綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね 作:きつね雨
「キーラ?」
「はい、
変わらないブロンドのオカッパ頭、エメラルドグリーンの瞳は垂れ目も相まって可愛らしい。撫で肩で背も伸びて無いから庇護欲を刺激されるのだ。その上目遣い、好きだよ?
「此れ、外して欲しいなぁなんて」
腰に巻き付いた"ジルヴァーナに罰を"と名付けられた縄を指先した。水色と茶色が混ざったロープは魔力を操る力を阻害していて、正確に言うと練るのを邪魔して魔法を行使出来ない。さっき新型って言ってたけど真面目にヤバいんだけど? 頑張って色々試してるのに、今のところ攻略出来てないもん。何てものを開発してるんだよ……まあ原因は俺ですけれど。
「逃げませんか?」
「に、逃げたりしないよ?」
「それでは……」
クルクルとウエストに手を回して、キーラは薄く笑みを浮かべた。擽ったいけど問題は其れじゃない。
「ねえ、キーラ」
「はい?」
「何で更に何重にもしたのかな?」
「幼い頃からの御自分を思い出して下さい。先程から抜け出そうと努力されているみたいですけど、シャルカ様が三年の歳月を掛けた傑作ですから不可能ですよ?」
「あ、はい」
こんなものに三年て……
「さ、行きましょうか」
「お、お母様、何処へですか?」
首輪から繋がった鎖を持ったまま、お母様が嬉しそうに言う。ま、まさかバンバルボアに連行⁉︎
「勿論ジルヴァーナのお家。パルメさん達も色々聞きたいみたいだから、落ち着いて話がしたいじゃない? それに貴女の生活ぶりを確認したいの。暫く御厄介になろうかしら」
あばばばば……回避、回避だ!
「ざ、残念ですねー。私は根無草の冒険者ですから、お家なんて」
「はいはい。益々確認の必要が増したわね」
「タ、ターニャちゃん! パルメさんも! ね? ほら、私は……何で目を逸らすの⁉︎ ねぇ二人とも!」
二人揃って横を向いた。呼び掛けにも反応が無い。なんでさ‼︎
「はぁ、貴女ホント大事なところでおバカねぇ。キーラも、他の皆だっているのよ? 既に調査済みに決まってるじゃない。私はつい最近だけど、ジルヴァーナ捜索隊は随分前にアートリスに来たの。相変わらず勘は鋭いみたいだけど油断したわね」
ジルヴァーナ捜索隊って未だあったのかよ! あっ、さっき倒したヤツ見たことあるなって思ったけどそう言う事か……それに不審者も。
「ターニャさんやパルメさんと昔話で盛り上がって楽しかったわ。貴女は小さな頃から、素直で、可愛らしくて、最高の、娘だったし? 如何に親孝行な子だったか説明してあげたの、ふふふ」
いやいや! 絶対思ってないよね⁉︎ 区切りに力が入ってるし、首輪が締まってる気がするんですけど!
「貴女からの愛が籠ったお手紙も見て貰ったのよ?」
ヒラヒラと紙の束を見せつけると、上品そうに笑う。綺麗で思わず見惚れてしまった俺は悪くないはず。その優しい声が耳を撫でたけど、同時にグイグイと首輪の鎖を引っ張られてるから全く笑えない。
「ちょ、ちょっと、お母様……こんな格好で外なんて歩けな……」
首輪に縄ってどんなプレイだよ! 俺にそんな趣味はないからな?
