綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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ちょっとだけシリアス風味かも


お姉様、昔話を聞く

 

 

 

 

 シャルカお母様が笑顔で……いや、目は笑ってないけどお話を始めた。やっぱり遺伝なのか、白金の髪と顔立ちがそっくりで今更に驚いてしまう。まあ色気とか妖しさとか凄く濃いからぱっと見だけなんだけどね。

 

 パルメさんもターニャちゃんも真剣な眼差しはそのままで、キーラなんて瞼を閉じて聞く体勢に入っちゃったし。

 

 おかしい、何だか居心地が悪いぞ。

 

「バンバルボア帝国の興りを話す前に、先ずは古竜を識る事から始めましょう。凡ゆる全てを超越した竜は()()。ジルヴァーナ、多くを学んで来たはずだけど、覚えているかしら?」

 

 ん?

 

「も、勿論知ってますよー、ははは」

 

「最初からすぐ分かる嘘を付いて……歴史に関わる授業から逃げ回って居たのは誰かしら? じゃあ、四人の名前を言ってみなさいな」

 

 うっ……何だか前世の学校を思い出してしまったぞ。宿題を忘れたあの日、不思議と覚えてる。しかし、ターニャちゃんすら疑いの目を向けられては頑張るしかないでしょう! 何とか誤魔化すのだ!

 

「ルオパシャちゃ……じゃなくて、白い古竜ルオパシャですよね! 勿論知ってますよ、ええ」

 

「あら、合ってるわね。他は?」

 

「知ってる、知ってますから……ほら、アレです。随分長ったらしい名前の」

 

「ふーん。ルオパシャは白だけど、他は?」

 

「赤、真っ赤な?」

 

「正解。はい、次」

 

「あ、青色!」

 

「それでいいのね? 間違ったら貴女の思い切り恥ずかしい過去を一つ話すけど?」

 

 違うのか⁉︎ お母様の瞳……い、いやブラフだきっと。多分赤と来たら青でしょう! ヒントが欲しくてキーラを見たけど、完璧な無表情に断念しました。

 

「ええ、全部知ってますから?」

 

「ジルヴァーナが初めてお酒を飲んだ日、もう呆れる程に酔っ払ってね。パルメさん、どうしたと思う? 行方を眩ます一年前の事なんだけど」

 

 あ、あれ? 淡々と話し始めたから意味不明なんですが! と言うか不正解なのかよ! 大体そんな日なんて記憶に無いから滅茶苦茶不安……

 

「そうですね……ジルの事だし、お世話係を集めてお着替え会とか、ですかね」

 

「ふふ、其れはこの娘にとっての日常だったから違うわ」

 

「「日常って……」」

 

 視線が刺さるぅ!

 

「夜になって私のベッドに潜り込んで来たの。それで、胸に顔を埋めてママーッて」

 

「う、嘘!」

 

「思わずジルヴァーナを見るじゃない? そうしたら急にキスしてきて、思い切り。私、固まってしまって暫く動けな……」

 

「そそそ、そろそろ古竜の話の続きをしましょう! ね、ね、ターニャちゃん」

 

「其れはまあ……アレ? でもお姉様って古竜もルオパシャも知らなかったですよね? 六年前にウラスロさんの制止を振り切って突撃したって聞きましたけど?」

 

 ぎゃー⁉︎

 

 お母様から、其れも後で話をしましょうかと言われました、はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始原の竜。

 

 或いは、そのまま「始原(しげん)」と云フ。

 

 遥か昔、人が未だ世界を知らない時代。最初の竜は在った。実際には別の世界から落ちて来たと言われるが、事実は定かでは無い。

 

 水色の鱗を湛える大変美しい竜であったと言われている。()は人の栄えていない世界に哀しみ、その権能を分け与えていく事を決めた。

 

 寂しかった、話し相手が欲しかった、前世から愛する人を探していた、などなど数々の理由も判然としていない。だが、彼の存在が多くの変化を与えたのだ。

 

