綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、嫉妬する

 

 

 

 

 

 

「うーむ、朝焼け綺麗だなぁ」

 

 カーテンを開けた先、其処には正に絵画みたいな景色が広がっている。王都アーレ=ツェイベルンもきっと喜んでるね。

 

 此処からは海も見えるけど、波は穏やかでキラキラ光るのだ。風だってサラリと髪や睫毛を揺らしてくれた。

 

 うん、気持ちいい!

 

 ミケルの馬鹿とやり合ってから二日が経過した。

 

 昨日は疲れたしゆっくりまったり過ごさせて貰ったんだ。あと、パミール様に味噌汁、つまりミッソスープを伝授。レシピも用意したし、喜んでくれたから良かった。陛下も美味しいと言ってくれたからね。

 

 赤味噌と白味噌の両方があったのはマジで吃驚したよ。俺とターニャちゃんがいるって事は他の転生者もいたりするのかなぁ。醤油の存在も間違いないな、うん。

 

 お刺身をいつか食べるのだ!

 

 握り拳を太陽に向けた時、背後から衣擦れらしき音がする。ゆっくりと振り返ると其処には天使が居た。まだ眠っているのか、顔を半分だけ白いシーツから覗かせている。

 

「可愛い」

 

 そう! 至高のTS美少女ターニャちゃんが俺と同じ部屋で‼︎ 流石にベッドは別だけどね……ちくしょう!

 

 最初は城の外にある対外向けの部屋だったけど、昨日の朝からこっちに引っ越して来たんだよ、うん。まあ、ホテルみたいなものだけどさ。

 

 何故かタチアナ様やアリス様が手伝ってくれて、ツェイスとかも全力で応援してくれたのだ。全く意味が分からないが、結果だけは最高だよね。

 

 しかし、此れはチャンスだ。アートリスの我が家でも同じ部屋で寝たりはしないのだから。

 

 冒険者生活で鍛え上げた技術を使い、気配を完全に絶つ。更には足音も殺してスススと近づけば完璧だ。

 

「……可愛過ぎでしょ」

 

 俺の目の前にターニャちゃんの寝顔がある。スースーと静かな寝息まで耳をくすぐって幸せ。

 

「……朝の挨拶しようかな。ほ、ほら、チューくらい普通だし?」

 

 緊張で少しだけプルプルしてる。しかし、誰も見ていないからいいのだ! そぉーっと、そぉーっと、ね。

 

「……何してるんですか?」

 

 パチリと開いた瞳、何故か頬が赤い。

 

「えっ⁉︎ えっと……そ、そろそろ朝ご飯かなって」

 

 ななな何故だ⁉︎ 何故バレたんだ! 俺の鍛えた技、何してるんだよ⁉︎

 

 ムクリと起きたターニャちゃん、朝のため息一つ。

 

「おはようございます、お姉様」

 

「お、おはよう」

 

 ベッドから降りると、俺の前に立った。ま、まさか怒ってるのか⁉︎ くっ、もっと技を磨かなくては!

 

 スッと両手を俺の首にかけたターニャちゃん。まさか、首投げ? それとも頭を抱えてからの膝蹴り⁉︎

 

 思わずギュッと目を閉じると、柔らかな感触が俺の頬から伝わって来た。

 

「あ……」

 

 目を開けると、益々真っ赤なターニャちゃんがいる。まままま、まさか……今の感じ、柔らかくて温かくて、幸せな……

 

「ターニャちゃん」

 

「は、はい」

 

「もう一回お願いします。今度はちゃんと見てるから」

 

 ほっぺにチュー‼︎ 頼む!

 

「朝の挨拶は一回だけです」

 

「えー……」

 

 ん? ま、待てよ……朝の挨拶、一回だけ? つまり、つまりだよ? 此れから毎日朝のチューを……お、おお……‼︎

 

「じゃあ明日の朝も、だね」

 

 やったぜ!

