綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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☆女の子、探偵になる

 

 

 

 以前誰かが言っていた。

 

 宝石を集めて糸にした様な白金。色艶が霞む事なんて有り得ない、一髪一髪(ひとくしひとくし)が命を宿し精霊の如く舞い踊る。

 

 神々が競う様に描き、造形し、世界に顕した美貌は、どれほど目にしようと視線を奪い去ってしまう。水色の両眼は光を捕らえて逃がさず、鮮やかなる色彩はその人の為に生み出されたと錯覚するだろう。

 

 歴史に名を刻む稀代の彫刻家が生涯を掛けようとも、秘めたる激情を天上の筆致にぶつける天才画家であろうとも、あの肢体に嫉妬し自らを恥じて(こうべ)を垂れるしかない。

 

 アートリスの、いやツェツエの女神と謳われる女性が隣で笑顔を浮かべている。背の低い僕の歩幅に合わせてゆっくりと歩き、街の風景を一緒に楽しむのだ。

 

 この世界に落ちた時、深い森の中で出会った。

 

 後からウラスロさんに聞いたんだ。上級のダイヤモンド、そしてそれに次ぐコランダム級の冒険者が偶然いなかった。だから、同じく偶然手が空いていた超級に依頼したのだと。超級は依頼の受諾すら自由に決定出来る。調査依頼なんて残る四人の超級ならば間違いなく受けない。いや、最初から依頼しない。

 

 全ては偶然の産物で、何かの歯車が狂っていたら僕は……

 

 例え生きて街に辿り着いたとしても、他の人達と同じ様に指を咥えて女神を眺めていただろう。

 

 此れが幸福でなければ、世界に幸せなんて存在しない。

 

 ほら今も、走る馬車の反対側にさり気無く誘導した。自惚れでも自意識過剰でもない。全てを賭けて僕を見守ってる。偶に胸を掻きむしって叫びたくなるんだ……夢なら醒めないでって。

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様?」

 

 ついさっきまで淡い微笑を浮かべていたお姉様が立ち止まる。顔や視線も動かさない。ほんの少しだけ水色の瞳が鋭くなった。

 

 最近見た気がする。

 

 真っ黒で車みたいに大きな狼、確かアークウルフ。アイツらを見つけたときだ。馬車の中から魔素感知を行い、サイズや数、種類まで特定していた。あの時は本当に恐ろしかったのを憶えてる。あっさりと倒しちゃったけど。

 

 此処はアートリスの街角だし、見渡せば平和そのものなのに……でも、きっと何かあったんだ。集中した瞬間、お姉様と遊んでいる魔素達が見える。他の誰よりも美しい。既に魔素感知は終えたみたいだ。この人は息をするのと同じくらい自然に魔力を操るから、今の僕じゃ行使に気付けない。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 僕の問い掛けに、鋭かった視線は柔らかくなって笑顔まで戻った。

 

「ん? ごめんごめん。何だか良い匂いがするなぁって。きっとターニャちゃんくらいの凄腕料理人が」

 

 分かってる。危険から遠去けようと、不安なんて抱かせないように振る舞ってるんだ。でも……

 

「なんで嘘を? いま、魔素感知をしましたよね?」

 

「えっと……」

 

 お姉様は悪くない。なのに、口は動き続ける。

 

「その雰囲気、まるで王都の地下で戦った時のお姉様みたいでした。何の役にも立たない私ですけど……そんな誤魔化し、嫌いです」

 

「ターニャちゃん……」

 

 水色が哀しさを帯びた。

 

「……もういいです。帰りましょう」

 

 瞳を見ていられない。本当に僕は馬鹿だ……何で腹が立ってるんだろう。

 

「すいません、嫌な態度を取って。お姉様は世界に五人しかいない超一流の冒険者なのに。私みたいな子供が偉そうにしても……」

 

「ううん、私こそごめんなさい。怒ったのは心配してくれたからでしょ? それに……滅多な事はないと思うけど、お家に帰ったらちゃんと説明するね」

 

「……はい」

 

 不謹慎だけど、悲しそうなお姉様は凄く綺麗だと思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食品の保管庫から持って来た野菜を取り出して水洗い。魔素を使えば目の前の四角い穴から綺麗な水が出てきた。蛇口では無いけど、実際には水道と一緒。