 例えば、魔大陸に生息する美の代名詞、アズリンドラゴンは剥がれ落ちた水色の鱗から生まれた。しかし彼等は話し相手にも、寂しさを紛らわす存在にならず嘆き悲しんだ。

 

 そうして始原の瞳から涙が溢れ、悠久の時を超えたとき、滴は大河となって生命を育んだ。花々、昆虫、魚、羽ばたく鳥達、大地を走り回る小動物。其れ等は安らぎをひととき齎らしたが、やがて世界に散り散りとなって始原の竜を忘れ去ってしまう。

 

 耐え切れない始原が嘆きをぶつけたとき、大陸は割れ、山は隆起し、そして魔物が産まれた。その嘆きは世界に遍く届く。だから次の変化へと繋がった。

 

 話し相手を欲した()に同じ竜の仲間が……そう、後の古竜三人だ。彼等古竜は言葉を解し、彼を楽しませて溢れる涙は止まった。

 

 古竜達……

 

 黒きインジヒ、

 

 紅いシェルビディナン、

 

 そして唯一の女性である真白(ましろ)のルオパシャだ。

 

 世界は鮮やかに彩られ、瞬く間に美しく華やかに変化していく。

 

 知的で物静かなインジヒ、激情家ながらも始原を兄と慕ったシェルビディナンは真なる友となった。美しいルオパシャは妹の様に穏やかな心で癒す。

 

 始原の竜に幸福が訪れ、遂に人々が現れた時代。しかし世界は少しずつ、少しずつ、狂い始めた。

 

 まるで世界の王であるかの様に振る舞う人間は、大地を染め、森を開拓し、海と河を穢していく。始原の竜が齎した権能を、人は履き違えてしまったのだ。そして、竜へとその手を伸ばしたときーーー

 

 最初に怒り狂ったのは激情家の紅いシェルビディナンだ。鱗の色に負けない輝く紅き焔を吐き、大地を焼き清める。その焔に包まれたとき、人は抗う術を持たず……多くの死を纏った大地には、再び花々が咲き乱れた。

 

 絶望の死から逃れるべく、人々は戦う意思を固める。それは生物としての本能で、責めるべきものでは無いだろう。しかし、黒きインジヒは思った。元々世界には竜と魔物しか居なかった。ならば最初の姿を取り戻すべきだ、と。

 

 真っ黒な翼を広げ、インジヒは飛び立つ。シェルビディナンの傍に降り立ち、黒い霧を撒き散らした。その霧に巻かれた人は魂すら喰われて塵へ、そして風に吹かれて空に舞う。そうして再び樹々が聳え、世界と小さな生き物達は息を吹き返した。

 

 其れを見た真白(ましろ)のルオパシャは泣いた。彼女だけは始原の望みを知っていたからだ。人化の魔法を学んだルオパシャは人々と触れ合い、始原の望みを深く理解していた。人間は愚かさを内包するが、同時に竜には無い創造の力を持っている。

 

 其れを知る始原の望みは些細なものだった。

 

 ただ語り合いたい。

 

 それだけが希望だったのに。

 

 だが、インジヒとシェルビディナンの力はルオパシャを大きく上回り、どうしても止めることが出来ない。だから、人は我等と違い、負と正を併せ持つ儚き生き物だと必死に説いた。それでも二人の兄達は決して止まったりしない。それどころか理解しない妹に黒と紅が怒りを表したとき……始原の竜が三人の前に降り立ち言った。

 

 世界も竜も、人も魔物も、樹々達や其処に生きる動物だって全ては同じだ、と。

 

 裏切られたと断じた黒と紅の古竜は、お前が唆した(そそのかした)のだろうとルオパシャに怒りを向ける。そして真っ白で艶やかな鱗が傷付いた瞬間、始原は叫んだ。

 

 その怒りに世界は揺れて哭く。

 

