綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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沢山のお気に入り、評価ありがとうございます。吃驚してます。


お姉様、勇者と再会する

 

 

 

 

 

 両手に服の詰まった袋を抱えて歩くのは大変だ。マリシュカの店まであと少しだし、大丈夫だけどね。

 

 邪魔になった魔力銀製の剣は、鞘毎ターニャちゃんが両手で胸に抱えてくれている。この剣は魔力を通さなければ軟らかい金属の塊でしか無く、非常に軽い。名前などないが、やはり俺にしか扱えないだろう。魔力調整を間違えれば、赤熱して溶けるか斬れ味が極端に悪化するしかない。と言うか、皮膚すら切れなくなる。まあ、鈍器として多少は使えるか。

 

 しかし、繊細で適切な魔力を安定的に供給すれば斬れないものなど無い魔剣と化すのだ。動き回る戦闘中にそれを成すのは、魔法馬鹿の[魔狂い]すら不可能だろう。

 

 実際に鎧など紙同然だし、古龍のウロコも斬り裂いたりした……あの時はゴメンね古龍ちゃん。

 

 まあ、敢えて名を送るなら「ジルの剣」だろう!!

 

「お姉様、何か楽しい事でもありました?」

 

「……えっ! どうして?」

 

「この剣を見ながら笑ってたので」

 

「そ、そうかな? ターニャちゃん、それ重くない?」

 

「全然重くないです。寧ろ重さを感じないので、こうやって抱き締めてないと不安になります」

 

 重さを感じない? 幾ら魔力銀とはいえ、金属の一種である事に変わりはない。そんな筈は無いのだが……男の子だし強がってるのかな?

 

「無理しなくていいからね? 辛かったらちゃんと言うのよ?」

 

「? いえ、本当に軽いですから」

 

 やっぱり男の子だなぁ。弱い所見せたく無いよね!

 

「そう? じゃあ、おば様……マリシュカさんの店に着いたら荷物を纏めて家に帰りましょう。随分遅くなったし、お腹も空いたでしょう?」

 

 疲れてない?と聞く俺に、疲れたのはお姉様では?と返されたりしながらマリシュカの店に到着した。

 

「ジル!お疲れ様!」

 

 マリシュカは開口一番に労いの言葉を発して、ニヤリと笑う。

 

「おば様? お疲れ様って、どうしたんですか?」

 

「何言ってるんだい! さっきの新作発表会は最高だったよ! 最後の下着なんて女のアタシでもドキッとしたよ?」

 

「……おば様、パルメさんの店に来たんですか?」

 

 う、嘘だろう……?

 

「着いた頃には満杯で、人垣から覗き見るしか無かったけどね。アンタの恥ずかしい格好なんて中々見れないから、よい記念になったよ。アタシももう少し若かったらねぇ……」

 

「ど、どのあたりから……?」

 

「あん? アンタが人差し指を唇に当てて、虐めて下さいって言った辺りからだよ? 歓声が煩くて良く聞こえなかったけどね」

 

 終わった……アートリスが誇る拡声機ババアに知られた以上、明日にも俺の痴態は周知されるだろう……いや、もう既に……?

 

「なに青白い顔してるんだい……安心しなよ。男なんて一人も居なかったし、居たら半殺しだよ」

 

 心配してるのはソコじゃない! いや、それも大事だけれども!

 

「一人だけ変なのが居た気がしますけど……気のせいですかね?」

 

「ターニャちゃん!? お願いだから変な事言わないで!?」

 

 うぅ、暫くはニートしよう。人の噂もなんとやらだ!

 

 

 

 

 

 

 

 アートリスの空は赤く染まっている。

 

 俺達が進む両脇にも明かりが灯り、何処か懐かしい景色を見ている様だ。京都の祇園とは違う筈なのに、ふと舞妓さん達が歩いている気すらしてくる。

 

 仕事が終えた人々は家路を急ぐか、酒を片手に美味しいものを食べにでも行くのだろう。既に微酔いのオッサンの姿もあり、その喧騒はまるで日本に帰ったと錯覚する。

 

 マリシュカが纏めてくれた荷物は服と合わせて抱えられる量では無く、荷馬車に載せ引いて貰っている。此処は大国ツェツエを代表する第二の都市アートリスだ。交通網も思いの外発達しており、荷馬車もその一つとして商人から冒険者まで幅広く利用されているのだ。

 

 ゆっくりと進む荷馬車の後ろを歩きながら、ターニャちゃんは眠そうに目を擦った。

 

「疲れたでしょう? 背負って上げるから、少し寝たらいいわ」

 

 ターニャちゃんの前で腰を下ろした俺は、さっき受け取った剣を剣帯ごと前に回した。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「朝から見知らぬ土地に来て、沢山の人に会ったのだから疲れて当然でしょう? ほら、馬車が先に行っちゃうわ」

 

 まあ、先に行っても止まる場所は分かってるし問題は無い。

 

 少しだけ悩んだみたいだが、結局眠気には勝てないのだろう。背中と手にはターニャちゃんの温かい体温と思った以上に柔らかい太ももが感じられた。

 

 そうして肩に可愛らしい顔をコテンと乗せて、直ぐに規則正しい寝息が聞こえて来る。

 

「ふふっ、やっぱり可愛いな」

 

 魔力強化すら必要のない小さな軽い身体を背中に感じながら、少しだけ先に進んだ荷馬車に追いつく。帰ったらお風呂かな?御飯が先かな? 暫くはソファで眠らせて上げるのもいいだろう。ついでにジルお姉様の膝枕など如何でしょうか? 俺は味わった事が無いけど、きっと天国にいる様に気持ち良いよ?