 

 牛蒡みたいな長細い野菜だけは、固い繊維を寄り集めたブラシでゴシゴシしないと駄目で、皮は薄いから直ぐに真っ白な中身が見えて来る。

 

「お肉も焼こうかな……」

 

 元の世界と違って品種改良された柔らかいお肉なんてない。ただ焼いただけじゃ靴底みたいに固い何かにしかならないから、色々と下拵えが要るんだ。でも、だからこそ工夫の幅があって楽しい。あと、お姉様も僕も脂身が苦手だから丁度良かったり。

 

 設置してある調理器を触れば一気に熱量が上がった。此れも元の世界の電磁調理器にそっくりだ。凄いのは魔素を上手に扱う事で1キロカロリーレベルで強さを調整出来る点かな。此れはお姉様でも無理だから、僕だけの微妙な火加減だし。

 

 こっちは落とし蓋をして暫く待てばいい。

 

「お姉様の魔素感知でも分からない厄介な相手、か」

 

 ご飯を作りながら、それでも色々と考えてしまう。

 

 さっき色々教えて貰ったけど、超級となれば大変な事も多いんだろう。戦力としてもそうだし、味方なら良いけど敵なら最悪な人だもんね。

 

 目にも止まらない速さで動いて強力な魔法を連発。ならばと無理矢理近づいたところで、古竜の鱗すら斬ってしまう魔力銀の剣が襲う。そして、奇跡的にダメージを与えても治癒魔法で元通り。

 

 ……うん、やっぱり無茶苦茶だ。バランスブレイカーそのものだよ。

 

 限界まで研がれた包丁で野菜を切って鍋に投入。

 

「しかも嘘みたいな美人だから、変な事を考える人もいるだろうし」

 

 あのミケルとか言う貴族もお姉様に執着してた。他にも沢山いそう。

 

「僕一人じゃ何も出来ない。悔しいけど事実。でも、この街アートリスにはお姉様を大好きな人が沢山いるんだ。パルメさんやマリシュカさんに相談してみよう。きっと助けてくれる」

 

 何と言っても[ジルを弄って遊んで愛でる会]の会長と相談役なんだから。リタさんは心配したら顔に出てお姉様に伝わる。少しだけ後にしよう。

 

「ターニャちゃん、何か手伝うよー」

 

 お風呂上がりのお姉様が戻って来た。後ろで括った髪も湿っていて、薄着だから凄く色っぽい。しかも何故か無自覚で隙だらけ……まあ家の中でしか見せない隙だけど。最近視線の配りどころに困る自分を自覚してる。だって……

 

「……もう終わりますから座って待ってて下さい」

 

「じゃあ飲み物を準備しようかな。お酒を」

 

「駄目です」

 

「じょ、冗談だって」

 

 こんなお姉様にまた抱き着かれたら、色々と大変だ。

 

 嬉しそうな笑顔を浮かべてグラスを取り出すお姉様。食べるのが好きみたいで、ご飯の時間はいつもニコニコしてる。しかも凄く美味しそうに食べてくれるし、言葉でも一品毎に褒めてくれるんだ。ここまで作り甲斐のある人、他に居るのかな。

 

 あんなに食べるのに全く太らないよね。今は後ろ姿だけど、細いウエストを見たら誰でも信じられない筈だ。お尻とか胸はしっかりとあるから益々目立つ……って、何を考えてるんだ僕は。

 

「他には……どうしたの?」

 

 振り返ったお姉様は不思議そうに聞いて来た。首を少し傾けて水色がキラキラする。

 

「いえ。何も」

 

「そう?」

 

「はい」

 

 明日、会いに行こう。

 

 僕は一人じゃないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

「ジルがそんな事を?」

 

「はい」

 

「そりゃ一大事(いちだいじ)かもねぇ、物騒な世の中だよホント」

 

 パルメさんに会いに来たら、丁度マリシュカさんの店に行く予定だったみたいで合流した。お姉様は朝からギルドに行ってリタさんと仕事の話をするって。

 

