綺麗なお姉様が真っ赤な顔してプルプルするの最高だよね   作:きつね雨

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お姉様、迫られる

 

 

 

 じっとりと汗が背中を伝う。

 

 お母様は暫く動かず、今もマリンブルーの瞳を俺に合わせたままなのだ。昔から何でも御見通しって感じで、いつも先回りされてたから警戒してしまう。八年前の脱走は必死に準備した奇跡の結果でしかない。

 

「お母様……?」

 

「ジルヴァーナ、貴女が何を仕出かしたか、まだ理解していないようね」

 

 得意の水魔法と応用の氷魔法、その氷の様に凍てつく声。何度も経験したからか身体が震えてしまう。こうなったお母様はマジで恐ろしいのだ。

 

「あ、謝ります。抜け出したのも、ツェツエの冒険者になった事も……や、辞めますから! 冒険者を」

 

 ギョッとしたパルメさんが見える。でも戦争なんて絶対にダメだ。ターニャちゃんだって悲しむだろう。このアートリスには沢山の知り合いや友人がいるのだから。すると耐え切れなかったパルメさんが叫んだ。

 

「ちょっとジル! 簡単にそんなこと言って大丈夫なの⁉︎」

 

「でも、でも……」

 

 混乱してる俺を見たからか、更に言葉を続けた。パルメさんだって怖いだろうに……

 

「失礼を承知で言わせて頂きます。シャルカ皇妃陛下」

 

「何かしら?」

 

「貴女様は四番目の……第四皇妃と先程聞きました。尊き御方と承知ですが、開戦の決断など不可能でしょう。それとも進言を? ジルの意思を置いて」

 

 だがお母様の表情は変わらない。その余裕の真意を俺は知っている。そして予想通り、閉じていた瞼を開きキーラが感情の籠らない声で返して来た。

 

「パルメ様。其れは大きな誤解です」

 

「……何が?」

 

「シャルカ様は皇妃の中で唯一人、皇帝陛下御自身に望まれた御方。何度も正妃へと説得されましたが固辞されたのです。残る第一から第三の皇妃陛下の皆様も、皇宮に関わる全員も深く深く知っております。望みはただ一つ……生まれ来る御子を自らが健やかにお育てなさること。そのため皇位継承権も放棄されました。そして、皇帝陛下より勅言が御座います。シャルカの声は我が声と何ら変わらない、と」

 

「そ、そんな……」

 

 名門ソド家の長女で麒麟児、女神と謳われたのはその美貌だけでは無い。魔法の才、特に水魔法に関しては世界の色を変えたと言われる程だ。実際に水魔法だけは未だ超えた気がしない。だから俺は普段余り使わない、いや使いたくない。水を通してお母様に見られてる気がするからだ。

 

「其れは少し大袈裟よ。とにかく……ジルヴァーナを産まれて初めて抱き上げ、僅かに開いた瞼の奥を見たとき……全ては変わってしまったの」

 

 何かを思い出す様に、お母様は薄く笑う。

 

「話を戻しましょう。もう一度確認するわ。バンバルボアの皇女としての立場を隠し、貴女はこのツェツエ王国の冒険者となった。小さな頃から非凡な魔法の才を見せていたけれど、その力を以って最年少の超級へと到達。貴女自身の努力は認める、でも溢れる力の源が始原の竜の加護と理解していなかった。その上で他国の危機を防ぎ、現王家と私達の預かり知らないところで知己となったの。更には魔王スーヴェインと友誼を結んだ。分かるかしら、ジルヴァーナ」

 

「うぅ、はい」

 

 確かに並べてみるとヤバイ……ど、どうしよう。

 

 あ、あれ? ターニャちゃんだけは呆れた様に溜息を溢してるけど、何で? オマケにその様子を見たお母様は何処か嬉しそうに聞いて来た。

 

「そうだ! もう一つ質問があったのを忘れていたわ」

 

「な、なに?」

 

「この国の王子様だけど、才能(タレント)は他に類を見ない"風雷"で、珍しい雷魔法を誰よりも巧く行使するって。オマケに剣の腕さえも王国随一らしいわね。これってホント?」

 

 小さなバツマークを指で見せて来るターニャちゃん。えっと、何ですか?

 

「ホントです。最近会ったときも、私の剣を止めたり、魔法の行使に気付けなかったくらい速いし……六年前から凄く強いなって」

 

「あらあら、うふふ。雷魔法はバンバルボアでさえ珍しいのよ? 素晴らしいわねえ」

 

 張り詰めていた空気、柔らかくなってないか?