 

「あ……」

 

 寝惚けてたんだろう、今更気付いたみたい。普段なら隙を見せてくれない猫みたいな子だけど、油断したね!

 

 何だか最近かなりデレてくれるのだ。一体何があったのか分からないけど、どうでもいいし。だって可愛いもん。

 

 あっ……ターニャちゃんてばハーレムを許してくれた本妻として、色々頑張ってくれてるのかもしれない? ならば此処は慎重に、言葉を選んで……

 

「ね、ねえ、ターニャちゃん」

 

「はい」

 

「ハーレムってどう思う?」

 

 キリリと表情を引き締めて質問をぶつけた。結局言葉は選べてないですが。

 

「はあ?」

 

「だからハーレム……」

 

「ハーレムってあれですか? 沢山の女性を侍らせる」

 

「うん」

 

「何が聞きたいのか分かりませんけど、どう思うって質問なら簡単です」

 

 うんうん、だよね!

 

「凄く嫌いですね」

 

 う、うん?

 

「嫌い、なの?」

 

「当たり前です。好きな人は一人だけで十分ですし、浮気なんて最低。やっぱり幸せな夫婦って最高だって確信しました。このツェツエ王国の両陛下、あの仲睦まじい姿を見たら益々そう思います。勿論お姉様もそうですよね?」

 

「……と、当然だよ!」

 

 あ、あれぇ? 冗談言ってる雰囲気じゃないぞ……じゃあハーレムは? リュドミラ様、クロエさん、パルメさんやリタに、ターニャちゃんが本妻で……

 

「そもそも一夫多妻制なんですか? この国って」

 

「そう言えば……どうだろう?」

 

「まあ、どうでもいいですね。ハーレムなんてお姉様がやっつけてくれます、きっと」

 

「そ、そうだね」

 

 お、おかしいな……じゃあ、俺の夢は⁉︎ 夢のような桃源郷は何処に⁉︎

 

 あれぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 ミケルは廃嫡(はいちゃく)となった。更にはロプコヴィルと呼ばれる孤島へと島流し。魔力銀などの鉱物を産出する有名なところだけど、かなり厳しい環境らしい。

 

 更にはチルダ家の力も削がれる事になる。立法、司法、騎士の輩出、おまけに捜査や裁判まで行う場合もあった為、増長を招いたとの陛下の判断だ。権限は他家へ移譲、或いは分割された。現チルダ家当主であるペラン公は力無く項垂れ、そして逆らう事なく首肯したとの事だ。

 

 罪状は騎士団の私的流用と子女の誘拐。公爵家嫡男としての立場を悪用した過去の所業全てだ。エーヴ家で集めていた証拠もかなり影響したってさ。

 

 ルクレーやマーディアスは降爵。他にも色々言ってたけど覚えてないや。

 

 あと、ターニャちゃんを誘拐した騎士達も一網打尽にしたらしい。俺がお仕置きに行くねと言ったら全力で阻止されたのは解せないけど。何故かアリスちゃんとターニャちゃんまで止めてきたんだよ? おかしいなぁ。

 

 まあミケル達の処分なんて今更気にならないし、ターニャちゃんに被害が及ばないなら何でもいい。その辺はツェイスだって信じろって言ってたからね。

 

 そんな事より、今は他の事が気になって仕方がないのだ。

 

「ジル? どうしたの?」

 

「いえ……」

 

 何やらゴチャゴチャした手続きを終えて、ターニャちゃんを探していた。直ぐに見つかったけど、思わず足を止めてしまう。俺の視線を追い、クロエさんも何を見ているか察したみたい。

 

「殿下とターニャちゃんだね」

 

 そうなのだ。

 

 ツェイスとターニャちゃんが和やかな空気を醸し出している。普段あまり見掛けない笑顔が浮かんでいるのが分かって、無意識のうちに立ち止まってしまった。会話は聞こえない。でも凄く楽しそう……

 

「……ははーん」

 

