綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、正座する

 

 

 

 

 真っ直ぐに俺を見る濃紺の瞳が綺麗だ。少しだけ伸びたアッシュブラウンのショート髪がフワリと踊って目を惹く。

 

 小ちゃな身体の筈なのに、何故か大きく見えるんだ。

 

 ターニャちゃんはコクリと首を振り、笑顔を贈ってくれた。

 

 うぅ〜可愛い! 格好良い!

 

 マジで惚れ直したぜ!

 

 魔力強化を終え、俺も笑みを返す。

 

 そして腰を捻り、脚を振り上げて横を思い切り蹴った。

 

「オゲェ……!」

 

 回し蹴りを脇腹に喰らったミケルが真横に飛んでいく。少し後、石床に着くとゴロゴロと面白い様に転がった。オマケに壁に激突して後頭部を強打したようだ。ユラユラと半身を起こしたとき、お腹を押さえてゲロった。

 

 汚ねえな!

 

 ふと見るとターニャちゃんが俺の剣を胸に抱いている。そして、捧げる様に両手で持ち上げた。奴が踏みつけた箇所は綺麗に拭かれ、鞘に艶が戻ってるんだぜ?

 

 こっちは世界で一番綺麗だね、うん。

 

「ありがとう」

 

 漸くターニャちゃんが起きてくれてホッとする。剣帯を固定して、クルリと剣を背中に回して完成だ。

 

「お姉様、ごめんなさい。私の所為で……」

 

「ううん、謝るのは私の方。怖かったでしょう?」

 

「そんな……」

 

「身体の方は大丈夫? 痛いところはない?」

 

「大丈夫です。薬も抜けました」

 

「薬?」

 

「……も、もう治ったので、安心して下さい」

 

 俺の怒りが伝わったのか、可愛い表情が少しだけ引き攣った。ゴメンね、怖くないよー。

 

 しかし薬か……もう許す理由もないな。

 

「ターニャちゃん」

 

「はい」

 

「少しの間だけアッチを向いててくれる? 直ぐに()()()()()()

 

 流石に汚いミケルを見せたくない。ましてや人が死ぬ姿なんてね。だけど奴は許せないし、逃したらまた悪さをするのは間違いない。答えは決まってる。

 

「……分かりました」

 

 ターニャちゃんも察したんだろう。でも止めたりはしない。この世界が日本とは違う事を理解してるんだね。やっぱり頭が良いなぁ。

 

 反対側に身体を向けたのを確認し、虫の様に四つん這いで逃げるミケルを視界に入れる。逃がす訳ないだろうに。

 

 肌けた魔力銀の服は再び身を包む。勿論素肌は隠れてないけど、さっきと比べれば十分だろう。

 

「ミケル! 直ぐに行くから待っててねー」

 

「ヒ、ヒィーー‼︎」

 

 情け無い悲鳴、本当に汚い。吐瀉物と合わせて、ある意味お似合いか? 

 

「ターニャちゃん、耳も塞いでおこうか」

 

「はい」

 

 素直に両耳を可愛らしく塞ぐターニャちゃん。

 

 さてと、早く終わらせてアートリスに帰ろう。

 

 まだ白目のままのサンデルを視界に捉えつつ、真っ直ぐにミケルへと飛んだ。グングンと痩せこけた顔に近づくと、馬鹿みたいに泣き叫び始めた。

 

 じゃあな!