「あら? 確かにそうね、御免なさい」
流石にその程度の常識は持ってくれてたようだ。危ねぇ……って、何で外に行くの⁉︎
「キーラ、背中押さないでくれるかな? それに抱き着いたままだし、あと匂い嗅がないで欲しいなぁって」
「大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないからね?」
「ジルヴァーナ。首輪とか認識出来ないようにしたから誰も気付かないわ。まあ貴女が暴れたりしたらその限りじゃないけど。それに無理矢理取ろうとしたら魔法も解けるかもね」
「そもそも外してくれたら良いと思います」
「我儘ねぇ」
ついさっき素直な娘って言ったよね? 踏ん張って抵抗していると、グイと首輪ごと引き寄せられて目が合う。あ、ヤバい。お母様はターニャちゃん達に聞こえないように耳元で妖しく呟いた。
「ジルヴァーナ、いい加減にしないと怒るわよ? それとも昔みたいにして欲しいの?」
ひぃ⁉︎
「さ、さあ。帰ろうかなぁ」
「良い子ね」
やっぱり怖いよぉ……
○ ○ ○
「ハァハァ……すっごい疲れた」
「ジルヴァーナったら大袈裟ね。ただ歩いて来ただけじゃない」
お母様はそうだろうけど、俺は
お母様もキーラも魔法の影響下だから、結局注目されてたの俺だけだし……
「こ、此処です」
「まあ、なんて素敵なお屋敷。キーラはどう思う?」
俺の腰から繋がった縄を楽しそうに弄ってたキーラが、お母様の声に慌てて顔を上げた。何で楽しそうなのかは聞きたくない。
「えっと……
此れでもかなり大きな家なんだけどなぁ……ターニャちゃんなんて、ほら遠い目してるよ? パルメさんも引き攣った笑いを隠せてないし。どうやら、キーラは教育がなってないと静かに憤慨してるみたいです、はい。
「キーラさん、私とお姉様の二人暮らしです。えっと、何だか……御免なさい」
ビシリと固まったキーラは、ギシギシと振り返ってターニャちゃんを見た。ちょっと怖い。
「お、お二人、だけですか? ではお世話係も?」
「は、はい」
「バンバルボアの、シャルカ様の帝国宝珠と謳われた皇女殿下に、たったの一人もお世話する者がいない……な、何てこと」
プルプルと震え出したキーラ。何だかニヤニヤしてるお母様。
「で、では衣装の整理やお食事、宝珠と謳われた肌のお手入れは? それに、一体誰が起こすのですか? 朝は私が伺わない限り必ず寝坊していた
ヤバいこと暴露し始めた⁉︎
「さ、さあ! 早く入ろっか!」
「そうねぇ……小さな頃は乳母も遠去けて、私の胸しか吸わなかったし、何だか懐かしいわ。変に拘りがあるのか好みの偏りがあったもの。特に若い娘に」
「おおおお母様、やめてよ!」
ほら、パルメさん達がドン引きしてるじゃん!
「とにかく中に入りましょう。ね、お姉様」
「そ、そうだね、うん」
その蔑む様な視線、痛いですターニャちゃん。首輪に縄、そして痛い視線……おかしいな、寒気が凄い。
首輪と縄から漸く解放された。まあ家まで来られたら逃げても意味ないし……その割にバッチリ手の届く範囲に置いたままなのが気になります。
「お茶は先程頂きましたし、果実水を用意しますね」
「ターニャお嬢様、私もお手伝い致します」
ちっこい二人組が部屋を出て行くのを見送ると、あちこちを物色してるお母様が視界に入る。あのぉ、やめてくれませんかね。
「お母様、座って下さい」
「この調度品はジルヴァーナの趣味なの?」
俺の問い掛けをスッキリ無視して、ジットリと見渡すお母様。グレーとブルー、全体的に落ち着いた雰囲気。派手な装飾は好みじゃ無いからね。
「まあ、そうです。でもパルメさんにも助けて貰ったりしてるかな」
「あら。パルメさん、いつも娘がお世話になって」
「いえいえ。此方こそ」
保護者同士の挨拶みたいで可笑しい。あ、そういえば。
「パルメさん」
「なあに?」
「その服装って何ですか? 凄く格好良いですけど、男装なんて初めて見ました」
パンツスタイルにカジュアルなジャケット。銀髪も纏めて撫で付けてるから、超格好良い麗人になってるのだ。元々美人のお姉さんだから、かなり似合ってて最高。
「ああこれ? 今だと笑い話だけど、ジルの周りを探る不審者が居るって話で変装して街を調べてたの。情報はマリシュカさんから貰ってね。ターニャちゃんがジルを困らせる人は許せないって大変で、結局はシャルカ皇妃陛下……いえ、シャルカさん達だった訳」
「そうだったんですか……」
ターニャちゃんがそんな事を? やっぱりデレたんだ! 凄く嬉しいです! それとデートの相手はパルメさんだったんだ……良かった。うん? でも"会長"とやらの正体はまだ分からないな。今度しっかりと確認しないと。
「あらあら、本当にターニャさんから愛されてるのね。ジルヴァーナも成長したって事かしら」
「私もお姉さんですから、うん」
背中を反って思い切り胸を張る。今やお母様にも負けないオッパイが突き出されて大変だ。
「お姉さん。それが二人きりでも大丈夫な訳? まあ貴女は何でも器用に熟すし家事だって問題無いでしょうけど、あっちだとズボラだったから母として嬉しいわ。朝も起きられてるみたいだし、お掃除とか……ちょっとジルヴァーナ、顔を逸らしたのは何故かしら? こっちを向きなさい」
自然な感じで視線を外したのがバレただと⁉︎
「ジル、バレバレよ?」
パルメさんまで⁉︎
「え、えっと、ターニャちゃんが色々してくれてて……」
「何ですって?」
ひぃ⁉︎ また怒ってる!