 

「噂を聞いたの。このツェツエの王子であるツェイス殿下とジルヴァーナは何度も共闘し、随分と仲を深めたって。そして命まで救って、女神なんて讃えられてる。更に……あくまで噂、噂よ? まさかとは思うけど、婚約を申し込まれたの?」

 

 あばばばば……ん、んん? テーブルに隠れた下で、柔らかなものが押し付けられる。そっと確認するとターニャちゃんが太ももを何度も当てているようだ。思わずナデナデしたくなったけど、今は其れどころじゃないよー……

 

「ちゃ、ちゃんと断りましたから! えっと、その……」

 

 あ、あれ? ターニャちゃんが両手で顔を覆った⁉︎ な、何故……あ、もしかして……お母様の顔色を伺うと満面の笑み……もももしかして!

 

「流石です、お姫さま(おひーさま)

 

 キーラまで幸せそうに笑ってる! や、やばい‼︎

 

 お母様はガタンと椅子から立ち上がり、思い切りギューって抱き締められた。懐かしいオッパイの感触と、香水の香り。

 

「ああ、我が娘ジルヴァーナ‼︎ やっぱりバンバルボアの血を、竜帝の加護を授かる皇女ね! 母は誇らしくて涙が出ちゃう!」

 

 そしてバンバンと両肩を叩き、キャッキャと笑うお母様……う、嘘だよね?

 

「えっと、意味が分からないなぁって……」

 

「ふふふ、照れなくて良いの。()ったら随分優しくて更には頭も良くて眉目秀麗。更には中々お目にかかれない雷魔法の使い手の上、剣技まで秀逸……しかも、しかもよ? 貴女にベタ惚れって! 何だかドキドキするし、皇帝陛下もお喜びになるわ! ね、キーラ」

 

「はい‼︎ やっぱりお姫さま(おひーさま)は最高のお姫さま(おひーさま)ですね!」

 

 ターニャちゃんの意味深な行動って、やっぱり……

 

「お、お母様? あのぉ……」

 

「もう、恥ずかしがり屋さんね。さっき話した通り、バンバルボアの皇族の役目はある意味簡単よ。血を純化させながらも、強大な二人の古竜へ抗う力を求めているの。貴女のお相手は凄腕の戦士で、しかも最近友好を深める予定だったツェツエの王子。これ以上の条件なんてあるかしら」

 

 すっごい幸せそうなお母様とキーラ。パルメさんまでお祝いしないとなんて幸せそう。ねえ、最初の空気は、怖ーい雰囲気はどこいったん?

 

「ま、まさか……」

 

「そうねぇ、もし水色の瞳を持って生まれたならば帝国にとって大事だから、幾つかの取決めは必要ね。でもそれさえ些細な事かも。だってバンバルボアの悲願と言って良い願いだから……」

 

「うぅ……」

 

「なぁに? 相変わらず()()()の方は初心ねぇ。仕方無い、はっきり言いましょう」

 

 や、やめてくれぇ……

 

「婚約よ! そして毎日毎夜抱いて貰って出来るだけ早く子を産むの。其れも子沢山で! つまり思い切り()()()()()‼︎」

 

 ぎゃー! やっぱりぃ‼︎

 

 回避しなければ! 俺の嫁はターニャちゃんなんだから! えっと、えっと、理由を……

 

「お、お母様! ツェイス殿下に政略結婚なんて申し訳ないですし……えっとえっと、そうだ! 古竜なら私が倒しますから‼︎ 知り合いですしルオパシャちゃんと話し合って、それで……」

 

「ルオパシャちゃん? まあいいけど、黒きインジヒと紅いシェルビディナンの活動期は全く不明なの。倒すどころか生涯会う事もないかも。それにしても、あぁ……超級に至った実力、そして風雷の才能。貴女達の血脈は新たな風を吹かせるのでしょうね。とにかく……孕むのよ!」

 

 婚約より、孕む事が目的になってますよね⁉︎

 

「で、でも」

 

「もしかして、ジルヴァーナはツェイス殿下が嫌いなの? 良い男って噂だけ、みたいな」

 

「それは違いますけど……優しいし、話し易いし」

 

「それなら何も問題ないじゃない。まさか……もう一つの噂、実は男の手すら握った事のない娘って……」

 

 ひぃーー⁉︎ そんな噂まで拾ってるの⁉︎

 

「ちち違いますから!」

 

「貴女は皇族としての義務感から旅に出て、世界に名だたるツェツエの王子を射止めた。竜帝の意思を受け継ぎ、定めに殉ずる皇女……こう説明して本国は黙らせるわ。それとも戦争したいの?」

 

 うぅ、卑怯だよそんなの。

 

「何より」

 

 何ですか?