 

「ジル、駄目よ!」

 

 その時、俺とミケルの間に炎の壁が立ち上がった。

 

 それが誰によって起こされた現象か直ぐに理解する。統括する騎士団の名の通り、美しい紅色の焔だ。それを確認したが、今更止める気はない。悪いけど決めた事だからね。炎壁を突き抜け、間抜け面のミケルを捉える。

 

 だけどクロエさんが奴を背に二刀を構えて立ち塞がった。速いな……益々速度に磨きがかかってる。

 

 仕方無く手前に着地して、ついでに剣も下げた。ただし、逃げられたら堪らないから、ナイフを奴の脚へと投じておく。勿論両方に。

 

「い、いぎゃっ!」

 

「あっ、コラ!」

 

 クロエさんが叫ぶけど、気にしない。

 

「クロエ様、退いてください」

 

 真っ赤なポニーテールが綺麗だな。瞳までルビーみたいにキラキラして思わず眺めてしまう。

 

「出来る訳ないでしょ! ジルってば殺す気だし!」

 

「当然です。コイツは絶対に許せない事をしたんですから」

 

 ミケルはギャーギャー言いながら、ゴロゴロと転げ回って全身で痛みを表してる。煩いな……うーん、もう一本投げるか?

 

「でもコイツはチルダ家の嫡男なのよ⁉︎ ジルならどうなるか分かるでしょう!」

 

「関係ないですね」

 

「そっ……ツェイス殿下だって何も無しに出来なくなる。もしかしたらツェツエとして……」

 

 赤い瞳に涙が溢れそう。

 

「クロエ様、私には関係ありません」

 

「うわぁ、マジギレしてる……ミケルの馬鹿め……」

 

 何か呟いてるけど、俺が剣を持ち上げたのを見て表情を引き締めたみたい。

 

「ジル、予定通り訓練するしかないね。どうしてもだったら私が相手になってあげる」

 

 やっぱりそう来るか……でも、クロエさんのお願いだろうと聞けないな。それにターニャちゃんは目と耳を塞いだまま、蹲って待ってくれてる。余り時間を掛けたくない。

 

 剣への魔力供給は薄く、間違っても怪我させたくないからね。

 

「万が一の時は治癒魔法を掛けますから」

 

「えっ? 少しは手加減しようよ……」

 

 ウゲッて顔するクロエさん、可愛いな。

 

「ごめんなさい」

 

 下から振り上げた剣をクロエさんは二刀を交差して防御する。だけど魔力強化に対し、受け止めるのは悪手だ。剣神も、剣聖すらも真正面からなんて絶対にしない。まあ、防ぐだけでも相当なんだけどね。

 

「うきゃっ」

 

 やっぱり可愛らしい悲鳴を上げると空中に吹き飛んだ。すると、猫の様に身体を捻って天井を蹴って此方に戻って来る。まるで曲芸師みたいだな。しかもミケルの周りにも炎壁を構成しながら、スタリと見事な着地。うん、流石です。

 

「ちょっと! 危ないじゃ……あ、アレ?」

 

 でも残念だけど、遊んでる時間はない。見下ろした真っ赤な瞳の先は自身の足元。両脚が氷に包まれているのに気付いたみたいだ。氷河で見るようなライトブルーの氷は、魔力により非常に硬い。はっきり言えば俺が消さないと動けないだろう。

 

「少しだけ待っていて下さい」

 

「ジル!」

 

 何とか足を引き抜こうとクロエさんが頑張ってるけど、ゴメンね?

 

「ひ、卑怯者ぉ〜!」

 

 何か叫んでるけど無視無視。

 

 シクスさんと同じ氷魔法を炎壁にぶつけると、向こう側にミケルが見えた。

 

「や、やめてくれ! 謝る、謝るから!」

 

 今更の謝罪なんて聞きたく無い。と言うかその場凌ぎだろうし。さて、終わらせよう。

 

 頭頂から両断する瞬間、ミケルとの間に白い線が通った。ついで鐘を打ち鳴らす様な音が交差した場所から響く。更には何故か身体がビリビリと痺れた。この感触、覚えがあるな。まるで、()()したみたいだね。

 

「邪魔」

 

「ジル、落ち着いてくれないか」

 

「ツェイス、邪魔よ」

 

「止めるために来たからな。当たり前だ」

 

 俺の剣をやはり白い剣で受け止めたツェイスがそのままミケルの前に立ち塞がる。しかし真正面から受けるなんて、どうやって……ああ、そう言う事か。

 