 

 

 

 

「……あっ、すいません……寝てました?」

 

「まだ、少ししか寝てないよ? お家はまだ先だからもう少し休んでて?」

 

「いえ、もうスッキリしました。ありがとうございます。降ろして貰っていいですか?」

 

「ええー? もう少しこのままでいいじゃない。私も楽しいから付き合って?」

 

「本当に大丈夫ですから……恥ずかしいですし……」

 

 ふと周りを見渡せば、大人達が微笑ましいものを見たなぁと優しい笑顔を浮かべていた。

 

「気にしなくていいのに……さっきの私の恥ずかしさと比べたら大した事ないと思うけど」

 

「ふふっ! そうですね……でも、歩きたいんです。初めての街ですから」

 

 成る程……確かにそんなものかもしれないな。

 

「……残念。今度はお姫様抱っこさせてね?」

 

「お姫様ならジルさん……お姉様の方がお似合いですけど……何処かの国のお姫様だと言われても驚きません」

 

 ターニャちゃんをゆっくりと降ろしながら、どう返答しようかと考えている時だった。

 

「うひゃっ! あっ……ちょっ……あひっ」

 

「お姉様? 急にどうしたんですか?」

 

「タ、ターニャちゃん。大丈夫、何でもな、アッ…ンッ……」

 

 胸を触られ、脇腹をツンツンされ、最後はお尻をペロンと撫でられる……ような感触を覚えた。

 

 こうなった理由も原因も直ぐに分かった俺は、魔力操作により()()を弾く。それと同時に魔素探知を行った。ふん……あれでも隠しているつもりだろうが、この俺には通用しない。まだまだ修行が足りない様だな。

 

「ターニャちゃん、ちょっとだけ待っててね? 直ぐに戻るから、荷馬車が次で止まったところに居てくれるかな? 側に椅子があるから座っててね」

 

「それは構いませんが……あの、本当に大丈夫ですか? なんだか顔も赤いみたいですし」

 

「大丈夫、ちょっと悪戯坊主を捕まえて来るだけだから」

 

「悪戯坊主? お姉様?」

 

 魔力強化を瞬時に行った俺は、ターニャちゃんの言葉を置き去りにしてその場から消えた。

 

 

 

 

 五階建ての屋根の上から見下ろすと、ターニャちゃんがキョロキョロと周りを見渡し俺を探している。僅かに土煙すら立ち昇ったままで、俺がどれだけの速度を出したか判るだろう。

 

「クロエリウス、いえクロ? 悪戯はもう終わりよ? やっぱり貴方にはお仕置きが足りなかったかしら」

 

 振り返るとそこには少年が立っていた。しかし相変わらずの美貌だ。勿論明らかな男の顔立ちではある。小さな身体ながら良く鍛えられた四肢は如何にも男らしい。しかし膝までしかないズボンや、短いネクタイとワイシャツは良いトコの小学生に見える。傾国の美姫ならぬ、美少年だ。

 

「お師匠様、悪戯とは心外です。隙を見つけたら何時でも仕掛けて良いとあの時仰いました」

 

 風に揺れるブロンドは宝石の様で、此方から目を離さない双眼は真っ赤に染まっている。

 

「……何年前の話をしてるのよ! それに私はもう貴方の師匠では無いわ。何度も言ったでしょう?」

 

「いえ、僕の師匠はジルヴァーナさん、貴女以外いません。それに約束を忘れたのですか?」

 

「私の本名は呼ばないでって言ったでしょ……? 約束って何よ?」

 

「僕が魔王を倒したら、結婚すると約束しました! 僕はツェツエ王国の勇者です。まだ修行中の身ではありますが、必ず魔王を討伐してみせます。もっと修行をつけて下さい」

 

 それはお前が小さい頃に冗談で話した事だろう!? クリクリしたお目々の小さな男の子から結婚して下さいと言われたお姉さんは、ふふふ……貴方が大人になったらね?と返すのが定番だろうが! 確かに言ったけれども!

 

「……誤解させたなら謝るわ。私は誰とも結婚する事は無いし、そもそも魔王陛下は悪では無いでしょう?」

 

 あの頃は今以上にはっちゃけてた。自らの美貌に任せてあちこちに色を振り撒き、目の前の様な犠牲者を大量に生み出してしまった。頼むから黒歴史を思い出させないで? お願いだから!

 

「そんな事は関係ありません。貴女は僕のモノで、その為に邪魔は取り除くだけですから」

 

 ヒィ……お前それってストーカーが言うヤツじゃん!