 頭を冷やせ、人の一面しか見ない瞳を閉じろと強く叫んだのだ。そうして二人の竜は眠りにつき、人々は滅亡の運命から逃れる事が出来た。

 

 だが……

 

 始原の竜は人々に無条件の幸福を齎したのでは無かった。そう、インジヒとシェルビディナンの怒り全てが間違っていた訳ではない。

 

 だから、

 

 深き眠りから目覚め、二人の古竜が解放されたとき……人々に抗えない禍いが降りてしまうその前に強き力を授けた。自らの力……始原の源を分け与え、受け継ぐ様に伝えたのだ。人の運命は、お前達自身にかかっている。戦い、説き伏せ、勝ち取れと。

 

 古竜を何人と呼ぶ様に言ったのは、人も魔族も、そして竜も、争うだけが運命では無いと伝承するため。二人の竜を封印し力を使い果たした始原の竜は世界から離れて行った。

 

 始原の竜が去った世界、ルオパシャは伝える。始原は凡ゆる竜を統べる竜の帝だと。

 

 其の名は「竜帝(りゅうてい)

 

 彼の種子は撒かれ、魔族や人へと受け継がれる。

 

 その証として、例えばアズリンドラゴンの鱗、魔族は肌、人ならば瞳の色へ。

 

 来たる日、黒と紅。古竜と相見えるときまで……種子を、血を、力を拡げて繋げてゆくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「バンバルボアへと連なっていく、最初の人間の一人。その名はベイモヴァ。ベイモヴァ様は竜帝の権能と声を直接受け取られた。類稀なる才能(タレント)とルオパシャに負けない慈愛が竜帝に選ばれた理由とされているの。そして時は流れ、バンバルボアは興った」

 

 ほえー、そんな格好良い歴史があったんだぁ……やべ、感心してたのバレたかな。

 

「……初代皇帝陛下であるサンルカールー様は、ベイモヴァ様から伝わる伝承を記録に残した。一言一句違わぬ様に何度も確認したそうよ。その偉大なる言葉は今も宝物殿の最奥に安置されていて、夢物語なんかじゃないと私達皇族に伝え続けているわ」

 

 お母様は俺に、そして何故かターニャちゃんに目を合わせる。

 

「バンバルボアを王国にしなかったのは、全て始原の竜への恭順を示している。帝国の"帝"は竜帝の国と言う意味よ。我が帝国は始原から連なる国、だからバンバルボア帝国と名付けた。因みにだけど、バンバルボアは当時竜帝が去った場所とされ、サンルカールー様がお考えになられたの。尊大な名など不要、そう仰られたと口伝されてる」

 

 其処まで聞いたターニャちゃんから申し訳なさそうな言葉が聞こえた。

 

「最初、本当にすいませんでした。帝国と聞いて酷く警戒してしまって……」

 

 成る程、帝国主義って考えちゃうよね。バンバルボアに領土拡大の野心は殆どないけど……普通は分からないもん。

 

「あらあら、気にしなくて良いのよ。この歴史と伝承はバンバルボアに深く関わる者だけに伝わるから知らなくて当然。とは言え其処まで秘密でもないけれど。其れに……貴女の自称姉であるジルヴァーナも習った筈で、何よりも当事者なんですから」

 

 チラリとお母様が此方を見た。うん、怖い。

 

「ももも勿論知ってましたよ、ええ」

 

 よく覚えてないですけど。

 

「はぁ。貴女、少しも覚えてないの? 自分の生まれた国でしょうに。バンバルボア帝国は始原の教えを守り続ける国。持つ力は全てその為に有る。来たる日、抗う術を持たなかったらインジヒとシェルビディナンの二人に人間は蹂躙されるでしょう。優しいルオパシャは人の味方とされているけど、頼るわけにはいかない。なれば始原の言葉の通り、血を出来る限り純化させながらも同時に拡げる必要がある。我等皇族の義務は突き詰めれば其処に至るの」

