綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

63 / 130
お姉様、至福を味わう

 

 

 

 長閑(のどか)だなぁ……

 

 牧歌的、この言葉がここまで似合う村ってあるだろうか。

 

 なだらかな斜面に点在する家々達。全てが木造で、煙突から白い煙が立ち昇っている。踏み締めて出来ただろう道は、まるで轍みたいにクネクネと家同士を繋いでいた。其れ等以外の殆どが草原の様に緑で覆われていて、何だかスイスとかの高地を思い浮かべるな。

 

 その向こう、視界を占める大半は高き山々たち。

 

 其れらは日本アルプスの縮小版みたいな感じで、緩やかに山風がそよいで気持ち良い。

 

 これって緑と赤で飾り付けたら、まんまクリスマスの絵みたいだ。絵葉書とかで描かれていそうだね。雪が降ってたらだけど。

 

「……何だか長閑で、御伽噺の中みたいです」

 

 この世界の御伽噺には余り無い描写の景色だ。元の世界の事を思い出してるのかなぁ。でも、当然指摘なんてしませんよ?

 

「心が落ち着くと言うか、安らぎを覚えるよね。不思議」

 

「ホントに」

 

 ノールブレフツが見えて、内心悔しく思いながらターニャちゃんを降ろした。そして二人横並びで、暫く景色を眺めているのだ。

 

 ここは人口百人位の小さな村で、主要産業は養蜂による蜂蜜の生産だ。それに連なる菓子や酒も有名で、生産量が少ない事から手に入れ難い。でも丁寧な手仕事で、質や風味は折り紙付き。

 

「思ったより早く着いたから、ちょっと休憩しながら景色を楽しもうか」

 

「はい」

 

 丁度近くに切り株がある。と言うか人工的に用意したのかも。だってベストポジションだもん。カメラとかあったら間違いなく撮影スポットになるだろう。

 

「水を出すから彼処に座ってね」

 

 促すとターニャちゃんは素直に腰掛ける。抱っこされていたとは言え、疲れない訳がないからね。

 

 魔法で水を出す事も出来なくはないけど、緊急時のみと決めてる。あくまで気分で、戦闘に多用する水を飲みたくないのだ。

 

「はいどうぞ」

 

 木を削り出したカップに透明な水を注いだ。生活魔法の応用で少しだけ冷やしてたり。ターニャちゃんの細い喉がコクリコクリと動くのを眺めて、俺も一口だけ口にする。

 

「ふぅ、ありがとうございます。お姉様は疲れてないですか?」

 

「ん? 全然大丈夫だよ。これくらいは依頼とかで普通にやってるし、ターニャちゃん軽いから」

 

 実際にはターニャ成分を絶えず補給された事が要因だろう。むしろ禁断症状が怖いぜ。ホッとするターニャを見たら、益々症状が悪化した。間違いありません。

 

「良かった。蜂蜜が有名な村だそうですけど、何処で作ってるんでしょう。見る限り見当たらないですよね?」

 

 まだノールブレフツは景色の一部だけど、道を歩く人の姿くらい見える。あの辺に蜂がいたら大変だよね。

 

「村を囲むように樹々が立ってるでしょう? あれは全部人工林で、その向こう側に花が沢山咲いてるところがあるの。もっと上の方には果樹が植えてあって……ほら、あの斜面とか白色が見えるよね? アレがマルースだよ」

 

「あんな遠いところまで……全てが人の手なら希少な蜂蜜だと納得出来ます」

 

 感嘆のため息を溢すターニャちゃん。やっぱり大人みたいだ。見た目は少女なのにね。魔法が補助するだろうけど、基本的には手作業だから間違ってない。言われたら確かにと思う。ノールブレフツが抱える敷地は家々に比べて広大なのだ。

 

「後で案内して上げるね。流石に近くは怖くて無理だけど」

 

「見た事ないので楽しみです。蜂って木とかに作る巣しか知らないですから。どうやって蜂を集めてるんだろう」

 

「村の中で直ぐに分かるよ。沢山の蜂箱が置いてあって目立つし」

 

「蜂箱……何だかお姉様って詳しいですね?」

 

「うーん。人聞きばかりだけど、此処には何回か来た事あるからかな。知り合いの人に教えて貰ったの。まあ旅行じゃなくて依頼ばかりだから、こんな風に訪れるの凄く新鮮で楽しみだね!」

 

「私ばかり楽しかったら旅行の意味が半分です。良かった……あ、お姉様も座って下さい」

 

「え?」

 

 切り株は小さくて、二人座れば一杯一杯だよ? 嬉しいけど……

 

「これ小さいかな。私が代わりに立ち……」

 

「狭いけど十分だね! ほら、丁度じゃない?」

 

 本日初めての最大魔力強化はこの時だった。無論後悔などない。

 

 お互いのお尻と肩や腕が触れ合う最高の距離だ。抱っこは終わっちゃったけど、こんなのもアリだな。やっぱり旅行っていいね!