 クロエさんが何か言ってるけど、言葉は右から左。

 

 悔しいがツェイスはとんでもないイケメンだ。紫紺の瞳は戦闘時こそ鋭いが、普段は人柄を思わせる優しい光を放つ。波打った髪も、長い足も、鍛え上げた均整の取れた身体も。頭もいいし、性格だって素晴らしいと思う。男としての理想形と言っていいかも。

 

「ムフフ……嫉妬も可愛いなぁ」

 

 未だ耳に届くクロエさんの声は凄く遠くて頭に入らない。

 

 ターニャちゃんは至高のTS女の子だ。TSであるからには恋愛対象は女性だと当たり前に思っていた。だから超絶美人のジルに必ず靡くと自信があったのだ。だけど……俺は直接聞いただろうか? 元男の子かと、好きなタイプは、ジルは恋愛対象になりますかと。

 

 今朝だってハーレムは嫌いだって言ってた。世の男達の大半が憧れる筈のハーレムを。いや、多分だけどさ。

 

 もし頭の中も女の子に変化していたら……今ターニャちゃんの隣に立つのは世界トップクラスと言っていいツェイス。

 

 あんな笑顔、俺に見せてくれた事ある?

 

「どうしよう……」

 

 ターニャちゃんがツェイスに惚れたら?

 

 うぅ……そんなの、そんなの嫌だ!

 

「でも、これだけの美人で何が不安なんだろ? 本当に変わった女だよねぇ。殿下が他の娘に気を取られる訳ないのになぁ」

 

 早く間に入って邪魔したいのに、脚が動かないよ。ツェイスだってあんなに可愛い笑顔を見たら、惹かれちゃうかも……

 

「ほら、行くよ」

 

 クロエさんが背中を押してくれたけど、何だか今は会いたくない。ターニャちゃん楽しそうだもん。

 

「忘れ物が……すいませんクロエ様」

 

 断って踵を返す。

 

「あっ、ちょっと!」

 

 ターニャちゃんはいつでも名前じゃなくてお姉様って呼ぶ。もしかして本当にお姉ちゃんって思われてるのかな……

 

 

 

 

 あれから何度かターニャちゃんを見掛けたけど、アリスちゃんやタチアナ様、更にはリュドミラ様とまで話してた。随分と仲良さそうで嬉しいけど、何だかモヤモヤする。

 

 殆ど初めて会ったばかりなのに、まるで友達みたい。凄いコミュニケーション能力だなぁ。俺なんてリュドミラ様を真正面から見るのだって勇気がいるんだよ? 至高の美少女二人が並ぶのは眼福だったけど、遠目から眺めるだけで終わっちゃった。

 

 これって、やっぱり、

 

 焼き餅だよな。

 

 はぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

「まあ! 何だか不思議ですね!」

 

「私の方も初めて聞いた話ばかりで不思議です」

 

「ターニャさんに心を許し、そして愛してるのね。私達の前ではそんな様子も見せてくれませんから。何だか嫉妬してしまいます」

 

「そうでしょうか? リュドミラ王女殿下との時間を随分楽しみにしていたと、クロエリウス様が言っていましたけど」

 

 リュドミラは魔剣の妹との時間を楽しんでいた。タチアナから聞いた話で随分と興味が湧いて、ターニャに来て貰ったのだ。風の通る園庭のテーブルに集まり、軽い食事と飲み物まで用意されている。

 

 これはかなり異例な事で、一国民、いや情報通りならばツェツエの民ですらないかもしれない。そんな女の子一人に時間を割き、そして会話するなど通常ならば考えられないだろう。

 

 しかし、実際にはツェイスやタチアナが動いたのだ。

 

 不可侵の存在となったターニャが如何に特別かと知らしめる必要があった。幾つかの手段の中で丁度よくリュドミラの要望が伝わった訳だ。貴族間でも噂となり、広がるのは時間の問題となる。会話を楽しむ二人だけは理解していないかもしれない。