 

 成る程なぁ。まあ歴史ある国なら色々な言い伝えがあるだろうし、神様みたいな存在が関わる話ってありきたりだよね。

 

「まだ続くけれど、ここまでで何か質問はあるかしら?」

 

「あの、素朴な疑問なんですけど……」

 

「パルメさん、何でも良いのよ」

 

 男装のパルメさん、超イケメンだ。実際は美人のお姉さんだから益々最高。新たな扉が開かれた気がします。

 

「今の話だとジルがとても大切な皇女と言う意味になりますよね? 始原の竜が伝えたそのままの瞳……しかも魔剣となった実力や"万能"と呼ばれる才能(タレント)も。それなのに、八年もの間ジルは自由で、シャルカさんだって其処まで慌てた風もない。それこそ大軍でツェツエに来ても不自然とは思えません」

 

 ふっ……やっぱり俺って特別だったんだな。超絶美人だし? ん? ターニャちゃん、その呆れたって視線何ですか?

 

「うん、良い質問。ついでに言えば、この娘はバンバルボアではなく、ツェツエ王国所属の冒険者となった。しかも超級だから防衛にも関わる存在でもあるわね。現在帝国とツェツエは争ってはないけれど、高度な政治問題にもなるでしょう。私達が一言だけ言えば即座に開戦する……我が帝国の宝珠、ジルヴァーナ皇女を返せと」

 

「ちょ、お母様、私はツェツエに捕まってる訳じゃ」

 

「関係ないわね。戦争の理由なんて後からどうにでもなる」

 

「でも、私は自分の身分や名を王国に明かしたりしてません。ツェイス、いえツェツエ王国の王子ツェイス殿下もご存知無いですから」

 

 やめようよぉ、誰も嬉しくないじゃん……

 

「ジルヴァーナは帝国の皇女。何を考えて国を出たのか母として思う所はある。でも、我等皇族の血肉は臣民が支え培われたもので、決して個人では無いの。お馬鹿なところもあるけれど、貴女は決して愚かな者じゃない。私の話す意味が分からないとは言わせないわ」

 

「それは……」

 

「貴女がバンバルボア出身と知ってる人は一人も居ない、間違いないの?」

 

「いえ……ツェツエの勇者クロエリウスと、このターニャちゃん。あと雑貨屋のマリシュカさんも。皆んな偶然に知っただけで……でも皇女の立場は伏せてます。あ、それと」

 

「それと?」

 

「ツェルセンの宿"双竜の憩"の支配人は私だと……お母様も知っていました」

 

「ああ、あの宿。彼なら大丈夫よ、安心なさい」

 

 何やら納得顔だけど、何かあるのかな……教えてくれる雰囲気じゃないみたい。

 

「とにかくツェツエと戦うなんて……王家の皆さんも優しい素敵な方ばかりなんです。どうか」

 

 お母様は俺から目を逸らさず、何かを観察してる。怖いけど、此処は逃げちゃダメなやつだろう。俺の所為で開戦なんて馬鹿みたいだし。

 

「それなら幾つか確認させて。嘘はダメ」

 

 思わず首をコクリと縦に振った。

 

「ツェツエ王国の王家、お会いした事があるのね? その言い方なら」

 

「は、はい」

 

「古竜ルオパシャの件は置いておいて、魔王との面識やツェツエの危機に関する魔剣としての働きは? 此れは事実?」

 

「えっと、冒険者として参加したので……その、合ってます」

 

「そう」

 

 お母様の視線は益々厳しくなったのが分かり、つい顔を横に向けた。するとターニャちゃんの顔が見えて、表情まではっきり。声にはしてないけれど、こう言ってると感じたんだ。

 

 お姉様は何も分かってない。この流れは凄く拙いですよ、と。

 

 その意味を……このあと紡がれるお母様の言葉で納得してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 




あとちょっとシャルカのお話が続きます
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