「私に心配させたくないのか、それ以上詳しく教えてくれません。相談出来るのはお二人だけなので……」

 

「姉馬鹿の具合がどんどん悪化してる。面白いけど」

 

 パルメさんの苦笑には心配の色があってホッとする。凄く頼りになる、随分前からお姉様を知ってる人だしね。

 

「しかし普通に考えてジルをどうこう出来る奴なんて居るのかい? 超級と聞くだけで逃げ出す悪者ばかりだろうさ。それに冒険者としての経験もあって、あの娘は何も言わないけど沢山の修羅場も潜り抜けて来た筈だよ」

 

「マリシュカさんの言う通りだけど、馬鹿正直に向かって来る奴等ばかりじゃないだろうし……何となく搦手に弱そう、ジルって」

 

 確かに……マリシュカさんと僕は同時に頷いた。

 

「分かっているのに何もしないなんて我慢出来ないんです。お姉様を困らせるなんて許せません」

 

「ターニャちゃん、貴女……」

 

 ポカンとしたパルメさん。自分が何を言ったか理解して凄く恥ずかしくなった。この人達の前だとつい本音が出ちゃう。これじゃ僕が妹馬鹿だ。

 

「よく分かったよターニャ。少しだけ調べてみるから時間をおくれ。ジルの周りを探る不審な連中が居ないかをね」

 

「よろしくお願いします」

 

 アートリス最高の情報機関、マリシュカさんが動き出した。

 

「それで? ターニャちゃんの事だから他にもあるんでしょ?」

 

「あ、はい。パルメさんにお願いがあって」

 

「何かしら?」

 

「古着でいいので、変装用の服を安く売って貰えませんか? 普段私が着ないような感じの」

 

「それは構わないけど……ジルでも分からない相手にターニャちゃんが出来る事なんて」

 

 そう思うのも当然だ。だから少しだけお披露目する。

 

 そっと手の甲に触れたら集中して魔素を確認、パルメさんを見た。

 

「左肩が凝ってますね。それと少しだけ目が疲れてます。多分夜遅くまで仕事をしてた。夜更かしは肌に悪いですよ?」

 

「……え? あ、合ってるけど、何で」

 

「私はお姉様の妹ですから。ほんの少しだけ力が有るんです。戦いには不向きでも、()()()調()()()()するのが得意で……お姉様のお墨付きです」

 

「そ、そうなの?」

 

「駄目だよターニャ。危ない奴だったらどうするんだい? それこそジルが泣いちまうさ」

 

「絶対に近づきません。禁止されてるので詳細は言えませんが、特定の条件下ならばお姉様の魔素感知も上回る事が出来るんです。なので安心して下さい」

 

 うーむと両腕を組むマリシュカさん。やっぱり難しいかな……

 

「じゃあ必ず二人で行動しましょう。それならどう?」

 

「……仕方無いねぇ。絶対に危ないところには近づいちゃ駄目だよ? 看板オババとの約束だ」

 

「絶対に。私もお姉様に叱られたくないですから」

 

 困った姉妹だよ全く。そんな風に笑うマリシュカさん、やっぱり優しい人だ。

 

「じゃあマリシュカさんは調べ物をお願いね。先ずは店で服を選びましょう。それと、ついでに私も変装するわ。そうね、ターニャちゃんは可愛い系で纏めて私は男装する。髪も切ったばかりで丁度いいし、男女二人なら街に溶け込み易いからね。マリシュカさんの結果待ちで活動を始めましょう。うーん、何だか楽しくなっちゃう!」

 

 ムフフと指を唇に当てるパルメさん。この人も本当に良い人。リタさんもそうだけど、僕って友達に恵まれてるなぁ……まあ知り合ったのもお姉様のお陰だけど。

 

「お二人とも本当にありがとうございます」

 

「何を言ってるんだい、他人行儀はやめておくれ。子供が変な遠慮をするもんじゃないよ!」

 

 バシバシと背中を叩かれた。痛い。

 

「ふふ、じゃあ行こっか」

 

 正体を掴んだらお姉様に報告すればいいかな。何と言っても超級冒険者、魔剣のジル。本気になったら誰も勝てないんだから。

 

「はい、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

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