 感知出来ない様に、紫電を放ったんだな。痺れた俺は全力を出し切れず、ツェイスの剣すらキズも入れられない。直ぐに治癒を自身にかけて痺れを取り除く。分かってしまえば防ぎようはあるし、もう魔法だって撃てる。

 

「ツェイスであろうと邪魔は許さない。ミケルを始末したら話を聞いてあげる」

 

「……其れを眺めて待つ訳にいかないな。コイツは俺に任せろ」

 

 俺の服と肌を見て、分かり易い怒りを見せる。焼き餅なのか何なのか知らんけど。それに怒ってるのはツェイスだけじゃない。

 

「最初からそうすればいい。今更偉そうに言わないでくれる? 貴方の事だから、どうせ前から分かっていたんでしょ? 私だけなら好きにしたらいいけど、コイツはターニャちゃんに手を出したの。いいから退きなさい!」

 

 こんな阿呆を自由にしてたんだ。何か理由でもあるんだろ。でも、だからこそ許せない。

 

 俺の怒りに驚いたのか、或いは図星だったか、ツェイスの動きは止まった。横を通り過ぎ、屑野郎へと向かう。

 

「ジル様……」

 

「タチアナ様、アリス様も」

 

 床に両膝をつき、タチアナ様は胸に手を当てていた。そのまま頭を下げて、後悔を含んだ謝罪を唇に乗せる。

 

「全ては私の独断で行った事です。ミケルの悪意を知りながら、殿下にも貴女様にも伝えませんでした。魔剣の逆鱗に触れる様に、ジル様に罰せられるだろうと」

 

 アリス様もタチアナ様の横に佇み、願う様に俺を見ている。縦ロールも心なしか力が無い。

 

「どうか、罰ならば私に。掛けた保険も役に立たなかったのですから」

 

 保険?

 

「えっと……もしかしてサンデルの事ですか?」

 

 タチアナ様の視線は床に転がってる剣聖を捉えている様だ。そして思い出す。サンデルの奴の行動を。

 

 会ったときターニャちゃんを斬るつもりと思ったんだけど、もしかして鳥籠を破壊するつもりだったのかも。それに何故か俺の剣を隠し持ってたよな……何やら依頼を受けたって言ってたけど、依頼者の名をタチア、とか言って。

 

 そう言えば、ミルクを溶かした雪鳴茶の様なお髪(おぐし)って……目の前に跪くタチアナ様の髪はミルクティーの様に綺麗だ。

 

「……」

 

 もしかして、やっちゃった?

 

 サンデルが起きてたら、ミケルの横暴も許さなかっただろうなぁ……

 

「お姉様、もう」

 

「ターニャちゃん」

 

 いつの間にか隣に来ていたターニャちゃんが俺の手を取った。懇願する様な瞳を見れば、怒りはあっさりと消えていく。

 

「ハァ……」

 

 仕方無いか……

 

「ツェイス」

 

「ああ」

 

「ターニャちゃんに何かあったら二度と許さないから」

 

「分かってる。今更だが、俺を信じてくれ」

 

「で、殿下! ま、まさかこのまま言う通りに……下賤な冒険者ごとき……」

 

 アホだなぁ、コイツ。

 

 案の定ツェイスがユラリとミケルに振り向くと、右手を向けた。バンッと鈍い音が部屋を包み、紫色した光が弾ける。紫電はタイムラグすら無いままにミケルに届いた様だ。

 

「ブヒッ……」

 

 気絶したミケル、豚みたいに鳴いたな……

 

 パタリと床に這いつくばったミケルを視界から外し、跪いたままのタチアナ様を立ち上がらせる。いつ迄も汚い床に膝をつくのはアレだからね。それにせっかくの保険を壊したの俺だし……でもアレはサンデルも悪いよな? 白目を剥いている間に変態仕様の剣は没収しておこう、うん。

 

「ジル様……」

「姉々様……」

 

「もう終わりました。だから涙を拭いて下さい」

 

「……はい」

 

 さりげなくハンカチを差し出すアリスちゃん、さすがだ。更には肩に掛けていたストールらしき物を取り、俺の身体に押し付けてくれた。晒された肌を隠してって事だね。優しいなぁアリスちゃんって。

 

「なんか仲間外れ……」

 

 クロエさんは哀愁漂う独り言を呟いてるけど。

 

 さて、と……

 

「ターニャちゃん!」

 

「は、はい! お姉様!」

 

 驚いた顔も超可愛いけど、今は何より大切な事があるのだ!