 我ながらヤベェ奴を誕生させてしまった……どないしよ……

 

「とにかく、私は誰とも結婚はしないわ。勿論貴方もよ? 真面目な修行なら受けるけど、さっきの痴漢みたいな真似は辞めてくれる?」

 

「痴漢? 僕は師匠に僅かにも触れたりしていません。修行の一環として魔力操作をしただけです」

 

「魔力操作はともかくとして、何で胸とかお尻周りの魔素を動かすのよ!? 感触だって僅かに伝わっているでしょう!?」

 

 変な技術ばかり上達して! どうしてピンポイントで魔素を動かせる様になってるんだ……

 

 クロは顎に指をあて、フムと頷いた。

 

「な、なによ?」

 

「お師匠様の美しい唇から、胸やお尻などと言う単語が聞けるのは意外と良いモノだな、と」

 

 ……これ、アカンやつじゃん……俺はとんでもない変態を生み出してしまった様だ……前はそこまでおかしくなかったのに。

 

「クロ、やっぱりお仕置きが必要ね。修行をつけて上げるから王都に帰りなさい」

 

「望むところです。先程見せて貰った動きも参考にさせて貰います」

 

「……ん? 魔力強化なんて何度も見てるでしょう?」

 

 下から移動した速度こそ我ながら異常だが、技術そのものは何度も教えたものだ。

 

「あらゆる衣装に身を包み、あれ程の卑猥な言葉を羅列し、胸やお尻を強調した仕草は僕の記憶に焼き付いています。結婚したら、お帰りなさいませ御主人様と言って貰いましょう。虐めて下さいでも良いですが」

 

「……う、う、うわーーー!! 何でお前が知ってるんだよ!! あそこには女しか居なかった筈だろう!? 一体何処に居たんだ!」

 

「漸く昔の言葉遣いに戻りましたね。質問に答えましょう。最前列です、女装は得意技ですから」

 

 こ、殺す……記憶毎消し去るしか方法はない……

 

「おっと……調子に乗り過ぎましたかね。流石の僕も本気のお師匠様相手では瞬殺されてしまいます。此処はプラン変更ですね」

 

 クロはまあまあの速度で魔力強化を行うと、俺の目から視線を逸らした。なんだ? 以前よりはマシだがその程度の強化では相手にはならないぞ。

 

「では、行きます」

 

 そう呟いたクロはやっぱり底々の速度で俺に近づくと、数歩手前で方向転換した。

 

「ん?」

 

 完全に見切っているクロの姿を追うと、ヒョイと屋根から飛び降りた。

 

「はあ? まさか逃げるのか?」

 

 この俺から逃げる事が出来るのは、それこそ魔王陛下くらいだ。まあ、あの人は逃げたりしないだろうが。

 

「あっ! ク、クロ!待って!!」

 

 クロが向かう先が分かった俺は、思った以上に動揺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。お師匠様の一番弟子、クロエリウスです。クロ、と呼んで下さい」

 

「……ターニャです。あの……人違いでは?」

 

「とんでもない! 僕は貴女もよくご存知のジルヴァーナさんに手解きを受けたツェツエ王国の勇……」

 

「……ジルヴァーナ?」

 

「……わーー!! クロ! 余計な事言わないで!」

 

 ちょこんと椅子に座るターニャちゃんの前で魔力強化を切ったクロは、本当に余計な事をベラベラと喋った。

 

「お師匠様、余計な事ではありません。お師匠様の妹なら、僕にとっては兄妹も同じ。しかも魔剣の妹ともなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()是非、手合わせを願いたいですね」

 

「やめて! ターニャちゃんはごく普通の女の子よ。例え貴方でも許さないわよ!」

 

「まさか! お師匠様の側にいるなら、生半可な覚悟では務まりません。御自身が良くご存知でしょう?」

 

「クロ……私を本気で怒らせたいのね……いいわ、こっちに……」

 

「クロさん? 改めて挨拶させて下さい。ジルさんの妹、ターニャです。今日から()()()一緒に住む事になりました。ね?お姉様?」

 

「え、ええ……そうね。……うひっ」

 

 見ると腰周りをターニャちゃんが抱き寄せていた。

 

 何か……ターニャちゃん怖いんですけど!?

 

「ですから、クロさんも()()()()()()()()()()()()()()()()ただ女の子しかいないですから、そこはお気遣いをお願いします」

 

 ニコリと笑うターニャちゃんだが、目は笑ってない……

 

「ほう……流石はお師匠様が選んだ妹ですね。失礼は詫びましょう。ですが、僕の未来の妻であるジルヴァー……グハッ……」

 

 パタリと倒れピクピクと白目を向いて気絶したクロ……きっと何か発作でも起きたのだろう、多分。

 

「……さあ、ターニャちゃん帰ろっか。お腹空いたし」

 

「……はい。荷馬車を動かして貰いますね?」

 

 ターニャちゃんは態とらしくクロの股間辺りを踏み付けると、近くにある小屋に声を掛けに行った。

 

 クロは何か痙攣も始まったみたいだが、気のせいだ。

 

 ターニャちゃんを怒らせない方が良いと分かったのは収穫だったな……うん。

 

 ……帰ろっと。

 

 

 

 

 

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