「料理とかは私も作るけど、えっと、その」
だって、ターニャちゃんってプロ級なんだよ! 全部してくれるから甘えてるのは自覚してるけど……御飯だって毎日工夫して美味しいし、お家の中も綺麗に保ってくれる。しかも俺の邪魔になったりペースを乱さない様に気も使ってたり。お洗濯だって完璧なのだ。下着だけはやっぱり恥ずかしくて自分でしてるけど……逆にターニャちゃんの下着なら何時でもOKなのに、最近着替えすら見せてくれないのは何故なんだ。
あと広いお風呂とかお庭は業者さんにお任せだったのに、それも回数減ってるからね。自分のお財布だけじゃなく、家計の管理まで手伝ってくれるから持ち出しのお金も減ってる。うーむ、改めて考えてみるとヤバすぎないか? ホントにTS女の子なのかなぁ。
「貴女、まさかあんな可愛らしい女の子に全部させてるの? 聞いた話だと親御さんも居ないらしいじゃない。しかも無理矢理……やっぱり教育のやり直しね」
あばばばばば……
「シャルカさん、誤解です。お姉様はいつも優しいですし、無理矢理なんて一度もありませんから。あ、お風呂以外ですけど。知り合いも居ない私を保護してくれて、大切にしてくれます。それから家の事は好きでやらせて貰ってるので」
ベージュ色の木製トレーに人数分のグラス。果実水を持って来てくれたターニャちゃんが、答えてくれた。キーラは何も持ってないけど、間違いなく手伝いを断られたな。無表情だけど分かるのだ。あと、お風呂のくだりは今要らないんじゃないかな?
コトリコトリとテーブルにグラスを並べながら、俺を見てニコリとしてくれた。んんー、可愛い!
「ありがとう。ターニャさんが居てくれて本当に良かったわ。何だか一安心出来たもの。それと、お風呂の件は後で詳しく聞きますよ、ジルヴァーナ」
「……」
「服のお仕着せだけじゃないの? ジルったら……」
パ、パルメさん、其れも今必要ないですから!
「バンバルボアでキーラなら兎も角、ターニャさんまで? まさか、朝の挨拶に口付けまでお願いしてないでしょうね……ちょっと、こっちを向きなさい」
両頬を掴まれ、ムニーッと引っ張られた。
「ひ、ひたいでふ」
「はぁ、見た目だけは立派になったけれど、中身は全然変わって無いわね。本当に超級の一人である魔剣なの? 本国でも噂くらい聞いた事はあるけど、少しも貴女と合致しない。報告の通りならば、ね」
報告? なになに? 超級絡みから知ったわけじゃないみたいだし。
「そう言えば、アートリスに居るのを分かったのは……」
「それはキルデベルトからの報せね。今はツェツエの王都に特使として派遣されてるのよ。偶然に助けられて、ジルヴァーナを見たらしいわ」
「キルデが……気付かなかったな。声を掛けてくれて良かったのに」
「キルデベルト一人で逃亡の常習犯を捕まえるなんて出来ないでしょ。まさかそのまま大人しく待ってくれたわけ? こら、だから余所見しないで」
再びムニーッと摘まれた。さっきより痛いんですが?
頬を撫で撫でしてるとキーラが冷たいおしぼりを頬に当ててくれた……何故か楽しそうだけど。懐かしいなぁって視線もオマケされてるし……
「美味しそうな飲み物も準備して貰ったし、お話をしましょうか。ジルヴァーナ、座りなさい」
「お話ですか?」
「そうよ? パルメさん達も興味を持ってるわ」
「えっと、何を?」
まさかバンバルボア移住計画か⁉︎ 何としても阻止しなければ!
「水色の瞳を宿す者、その運命。我が帝国の存在意義。そして、バンバルボアの皇女でありながらも、ツェツエ王国の超級冒険者となった貴女の扱い。八年も祖国を離れたジルヴァーナにしっかりと伝えないといけません。母として、皇妃として」
何時ものマリンブルーの瞳は、皇族としての厳しさを纏って俺を見た。ターニャちゃんもパルメさんも真剣な眼差しで席に着き、空気が張り詰めて行く。そしてキーラがお母様の後ろに立ち佇んだ。
この雰囲気……
えっとね。
またにしない? 駄目?
次話は少しだけシリアス風味の予定です