 

 全開の魔力強化を再び施し、小ちゃな身体を抱き締める。少し離れた場所に移動し、更には魔素を使い全身をチェック! 薬は抜けたって言ってたけど、他にも何かあったら大変だ。一応治癒魔法もかけておこう!

 

「殿下」

 

「どうした、クロエ」

 

「あんなに魔力を使う治癒魔法、見た事あります?」

 

「いや、無いな。致命傷も治るだろう、多分だが」

 

「それって伝説の……」

 

 ツェイスとクロエさんが何か言ってるけど、聞こえません!

 

「ちょ、ちょっとお姉様!」

 

「大丈夫だから! お姉さんに任せて!」

 

 傷一つ見逃さないぞ! 治癒魔法? んなの関係ないしー!

 

「わ、わぁ⁉︎ 何で脱がすんですか⁉︎」

 

「いいからいいから!」

 

「うひゃっ!」

 

「力を抜いて? 目を瞑るの」

 

 おお! 柔らかい! すべすべ! 可愛い!

 

「ど、何処触って……うわっ!」

 

 よし! いよいよ大事なところを確認だ!

 

「い、いい加減にしてください‼︎」

 

「痛い! 何で叩くの⁉︎」

 

 あ、あれ? なにかプルプル震えてますね? 乱れた服を整えて、更には真っ赤な顔してギロリと睨むんです、ええ。

 

「タ、ターニャちゃん?」

 

「どうやら、お仕置きが必要なようですね……」

 

 あれれ? もしかして……

 

「正座!」

 

「は、はい!」

 

 わぁ、日本語だ! 正座なんてこの世界にないもん!

 

 めっちゃ怒ってますぅ……何か魔素が動くのも感じられるんですが⁉︎

 

 あわわわ……!

 

「ひゃ、ひゃーー⁉︎ ご、ゴメンなさーい!」

 

 ターニャちゃん、怖いよ! 可愛いけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

「結局、自分が傷つけられた事を責めなかったな。ただ、あの少女だけを……」

 

「……そうですね」

 

「タチアナ」

 

「はい」

 

 二人の視線の先。俯くジル、そして其れを叱る少女……

 

「ターニャか」

 

「そうです」

 

「エーヴで裏から全員に流せ。魔剣と共に、あの少女に触れてはならないと。下手をしたら止められないぞ」

 

「……畏まりました」

 

 二人だけではない、クロエもアリスも呆然と見詰めている。世界最高峰の戦闘力を誇る魔剣が、床に膝をついて泣きそうになっているのを。何やら意味不明な姿勢だが、叱られてシュンとしているのが伝わる。

 

 そして同時に思う。

 

 あの少女ターニャを掴めば、ジルは決して離れたりしない。

 

 魔剣を御するのは、力でも、金でも、ましてや王権でもない。あの小さな女の子、たった一人なのだと。

 

 

 

 

「ゆ、許して⁉︎ ほ、ほらお風呂に……」

 

 ジルがターニャのお腹に抱き着いて、顔をグリグリしている。そして泣きそうに訳の分からない台詞を吐いた。いや、なんだよお風呂って。

 

「だから何で変なところを触るんですか! や、やめ……擽ったい!」

 

 女神と讃えられる美しいジルの顔を引き剥がそうと力を込める少女。真っ赤な顔、可愛らしい怒りを溜める姿を見れば信じられないけれど……

 

 

 

 

 

 

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