ん? どうした? ジル。先程までの威勢は何処に行ったんだ? ククク……お前に面白い物を見せてやる!」

 

 直ぐ側に男はいるみたいだ。意味は分からなくても、お姉様に酷いことを言ってるのは間違いない。

 

「や、やめて!」

 

 狼狽したお姉様の叫び声……

 

「誰とも知らぬ孤児を引き取り、雑用で働かせていると思っていたが、その反応……最愛の妹とやら、事実だったか! 此れは傑作だぞ!」

 

「おっと、魔力強化は厳禁だ。今すぐ解除しろ」

 

「くっ」

 

「どうした? ああ、そうだ。面白い事を教えてやろう。この特別製の牢だが、魔力を注がなくとも作動させる方法がある。つい先程設定は終えたが、私を攻撃したりすれば大変な事になるかもしれんぞ?」

 

 ああ……あの騎士が言っていた、人質だと。

 

 何も見えないのに、理解してしまう。僕が邪魔でお姉様は身動きが出来ないんだ。痺れた身体は相変わらず言う事を聞かない。僕の事なんて気にしないでと、大丈夫だよって叫びたいのに、唇はほんの少し震えるだけ。

 

 

「ふん。分かったならば魔力強化を解け! その剣も此方に放り投げるんだ!」

 

「まだ強化が解除されてないな。講義で見たが、その服はかなり形を変えるのだろう? 早くしろ!」

 

 

 訓練したから分かる。魔力強化を解いたお姉様は一人のか弱い女性でしかない。魔法や剣が有れば別だけど、僕の所為で振う事だって不可能なんだ。

 

「おお……想像を遥かに超えて美しい! 此れからじっくりと躾けてやろう! ハッハッハ!」

 

「動くなよ? 少しでも逆らったらなら哀しい結果になる」

 

「う……」

 

 お姉様が嫌そうに身体を捩ったのが()()()()

 

 ……此れは、魔素感知か。身体は動かないけど、魔素は何となく見える。視覚に頼らなくても大丈夫……

 

 それなら、出来る事がある。

 

 僕の身体を魔素で調べればいい。アーレに到着した日、アリスお嬢様の体調不良を調べたってクロエリウスが言っていた。きっと真似事くらい出来る筈だ。才能(タレント)は魔素に特化してるって教えて貰った。僕は()()()()の生徒なんだから。

 

 痺れ薬……何か化学的な力なら何も出来ないけれど、此処は異世界。しかも魔法が……魔力と魔素が支配してる。魔素を学べば凡ゆる応用に役立つと学んだだろう?

 

 もう眠気はない。魔素を体中に回す。

 

 阻害される、魔素を動かすのを。でも此れは朗報だ。やっぱり魔法的な効果だと証明された訳だから。だったら絶対に負けない。

 

 一箇所一箇所の邪魔を弾く。

 

 偶に失敗するけどそんなの関係ない。お姉様の魔素と比べて、何て汚いんだろう。あの魔素達は幸せそうに歌って、舞い踊るのに。この子達は、こんなの嫌だって叫んでると感じる。

 

 少しずつ、少しずつだけど、身体の感覚が戻る。閉じたままだった瞼は重いけど、光を受け止め始めた。

 

 

 

 

 

 

「ふん、此処では楽しめんな。今すぐにでも連れ帰り遊びたいが……興味が湧いたぞ」

 

「駄目……!」

 

「あんな餓鬼に何を勘違いしている? だが、お前程の者が其処まで拘る理由が判らない。会ったのも最近で、何処の生まれとも知れぬ孤児だろうに。まさか本当に妹なのか?」

 

「アンタには関係ないで……うっ……」

 

 背が高い、痩せぎすな男が近くに立っている。頬は痩せこけて、目は蘭々と光り充血して真っ赤だ。鼻血を拭きもせず、イヤらしくお姉様を見てるのが何故かはっきり見えた。

 

 魔力銀だろう服が破れてる。

 