 

「それは嬉しいですが、何度お願いしてもミラと呼んでくださらないのです。私は姉の様に思っていると話しても頑なに……」

 

 暗くなった雰囲気を感じ、ターニャは会話を少しだけ変えた。

 

「アリス様も姉々様(ねねさま)と言ってましたね。何だか沢山の妹がいるみたいです。誰からも愛されているのはお姉様、あの人なのかもしれません」

 

「ふふっ……きっと生まれながらの人誑し(ひとたらし)なんですね」

 

 それを察したリュドミラに笑顔が戻る。

 

「でも、ジルってば妙に鈍感だよねぇ」

 

「クロエ、お行儀が悪いわ。タチアナに見付かったら大変よ?」

 

 もう一人座っていた赤髪の女性は片手にお菓子を持ち、頬まで膨らんでいた。もぐもぐと咀嚼し、お茶で流し込む。

 

「タチアナには内緒でお願いします!」

 

「全く……それでどういう意味かしら?」

 

「んー……今日ジルと歩いてたんだけど、丁度ツェイス殿下とターニャちゃんが話してて。いきなり立ち止まったから驚いちゃった」

 

「ツェイス王子殿下と……確か今回の事の謝罪と、後は昔のお姉様の事を沢山教えて貰って楽しかったです。あの時でしょうか? でも会いませんでしたよ?」

 

「だって凄く辛そうだったもん。アレは間違い無く嫉妬だね。視線も外さないし、冷やかしても反応なし! 最後なんてバレバレの嘘ついて居なくなったんだよ? おかしな話だよねぇ。あれだけの美貌を持ち、更には超級の魔剣で、何度もツェツエの危機を救って……高飛車になったり、生意気でも不思議じゃないでしょ? なのに性格はいつも優しいし、今日みたいに自信も無かったり。殿下の気持ちなんて、ねえ」

 

「嫉妬……今回の事件でジル様は益々頑なになったのかもしれないわ。以前も貴族間の混乱を嫌って身を引いたのだから」

 

「あー……成る程、そういう考えもあるねー」

 

「あの……つまりツェイス殿下と私にですよね?」

 

「そうそう」

 

 ターニャは嘘でしょうと表情を歪める。だって二人の会話を繋いだのは他ならないジルなのだから。ましてやツェイスからは溢れんばかりの愛情が感じられた。誰もが認める間柄なのに、当の本人は自信がないらしい。

 

「確かに不思議だわ。いつも一歩引いてるもの、ジル様は」

 

「以前に長らく会えない本当の妹が居ると話していました。恋しくて、つい私に構ってしまうって……もしかしたら、家族や過去に何か……あっ、いえ、何でもありません」

 

 生まれ故郷の件は秘密だと言っていた。それを思い出し、ターニャは口を噤む。リュドミラとクロエも視線で会話をしたが、深くは追求しなかった。何やら事情があるのは以前から分かっていた事で、同時に探られたくないのだろうと知ってもいる。

 

「明日にはアートリスに帰るんだよね?」

 

「あ、はい」

 

「ターニャちゃん、ジルをお願いね?」

 

「私からもお願いします。何かあったら何でも良いので報せて下さい」

 

「何時も守って貰うのは私ですが、出来る事だけは」

 

 

 でも、何処かホッとする心を自覚したターニャだった。そして同時に、これこそが嫉妬だと理解してもいた。離れていかないジルに安堵し、同時に自分だけに心を開いてくれていると。

 

 つい最近アリスに答えたのだ。自分はジルが大好きだって。アレは間違いなく本心だった。

 

 この気持ちが何なのか、もう一度考えよう……ターニャはそんな風に内心で呟く。

 

 

 

 

 そうして、王都アーレ=ツェイベルンの夜は更けていったのだ。

 

 

 

 

 

 




アーレ編、間もなく終わります。
今話のジルとターニャは今後への布石になるよう、少し真面目な雰囲気です。
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