 

 暫くゆっくりしたら村に向かおう。

 

 

 

 

 

 

「あの真っ黒の箱って」

 

「うんうん、蜂箱だよ」

 

 先程ノールブレフツの村へ到着した。先ずは宿の確保へと真ん中の通りに向かう。その時、目に付いたのが黒色した木製の箱達だ。ぱっと見は小さなお賽銭箱みたい。

 

「これ、表面を焼いてる」

 

 一番近くの箱を眺めながら、呟いた。

 

「私も詳しくは知らないけど、蜂の病気を防ぐためだって。病気の元を火で清める感じで……あと、蜜蝋で入口を塞ぐから其れも取り除いたりする、だったかな」

 

 熱殺菌?

 

 そんな呟きが次いで聞こえたけど、反応はしない。多分合ってるけど。

 

「面白いです。この箱をさっき見た場所に運んで採集するんだ……でも、蜂は何で素直に此処に戻る……あ、もしかして」

 

「多分想像通りだよ。女王蜂を最初に入れるからね」

 

「やっぱり」

 

 もう博物館を見学する学生の趣きだ。教える俺も楽しかったりする。学芸員になった気分だよ。最近先生の役割多かったし。

 

「宿に入る前にお店を覗いてみよっか。きっと楽しいよ?」

 

「はい!」

 

 ターニャちゃんを連れて入ったのは、お土産物を扱う小さなお店だ。人の少ないノールブレフツだけど、やっぱり蜂蜜が有名だから旅人も来るんだろうね。

 

 早速目に付くのが小瓶に入った蜂蜜だ。琥珀色の液体が満たされた透明な瓶。沢山綺麗に並んでる。よく見たら其々の蜜の色合いが微妙に違うね。

 

「種類が沢山あるんですね」

 

 ターニャちゃんも興味深く眺めている。その真剣な眼差しにドキドキしてしまうのだ。

 

「いらっしゃい。女性二人きりとは珍しいな」

 

 店の奥から店主らしきオジサンが現れた。小太りだけど、中々鋭い目付き。髭もじゃで年齢が分かりにくいな。

 

 振り返った俺を見て上下に視線が泳ぐ。そしてロングカーディガンから覗く胸をチラ見した。ふ、まあ仕方ないでしょう。カーディガンの前を閉じたら慌てて視線を逸らすのが可笑しい。

 

「旅をしてて。あの、この娘に説明をして貰っていいですか? あとマルースの蜂蜜も」

 

「おお、勿論だ。其処に有るのは全部俺が集めた蜜だからな。何でも教えてあげよう」

 

 何だか得意気になったオジサン。うん、分かるよ? 俺みたいな超絶美人や至高の美少女相手だと頑張っちゃうよね。

 

「良かったねターニャちゃん。折角だから色々聞いてみましょう」

 

「はい、是非」

 

 そして俺の予想を遥かに超えたターニャちゃんの質問攻めに、店主のオジサンが慌てふためくまで時間は要らなかったのだ……なんてね!

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

「これ蜂蜜のソースだ……こんなに料理と合うなんて」

 

 宿はツェルセンの双竜の憩と違って、所謂民宿だ。部屋数も少ない上に、今日は俺たちだけらしい。食堂に案内された時教えて貰ったのだ。なので、かなりゆったりとした気持ちで夕食を楽しんでいる。

 

 テーブルには蝋燭が灯り、ターニャちゃんの瞳にユラユラと反射して綺麗。

 

 今日の旅路、蜂蜜、マルースの花、沢山の会話が咲いた。料理に生かすつもりなのか、出てくる品々を味わって研究してるみたい。もう趣味の域を軽く超えてるけど、そんなターニャちゃんを眺めるのも幸せだなぁ。

 

 何だか頭もホワホワするし、夢の中に居るみたい。

 

「……此れって……」

「マルースの……」

「……私でも出来るかも」

「……様?」

 

 本当にターニャちゃん可愛い。

 

 アッシュブラウンの髪が随分伸びて、少しだけ大人びて来たみたい。濃紺の瞳も心なしか柔らくなったし、料理を美味しそうに味わう唇がプニプニで……

 

「お姉様? 聞いてますか?」

 

「……え? あ、うん。髪伸びたよね」

 

「……もしかして」

 

 何だか喉が渇く。この甘い飲み物美味しいから良いけど。

 

 あれれ? ターニャちゃんがジト目になってるね? さっきまで楽しそうにしてたのに。そうか、分かったぞ!