 

「早く孫の顔が見たいの‼︎ お友達にも居て、羨ましくて仕方が無いんだから!」

 

「其れがお母様の本心でしょう!」

 

 やっぱりお母様はお母様だった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

 パルメさんとキーラが楽しそうに会話してる。幸せな婚約ですねとか、やっぱり愛し合ってるって最高とか、俺の苦悩も全部消えちゃったとか。ターニャちゃんだけは静かなものだけど……

 

「もう! ジルったら変なとこで謙虚ね。ツェイス殿下との仲なんてアートリスの子供だって知ってるわよ? 内緒にしてた皇女の立場が難しくしてたのでしょうけど、お母様の許可があるなら堂々とすれば良いの。貴女が王妃なんて少しだけ寂しいけど、私は心から祝福する」

 

 良かったねってパルメさん。あのぉ、出来るならパルメさんとイチャイチャしたいんですが……何だか失恋した気分。

 

「その……色々と事情が」

 

 実は元男で、TS超絶美人なんて今更言えない。オマケに今は隣に居る至高の美少女が大好きなんて。其れにターニャちゃんから何だか不機嫌な空気を感じる。さっきから色々警告してくれてたみたいだし……うぅ、御免なさい。

 

「ジルヴァーナ、もしかしてターニャさんの事かしら?」

 

「ええ⁉︎ な、何で分かるの⁉︎」

 

 やっぱり全部分かってるって顔のお母様。

 

「当然バンバルボアが責任を持って保護するわ。貴女を姉と慕い、これほどまでに尽くしてくれた子……何なら専任侍女として側にいて貰いましょう。さっきもターニャさんだけが私の考えを察していたし、寧ろ手放す方が馬鹿みたいでしょ」

 

 そうじゃなくて……まあ実は恋愛対象として大好きなんて分かる訳ないか。ターニャちゃんは俯き、そんな姿をお母様は観察する様に興味深く眺めている。

 

「少し落ち着いて考えさせて下さい。全部が急過ぎて私だって混乱してます。ツェツエだって、はいそうですかとならないでしょうし……」

 

「ふーん。八年も好きにして、それでも私達バンバルボアを納得させる答えがあるなら聞きましょう。言っておくけど、子を成す義務からは逃げられないわ。水色の瞳を持たなくとも皇女の務めに変わりは無い。心から愛してくれる男性と思い切り恋して妃となるなど、そもそもが稀有なの。貴女が如何に恵まれているか噛み締めてね」

 

 それは……そうだろうけど。そもそもその義務から逃げたくて脱走したんだよ? 最後の一年なんて俺を見る男達の視線がヤバかったもん。今思えば何か伝わってたのかなぁ。ほら、婿探し中とかって。

 

「……はい」

 

 どうしたら良いのかな……全力で逃げれば間違いなく大丈夫だけど、その逃走にターニャちゃんを巻き込みたくない。だいたい全力の魔力強化なんて俺以外に耐えられない訳だし。つまり、お別れだ……

 

 そんな事を考えてたら、愛しいターニャちゃんが立ち上がってお母様達を見た。其処には眩しい笑顔が浮かんでいて、でも何処か哀しそうにも思える。

 

「気が利かなくて……遅い時間ですけど御飯用意しますね。少しだけ待ってて下さい。それと客間はいつでも使えるようにしてますけど、気になる事があるなら言って下さい。その……失礼します」

 

 そう言うと、小さな身体は扉の向こうへ消えて行った。結局俺に目を合わせてくれなかったな……

 

「キーラ」

 

「はい、お任せ下さい」

 

 お母様の一言を受けキーラも立ち去る。何かを察した様な表情だけど、其れを聞く暇も無かった。

 

 なんだろう、おかしいな。力が入らないよ。

 

「ねえ、ジルヴァーナ」

 

「あ、はい」

 

「自由を求める気持ちは私にも理解出来るけれど、きっと幸せがジルヴァーナを包むわ。今は分からないかもしれない。でも大丈夫」

 

「でも、私の知らないところで勝手に進んでいるみたいで……」

 

「国を出た貴女が其れを言うの? どれ程に嘆いたか分からない? 八年よ? 八年もこうして触れたり出来なかった。本当に大きく綺麗になって……私からのジルヴァーナへの愛だけは疑われたくない。心から愛しているのよ」

 

 優しく何度も頬を撫で、そして俺を抱き締めた。

 

 お母様の涙、久しぶりに見たよ。

 

 やっぱり、それしかないのかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あれ? シリアス風味が止まらない。
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