 身体を覆うのは黒い上下のパンツスタイル。その上に臙脂色したライダースジャケットを羽織ってる。きっとこの世界ではかなり珍しいデザインだと思う。けれどそれすら自然に着こなすのがこの人だろう。けれど……格好良いはずなのに、今は見たくないと思ってしまう。

 

 内股から斜めに切れ目が走り、腿の付け根から脇腹の上の方まで裂けてる。ジャケットもヒラヒラと揺れて、お姉様を守る事が出来ない。まだ視力は完全じゃないだろうに、真っ白でシミひとつない肌が眩しく見えた。健康的な色だけど、艶かしくて妖しい。

 

 その肌に、汚らしい指を這わす最低な男……

 

 焦らす様に、嫌悪感を煽る様に、脇腹やお腹を触る。

 

「答えろ」

 

「……血の繋がりはないわ。でも、私にとって誰よりも大切な人」

 

 お姉様……

 

「ほう……それはツェイスよりもか?」

 

「比べる様なモノじゃ、ひぅ……分かった!答えるから触らないで!」

 

 舐める様に、胸の下辺りを撫でた。絶対に許せない……お姉様が必死で我慢してるのが分かる。プルプル震えるのを見たいけど、其れはこんなのじゃないから。

 

「そうだな、まずツェイスとの結婚はしないと誓え。言葉にしろ」

 

「しない!」

 

 ああ……何て事を……幸せを諦めないでって伝えたのに!

 

「……躊躇がないな。愛する男よりも大切か」

 

 全部、僕の所為だ。

 

「言う事を聞くから、ターニャちゃんには絶対に手を出さないで。ツェイスには二度と会わないと誓う。それが望みなんでしょ!」

 

 駄目だ! そんな事!

 

「両膝を突き、頭を下げるんだ。さっき言っていたな、頭を地面に擦り付けるんだろ? このミケルの女になると心から願うならば、その餓鬼に手は出さない」

 

「どうした? 跪け!」

 

「くっ」

 

 くそっ! 動け!

 

 無理矢理に魔素を走らせる。さっきまで無かった痛みが邪魔をするけど、そんなの無視だ。

 

 この牢屋、此れがあるからお姉様は動けない。

 

 気持ち悪く変形して、針状の金属らしきものが僕に向いている。コイツらが無ければ……

 

 何て醜い。

 

 強引に、歪に、グチャグチャに繋いでる。魔力銀も混ざってるみたいだけど、お姉様の剣や髪なんて輝いて見えるのに。

 

 でもこんなの、直ぐに壊してやる。あの魔力強化を解く練習に比べたら、子供騙しにもならないよ。

 

 ゆっくりと上半身を起こす。縛られた両手に気付いたけど後回しだ。

 

「汚い手で触るな」

 

 余り大きくない声だったけど、二人はこっちを見た。

 

「何だと?」

 

「聞こえなかった? ()()()に触れるな!」

 

「……ターニャちゃん」

 

「愚民の分際で……生意気な餓鬼が!」

 

 牢を構成する魔素達が悲鳴を上げた。そしてゆっくり針が迫る。それを見たお姉様は予想通りに反応する。

 

「ターニャちゃん! 私なら大丈夫だから、大人しくして……」

 

 分かってる。

 

「お姉様? 私と言う(かせ)はもう無くなりました。だから、そんな奴やっつけて下さい」

 

「ターニャちゃん、ダメ!」

 

「ゴチャゴチャと! 泣き叫んでも許さんぞ!」

 

 先端に指を当てるだけ、それだけで十分。悲鳴を上げていた魔素達は歌う様に、空中へと去って行った。まるでありがとうってお礼を言ってるみたいで面白い。

 

 牢屋はサラサラと崩れていって、漸く身体の感覚も戻って来たみたいだ。縛られていた紐も簡単に解ける。

 

「……は?」

 

 間抜けな顔して呟いてるけど、逃げなくて大丈夫かい? だってお前の隣に立っているのは、誰よりも美しい女神、そして世界最強の超級冒険者。

 

 もう誰も止められないよ?

 

「さあお姉様、貴女はもう自由です」

 

 魔剣ジル、そして僕のお姉様なんだから。

 

 

 

 

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