 

「これ飲みたい? あげよっか?」

 

「お姉様」

 

「はい」

 

「それ、貸して下さい」

 

「どうぞ」

 

 渡したグラスに鼻を近づけてクンクンと香りを確認するターニャちゃん。

 

「甘い香りだよねー、きっと蜂蜜が入ってて……」

 

「入ってて、じゃなくて。これ蜂蜜酒(ミード)です、お姉様」

 

「またまたぁ。ミードってワインみたいなお酒だよぉ? ハニーワインって言って酒精も強いし、此れは果実を絞った飲み物でー」

 

「あのお土産屋さんが言ってました。ミードには二種類あるって。お姉様が言うハニーワインは軽やかな口当たりですけど、古くから在る製法でゆっくり醸造する方は違うらしいです。此れってハーブと炭酸も効いてますし、間違いありま……聞いてますか?」

 

「何でも知ってる凄い人、其れがターニャちゃん。料理だって、買い物だって、サイコーなんだから! あとお風呂も!」

 

「会話になってません。其れとお風呂って何ですか?」

 

「ツェルセンでね……二人きりで入ったの。知らない?」

 

「私が本人です。ちょっ……! もう飲むのはやめましょう」

 

「ええぇー、あと少しだけ……」

 

「駄目です! さあ、お部屋に帰りますよ」

 

「お風呂、ある?」

 

「帰って探しますから。きっと見つかると思います」

 

「我が魔素感知から逃れる者はいないのだぁ」

 

「はいはい、行きましょう」

 

 フワフワ、ユラユラ、気持ちいいなぁ。

 

「余りくっつかれると歩きづらいです」

 

 プニプニ、ホンワカ、離したくないよ。

 

「だからくっつき過ぎ……ハァ……」

 

 

 

 

 

 

 ピヨピヨと小鳥の囀りが聞こえて来た。

 

「お、おう?」

 

 一体何が? まだ夢の中なのか?

 

 起きてすぐ気付く。

 

 左腕に心地良い重さ、そして甘い香り。視界にはアッシュブラウンの髪と見た事の無い天井がある。恐る恐る左側を眺めれば、予想通りの、でも凄く吃驚する女の子が抱き着いているのだ。

 

 至高の美少女ターニャちゃんがピッタリと俺に張り付き、緩やかな寝息を繰り返している。

 

 頭が左上腕に乗り、更に顔は自慢のオッパイのすぐそば。

 

 まるで巻き付く様に、俺の腰に腕を回してる。

 

 毛布に隠れていても、両脚だってギュッと固定されているのが分かった。

 

 うん。もしかして、もしかしてだよ?

 

 これって多分だけど、遠く噂に聞いた[腕枕]ではなかろうか。しかも愛し合う恋人同士みたいな……

 

 訳が分からないぞ……何で二人で寝てるんだ?

 

 確かノールブレフツを見て回って、お店を冷やかしたあとにご飯を食べて……あれ? 其処から記憶が消えてますね、うん。

 

「んん……」

 

 もぞもぞと動くターニャちゃん。起こしたかなと慌てたけど、どうやらポジションを変える様だ。顔を少しだけ上げると、俺の首辺りに落ちついた。吐息が擽ったいけど、絶対にこの体勢を保つ必要があるだろう。

 

 だって……全身余す所なく俺に身体を預けてるんだよ? この幸せを手放すなんて、世界最高のおバカと確信出来る。

 

 すっごいドキドキしてるし、何だか体温も上昇中。

 

 最近サイズアップしたらしいターニャちゃんの小ぶりな胸、其れが服越しとは言え俺のオッパイと重なり合う。唇だって肌に触れてるから、キスマークとか付いちゃうかも。もちろん大歓迎。

 

 ……もう、一体何ですか⁉︎ ツェルセンに続く桃源郷が此処でも? やっぱりデレたのか⁉︎ もう全部OKで良いよね!

 

 自由になった左手をターニャちゃんの肩に添える至福。少しだけ抱き寄せて、更に身体へ押し付けた。

 

 ああ。

 

 幸せ。

 

 今日こそはチューを俺からしてみせる。ほっぺに一回、そして……むふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。